囚われの姫君と新米魔王

干潟

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2:暴虐の姫君と地獄の魔竜

011 選王会議3 【side:Konstanze】

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 そんなこんなで。
 もう数名くらいに声を掛け、もれなく「クビになったの?」「ああ、そういうプレイ中に招集かかった?」「お前の胸でその衣装を着るのは侍女への冒涜だ」などと心ないことを言われながらも、一通りの情報収集を終える。

 九悪魔大公のうち、欠席が3名。
 ワガママ盛りのアスモデウスさまの息女とワガママ盛りの元悪魔大公ベリアルさまの息女でマイナス2名。
 ただし、ご息女の名代として表向き隠居なさっているベリアルさまが参加でプラス1名。
 そしてアスモデウスさまにイビられる時以外は脱出不能の直径半マイル(約800m)の氷山に幽閉中の叛逆者であるレヴィアタンさまも欠席でマイナス1名。
 差し引きで実質7名がご参加である。概ね悪めのほうに予想通りだ。

 7名のうち動向が見えているのが4名。
 ディスパテルさまがエリオットさまを推薦。
 マモンさまがジークベルトさまを推薦。
 ベリアルさまは自領の悪魔副伯サディアス氏を推薦。
 バールゼブルさまは自領の悪魔伯爵クィンティエル氏を推薦(バールゼブルさまは幽閉中の汚物に塗れた大蛆虫の姿ではなく、特別に呪いを解かれた通常の姿で現れるらしく、皆胸を撫で下ろしている)。

 ティアマットさまとメフィストフェレスさまの動向は不明。
 アスモデウスさまは"事態が最も面白くなりそうな方針"を支持すると表明。
 これら浮動票3つ、特にアスモデウスさまの票をいかにしてエリオットさまに集めるかが焦点となりそうだ。

 と、方針をメモし終えたところで、アスモデウスさまがお着きになったという伝令が走ってくる。
 ざわついていた控えの間の客たちは水を打ったように静かになり、膝をついて頭を垂れる。

 賓客用の大扉が開き、まず現れたのは獅子よりも大きな8頭の不可視の四足の獣。アスモデウスさまの愛猫である。
 彼女らにはそれぞれ担当の上級悪魔がついており、暴れださないように人の胴ほどの太さもある鎖で繋がれている。
 ゴロゴロと喉を鳴らし、足音もなく歩く彼女らは皆アスモデウスさまに懐いており、主人の号令でいつでも叛逆者たちを八つ裂きにできるよう仕込まれている。

 次に現れたのは、アスモデウスさまの愛妾のうち、特に美しいとされる16人の美姫たちだ。
 一様に胸や背中の大きく開いた深紅のドレスを纏い、深紅のレースのヴェールを纏っている。
 彼女たちは拳大もある宝石のついた揃いのネックレスを首にかけており、それ以外にも思い思いの宝飾を身につけていた。
 その糸の一本一本は凝集された業火であり、アスモデウスさま以外の男が触れれば毛筋一本爪一枚残さず消し炭にするように呪詛が込められている。

 32人の上級悪魔の近衛兵にかしずかれながら最後に現れたのが、九層地獄の王と呼んでも過言ではない、悪魔大公の筆頭、神のごとき悪魔、悪魔のための神、アスモデウスさまである。
 彼が杖を突く度に、石畳が、地獄の大地が、苦悶の叫びを挙げる。
 彼が息を吐くだけで、灼熱した空気で喉が焼かれそうになる。
 通り過ぎていくアスモデウスさまのローブの裾を見ているだけで、私の全身から脂汗が滴った。あのシュテフェンまでもが震えている。

 アスモデウスさまは大広間の前で私たちを振り返ると、片手を挙げた。
 ここに選王会議の開会が号令されたのである。


 アスモデウスさまに続いて、他の6大公入城なども行われましたが、描写すると数話飛んでしまうので省かせていただきます。
 いやあ、皆さまとんでもなく恐ろしい方々ばかりでした。

 控えの間にいた半数くらいは畏怖と緊張の末失神してたりするけれど、私は何とか耐えた。
 耐え切った。
 会議中ずっと、ヴェール一枚越しでこれに耐えなきゃいけないのかよ。私涙眼である。

 何が一番辛かったかって。
 バールゼブルさまが過去の"最も美しい天使"の姿で入城したけれど、その頭だけが蠅の頭に置き換わっていて、しかもタチの悪いことに本人だけはそれに気づかない呪いがかかっているという。
 カミの使いやあらへんで。笑ってはいけない九層地獄バートル


 ヴェールで仕切られた向こう側の席に悪魔大公さまたちが着席し、ようやく我々の着席が許された。
 議長席には総務長官オーギュスト。
 上座から地位の高い順に悪魔たちが着席する。
 私は名代とは言え、九層地獄に領地もないただの魔王軍の一将軍であるため、着席することはできない。立ち仕事は侍女時代に慣れてるから平気だけどな。
 アンネリーゼさま以外にもちらほらと空席が見られるが、まさか遅刻者は居ないだろう。

「それでは、先代魔王イングベルト殿のご逝去に伴う、次期魔王すなわち『第二次魔王計画』の遂行責任者の選定を執り行うこととさせて頂きます。
 まずは慣例に則り、わたくし、王獄ネッソス総務長官オーギュストより、『第二次魔王計画』の概要について申し上げます。
 そもそも、魔王計画なるものは……」

 アスモデウスさまが、ヴェールの向こう側で喉を鳴らすように笑った。
 列席者たちは一様に身を硬くするが、総務長官オーギュストはそのままの調子で手元の原稿を読み上げる。
 向こう側で誰かが身じろぎする度に、胃壁がマッハである。

「…………、と言うわけでありますので、最も偉大なるアスモデウス様をはじめとする偉大なる悪魔大公様がたの許可の元、三代目魔王リースヒェン殿の配偶者イングマール殿を四代目魔王とし、『第二次魔王計画』が発令されたのであります。
 この度の会議は、計画の遂行責任者としての資質を持った有能な人材を選ぶ場であることを、皆さまもう一度ご確認頂けますよう、お願い致します。」

 オーギュストが言葉を切る。
 さて、ここからが本題である。

「イングベルト殿の御令息、御令嬢たちは皆幼い。
 ならば、血筋から言って僕が魔王位を拝領するのが妥当というものだな」

 エリオットさまが口火を切った。
 ちらりとヴェールの向こう、エリオットさまの祖父ディスパテルさまの様子を伺い見る。
 しかし、天界の眼トゥルー・シーイングをしても、あらゆる魔法の力を含めた超常の力を弾く反魔アンティ・マジックのヴェールを透かし見ることは適わなかった。

「血筋と言うならば、アンネリーゼが妥当であろう。
 しかし、幼い故に計画の遂行に支障を来すと言うのであれば然り。
 であるからして、アンネリーゼの婚約者である僕が彼女を支える形で副王となっても良いし、結婚の日取りを前倒しにし、めでたく親族となったあかつきに僕が魔王となるのも良かろう」

 ジークベルトさまが即座に反撃する。
 いや、歳が近いからライバル視してるのかも知れんがね、ここで潰し合われるとこちらも困るんだけどな。
 お二人よりも年かさの候補者二人は、余裕の表情で二人の口論を見守っている。
 そりゃあ、全員の立場が拮抗しているなら漁父の利を狙うよな。
 サディアス氏とクィンティエル氏も無言で牽制し合っている様子なのがせめてもの救いか。

 三つ巴ではなく、四つ巴となりそうだ。
 幸い議論による潰し合いではなく、アスモデウスさまへのプレゼンテーションが中心になるだろう。
 それならば、こちらにも分がある。
 現在の魔王軍の情報を私だけが握っている。好きなように取捨選択してジークベルトさま陣営に掩護射撃できるはずだ。

 タイミングを見計らって私が口を挟もうとした矢先。

 大広間の鋼鉄の扉が、ぐにゃりと歪曲しながら融けて開いた。
 扉はチリチリと音を立てて液化し、床の上で再凝固する。
 灼熱した空気の中にいても尚分かるほどの熱気が、開いた扉の向こうから放射されている。

 そこに立っていたのは、真紅のドレスを纏った、歳の頃十三四ほどに見える若い娘。
 赤みがかった黄金の髪は彼女から吹き出す熱風にたなびき、炎のように揺れる。
 彼女が微笑むと、金色の瞳は白熱した金属のように輝いた。
 彼女が歩を進める度に石畳が乾燥して皹が入り、金属は溶け崩れていく。

「遅くなって申し訳ありません、曾御祖母さま、御祖父さま、そして偉大なるアスモデウス猊下。
 されど主役は遅れて現れるもの。
 どうかこの新たなる魔王に免じて、無礼をお許し下さい」

 地獄の炎そのものの如き娘は、居並ぶ悪魔大公たちに物怖じすることなく、優雅にお辞儀した。
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