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十 葬送の蝶
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額に硬いものを押しつけられ、鹿妻は幻想から目覚める。
「なるほど……。秘密の暴露か………」
目を細める。
よりによって、一番触れられたくない記憶だった。
めまいがする。
「違う。心の解放だ」
震えながら十和が言った。
その手には銃が握られていた。見覚えのある銃だ。
鹿妻が騙した組織のひとりから受け取り隠し持っていたものだ。
幻覚に囚われている隙に取られたのだろう。
「これで慧ちゃんを撃ったんだろ」
鹿妻が答える間もなく、その映像が十和と鹿妻の両方の脳裏に浮かぶ。
この霧のアイテールを介して伝達されているのだ。
「そういえば、もともとミセリコルディアはこのために作られたんだったけな」
自嘲気味に鹿妻が笑う。
心に心を伝達する。
こんなことを思いつき、それが素晴らしいと考え、実行に移せてしまうのは純真な人間だけだ。
自分のように屈折した人間はおぞましいとさえ思ってしまう。
「なんで、あのひとを止めなかったんだ」
「見たんだろ。茉莉さんが欲しかったからだ」
「僕はあんたを許せない……!」
涙を拭いながら十和が告げた。
声も唇も震えているのに、その銃口は揺るぎない。
霧はどんどん濃くなる。
光の粒が発生しては砕かれ、砕かれては発生する。
大量のミセリコルディア。
感情の昂ぶった十和。
茜のアイテールを上書きするほどの十和の強力なアイテール。
暴発の準備は整っていた。
あとひと押しだった。
「――十和。許されないのはきみのほうだ」
鹿妻の言葉にひくっと十和の身体が震えた。
「もとはといえば、いじめに立ち向かえなかったきみが悪いんじゃないか。あまつさえ、自殺という安直な逃げに走り、家族を深く傷つけ、そして暴発を起こす原因を作った」
「違う……」
「本当に酷いのは俺か? 十和じゃないのか? 茉莉さんを殺したのも、家族を失ったのも、四万という命を犠牲にしたのも十和が招いたできごとじゃないのか」
「う、運命だったんだ……」
「それだけじゃないだろ。あの事故と向き合うこともなく偽物の家族を作り平穏に生きようとした。慧ちゃんが死んだのも、ダブルがやられたのも、茜ちゃんがこうなったのもみんな十和が原因だ。そうだろう?」
「違う! 運命だ! 避けられなかったんだ! 僕は知らない! 僕は――」
「本当はわかっているだろう、十和」
諭すように淡々とした鹿妻の声が十和に響く。
「だからきみは偽物の家族を作った。本物の家族はきみを恨んでいるかもしれないと思ったから」
ぼうっと霧の向こうに黒い影が浮かぶ。
十和の家族だ。
父も母も妹も十和を恨めしそうに睨んでいる。
それだけじゃない。
影は何体も何体も浮かびあがり、十和への恨み言を口々に繰り返す。
「や、やめ……!」
十和は耳を塞ぐ。だが声は止まない。
四万という亡霊だ。
十和を囲むように何体も何体も近づいてくる。
「いやだ! やめてくれ!!」
手には武器があった。
すがるように十和はむやみに乱射する。
引き金が空転するまで十和は撃ちつづけた。
「お前らは幻覚なんだ! 僕の、ただの! 消えろ! 消えろ!!」
銃を振り回し、涙目になりながら、周りを見渡すと影は消えていた。
十和は安堵の息を漏らす。
だがすぐにそのことに気づく。
何発も撃った弾のいくつかは鹿妻の腹を撃ち抜いていた。
シャツがどんどん赤く染まっていく。
「ほら……な………」
鹿妻が十和を見て、にやりと笑った。
「うわああああああああああああああっ!」
十和は泣き叫ぶ。
と同時に、昂る感情に引きずられるように光とともに霧が溢れだす。
もう制御が利かなくなっていた。
抑えこんでいたものが、破裂する感覚にそれは似ていた。
十和の目から涙がとめどなく流れ落ちる。
感情の奔流が頭を真っ白にする。
言葉にならないものが目前を染め上げる。
ミセリコルディアがそれらを引きだし、吸い上げ、無理にでも吐きださせようとする。
忘れていたことも。
忘れようとしていたことも。
最近のことも。
過去のことも。
思い出したくない。
だが、有無を言わさず引きずりだされる。
――最初のきっかけは何かのコンクールで入賞し、表彰されたことだった。
目立ってしまったために、遊び半分の上級生から、からかわれ始めたのだ。
気にもかけない態度が余計に生意気だったのかもしれない。
それは止むどころかエスカレートしていく。
気づくと、クラスメートも参戦し、わけのわからない嘲笑を浴びせられるようになっていた。
間もなくそれはいわれのない暴力に発展する。
理由もわからないから、理由が欲しくて、浴びせられる罵倒が理由なのだと思いこんでしまった。
臭い。
汚い。
クズ。
学校来るな。
死んだほうがいい。
死ね。
いつしか耳を塞いでもそれは聞こえるようになっていた。
あの頃、研究が軌道に乗っていた母は家に帰ることが少なく、父とときどき顔を合わせても喧嘩が絶えなかった。
両親には相談できる雰囲気ではなかった。
妹もよく泣いていた。
長男だからしっかりしなければいけないと思った。
ときどき昨年亡くなったダブルが無性に恋しくて仕方なくなる。
大丈夫なのだと思いこもうとした。
僕が頑張らなければいけない。
きっとこれは一時的なことで、頑張っていれば、いつか物語のようなハッピーエンドがやってくるんだ。
――けれど、それは一体いつやってくるのだろう。
疑問とともに心の奥底になにかが溜まっていく。
許せなかった。
悔しかった。
孤独だった。
やるせなかった。
自分には価値がないと思った。
生きていてはいけないのかもしれないと思った。
言えなかった想いが、喉の奥でつかえてうまく伝えられなかった想いが、胸をムカつかせるような想いがいくつもあった。
それはうまくだれかに伝えられるようなものではなかった。
だれにも伝えられないものなら、いっそ忘れようとした。
穏やかに平穏に過ごすために我慢するのが賢い選択だと思おうとした。
なにも感じない人間なんだと思いこもうとした。
同時に、自分のなかに消しきれない残酷な衝動があることも自覚し始めていた。
人間を殺すくらい平気だと思えるようになっていた。
くすぶりつづけたものが、いつか決壊し、なにかを深く傷つけてしまいかねないこともわかっていた。
すべてを壊して、壊して壊して、ただ独りきりになりたいと望んだ。
そうだ。
だからあのとき、浅はかにも選択したのだ。
そんなふうに決着してはいけないと思ったから。
いや、それすら言い訳で、ただ疲れていたのかもしれない。
終わりの見えない日常となってしまったそれらから、単純に逃げだしたかっただけなのかもしれない。
もうなにを思っていたのかも正確に思いだせない。
あの頃はすべてがぐちゃぐちゃで、結果的に、身勝手にも、肉親の苦しみと引き換えに、自分の苦しみを消してしまうことにしたのだ。
それがもっと酷い状況をもたらすなんて知らずに――――。
違法薬物取締官の職は意外にも性に合っていた。
薬に手をだしてハマるのは、幸福な人間ではない。
その不幸を目の当たりにし、いわれのない暴力が世界にたくさん存在することを知って、知らないうちに慰められていた。
だけどむかし犯した罪と向き合うことはできなかった。
それは自分を潰すほどに重く、身に余る。
だからあれは運命だったのだと思いこんだ。
自分は悪くないのだと、もともと神様とかそういう奴らが仕組んだ罠だったのだと理由をつけ、ずっと目を逸らしつづけた。
だからなのだろうか。
だから、また、なにもかも失うのだろうか。
慧を。
ダブルを。
家族を。
居場所を。
失うのなら、他人ではなく、自分自身であるべきはずなのに、それすら許されないのだろうか。
それとも、本当に神がいて、罰を己に与えるというのだろうか。
だから生きなければならないのか。
だから生き残ったのか。
だが犯した罪とは一体なんだったのか――。
両親は言う。
十和はいい子に育ったと。
だが本当はそうじゃないとずっと言いたかった。
本当の僕は決していい子なんかじゃない。
ただわかってしまうから。
あなたがたが望んだ子どもの姿を。
そして、無意識に演じているのだ。
必要とされたいから。
だから僕は本当のいい子じゃない。
誤解だ。
我慢しているだけだ。
気づけば仮面ばかりが分厚くなって、孤独感は増し、だれもわかってくれないと叫びたくても、分厚くなった仮面が笑顔をたたえ、それを許さない。
失望されるのが怖い。
だってわかっていた。
本当の僕は無価値でだれも愛してくれない。
椚が頭を撫でる。
よくやったと褒める。
褒められるたびに存在を認められた気がして嬉しくなる。
だが同時に、褒められない自分の存在がなにより恐ろしくなる。
僕を必要として欲しい。
その願望が偽物の家族を作り上げた。
ダブル以外、本物とは似ても似つかないことなんて知っていた。
だって本物は本当の自分を必要としてくれない。
それどころか憎んでいるかもしれない。
どこかでわかっていた。
罪を犯し、償うどころかそこから逃げ、醜い感情を持て余す、価値のない存在を愛してくれる人間なんていない。
だから、諦めたはずだった。
なのに、生きていると、ときどきそのことを忘れ、知らないうちに胸に希望が芽生えている。
そして、諦めきれず、なにかを探してしまう。
どうしてだろう。
どうしてこんなにも狂おしいほど求めてしまうのだろう。
愛して欲しい。
だが、愛される価値なんてない。
助けて欲しい。
だが、助けられる価値もない。
生きることは息苦しくていつもまるで溺れているようだ。
僕はなんなのだろう。
僕は一体なんのために生まれてきたのか。
ふと、青い光がはためいた気がして十和は振り仰ぐ。
「なるほど……。秘密の暴露か………」
目を細める。
よりによって、一番触れられたくない記憶だった。
めまいがする。
「違う。心の解放だ」
震えながら十和が言った。
その手には銃が握られていた。見覚えのある銃だ。
鹿妻が騙した組織のひとりから受け取り隠し持っていたものだ。
幻覚に囚われている隙に取られたのだろう。
「これで慧ちゃんを撃ったんだろ」
鹿妻が答える間もなく、その映像が十和と鹿妻の両方の脳裏に浮かぶ。
この霧のアイテールを介して伝達されているのだ。
「そういえば、もともとミセリコルディアはこのために作られたんだったけな」
自嘲気味に鹿妻が笑う。
心に心を伝達する。
こんなことを思いつき、それが素晴らしいと考え、実行に移せてしまうのは純真な人間だけだ。
自分のように屈折した人間はおぞましいとさえ思ってしまう。
「なんで、あのひとを止めなかったんだ」
「見たんだろ。茉莉さんが欲しかったからだ」
「僕はあんたを許せない……!」
涙を拭いながら十和が告げた。
声も唇も震えているのに、その銃口は揺るぎない。
霧はどんどん濃くなる。
光の粒が発生しては砕かれ、砕かれては発生する。
大量のミセリコルディア。
感情の昂ぶった十和。
茜のアイテールを上書きするほどの十和の強力なアイテール。
暴発の準備は整っていた。
あとひと押しだった。
「――十和。許されないのはきみのほうだ」
鹿妻の言葉にひくっと十和の身体が震えた。
「もとはといえば、いじめに立ち向かえなかったきみが悪いんじゃないか。あまつさえ、自殺という安直な逃げに走り、家族を深く傷つけ、そして暴発を起こす原因を作った」
「違う……」
「本当に酷いのは俺か? 十和じゃないのか? 茉莉さんを殺したのも、家族を失ったのも、四万という命を犠牲にしたのも十和が招いたできごとじゃないのか」
「う、運命だったんだ……」
「それだけじゃないだろ。あの事故と向き合うこともなく偽物の家族を作り平穏に生きようとした。慧ちゃんが死んだのも、ダブルがやられたのも、茜ちゃんがこうなったのもみんな十和が原因だ。そうだろう?」
「違う! 運命だ! 避けられなかったんだ! 僕は知らない! 僕は――」
「本当はわかっているだろう、十和」
諭すように淡々とした鹿妻の声が十和に響く。
「だからきみは偽物の家族を作った。本物の家族はきみを恨んでいるかもしれないと思ったから」
ぼうっと霧の向こうに黒い影が浮かぶ。
十和の家族だ。
父も母も妹も十和を恨めしそうに睨んでいる。
それだけじゃない。
影は何体も何体も浮かびあがり、十和への恨み言を口々に繰り返す。
「や、やめ……!」
十和は耳を塞ぐ。だが声は止まない。
四万という亡霊だ。
十和を囲むように何体も何体も近づいてくる。
「いやだ! やめてくれ!!」
手には武器があった。
すがるように十和はむやみに乱射する。
引き金が空転するまで十和は撃ちつづけた。
「お前らは幻覚なんだ! 僕の、ただの! 消えろ! 消えろ!!」
銃を振り回し、涙目になりながら、周りを見渡すと影は消えていた。
十和は安堵の息を漏らす。
だがすぐにそのことに気づく。
何発も撃った弾のいくつかは鹿妻の腹を撃ち抜いていた。
シャツがどんどん赤く染まっていく。
「ほら……な………」
鹿妻が十和を見て、にやりと笑った。
「うわああああああああああああああっ!」
十和は泣き叫ぶ。
と同時に、昂る感情に引きずられるように光とともに霧が溢れだす。
もう制御が利かなくなっていた。
抑えこんでいたものが、破裂する感覚にそれは似ていた。
十和の目から涙がとめどなく流れ落ちる。
感情の奔流が頭を真っ白にする。
言葉にならないものが目前を染め上げる。
ミセリコルディアがそれらを引きだし、吸い上げ、無理にでも吐きださせようとする。
忘れていたことも。
忘れようとしていたことも。
最近のことも。
過去のことも。
思い出したくない。
だが、有無を言わさず引きずりだされる。
――最初のきっかけは何かのコンクールで入賞し、表彰されたことだった。
目立ってしまったために、遊び半分の上級生から、からかわれ始めたのだ。
気にもかけない態度が余計に生意気だったのかもしれない。
それは止むどころかエスカレートしていく。
気づくと、クラスメートも参戦し、わけのわからない嘲笑を浴びせられるようになっていた。
間もなくそれはいわれのない暴力に発展する。
理由もわからないから、理由が欲しくて、浴びせられる罵倒が理由なのだと思いこんでしまった。
臭い。
汚い。
クズ。
学校来るな。
死んだほうがいい。
死ね。
いつしか耳を塞いでもそれは聞こえるようになっていた。
あの頃、研究が軌道に乗っていた母は家に帰ることが少なく、父とときどき顔を合わせても喧嘩が絶えなかった。
両親には相談できる雰囲気ではなかった。
妹もよく泣いていた。
長男だからしっかりしなければいけないと思った。
ときどき昨年亡くなったダブルが無性に恋しくて仕方なくなる。
大丈夫なのだと思いこもうとした。
僕が頑張らなければいけない。
きっとこれは一時的なことで、頑張っていれば、いつか物語のようなハッピーエンドがやってくるんだ。
――けれど、それは一体いつやってくるのだろう。
疑問とともに心の奥底になにかが溜まっていく。
許せなかった。
悔しかった。
孤独だった。
やるせなかった。
自分には価値がないと思った。
生きていてはいけないのかもしれないと思った。
言えなかった想いが、喉の奥でつかえてうまく伝えられなかった想いが、胸をムカつかせるような想いがいくつもあった。
それはうまくだれかに伝えられるようなものではなかった。
だれにも伝えられないものなら、いっそ忘れようとした。
穏やかに平穏に過ごすために我慢するのが賢い選択だと思おうとした。
なにも感じない人間なんだと思いこもうとした。
同時に、自分のなかに消しきれない残酷な衝動があることも自覚し始めていた。
人間を殺すくらい平気だと思えるようになっていた。
くすぶりつづけたものが、いつか決壊し、なにかを深く傷つけてしまいかねないこともわかっていた。
すべてを壊して、壊して壊して、ただ独りきりになりたいと望んだ。
そうだ。
だからあのとき、浅はかにも選択したのだ。
そんなふうに決着してはいけないと思ったから。
いや、それすら言い訳で、ただ疲れていたのかもしれない。
終わりの見えない日常となってしまったそれらから、単純に逃げだしたかっただけなのかもしれない。
もうなにを思っていたのかも正確に思いだせない。
あの頃はすべてがぐちゃぐちゃで、結果的に、身勝手にも、肉親の苦しみと引き換えに、自分の苦しみを消してしまうことにしたのだ。
それがもっと酷い状況をもたらすなんて知らずに――――。
違法薬物取締官の職は意外にも性に合っていた。
薬に手をだしてハマるのは、幸福な人間ではない。
その不幸を目の当たりにし、いわれのない暴力が世界にたくさん存在することを知って、知らないうちに慰められていた。
だけどむかし犯した罪と向き合うことはできなかった。
それは自分を潰すほどに重く、身に余る。
だからあれは運命だったのだと思いこんだ。
自分は悪くないのだと、もともと神様とかそういう奴らが仕組んだ罠だったのだと理由をつけ、ずっと目を逸らしつづけた。
だからなのだろうか。
だから、また、なにもかも失うのだろうか。
慧を。
ダブルを。
家族を。
居場所を。
失うのなら、他人ではなく、自分自身であるべきはずなのに、それすら許されないのだろうか。
それとも、本当に神がいて、罰を己に与えるというのだろうか。
だから生きなければならないのか。
だから生き残ったのか。
だが犯した罪とは一体なんだったのか――。
両親は言う。
十和はいい子に育ったと。
だが本当はそうじゃないとずっと言いたかった。
本当の僕は決していい子なんかじゃない。
ただわかってしまうから。
あなたがたが望んだ子どもの姿を。
そして、無意識に演じているのだ。
必要とされたいから。
だから僕は本当のいい子じゃない。
誤解だ。
我慢しているだけだ。
気づけば仮面ばかりが分厚くなって、孤独感は増し、だれもわかってくれないと叫びたくても、分厚くなった仮面が笑顔をたたえ、それを許さない。
失望されるのが怖い。
だってわかっていた。
本当の僕は無価値でだれも愛してくれない。
椚が頭を撫でる。
よくやったと褒める。
褒められるたびに存在を認められた気がして嬉しくなる。
だが同時に、褒められない自分の存在がなにより恐ろしくなる。
僕を必要として欲しい。
その願望が偽物の家族を作り上げた。
ダブル以外、本物とは似ても似つかないことなんて知っていた。
だって本物は本当の自分を必要としてくれない。
それどころか憎んでいるかもしれない。
どこかでわかっていた。
罪を犯し、償うどころかそこから逃げ、醜い感情を持て余す、価値のない存在を愛してくれる人間なんていない。
だから、諦めたはずだった。
なのに、生きていると、ときどきそのことを忘れ、知らないうちに胸に希望が芽生えている。
そして、諦めきれず、なにかを探してしまう。
どうしてだろう。
どうしてこんなにも狂おしいほど求めてしまうのだろう。
愛して欲しい。
だが、愛される価値なんてない。
助けて欲しい。
だが、助けられる価値もない。
生きることは息苦しくていつもまるで溺れているようだ。
僕はなんなのだろう。
僕は一体なんのために生まれてきたのか。
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