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常夏の国・タイにジュリー見参
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「きゃっ、暑い」。
ジュリーは透け感のあるブラウスの上からブラのひもをかけ直すと、ちょっとだけボタンを外し、フリルのついた裾をふわふわと揺らしながら、自分の胸もとにかすかな風を送り込んだ。こんなに暑苦しいなんて、女子って大変。ローズピンクのブラがちらっと見えたらしく、たまたま通りかかった欧米系のビジネスマンが「ヒュ~」という口笛を鳴らし、もの欲しそうな瞳で投げキッスをしていった。「Make love」とかなんとか、下心丸出しの外国人のはやし立てに、ジュリーは「No」とだけ答えると、「んもう、男子って世界中どこへ行ってもエッチなんだから」とつぶやいた。
ジュリーが降り立ったのはタイの首都バンコクから二十五キロほど離れたサムットプラカーン県にあるスワンナプーム国際空港である。日本の成田空港の三倍はあろうかというマンモス空港。日本の夏のように、まとわりつくような湿気がないのは幸いだったが、常夏の国特有の熱狂的な暑さがジュリーの肌を攻め立てた。タイ語や英語によるアナウンスが交錯する中、空港の前で列をなしている超ド派手な色のタクシーを見るにつけ、「東南アジアへきたんだわ」という想いに駆られる。
本名・木村樹里亜。まだジュリーのことを知らない読者の皆さんのために、ちょっとだけ補足させていただくと、ジュリー自身、見た目的にはごく普通のOLだが、戸籍上の性別は男子だった。おてんば女子大学の女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスのOG(いや、正確にはOBか)。おてんば女子大学にあっては、初めての男子の女子大生として注目を集めたが、卒業後は地元のおてんば企画という編集プロダクションで働いていた。ひょんなことから女社長の日奈子がバンコクおてんばプロレスという新団体を立ち上げたことから、広告宣伝兼現役復活の女子レスラーとしてバンコクに駐在することになったのである。その“ひょんなこと”を説明するだけで原稿用紙五枚ぐらいはいりそうなので、詳しいことは小説『おてんばプロレスの女神たち ~卒業後のジュリーと仲間の闘い~』をお読みくださいね。
空港内の大時計が、ちょうど夜の十時半を示した。観光客やビジネスパーソンのエネルギーが渦巻く中、空港でジュリーを出迎えてくれたのは、日奈子社長の義理のお兄さんだった。武雄さんといって、小さいながらバンコクでIT企業を経営しているらしい。口ひげがよく似合う気さくなおじさん、それが武雄さんに対するジュリーの第一印象だった。当年とって四十六歳と聞いているが、ヴィンテージのアロハシャツを引っかけたその姿からは、ちょっとチャラい雰囲気が感じとれた。
「おなかは空いていない?」とか「今日は疲れたでしょう」とか、白い歯をのぞかせながら、しきりに笑顔を振りまいてくる武雄さん。奥さん(つまり日奈子社長のお姉さん)は、東京にある大手印刷会社のバンコク支社で管理職についているが、タイミングが悪いことに、三日ほど前から出張で日本へ行っているという。
「ごめんよう。行き違いになってしまって。うちのかみさん、一応は会社の役員で、昨日からバンコクの企業のお偉いさんたちを引き連れて、茨城県にある印刷工場の見学だとさ」という武雄さんの言葉に、ジュリーは「いえいえ」と恐縮した。
「こんなリモートの時代に、わざわざ日本まで連れて行く必要はないと思うんだけど、まったくおかしな会社だよね」。
武雄さんは、スマホの時計をちらっと見ると「日付が変わる前には君のアパートに着けるだろ」といい、「さぁ、こっちへ」と手招きをしながら、まるで要塞のような空港のロビーを突き進んでいった。こんな遅い時間だというのに、東南アジアを代表するハブ空港は、人、人、人で煮えくり返っている。
タイ駐在中、ジュリーが暮らすことになっているアパートメントは、バンコクの北部に位置するモーチットという駅の近くにあった。アパートまでの道すがら「モーチットまで、もうちっと」だなんて、武雄さんはしきりに親父ギャグを飛ばしていたが、長旅の疲れも手伝ってか、ジュリーは顔をひきつらせながら、「ははは」なんて乾いた笑い声を発するのがやっとだった。
いい加減、夜だというのにタイの首都・バンコクは光り輝いていて、ジュリーを未知の世界へと誘った。東京とも違う。おてんば市とは大違い。直感的に熱さが違うとでもいったらいいのか、街から放たれている熱量が段違いなのだ。車がスピードをあげるにつれて、次第に大映しになる高層ビル群は、まるで夜の街に浮かぶ蜃気楼のようだとジュリーは思っていた。
エレベーターのないアパートの四階まで、重たいスーツケースを運んでくれた武雄さんは、「これでよし」というと、「テレビもベッドも冷蔵庫も備えつけだから安心して。バンコクでは、これが普通なんだよね」と教えてくれた。
「だけど、お風呂はなしなので、シャワーをうまく使うしかないかな」という武雄さんのひとことに、ジュリーは打ちのめされてしまった。え~っ。お、お風呂がないなんて。お風呂好きのジュリーにとっては、不意討ち以外の何ものでもなかったのである。
まるで熱帯夜のようなバンコクでの初夜(注:初夜といっても、武雄さんと寝たわけではないので念のため)。アパートに到着したのが夜遅い時間だったため、夕べはすぐさまベッドになだれ込んでしまったが、朝になってカーテンを開けてみると、BTSと呼ばれる高架鉄道がひっきりなしに行き交い、多くの人がうごめいているバンコクは、まさに人間の暮らしのるつぼとでもいうべき大都会だった。
駅のすぐ目の前には、チャトチャックウィークエンドマーケットという巨大観光スポットが広がっており、まだ早い時間帯なのに、どこからともなく通勤客やら観光客やらが湧いてくる。たくさんの屋台が居並び、ほほ笑みの国・タイらしく、笑顔を投げかけながら、虎視眈々と獲物(お客さん)をつかまえようとしている姿が見てとれる。タイ特有の三輪タクシー、トゥクトゥクが行ったりきたりしている光景は、まるで映画の早送りでも観ているかのようだった。街そのものが勢いよく脈を打って生きている感じ。
「これがバンコクか」と思いながら、ジュリーはまるで白昼夢でも見ているかのような気分でベランダに立ちすくんでいた。チラッと時計を見たら、朝の八時前なのに、気温はすでに三十度超え。ていうか、昨夜も二十五度を下まわることがなく、体内の温度計が異変を感じたのか、とうとう熟睡できないまま、まぶしい朝を迎えてしまったのである。
さて、とりあえず朝食をとったら、日奈子社長に連絡を入れなければと思いながら、ジュリーは近くのコンビニに足を運んでみることにした。ミニスカートではなく、ショートパンツにはき替えるあたりは、まぁ防犯上というか、初めての海外での自己防衛。お肌を直撃する紫外線にも気をつけなくちゃと思ったジュリーは、とり急ぎスーツケースの中から日焼け止めスプレーをとり出し、シュッとひと吹きした。
近所には日本でもおなじみのコンビニがあり、ここなら安心と思って入ってみると、自分が想い描いている店内とは何もかもが違っていた。品揃えも店員もお客さんも、見るからに外国の風景。しかも見た目だけでなく、体感するものすべてがカルチャーショックの連続だったのである。
日本の某有名メーカーのカップ麺を買ったつもりが、これがまた辛いのなんのって。同じく日本で大ヒットしているペットボトル入りのお茶を買ってみたら、まったく予期せぬ味(これがまた甘いのだ)に吹き出してしまった。
ああ、なんなの。バンコクびっくりショー(古い)じゃないんだから。カウンターの近くに置いてある人気スイーツの「バンコク〇〇〇」って、これは‥‥。「東京〇〇〇」のパクリじゃないのよ。いい加減にして。
アパートで激辛のカップ麺と超甘のお茶に辟易させられたジュリー。リモートの画面に映し出された日奈子社長に向かって「朝からびっくりすることだらけです」というと、日奈子社長は「まぁまぁ」となだめながら、相変わらずの美貌で笑いかけてきた。時差の関係上、タイの方が二時間進んでいるので、日本はまだ八時半ぐらい。起きがけなのか、日奈子社長の手もとには花柄のコーヒーカップが置かれていた。
「出会うものすべてが勉強よ、ジュリー。あなた自身の肌でバンコクを感じて、どうすれば女子プロレスという文化を根づかせることができるのか考えてほしいの。四月になると、バンコクは旧正月を迎え、水かけ祭りという一大イベントで盛りあがるわ。私はそのときがチャンスだと思っていて、できればそのまっただ中にバンコクおてんばプロレスの旗揚げ戦をやるつもり。日本からは、そうねぇ、プレジデント日奈子という名レスラーを送り込むつもりなので、プレジデント日奈子 vs ジュリーの試合をメインに、千人ぐらいは集めたいわね」だなんて、日奈子社長のビッグマウスは朝からフルスロットルだった。
「私には考えがあるのよ。タイってムエタイの国じゃない? だから、例えばプロレス対ムエタイの異種格闘技戦でもやれたら盛りあがるような気がするの。ムエタイの選手と戦わせるんだったら、日本からはそれなりの格上選手を連れて行く必要があるわね。リングネームもマウント富士子とかKABUKI花子とか、海外受けする名前にしないと」。
それからしばらく日奈子社長はタイでの女子プロレスの可能性を「ああでもない、こうでもない」と熱く語っていたが、「今日は土曜日だからウィークエンドマーケットにでも足を運んで、少しゆっくりすれば――。来週からよろしくね」という言葉を最後に、リモートの画面がプチッと切れた。
暑いだけの部屋に充満する沈黙。さてさて。これからどのような日常が待っているのか。日奈子社長の熱い想いに、ジュリーの胸もときめいてはいたが、期待半分、不安半分といったところかな、うん。暑い国に熱い夢を抱えて、バンコクでの一日目が始まった。
ジュリーは透け感のあるブラウスの上からブラのひもをかけ直すと、ちょっとだけボタンを外し、フリルのついた裾をふわふわと揺らしながら、自分の胸もとにかすかな風を送り込んだ。こんなに暑苦しいなんて、女子って大変。ローズピンクのブラがちらっと見えたらしく、たまたま通りかかった欧米系のビジネスマンが「ヒュ~」という口笛を鳴らし、もの欲しそうな瞳で投げキッスをしていった。「Make love」とかなんとか、下心丸出しの外国人のはやし立てに、ジュリーは「No」とだけ答えると、「んもう、男子って世界中どこへ行ってもエッチなんだから」とつぶやいた。
ジュリーが降り立ったのはタイの首都バンコクから二十五キロほど離れたサムットプラカーン県にあるスワンナプーム国際空港である。日本の成田空港の三倍はあろうかというマンモス空港。日本の夏のように、まとわりつくような湿気がないのは幸いだったが、常夏の国特有の熱狂的な暑さがジュリーの肌を攻め立てた。タイ語や英語によるアナウンスが交錯する中、空港の前で列をなしている超ド派手な色のタクシーを見るにつけ、「東南アジアへきたんだわ」という想いに駆られる。
本名・木村樹里亜。まだジュリーのことを知らない読者の皆さんのために、ちょっとだけ補足させていただくと、ジュリー自身、見た目的にはごく普通のOLだが、戸籍上の性別は男子だった。おてんば女子大学の女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスのOG(いや、正確にはOBか)。おてんば女子大学にあっては、初めての男子の女子大生として注目を集めたが、卒業後は地元のおてんば企画という編集プロダクションで働いていた。ひょんなことから女社長の日奈子がバンコクおてんばプロレスという新団体を立ち上げたことから、広告宣伝兼現役復活の女子レスラーとしてバンコクに駐在することになったのである。その“ひょんなこと”を説明するだけで原稿用紙五枚ぐらいはいりそうなので、詳しいことは小説『おてんばプロレスの女神たち ~卒業後のジュリーと仲間の闘い~』をお読みくださいね。
空港内の大時計が、ちょうど夜の十時半を示した。観光客やビジネスパーソンのエネルギーが渦巻く中、空港でジュリーを出迎えてくれたのは、日奈子社長の義理のお兄さんだった。武雄さんといって、小さいながらバンコクでIT企業を経営しているらしい。口ひげがよく似合う気さくなおじさん、それが武雄さんに対するジュリーの第一印象だった。当年とって四十六歳と聞いているが、ヴィンテージのアロハシャツを引っかけたその姿からは、ちょっとチャラい雰囲気が感じとれた。
「おなかは空いていない?」とか「今日は疲れたでしょう」とか、白い歯をのぞかせながら、しきりに笑顔を振りまいてくる武雄さん。奥さん(つまり日奈子社長のお姉さん)は、東京にある大手印刷会社のバンコク支社で管理職についているが、タイミングが悪いことに、三日ほど前から出張で日本へ行っているという。
「ごめんよう。行き違いになってしまって。うちのかみさん、一応は会社の役員で、昨日からバンコクの企業のお偉いさんたちを引き連れて、茨城県にある印刷工場の見学だとさ」という武雄さんの言葉に、ジュリーは「いえいえ」と恐縮した。
「こんなリモートの時代に、わざわざ日本まで連れて行く必要はないと思うんだけど、まったくおかしな会社だよね」。
武雄さんは、スマホの時計をちらっと見ると「日付が変わる前には君のアパートに着けるだろ」といい、「さぁ、こっちへ」と手招きをしながら、まるで要塞のような空港のロビーを突き進んでいった。こんな遅い時間だというのに、東南アジアを代表するハブ空港は、人、人、人で煮えくり返っている。
タイ駐在中、ジュリーが暮らすことになっているアパートメントは、バンコクの北部に位置するモーチットという駅の近くにあった。アパートまでの道すがら「モーチットまで、もうちっと」だなんて、武雄さんはしきりに親父ギャグを飛ばしていたが、長旅の疲れも手伝ってか、ジュリーは顔をひきつらせながら、「ははは」なんて乾いた笑い声を発するのがやっとだった。
いい加減、夜だというのにタイの首都・バンコクは光り輝いていて、ジュリーを未知の世界へと誘った。東京とも違う。おてんば市とは大違い。直感的に熱さが違うとでもいったらいいのか、街から放たれている熱量が段違いなのだ。車がスピードをあげるにつれて、次第に大映しになる高層ビル群は、まるで夜の街に浮かぶ蜃気楼のようだとジュリーは思っていた。
エレベーターのないアパートの四階まで、重たいスーツケースを運んでくれた武雄さんは、「これでよし」というと、「テレビもベッドも冷蔵庫も備えつけだから安心して。バンコクでは、これが普通なんだよね」と教えてくれた。
「だけど、お風呂はなしなので、シャワーをうまく使うしかないかな」という武雄さんのひとことに、ジュリーは打ちのめされてしまった。え~っ。お、お風呂がないなんて。お風呂好きのジュリーにとっては、不意討ち以外の何ものでもなかったのである。
まるで熱帯夜のようなバンコクでの初夜(注:初夜といっても、武雄さんと寝たわけではないので念のため)。アパートに到着したのが夜遅い時間だったため、夕べはすぐさまベッドになだれ込んでしまったが、朝になってカーテンを開けてみると、BTSと呼ばれる高架鉄道がひっきりなしに行き交い、多くの人がうごめいているバンコクは、まさに人間の暮らしのるつぼとでもいうべき大都会だった。
駅のすぐ目の前には、チャトチャックウィークエンドマーケットという巨大観光スポットが広がっており、まだ早い時間帯なのに、どこからともなく通勤客やら観光客やらが湧いてくる。たくさんの屋台が居並び、ほほ笑みの国・タイらしく、笑顔を投げかけながら、虎視眈々と獲物(お客さん)をつかまえようとしている姿が見てとれる。タイ特有の三輪タクシー、トゥクトゥクが行ったりきたりしている光景は、まるで映画の早送りでも観ているかのようだった。街そのものが勢いよく脈を打って生きている感じ。
「これがバンコクか」と思いながら、ジュリーはまるで白昼夢でも見ているかのような気分でベランダに立ちすくんでいた。チラッと時計を見たら、朝の八時前なのに、気温はすでに三十度超え。ていうか、昨夜も二十五度を下まわることがなく、体内の温度計が異変を感じたのか、とうとう熟睡できないまま、まぶしい朝を迎えてしまったのである。
さて、とりあえず朝食をとったら、日奈子社長に連絡を入れなければと思いながら、ジュリーは近くのコンビニに足を運んでみることにした。ミニスカートではなく、ショートパンツにはき替えるあたりは、まぁ防犯上というか、初めての海外での自己防衛。お肌を直撃する紫外線にも気をつけなくちゃと思ったジュリーは、とり急ぎスーツケースの中から日焼け止めスプレーをとり出し、シュッとひと吹きした。
近所には日本でもおなじみのコンビニがあり、ここなら安心と思って入ってみると、自分が想い描いている店内とは何もかもが違っていた。品揃えも店員もお客さんも、見るからに外国の風景。しかも見た目だけでなく、体感するものすべてがカルチャーショックの連続だったのである。
日本の某有名メーカーのカップ麺を買ったつもりが、これがまた辛いのなんのって。同じく日本で大ヒットしているペットボトル入りのお茶を買ってみたら、まったく予期せぬ味(これがまた甘いのだ)に吹き出してしまった。
ああ、なんなの。バンコクびっくりショー(古い)じゃないんだから。カウンターの近くに置いてある人気スイーツの「バンコク〇〇〇」って、これは‥‥。「東京〇〇〇」のパクリじゃないのよ。いい加減にして。
アパートで激辛のカップ麺と超甘のお茶に辟易させられたジュリー。リモートの画面に映し出された日奈子社長に向かって「朝からびっくりすることだらけです」というと、日奈子社長は「まぁまぁ」となだめながら、相変わらずの美貌で笑いかけてきた。時差の関係上、タイの方が二時間進んでいるので、日本はまだ八時半ぐらい。起きがけなのか、日奈子社長の手もとには花柄のコーヒーカップが置かれていた。
「出会うものすべてが勉強よ、ジュリー。あなた自身の肌でバンコクを感じて、どうすれば女子プロレスという文化を根づかせることができるのか考えてほしいの。四月になると、バンコクは旧正月を迎え、水かけ祭りという一大イベントで盛りあがるわ。私はそのときがチャンスだと思っていて、できればそのまっただ中にバンコクおてんばプロレスの旗揚げ戦をやるつもり。日本からは、そうねぇ、プレジデント日奈子という名レスラーを送り込むつもりなので、プレジデント日奈子 vs ジュリーの試合をメインに、千人ぐらいは集めたいわね」だなんて、日奈子社長のビッグマウスは朝からフルスロットルだった。
「私には考えがあるのよ。タイってムエタイの国じゃない? だから、例えばプロレス対ムエタイの異種格闘技戦でもやれたら盛りあがるような気がするの。ムエタイの選手と戦わせるんだったら、日本からはそれなりの格上選手を連れて行く必要があるわね。リングネームもマウント富士子とかKABUKI花子とか、海外受けする名前にしないと」。
それからしばらく日奈子社長はタイでの女子プロレスの可能性を「ああでもない、こうでもない」と熱く語っていたが、「今日は土曜日だからウィークエンドマーケットにでも足を運んで、少しゆっくりすれば――。来週からよろしくね」という言葉を最後に、リモートの画面がプチッと切れた。
暑いだけの部屋に充満する沈黙。さてさて。これからどのような日常が待っているのか。日奈子社長の熱い想いに、ジュリーの胸もときめいてはいたが、期待半分、不安半分といったところかな、うん。暑い国に熱い夢を抱えて、バンコクでの一日目が始まった。
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