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未来に羽ばたけ!おてんば娘
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エリーの目の前で泣き崩れた男性は、その名をジュンといい、よくよく聞いてみれば、エリーとは小学校の同級生らしい。小学校では、学級委員を務めたこともあるというのだから、なんとも驚きであった。頭がよくてスポーツも万能。ジュンは級友らの憧れの存在だったのだ。
ところが――である。
神童とまでもてはやされたジュンのその後が、これまた壮絶であった。エリーと同じ小学校だったのは小学校五年生までで、その後は父親の転勤により山方(やまがた)へ。山方の小学校ではいじめに遭い、そのまま中学校へ進んだものの、いじめが止むことはなく、中学校二年生から不登校になってしまった。
中学校卒業と同時に、ジュンの一家は再びおてんば市へ戻ってきたが、高校は通信制を選択。自宅で息の詰まるような生活を送っていたときに、たまたま目にしたSNSでエリーのことを知り、追いかけまわすようになったのだという。
「ご迷惑をおかけして、ほんとうにすみません。エリーちゃんのSNSをチェックしていたら、今日は日奈子社長とランチなの――なんて書いてあったから、きっと仲町商店街にあるお店だろうと思い、マークをしていました。エリーちゃんの姿を見たら、ずっとついて行きたくなって、気がついたら追いかけまわしていました。嫌な思いをさせてしまって、ごめん。警察でもなんでも行きます。アイドル狙いのストーカーだといって、僕のことを突き出してください」。
神妙な顔つきでジュンが詫びると、エリーやカナ、美央に向かって、深々と頭を下げたのであった。
「警察に突き出すっていわれてもねぇ。エリー、あなたはどうしたい?」といい、美央がエリーに問いただした。急に振られたせいか、しばしエリーはどぎまぎしていたが、やがて心を決めてこう答えた。
「ジュン君。あなたのことは覚えているよ。小学生の頃、一回だけ同じクラスになったことがあったよね。たしか班も一緒で、他の男子が掃除をさぼっているのに、ジュン君だけが掃除を手伝ってくれた。男女関係なく、いつも正しいことの味方、それがジュン君だった。
今回はちょっとびっくりしちゃったけど、私のことを覚えていてくれたし、さっきのジュン君の言葉-嫌な思いをさせてごめん-を聞いたとき、ああ、ジュン君だって思ったわ。ジュン君、これからもよろしくね」というと、エリーがジュンに向かって握手を求めたのだ。
「えっ」といいながら、戸惑いを隠せないジュンだったが、しばらくすると「うん、ありがとう」と応じ、白魚のようなエリーの手に両手を添えた。「‥‥ほんとうにごめん」というジュンのひとことに、エリーがあどけない笑顔をのぞかせた。
「じつは年明けに新曲の発表会があるんだ。ぜひジュン君も応援にきて」というエリーからの誘いに、ジュンが笑顔で応えたことはいうまでもないだろう。
「うん、必ず行くから。エリーに負けずに僕も頑張るよ」。
そんなふたりの姿を目の当たりにしながら、「あら、私ったら出番がなかったわね」といい、苦笑いを浮かべる美央。エリートジュンの若さが眩しかったが、何はともあれ、エリーの危機は回避されたようであった。
一月半ばの成人の日のこと。ニューおてんば温泉の宴会場を会場に、おてんば娘の新曲披露&おてんばプロレスの新春大会が開催された。成人の日にちなんで、この日、新成人になった人たちは無料で会場に招待。生ビール一杯に限り無料で飲める特典つきであった。
「ずるいぞー。俺(おら)たちだって三度目の成人式だぞ。ビール三杯無料にしてけろ」とかなんとか、一部のお客さんたちからクレームが入ったりもしたが、大会自体は大盛況であった。
おてんば娘の新曲は『青春のおてんばカルテット』。これまた生成AIによる作詞・作曲で、おてんばプロレスのセミファイナルの前にお披露目されたが、なかなかの出来栄えだった。四人の踊りも息が合っていて、見応えは十分。会場からは「N○Kの紅白歌合戦を狙えるぞー」なんていう声も。
さすが、おてんば娘。これは本物だ――という空気が満ち溢れる中、こともあろう姿を見せたのは、さすらいの偽・演歌歌手のラブリー日奈子であった。しかも新曲を引っさげて現れたのだから、迷惑というか、どうしようもないというか。
ラブリー日奈子の新曲は『おてんば温泉は今日も晴れだった』(笑)。曲のタイトルは、ほとんどギャグでしかなかったが、曲自体はそれなりで、いかにもプロの歌手という雰囲気で歌いこなすラブリー日奈子には、やんややんやの拍手が送られた。
会場の五列目あたりで、おてんば娘に声援を送っていたのはジュンだった。おてんば娘のエリーが仲立ちをしてくれたらしく、ジュンの席の近くにはジュンやエリーの小学校時代の同級生たちが顔を並べていた。
よくよく聞けば、エリーと出会ってからというもの、ジュン自身、地元の国立大学をめざすようになり、勉強に燃えているとか。エリーとは二週間に一回ぐらいの割合で仲町商店街のレストランで会い、ランチを一緒に食べているというジュンだが、エリーとの関係がどうなっていくかは、これからの努力次第ということかしらね(著者談)。
さーて。おてんばプロレスのメインイベントは、プレジデント日奈子 vs ジャッキー美央の師弟対決だ。こんな言葉があるのかどうかはわからないけど、おそらくは師妹対決かな、たぶん。
手のうちを知り尽くしたふたりの対決。プレジデント日奈子というのは、おてんば市の市長で、有限会社おてんば企画の代表取締役で、合同会社ヒナの代表のことである。おったまげたことに、ひとり四役――ということになるわけか。
出し惜しみすることなく、お互いの技をくり出す両雄(いや、両雌)。日奈子による脳天直下型のブレーンバスターをカウント二・九で返した美央が勝負に出たのは、六分四十秒過ぎのことであった。一撃必殺の裏投げを三連発もくり出し、最後は体固めでスリーカウントを奪った。
著者の自分がいうのも変なのだが、美央はほんとうに強くなった。技の引き出しが増えたこと。そしてそれを「ここぞ」というタイミングでくり出せること。それこそが美央の強さの秘密であった。
「はぁはぁ」と息を切らしながら、美央がマイクをつかんだ。
「私こそが最強。自分ではそう思っています。まだまだ倒さなければならない相手はたくさんいますが、もう誰にも負ける気がしません(はぁはぁ)。
そんな自分の中で、いつもエールを送ってくれているのは、おてんば娘の四人組です。プロレスの試合をしていて、くじけそうになったときに頭の中を駆け巡るのが、彼女らの曲なんですよ。元気いっぱいの曲を思い出すと、ネバーギブアップという言葉がリフレインをして、自分に底知れぬパワーを与えてくれるから不・思・議・な・の」。
そういうと、美央はマイクを握り直し、おてんば娘の四人組、そしてエリーの同級生であるジュンらをリングに招き入れた。
「こうなったら、いつものあれを今日はおてんば娘バージョンで行くしかないでしょ。いいですか、皆さん。わかっていますよね」という美央の呼びかけに、四人組のアイドルが満面の笑顔で応じた。
「ではでは、行きますよ! いち、に、さん、おてんば娘~~っ!!」。
美央の音頭に合わせて、おてんば娘が拳を突きあげた。エリーもジュンも――。ニューおてんば温泉の宴会場に足を運んでくれた観客の気持ちがひとつになった瞬間であった。
「おてんば企画発の芸能ビジネスは、どうやら大成功のようね。この勢いを引っさげて、今度はエンタメ大国の韓国にでも進出しようかしら」と御大・日奈子がたくらんでいることを、おてんば企画のスタッフらはまだ誰も知らなかった。
ところが――である。
神童とまでもてはやされたジュンのその後が、これまた壮絶であった。エリーと同じ小学校だったのは小学校五年生までで、その後は父親の転勤により山方(やまがた)へ。山方の小学校ではいじめに遭い、そのまま中学校へ進んだものの、いじめが止むことはなく、中学校二年生から不登校になってしまった。
中学校卒業と同時に、ジュンの一家は再びおてんば市へ戻ってきたが、高校は通信制を選択。自宅で息の詰まるような生活を送っていたときに、たまたま目にしたSNSでエリーのことを知り、追いかけまわすようになったのだという。
「ご迷惑をおかけして、ほんとうにすみません。エリーちゃんのSNSをチェックしていたら、今日は日奈子社長とランチなの――なんて書いてあったから、きっと仲町商店街にあるお店だろうと思い、マークをしていました。エリーちゃんの姿を見たら、ずっとついて行きたくなって、気がついたら追いかけまわしていました。嫌な思いをさせてしまって、ごめん。警察でもなんでも行きます。アイドル狙いのストーカーだといって、僕のことを突き出してください」。
神妙な顔つきでジュンが詫びると、エリーやカナ、美央に向かって、深々と頭を下げたのであった。
「警察に突き出すっていわれてもねぇ。エリー、あなたはどうしたい?」といい、美央がエリーに問いただした。急に振られたせいか、しばしエリーはどぎまぎしていたが、やがて心を決めてこう答えた。
「ジュン君。あなたのことは覚えているよ。小学生の頃、一回だけ同じクラスになったことがあったよね。たしか班も一緒で、他の男子が掃除をさぼっているのに、ジュン君だけが掃除を手伝ってくれた。男女関係なく、いつも正しいことの味方、それがジュン君だった。
今回はちょっとびっくりしちゃったけど、私のことを覚えていてくれたし、さっきのジュン君の言葉-嫌な思いをさせてごめん-を聞いたとき、ああ、ジュン君だって思ったわ。ジュン君、これからもよろしくね」というと、エリーがジュンに向かって握手を求めたのだ。
「えっ」といいながら、戸惑いを隠せないジュンだったが、しばらくすると「うん、ありがとう」と応じ、白魚のようなエリーの手に両手を添えた。「‥‥ほんとうにごめん」というジュンのひとことに、エリーがあどけない笑顔をのぞかせた。
「じつは年明けに新曲の発表会があるんだ。ぜひジュン君も応援にきて」というエリーからの誘いに、ジュンが笑顔で応えたことはいうまでもないだろう。
「うん、必ず行くから。エリーに負けずに僕も頑張るよ」。
そんなふたりの姿を目の当たりにしながら、「あら、私ったら出番がなかったわね」といい、苦笑いを浮かべる美央。エリートジュンの若さが眩しかったが、何はともあれ、エリーの危機は回避されたようであった。
一月半ばの成人の日のこと。ニューおてんば温泉の宴会場を会場に、おてんば娘の新曲披露&おてんばプロレスの新春大会が開催された。成人の日にちなんで、この日、新成人になった人たちは無料で会場に招待。生ビール一杯に限り無料で飲める特典つきであった。
「ずるいぞー。俺(おら)たちだって三度目の成人式だぞ。ビール三杯無料にしてけろ」とかなんとか、一部のお客さんたちからクレームが入ったりもしたが、大会自体は大盛況であった。
おてんば娘の新曲は『青春のおてんばカルテット』。これまた生成AIによる作詞・作曲で、おてんばプロレスのセミファイナルの前にお披露目されたが、なかなかの出来栄えだった。四人の踊りも息が合っていて、見応えは十分。会場からは「N○Kの紅白歌合戦を狙えるぞー」なんていう声も。
さすが、おてんば娘。これは本物だ――という空気が満ち溢れる中、こともあろう姿を見せたのは、さすらいの偽・演歌歌手のラブリー日奈子であった。しかも新曲を引っさげて現れたのだから、迷惑というか、どうしようもないというか。
ラブリー日奈子の新曲は『おてんば温泉は今日も晴れだった』(笑)。曲のタイトルは、ほとんどギャグでしかなかったが、曲自体はそれなりで、いかにもプロの歌手という雰囲気で歌いこなすラブリー日奈子には、やんややんやの拍手が送られた。
会場の五列目あたりで、おてんば娘に声援を送っていたのはジュンだった。おてんば娘のエリーが仲立ちをしてくれたらしく、ジュンの席の近くにはジュンやエリーの小学校時代の同級生たちが顔を並べていた。
よくよく聞けば、エリーと出会ってからというもの、ジュン自身、地元の国立大学をめざすようになり、勉強に燃えているとか。エリーとは二週間に一回ぐらいの割合で仲町商店街のレストランで会い、ランチを一緒に食べているというジュンだが、エリーとの関係がどうなっていくかは、これからの努力次第ということかしらね(著者談)。
さーて。おてんばプロレスのメインイベントは、プレジデント日奈子 vs ジャッキー美央の師弟対決だ。こんな言葉があるのかどうかはわからないけど、おそらくは師妹対決かな、たぶん。
手のうちを知り尽くしたふたりの対決。プレジデント日奈子というのは、おてんば市の市長で、有限会社おてんば企画の代表取締役で、合同会社ヒナの代表のことである。おったまげたことに、ひとり四役――ということになるわけか。
出し惜しみすることなく、お互いの技をくり出す両雄(いや、両雌)。日奈子による脳天直下型のブレーンバスターをカウント二・九で返した美央が勝負に出たのは、六分四十秒過ぎのことであった。一撃必殺の裏投げを三連発もくり出し、最後は体固めでスリーカウントを奪った。
著者の自分がいうのも変なのだが、美央はほんとうに強くなった。技の引き出しが増えたこと。そしてそれを「ここぞ」というタイミングでくり出せること。それこそが美央の強さの秘密であった。
「はぁはぁ」と息を切らしながら、美央がマイクをつかんだ。
「私こそが最強。自分ではそう思っています。まだまだ倒さなければならない相手はたくさんいますが、もう誰にも負ける気がしません(はぁはぁ)。
そんな自分の中で、いつもエールを送ってくれているのは、おてんば娘の四人組です。プロレスの試合をしていて、くじけそうになったときに頭の中を駆け巡るのが、彼女らの曲なんですよ。元気いっぱいの曲を思い出すと、ネバーギブアップという言葉がリフレインをして、自分に底知れぬパワーを与えてくれるから不・思・議・な・の」。
そういうと、美央はマイクを握り直し、おてんば娘の四人組、そしてエリーの同級生であるジュンらをリングに招き入れた。
「こうなったら、いつものあれを今日はおてんば娘バージョンで行くしかないでしょ。いいですか、皆さん。わかっていますよね」という美央の呼びかけに、四人組のアイドルが満面の笑顔で応じた。
「ではでは、行きますよ! いち、に、さん、おてんば娘~~っ!!」。
美央の音頭に合わせて、おてんば娘が拳を突きあげた。エリーもジュンも――。ニューおてんば温泉の宴会場に足を運んでくれた観客の気持ちがひとつになった瞬間であった。
「おてんば企画発の芸能ビジネスは、どうやら大成功のようね。この勢いを引っさげて、今度はエンタメ大国の韓国にでも進出しようかしら」と御大・日奈子がたくらんでいることを、おてんば企画のスタッフらはまだ誰も知らなかった。
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