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キジンさん、2番にお客さんですー

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「キジンさん、内線の2番です。お客さんです、えっと、インダから、象人の族長という方が、ご挨拶したいとかで、ウチに来たそうなんですけど、どうされます?」

 俺がバーストと一緒になって、新聞記事の制作をしているところで、急にお客さんの来訪を知らせる声が、伝声管を通してやってきた。

 イギニスにはまだ電話がないから、伝声管という金属製のパイプを使って、声を直接やり取りしているのだ。

 開きっぱなしの管から「どーしますー?」という受付の子の間延びした声が聞こえてくる。

 コレ、天空の城ラ〇ュタで見たことあるやつだ。ちょっと感動している。

 しかしいま、俺は執筆活動のために、猛烈に忙しいのだ……!

「もうちょっとしたら行くから、待っててもらってくれ!」

 俺は7話目の、「蹴るぞ!ミリアちゃん」の最後のコマに取り掛かっている。
 機械の体でよかった。急にこんなにペンを使ったら、腱鞘炎になってるわ。

 さてはて、新聞とは毎日起きていることを乗せているようで、実は違う。

 1週間分を数日かけて、ノリとハサミででっち上げた後、その日のニュースに合わせて差し替えるのだ。この世では、毎日事件が起きているわけではない。

 ニュースがない時はどうするか?最悪の時を考えて、全く当たり障りのない、内容の無い紙面を最初に考えておくのだ。

 例えば、「血液型でわかる頭脳!あなたはきっと天才かも?」とかいう自尊心をくすぐる科学記事とか、「毎日犬の散歩をする紳士は90歳まで生きるかもね?」といった、どうでもいい記事を前もって用意する。

 そして、何か出来事が起きたら、それと差し替えるのだ。で、この無意味な記事は、非常時用に取っておく。

 これは一般的な非常時とは意味が違う。

 新聞における非常時とは、地震に火事、洪水はもちろん、迷子になった猫すらいない、すごい平和な日の事だ!

 俺たちの猛烈な努力により、1週間分の「ポトポト新聞」が、出来上がり次第、壁に張り出されている。後は誤字脱字の修正あるのみだ。

 ふう、しかし新聞記者というのは、実際やってみるとクソ忙しいな。
 コンピューターの無い時代だから、なおさら時間がかかる。

 ぶっちゃけ、なんでこんなことやってるんだろうな?

 ……俺が一番わからん。

「2番さん、キジン今いきまーす」
「はーい、1番会議室にお通ししましたー。お茶とかまだ何でよろしく」

 俺が淹れんのかよ!!!ていうか、遅れるっつったんだから、出しとけよもう!
 
 紅茶を入れ、お茶うけを手にした俺は、来客の待っている会議室に向かう。

 ……おかしい、俺は社長のはずなのに、自然に社畜に適応している。

 いかんいかん、きっと前世の記憶に引っ張られているなコレは。

 会議室で椅子に座って待っていたのは、黒いプレーンドレスに、でっかいバックルベルトを締めた格好をした、長い銀髪に赤いメッシュの入った人の女性だ。

 象人の族長っていうから、象人かと思ったんだけど、あれー?

 ……そして、うーむ、デカイ。ミリアの胸部装甲が装甲車なら、デドリーは主力戦車と言った所だろう。だがこの女性は、さしずめ超重戦車と言った所だ。

 この圧倒的な胸部装甲の持ち主、インダの族長と言ったが何者だ……!?

 族長っていうよりは、凄いエチエチな19世紀の家庭教師って感じだけど。

 彼女はすっと右手の袖をたくし上げる。

 そこにあった溶接の後のような傷跡。

 ――古代竜、お前かぁぁぁぁ?!!!!!

「……あー、まずはお茶をどうぞ。」

「あ、これはどうも」

「……挨拶ということだったが、さて?」

 インダから危険を冒してわざわざ来て、挨拶だけという事は無いだろう。

 でも人の形をとるという事は、戦いに来たわけではないな。

 うん、さっぱり目的が解らない。

「機人、イギニスがインダを狙っているのは、象人だけが目的ではない。インダには、お前の仲間たちが残したものがある。イギニスはそれを狙っている」

「……そんなところだろうとは思った。実際には、何が眠っている?」

「――小さな太陽を地上に生み出せるものだ。これをイギニスには渡せない」

 小さな太陽を地上に生み出す。実に詩的な表現だ。

 この表現を理解できる者は、おそらく今のイギニスには、古代竜と俺を除いて存在しない。イギニスレベルの時代には、まだ概念すら存在しない技術だからだ。

 古代竜は、今こうして俺たちが、窓から入ってくる太陽の光にさんさんと照らされている、これと同じ原理を、地上に生み出すといった。

 太陽がしている事とは?ぶっちゃけると、核融合だ。

 この核融合、太陽と原理的に同じことをする兵器が、ひとつだけ存在する。

 ――つまり、インダには究極の核兵器、「水爆ツァーリ・ボンバ」が貯蔵されているということだ。
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