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バトル・オブ・イギニス
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★★★
――ここはイギニス王宮にある、秘密の部屋。
「やはり、僕が出ないと駄目だったか。」
軋む身体を傾け、誰に向けるともなくつぶやいたのは、若草色の機人だった。
ニューペーパーによる扇動はうまくいった。
しかし、ポトポトの連中に共感したイギニス人が思いのほか存在していた。
失敗の原因はもう一つある。技術的格差だ。
我々よりも後発のはずのポトポトが、なぜか我々よりも優れた武器を持っていた。
実に奇妙だった。おそらく目本による干渉だろう。中世と変わらぬポトポトがそこまでの技術的発展を自力でできるはずはない。
こうなればもはや、僕自身が打って出る他に選択肢はないな。
どうせ、ポトポトの機人はたいしたことがないだろう。
銀行のような基本的な金融制度を持たず、蒸気機関すら持っていない原始人を率いているような機人だ。目本に操られる程度の者なら、この僕でも勝てるはずだ。
★★★
「王宮を守れー!一歩も引くな―グワァ!!」
赤いコートに背の高い熊毛の帽子をかぶった近衛兵が、エルフたちの放った弾丸で倒れる。すでに王宮の階段は、近衛兵の遺体が折り重なるようになっている。
<PAPAPAPAM!!><TATATATA!!>
フリントガンとエルフ達の使うアサルトライフルでは、制圧力が段違いだ。
それに、イギニスの銃兵は、伏せるという事をしない。
フリントガンはまだ玉を込めるのに、銃を立てて先から入れないといけない。
なので伏せて使うというのが難しいのだ。
これが近衛兵たちの一方的な敗北の原因となった。
現代的な特殊部隊装備に身を包んだエルフ達は包囲の輪を狭めていく。
最後の近衛兵の分隊は、エルフから放たれたグレネード弾で、瓦礫のバリケードごと、バラバラに吹き飛ばされた。
王宮の入り口の制圧は完了した。あとは外からの援軍を防ぎ、内部の制圧を完了させねばならんな。
「ミリア様!入り口を確保しました!」
「ケケケ!しょせんヒトブタは、この程度ですねぇ!」
被ったフルフェイスマスクに、白いドクロを描いたミリアさんが言う。
言ってることも格好も、完全に悪役である。
「……油断はするな、まだ何か隠し玉を持っていてもおかしくない。外部からの援軍に対して防御の準備をせよ。しかるのち、内部の制圧を進めよ」
「へぇぇぇぇぇぇ!」
「……ここは任す、私は先に中を見てくる」
俺は一人で王宮の中に入った。
高い天井に広い室内だが、そこには人っ子一人いない。
水爆を手に入れようとした奴がいるとするなら、それはおそらく、俺のような機人かもしれない。インダに攻め入ろうとした経緯、それがそもそもがおかしかった。
そして、奴は恐らく必死な筈だ。
仮にイギニスにも機人がいるなら、俺と共通する懸念事項があるはずだからだ。
――85%か、奴はどれくらい残っているかな?
そう、バッテリーだ。恐らく奴は、死に体のはずだ。
そして、俺たちは絶対に仲良くなれない。
ナビはバッテリーの材料は自然界に存在しないといった。
つまり有限だ。これが意味する事はひとつ。
そうだ、動き続けるには、お互いで奪い合うしかない。
「……いるのだろう?イギニスの機人?」
(――右へ避けて!!)(――?!)
ナビの声が聞こえたので、俺はそれに従って右方向へ飛びのいた。
ガキィン!という金属のぶつかる音が、王宮のだだっ広いホールに響いた。
見るとそこには、鎖でつながれた、舟の錨が突き刺さっていた。
ガラガラと音をさせて引き上げられる錨。その戻る先には、俺とよく似た、だが少し風体の違う機人がいた。
若草色の姿は丸っこく、滑らかだ。威圧感を与えないようにするデザインの方向性からは、どことなく民生仕様感を感じるな。
(機人、1880年仕様といったところでしょうか。失われた機能の一部を、イギニスの技術で補ったようですね。)
(なるほどな、そう来たか)
錨を回収した、アンカーバズーカとでも言おうか?
そいつはポッポー!とかいう気車の汽笛みたいな気の抜けた音をさせている。
なるほど、蒸気の圧力で打ち出しているのか。
「ポトポトの機人、僕は君が欲しい、正確には、君の体とバッテリーがね」
「……それは渡すわけにはいかないな。素直に敗北を認めたらどうだ?」
「バカな!!君のような原始人を率いている機人に僕が負けるだと?」
カチンときた。ミリアはともかくほかの連中は、必ずどこかは俺よりスペックが高い。そういう考えだからおかしなことになるんだよ。
「……お互い相いれない事だけは解った。決着を付けよう」
こっちの装備のことは、奴が機人ならわかっているだろう。
逆にこっちはあいつが何をするか解らん。
――なのでこういう場合は、先に全て叩き込む!暴力は全てを解決するのだ!
片方の肩のマルチミサイルをすべて叩き込み、オートキャノンで牽制する!
12発のミサイルと3連射した37㎜弾が若草色の機人に襲い掛かる。
「きっとそうだろうと思ったよ!!」
若草色の機人は飛び跳ねて37㎜弾を避けると、その背中から猛烈な蒸気を吹き出した!
いや、機人の背中だけではない!王宮にある柱からも蒸気が吹き出している!
クソッ!用意がよすぎるだろ!前々から罠を仕込んでたのか!!
しかもこの蒸気、普通の蒸気ではないようだった。UIのミニマップ表示がおかしい。注意深く蒸気を見ると、何かがキラキラと光っている。
舞い散っているのは、紙よりも薄い鉄片……?
そうか!蒸気に鉄片を仕込んで、チャフにしたのか!!
マルチミサイルは目標を見失って、てんでバラバラに飛んで行って、王宮のクッソ高そうな彫刻の施された柱や壁を吹き飛ばした。
悪いとは思うが、弁償はしねーぞ!!!
……!レーダーが使えないのに、蒸気のせいで奴の姿を見失った、不味い!!
ゲーマーの勘で即座にその場を離れる。
刹那、さっきまで俺のいたところが、例の錨で掘り返された。危ない所だった。
このチャフを放ち続ける蒸気を何とかしないといかんな!!
俺はライトセイバーを振るって、錨に繋がれていた鎖を切断する。
これでもう使えまい!
『まさか躱されるなんてね。いい勘をしているじゃないか』
蒸気に包まれた王宮の中から、どこからともなくやつの声が聞こえる。
「……ふん、不利をさとって姑息な戦術に出たな?」
クソ!この蒸気の中、どうやって俺の位置を把握した?
(機人様、地面に集中しすぎです。上です。上を見てください)
(上……?あっ……)
何のことはない。格子状の窓、そこに鏡があった。
そしてその格子の間隔は、地面の細工の模様と一致している。
鏡には蒸気の中をよけて、わざわざ見える場所をうろうろする俺が映っている。
なるほど!上手いこと考えるな!野郎コンチクショウ!!!
俺はミニガンを上に向けて、鏡をすべて撃ち砕く。
<VOOOOOOOOO!!>
パラパラと降り注ぐガラスと銀の欠片。
生身の体だったら、ズタズタになってるね。
これでお互い何も見えなくなったな。さて、ここからどうするか?
(ナビにいい考えがあります。機人様――)
・
・
・
天井の鏡のギミックに気が付くとはね。
あの機人、原始人を率いている割には、なかなかに頭がまわるじゃあないか。
しかしこの蒸気でお互いが見えないどうしたものか?
アンカーバズーカは失ったが、僕にはまだ武器がある、必殺の武器が。
この右腕で唯一機能する兵装、「パイルバンカー」だ。
タングステンの杭を電磁加速して打ち込む白兵戦において最強の兵器だ。
これを打ち込めば、いくら機人とは言えひとたまりもない。
さぁ、姿を見せろ……。
『……このままでは決着がつきそうにない停戦と行かないか?』
ほう、だいぶ気弱じゃあないか。
「そうだな、僕もそう思っていたところだ、機人同士、仲良くできないかな」
音声ソナーをオンにする。よし、音声波形で大体の方向が分かった。
よし、静かに足のホイールユニットを下して、一気に加速して貫いて壊してやる。
『……ポトポトとイギニスが共存できる道もあると思うのだが』
「その通りだ、君のいう事は正しい。……だがそこに君は居ない」
位置を掴んだ、ホイールユニット加速して、一気に貫く!!
<ギュワアアアアアアア!!!>
パイルバンカー、発射ァ!!!
<ズドォ!!!>
蒸気をかき分けて、パイルバンカーが貫いたものを見る。
――真鍮の管……?!バカな……!伝声管だと?!
これは機人じゃない!!室内同士をつなぐ伝声管だ!!
「かかったな!アホが!!」
背後――! しまった!!
激しい衝撃のあと、自分の胸から青い光刃が生えるのがみえた。
「こんな、こんな……原始人のオサなんかにぃ……!!!」
「ジ・エンドだぜ!イギニスの機人!!」
<ブォォン!!>
バチリ!という電気が弾けるような音を最後に、視界がぐるぐると回る。
僕が最後に見たものは、自身の下半身と、その前に立つ、砂色の機人だった。
そして、永遠に続く暗闇に包まれ、僕の意識は溶けた。
――ここはイギニス王宮にある、秘密の部屋。
「やはり、僕が出ないと駄目だったか。」
軋む身体を傾け、誰に向けるともなくつぶやいたのは、若草色の機人だった。
ニューペーパーによる扇動はうまくいった。
しかし、ポトポトの連中に共感したイギニス人が思いのほか存在していた。
失敗の原因はもう一つある。技術的格差だ。
我々よりも後発のはずのポトポトが、なぜか我々よりも優れた武器を持っていた。
実に奇妙だった。おそらく目本による干渉だろう。中世と変わらぬポトポトがそこまでの技術的発展を自力でできるはずはない。
こうなればもはや、僕自身が打って出る他に選択肢はないな。
どうせ、ポトポトの機人はたいしたことがないだろう。
銀行のような基本的な金融制度を持たず、蒸気機関すら持っていない原始人を率いているような機人だ。目本に操られる程度の者なら、この僕でも勝てるはずだ。
★★★
「王宮を守れー!一歩も引くな―グワァ!!」
赤いコートに背の高い熊毛の帽子をかぶった近衛兵が、エルフたちの放った弾丸で倒れる。すでに王宮の階段は、近衛兵の遺体が折り重なるようになっている。
<PAPAPAPAM!!><TATATATA!!>
フリントガンとエルフ達の使うアサルトライフルでは、制圧力が段違いだ。
それに、イギニスの銃兵は、伏せるという事をしない。
フリントガンはまだ玉を込めるのに、銃を立てて先から入れないといけない。
なので伏せて使うというのが難しいのだ。
これが近衛兵たちの一方的な敗北の原因となった。
現代的な特殊部隊装備に身を包んだエルフ達は包囲の輪を狭めていく。
最後の近衛兵の分隊は、エルフから放たれたグレネード弾で、瓦礫のバリケードごと、バラバラに吹き飛ばされた。
王宮の入り口の制圧は完了した。あとは外からの援軍を防ぎ、内部の制圧を完了させねばならんな。
「ミリア様!入り口を確保しました!」
「ケケケ!しょせんヒトブタは、この程度ですねぇ!」
被ったフルフェイスマスクに、白いドクロを描いたミリアさんが言う。
言ってることも格好も、完全に悪役である。
「……油断はするな、まだ何か隠し玉を持っていてもおかしくない。外部からの援軍に対して防御の準備をせよ。しかるのち、内部の制圧を進めよ」
「へぇぇぇぇぇぇ!」
「……ここは任す、私は先に中を見てくる」
俺は一人で王宮の中に入った。
高い天井に広い室内だが、そこには人っ子一人いない。
水爆を手に入れようとした奴がいるとするなら、それはおそらく、俺のような機人かもしれない。インダに攻め入ろうとした経緯、それがそもそもがおかしかった。
そして、奴は恐らく必死な筈だ。
仮にイギニスにも機人がいるなら、俺と共通する懸念事項があるはずだからだ。
――85%か、奴はどれくらい残っているかな?
そう、バッテリーだ。恐らく奴は、死に体のはずだ。
そして、俺たちは絶対に仲良くなれない。
ナビはバッテリーの材料は自然界に存在しないといった。
つまり有限だ。これが意味する事はひとつ。
そうだ、動き続けるには、お互いで奪い合うしかない。
「……いるのだろう?イギニスの機人?」
(――右へ避けて!!)(――?!)
ナビの声が聞こえたので、俺はそれに従って右方向へ飛びのいた。
ガキィン!という金属のぶつかる音が、王宮のだだっ広いホールに響いた。
見るとそこには、鎖でつながれた、舟の錨が突き刺さっていた。
ガラガラと音をさせて引き上げられる錨。その戻る先には、俺とよく似た、だが少し風体の違う機人がいた。
若草色の姿は丸っこく、滑らかだ。威圧感を与えないようにするデザインの方向性からは、どことなく民生仕様感を感じるな。
(機人、1880年仕様といったところでしょうか。失われた機能の一部を、イギニスの技術で補ったようですね。)
(なるほどな、そう来たか)
錨を回収した、アンカーバズーカとでも言おうか?
そいつはポッポー!とかいう気車の汽笛みたいな気の抜けた音をさせている。
なるほど、蒸気の圧力で打ち出しているのか。
「ポトポトの機人、僕は君が欲しい、正確には、君の体とバッテリーがね」
「……それは渡すわけにはいかないな。素直に敗北を認めたらどうだ?」
「バカな!!君のような原始人を率いている機人に僕が負けるだと?」
カチンときた。ミリアはともかくほかの連中は、必ずどこかは俺よりスペックが高い。そういう考えだからおかしなことになるんだよ。
「……お互い相いれない事だけは解った。決着を付けよう」
こっちの装備のことは、奴が機人ならわかっているだろう。
逆にこっちはあいつが何をするか解らん。
――なのでこういう場合は、先に全て叩き込む!暴力は全てを解決するのだ!
片方の肩のマルチミサイルをすべて叩き込み、オートキャノンで牽制する!
12発のミサイルと3連射した37㎜弾が若草色の機人に襲い掛かる。
「きっとそうだろうと思ったよ!!」
若草色の機人は飛び跳ねて37㎜弾を避けると、その背中から猛烈な蒸気を吹き出した!
いや、機人の背中だけではない!王宮にある柱からも蒸気が吹き出している!
クソッ!用意がよすぎるだろ!前々から罠を仕込んでたのか!!
しかもこの蒸気、普通の蒸気ではないようだった。UIのミニマップ表示がおかしい。注意深く蒸気を見ると、何かがキラキラと光っている。
舞い散っているのは、紙よりも薄い鉄片……?
そうか!蒸気に鉄片を仕込んで、チャフにしたのか!!
マルチミサイルは目標を見失って、てんでバラバラに飛んで行って、王宮のクッソ高そうな彫刻の施された柱や壁を吹き飛ばした。
悪いとは思うが、弁償はしねーぞ!!!
……!レーダーが使えないのに、蒸気のせいで奴の姿を見失った、不味い!!
ゲーマーの勘で即座にその場を離れる。
刹那、さっきまで俺のいたところが、例の錨で掘り返された。危ない所だった。
このチャフを放ち続ける蒸気を何とかしないといかんな!!
俺はライトセイバーを振るって、錨に繋がれていた鎖を切断する。
これでもう使えまい!
『まさか躱されるなんてね。いい勘をしているじゃないか』
蒸気に包まれた王宮の中から、どこからともなくやつの声が聞こえる。
「……ふん、不利をさとって姑息な戦術に出たな?」
クソ!この蒸気の中、どうやって俺の位置を把握した?
(機人様、地面に集中しすぎです。上です。上を見てください)
(上……?あっ……)
何のことはない。格子状の窓、そこに鏡があった。
そしてその格子の間隔は、地面の細工の模様と一致している。
鏡には蒸気の中をよけて、わざわざ見える場所をうろうろする俺が映っている。
なるほど!上手いこと考えるな!野郎コンチクショウ!!!
俺はミニガンを上に向けて、鏡をすべて撃ち砕く。
<VOOOOOOOOO!!>
パラパラと降り注ぐガラスと銀の欠片。
生身の体だったら、ズタズタになってるね。
これでお互い何も見えなくなったな。さて、ここからどうするか?
(ナビにいい考えがあります。機人様――)
・
・
・
天井の鏡のギミックに気が付くとはね。
あの機人、原始人を率いている割には、なかなかに頭がまわるじゃあないか。
しかしこの蒸気でお互いが見えないどうしたものか?
アンカーバズーカは失ったが、僕にはまだ武器がある、必殺の武器が。
この右腕で唯一機能する兵装、「パイルバンカー」だ。
タングステンの杭を電磁加速して打ち込む白兵戦において最強の兵器だ。
これを打ち込めば、いくら機人とは言えひとたまりもない。
さぁ、姿を見せろ……。
『……このままでは決着がつきそうにない停戦と行かないか?』
ほう、だいぶ気弱じゃあないか。
「そうだな、僕もそう思っていたところだ、機人同士、仲良くできないかな」
音声ソナーをオンにする。よし、音声波形で大体の方向が分かった。
よし、静かに足のホイールユニットを下して、一気に加速して貫いて壊してやる。
『……ポトポトとイギニスが共存できる道もあると思うのだが』
「その通りだ、君のいう事は正しい。……だがそこに君は居ない」
位置を掴んだ、ホイールユニット加速して、一気に貫く!!
<ギュワアアアアアアア!!!>
パイルバンカー、発射ァ!!!
<ズドォ!!!>
蒸気をかき分けて、パイルバンカーが貫いたものを見る。
――真鍮の管……?!バカな……!伝声管だと?!
これは機人じゃない!!室内同士をつなぐ伝声管だ!!
「かかったな!アホが!!」
背後――! しまった!!
激しい衝撃のあと、自分の胸から青い光刃が生えるのがみえた。
「こんな、こんな……原始人のオサなんかにぃ……!!!」
「ジ・エンドだぜ!イギニスの機人!!」
<ブォォン!!>
バチリ!という電気が弾けるような音を最後に、視界がぐるぐると回る。
僕が最後に見たものは、自身の下半身と、その前に立つ、砂色の機人だった。
そして、永遠に続く暗闇に包まれ、僕の意識は溶けた。
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