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第一章
閑話 死闘の後
しおりを挟む「魔の森に入っていった部隊の生体反応はもうほとんどないのである。でも、まだ敵の集団に生き残りがいるのである」
黒いローブに身を包んだ若い女の子は隣にいる獣人部隊の隊長に言った。
「そんなバカなことがあるか。敵は20名もいないとおぬしは言っていたではないか。我が精鋭が田舎の騎士団長ごときに負けるはずはない」
顔に切り傷がいくつもあり、老練の戦士の面構えをした獣人が答える。
「おそらくこの森に生息する魔物ホワイトファングにやられたのである」
「くっ、歴戦の戦士が魔物の一匹や二匹に後れを取るわけがない。総数150名の10隊を送ったのだぞ」
「ホワイトファングは群れをなし、危険な魔物なのである。忠告したのである」
「このままでは我々に課せられた任務が…おぬしの魔法で何とかならないのか?」
「ここからでは妾の魔法の射程外である。肉弾戦が不得意な妾は危険なこの森の中に入りたくないのである。先生もそれを望まないのである。それに帰りのための魔力を残しておかないとまずいのである」
森の方から傷ついた数人の獣人がこちらにやってきた。
「ダール千獣将、申し訳ありません。森の中には白い熊のような化け物が多数おり、送り込まれた隊が壊滅状態にあります」
「もうその呼び名はやめろと言ったろ、もう千獣将ではないのだから…ご苦労だったな。敵から奪ったポーションがある。それで傷を癒し休憩を取れ」
「申し訳ありません、ダール隊長」
数人の獣人たちは後方の陣営に戻っていった。
「この任務は失敗したのである。これ以上時間をかけるとまずいのである。妾ははやくミール村に戻って死体を集めなければいけないのである」
「…くっ…すぐに退却だ。日が昇る前にサバール町周辺から撤退する」
白い馬に乗った5人の騎士が空から朝日に照らされながらミール村に降り立った。彼らは国王直属の第七騎士団に所属する騎士たちで、騎士団と王家の紋章が縫われている青い服の上に白いマントを羽織っている。彼らの馬は額に角があり飛行能力を持つ希少な一角獣という魔物だ。
村に着いた5人はすぐに村内を捜索した。戦闘や破壊の後があるものの、村は人っ子一人いない閑散とした不気味な雰囲気を放っている。村の近くに20台ほどの馬車が放置されているが、馬も人もいなかった。
「しかし、不可解なことばかりだな」
騎士のリーダーが神妙な面持ちでつぶやいた。
「情報だと盗賊が村を略奪したということでしたが、そうすれば討伐軍が組織されるのは誰でもわかりますからね。団長はどう見ますか、これ?」
「きな臭いな。何か大きな裏があるかも知れないね。だからこそ俺たちが偵察に送られたんだろう」
「団長はエルン騎士団の団長と旧知の仲なんですよね?」
「ああ、ハンメルさんは騎士専攻の先輩でね。いろいろと世話になったんだ。あと、レイモンドさんと同期だったんだ」
「モル団長!村からさらに北に向かったと思われる足跡が多数ありました」
村の北を捜索していた騎士が戻ってきて報告した。
「わかった。すぐに足跡を追跡しよう」
5人の騎士はすぐに一角獣に跨り、足跡をたどった。
そして魔の森の入口付近にたどり着いた。
「森に入っていったみたいですね…」
「森の中から生体反応があります」
茶色のくるくるした天然パーマの騎士が探査魔法を使いながら言った。
「団長、この辺りってホワイトファングが生息する森ですよね?」
「厄介だね…一角獣たちを少し休めたいが、仕方ないね。空から偵察しよう。レイモンドさん、生体反応の詳しい方角はわかりますか?」
「敬語はやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか。団長なんですから」
「先輩は先輩ですよ…ハンメルさんは無事だといいんですが…」
「そうですね。ハンメルがそう簡単にやられるとは思わないですが…生体反応はここから西北の方角ですね」
と言ってレイモンドは生体反応があった方角を指した。
5人は一角獣の乗って飛びながら森を捜索した。すると向うに少し開けた場所があるのが目に入った。周囲を警戒しながら高度を下げ、その場所に降り立った5人は信じられないものを目にした。
至る所に獣人の死体が転がっており、倒れている大きな三本の木に囲まれたところに騎士や領民兵と思われる人たちが倒れていた。なにより、大人二人分ほどの高さまで積み上げられたホワイトファングの死体の山であった。流れ出た血が白い毛並みと混ざり異様な光景をなしている。そして、その頂上に血まみれになった少年が両手に剣を持って座っていた。俺たちに気づくことなく肩で息をしながら前だけを見ていた。団長以外は口を大きく開け、言葉を失って固まっている。
「おい、大丈夫か?」
騎士の団長が声をかけると少年は騎士の方に目をやってすぐに気を失い倒れてしまった。
それから5人の騎士たちは倒れているエルン騎士団と領民兵の安否を確認し、重症の人には治癒魔法を施した。そして、一人ずつ一角獣に乗せてミール村まで運んだ。二往復してすべての生存者を運び終わり、騎士の一人が報告のためにサバール町まで飛んでいった。
ミール村の中央では意識を取り戻したルハン町冒険者ギルド長のボルン、エルン騎士団長ハンメル、その部下のサリバン、そして領民兵の少年トニーの四人から事実確認を行った。ホワイトファングの死体の山の上にいたヒノという少年、ハンメル団長の部下オビアン、バランという領民兵の三人はまだ昏睡状態だった。
一行は一角獣を馬代わりにし、4つの馬車でサバール町に向かった。町についてすぐ、ハンメル団長はエルン騎士団と連絡を取り、エルド村を含むミール村周辺に調査隊を派遣させた。そのあと、報告を受けたサバールの町長は馬と人を用意し馬車の回収に向かわせた。
後処理や報告などの作業が一段落したあと、ギルド長のボルンとハンメル団長と第七騎士団の団長モルバインの三人は町長の応接室に集まっていた。
「とりあえず、かん口令を敷きました。調査内容も含めてレオルド辺境伯爵と王都に判断を任せます。下手すると外交問題に発展しますからね。あと申し訳ありませんが、上から返答があるまで森からの生存者たちは軟禁状態になります。その代わり丁重に扱いますので」
モルバイン団長が言った。
「かん口令は仕方ないだろうな。獣人軍団なんていろいろとシャレにならないからな。領民がパニックになるわ。生存者に関しては、エルン市の俺の屋敷に連れて行こうと思う。俺はエルンに戻らなければならないし、その方がいろいろと都合がいい。悪いがボルンさんも一緒に来てくれ」
「ああ、構わんよ。お前の屋敷で美味しい酒でも飲んでゆっくり過ごすとしよう」
「ところでレイモンドは?久しぶりにゆっくりお話でもしようと思ったのだが」
ハンメル団長がモルバイン団長の方を向いて言った。
「今、レイモンドさんはもう一人の部下といっしょに周辺地域の探査に行っています。調査隊と警護隊がこちらに到着しましたら、俺たちもエルンに滞在しますので、その時にでも…それでもう一つのあのことについて相談したいのですが?」
「…ああ、ヒノのことですか…しかし、モルバイン団長の話を聞いてもちょっと信じられない内容ですな。まずはヒノ本人から話を聞いてみないことには」
ボルンは困ったような表情を浮かべながら答えた。
「本人から真相を聞くまではここだけの話にしておいた方がいいだろう」
「そうですね、ハンメルさん。言っても誰も信じないような話ですし。ですが、トニーという少年の話からすると、少なくてもホワイトファング何頭かは確実にヒノ少年一人で倒したことになります。それすら信じがたい話なのですから。ボルンさんは彼の師匠なんですよね?」
「ええ、ヒノはギルドで働く臨時の職員でね。筋がよさそうなんもんで剣術を教えているんだが…そこまで強いとは思わなかったのだがな…うむむ…何にしても一回本人から聞いてみないと」
「そうですね。彼が回復するまでこの話はおいておきましょう。」
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