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第二章
グッター怒りの探査
しおりを挟む俺は怒りに任せて矢が飛んできた方向に走った。すると突然、俺の横を2つの火玉が勢いよく通り過ぎ、前方にある二本の木に当たって燃え始めた。おそらくフィノとレノの魔法攻撃だ。その炎で周囲は明るくなり、暗闇に潜んでいた盗賊たちの姿が露わになった。如何にも悪そうな風貌の5人の男たちは弓矢を構えていた。そしてすぐに、俺が全力で向かって来るのを見た彼らは慌てて弓矢を手離し、各々の近距離用の武器を手にした。
俺はまず、一番近い距離にいた右手前の男に斬りかかった。森は足場が悪く、足を取られる危険があったので、前方に低く飛びながら攻撃をした。相手の男は両手で握った剣を横に倒しながら俺の一撃を受け止めた。だが、全体重を乗せた俺の剣はそのまま彼を受けた剣ごと押し倒した。倒れた瞬間、俺は彼の剣を足で踏みつけて動けなくし、剣を振りなおし一気に胸に突き刺した。彼は苦しそうな表情を浮かべたが、俺は剣を捻りながら抜き取り、次の目標に向かって走り出した。
すぐ手前に1人、そして少し後方に3人ほど武器を構えて立っている。俺はまずナイフを構えている手前の一人に向かった。相手は体制を低くしながらナイフを前に突き出しており、俺の攻撃を避けてから反撃に出ようとしているようだった。俺は一切速度を落とさずに彼に向かって走り続け、彼の間合いに入る少し手前で、ナイフを持った腕を狙って斜めに振り下ろした。思い切り体重を乗せてというよりは、斬り付けた回転を利用して次の一撃を放つためだった。俺の剣は相手の腕の半分ほどを斬り抜け、俺はそのまま回転して腹を引き裂く止めの一撃を入れた。
そして、残る3人を確認し、すぐに右端の一人を狙って飛び込んだ。彼は俺の胸を狙って剣を前に突き出して来た。だが、その剣筋に速度と脅威は感じられず、俺は走りながら上体を捻り横に避けた。剣を突き出して前に伸びてしまったスキだらけの彼を通り過ぎる瞬間に俺は彼の首筋を思い斬りつけた。さらに横に振りきった剣の反動を利用して、中央の一人を狙って攻撃をした。中央に立っている男はこっちに踏み込みながら俺の剣を受けた。体重差が出て、俺は大きく後ろにはじかれた。男はそのままもう一度踏み込んで俺の胸を狙って突いて来た。後ろにはじかれたが、体制をそこまで崩していなかった俺はそのまま下に潜り込み、全力で踏み込みながら相手の腹を斬り抜けた。思ったよりも斬った感触がなく、慌てて振り返るとなんと男の体は真っ二つに切断され下にゆっくり落ちていった。
それを見た残った1人は動揺したのか、動きが一瞬止まってしまった。俺はそのスキに飛び掛かって斬り付けた。男は慌てて防ごうとしたが、間に合わず首から血を勢いよく吹き出しながら倒れた。
俺は我を忘れて斬りかかってしまったと反省しながら冷静さを取り戻した。
すぐに後ろを確認すると、10人はいたはずの盗賊たちは全員地面の上に転がっていた。
トニーの話だと、トニーは一人やっつけて、残りはラドさんがあっという間に斬り伏せたらしい。恐ろしく強かったと顔を引きつりながら言っていた。
俺は他に盗賊がいないかどうかを警戒しながら、コームさんとエミリさんに駆け寄った。コームさんの肩と脇腹に、エミリさんの左胸に矢が深く刺さっていた。
周囲の確認を終えたラドさんが戻って来て二人の傷を確かめた。「思ったより傷が深いな」と言ってラドさんはズボンの左ポケットからポーションを二つ取り出した。そして、それをエミリさんに飲まそうとした瞬間、
「ラドさん!エミリさんは魔族なのじゃ、ポーションは効かないはずじゃ」
とグッターが慌てて言った。俺はなぜ平べったいポケットからポーションが二つも出てきたのかがすごく気になったが、場を弁えて質問しなかった。
「危ないところじゃった。よくやった、グッター」と言って飲ませる寸前だったポーションをエミリさんの口から遠ざけた。そしてすぐにコームさんの矢を抜き、先ほどのポーションの3分の2ほどを飲ませ、残りは傷口にかけた。しばらくすると、コームさんの傷口はふさがり、体の損傷も回復してしまった。ラドさんが使ったのは中級ポーションのようだった。
コームさんは回復した自分の体に驚きながらも、すぐにエミリさんに駆け寄って話しかけた。しかし、エミリさんはすでに意識を失っていた。その場で泣き崩れるコームさんに、
「コームさん。矢を抜いてすぐに傷口をふさぎ、安静にすればエミリさんは助かるはずじゃ。魔族は強大な魔力を持っている故、自然回復力が高い。子供の内ならまだしも、核がしっかり形成された大人なら、これくらいの傷では死なないはずじゃ。今はコームさんがしっかりしなければならない時じゃ」
とラドさんはコームさんに後ろから声をかけた。フィノとレノは悲しそうな鳴き声を漏らしながら、エミリさんの傍に付き添っている。
「ぅぅぅ、許せない。許せないのじゃ」
グッターは怒りに満ちた表情だった。
「エミリさんが可哀そうです。早く意識を戻してほしいです」
ロットは悲しそうに言った。
「復讐するのじゃ。百倍返しなのじゃ」
グッターは俺の方を見て言った。
「俺もちょっと許せないと思うよ。何の罪もないエミリさんとコームさんがこんな目に合うなんて…」
「その通りなのじゃ。盗賊を退治するのじゃ。あたしが盗賊のアジトを探して、ヒノたちが全員やっつけるのじゃ。皆殺しなのじゃ」
グッターは話しながらさらに怒りが沸いて来たようで、物騒なことを言い始めた…
「わしもこのまま放置しようとは思わんな。コームさんの話じゃと数を増やして危険度を増して来ているようだしの…どれ、聞いてみるかの、二人ほど生かしてあるから。ヒノとトニーついて来い」
ラドさんはそう言いながら、転がっている盗賊たちの方に歩いて行った。俺とトニーはラドさんが指した盗賊の体を抱き起すと、ラドさんはポケットから縄を取り出して二人の男を縛った。男たちに意識はまだなかった。そして、俺たちは彼らをエミリさんたちからは見えない場所まで引きずって行った。
「ラドさん、そのポケットどうなってるんですか?」
盗賊の体を引きずりながらトニーはラドさんに質問した。さっきのポーションと言い、俺も気になる。
「これはな、まあ、簡単な話、魔法袋をポケットとして縫い付けてあるんじゃ」
「ええ!すごい、ラドさん魔法袋持ってるんですね。なんか短い間に魔法袋を二つ見れるなんてラッキーだぜ…でも、なんでわざわざズボンに縫ってあるんですか?」
「…ああ、その…昔、寝ているスキに何回か盗まれたことがあっての、だったらもうズボンに縫い付けてしまおうと考えたんじゃ」
何回も盗まれたんだ…かなり高価なものだと聞いたが、ラドさんはすごいお金持ちなんだな。というか、どうして何回も盗まれたかが気になる…
「えええええ!魔法袋を何回も盗まれるなんて、恐ろしい話ですね…ラドさんでも気づけなかったなんて、凄腕の泥棒だったんですかね…」
トニー、ラドさんに尊敬の眼差しを向けてるな…俺は見ることが出来なかったが、ラドさんの戦いはよっぽど強烈だったんだな…
「いや、まあ、いろいろあっての…そんなことよりも盗賊を起こして話を聞くぞ」
ラドさんは言葉に詰まりながら話題を変え、おもむろに盗賊の顔を引っ叩いて無理矢理起こそうとしている。
俺はつい酔ってて盗まれたんじゃないだろうかと考えてしまった。
盗賊の二人が目を覚ました。縛られている上に、目の前には仲俺たちが立っている。彼らはすぐに現状を理解したようだった。盗賊のうちの一人は知らない顔だったが、もう一人は村長の息子デミリオだった。ラドさんは盗賊の人数やアジトの場所を聞いた。二人は白を切り通そうとしたが、ラドさんは彼らの仲間の遺体を引きずって来て、目の前で真っ二つに斬ってからもう一度同じ質問をした。仲間の引き裂かれた体といろいろ見えてはいけないものがはみ出ており、二人は真っ青になりながら話し始めた。
盗賊の頭はデモスと呼ばれており、槍使いらしい。彼は数か月前に突然やって来て、この辺一帯を力で支配し始めたらしい。しかし、彼の居場所を知っている者は一人もいないという。逆に、彼は団員の家を全て把握しており、待ち合わせ場所や集会は全て団員のところで行っていたそうだ。盗賊団全体の詳しい人数も不明で、仕事ごとに連れていく人数とメンバーを変えていた。かなり用心深い人のようだ。
ラドさんが二人を木に縛り付けてから、きついのを一発ずつ入れて眠らせた。トニーよりも遥かに上手できつく縛っていた。あのトニーの縛り方も甘かったのだと初めて知った。トニーは興味深そうに縛り方を見ていた。
俺たちはエミリさんのところに戻ってこれからのことを話し合った。
まず第一に、エミリさんを安静に出来る安全な場所が必要だったが、コームさんの意見で彼女が住んでいる洞窟に運ぶことになった。コームさんは洞窟への行き方を知っており、さらに他の人にはかなり見つけ難い場所にあるので安全だという。洞窟には魔物がいて中に入ることは出来ないが、入口付近なら安全に彼女の看病が出来るとのこと。
そして、ラドさんはトニーを護衛にして、グッターとロットもコームさんといっしょに行かせることにしようとしたら、
「あたし、盗賊の頭のアジト探せると思うのじゃ。ラドさんとヒノたちだけじゃ、見つけられない可能性があるのじゃ。絶対に見つけるのじゃ」
とグッターはいっしょに行こうとした。グッターは盗賊の頭のアジトにはお金と武器があるはずなので、探査魔法で探せるということだった。
確かに何の手がかりもないままアジトを見つけるのは不可能に近いかも知れないな…
「ラドさん、ヒノ。この山で迷わずにここに戻れるのですか?ここにちゃんと戻れなければはぐれてしまいますよ」
とロットは至極まっとうなことを言った。確かにラドさんと俺の方向感覚じゃ無理だ。
グッターとロットがいなければ盗賊のアジトも見つからないし、見つかってもここに戻ってこれないような気がしてきた…
なにより、グッターは頑固で、彼女の決意は固かった。
二人を連れて行きたくはなかったが、ラドさんも仕方なく承諾し、俺が常に二人を護衛することになった。
ラドさんはポケットからポーションを人数分取り出して、俺たち全員に飲むように言った。回復ポーションではなく、簡単に言うと栄養ドリンクみたいなものだった。飲むと体の疲れが少しとれたような気がした。
そして、トニーとコームさんはエミリさんをレノの上に乗せ、彼女が住んでいる洞窟に向かって出発した。レノは出来るだけエミリさんを揺らさないように慎重に足を運んでいた。ここから洞窟までは半日ほどかかるらしく、三日後にこの場所でコームさんが待っているという約束で別れた。
そのあと、俺、ラドさん、グッター、そしてロットの4人は盗賊のアジト探しを始めた。まず、グッターが金を中心に探す探査魔法を出来るだけ広範囲でかけた。どうやらこの周辺に反応はなかったようだ。
グッターはアジト探しにかなり気合を入れていた。ぷんすかぷんすかと歩くグッターの姿から怒りが漏れ出ているのがわかった。エミリさんが傷つけられたということが相当頭にきたみたいだ。グッターもいろいろと苦労してきたみたいだから、エミリさんを放っておくことが出来なかったのかも知れない。
探査魔法なのに、まるで大爆発を引き起こそうとしているかのような派手な動きで金を探し続けた。そして、何の反応も出なければ、またぷんすかぷんすかと次の探査場所まで歩いた。その間、ロットはしっかりと道を記録して迷わないようにしていた。
俺たちは生き残った盗賊を先頭で歩かせ、彼らが知っている仲間の場所を案内させた。その途中、グッターは怒りの探査を続けていた。しばらくなんの反応もなかったので、グッターは不機嫌にもなってきて、干し肉をぶっきらぼうにかじりながら歩いていた。
そして、周囲が明るくなってきた頃だった。探査魔法を使っていたグッターは山の斜め上方を指し
「反応があったのじゃあああ!かなり薄い反応だが、確かに金と他の金属の反応があるのじゃ」
何時間も歩き、探査魔法を使用し続けていたグッターだったが、まだまだ気合に満ちていた。俺たちはそこで一旦休憩を挟んでから山を登った。途中、グッターは何回か探査魔法を使って方角を確認しながら歩き続けた。連れている盗賊の二人はかなり疲弊していた。そこで初めて自分たちが平気でまだまだ疲れを感じていないことに気が付いた。ラドさんがくれたポーションは体力を活性化させる効力を持ち、その気になれば三日三晩動き続けられるという強力なものだった。その代わり、効き目が切れたあとはどっと疲労するのだという。
昼頃に探査魔法の反応が強く感じられるという場所についた。勾配がきつく凸凹としていて歩きにくい場所だった。そこで、グッターは狭い範囲で精度重視の探査魔法をかけた。彼女はいまだに憤怒しており、ラドさんのポーションのせいで興奮しているんじゃないだろうかとも思ったが、それでも彼女は俺たちの中で一番テンションが高かった。
グッターが小さな指で指さした場所を調べた。すると、注意深く探さないと気づかないくらい草や木の枝で自然に覆われた木の扉が勾配のきつい地面からちらっと見えた。グッターの探査魔法の凄さを初めて実感した。
ラドさんの指示で俺は盗賊を前に立たせ、グッターとロットに付き添い扉から距離を取った。ラドさんは剣を手に持ちながら、覆っているカモフラージュのための草木を取り払って扉を開けた。
次の瞬間、ラドさんが素早く上体を反らしたのと同時に、凄まじい速さでその上を矢が通りすぎ、後方にある太い木に深く刺さった。
ラドさんはすぐに後方に素早く飛んで剣を構えた。少しの間沈黙が流れ、扉の奥から大きな槍先が顔を出した。そして、その大きく長い槍を男がゆっくりと出てきた。茶色の目と短髪、額には横に伸びた斬り傷が入っており、深緑のズボンに白い無地のシャツを身に着けていた。そして、両方の腕と足には腕あてとすねあてを装備している。
先ほどの盗賊など赤子のように感じるほど、彼から出る威圧感と本能が告げる危機感は桁違いなものだった。さらにシャツの奥から見覚えのある首輪が見えた。
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