悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います

マンゴー山田

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学園編

思い…出した…!

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「ふぁー?!」
「レイジス様?! いかがされましたか?!」

僕の絶叫に、すぐさま侍女さん達が部屋になだれ込んできた。
僕の部屋は既に数人の侍女さんがいてオロオロとしている。

「え?! ちょ…はぁ?!」
「レイジス様?!」

鏡の前でぺたぺたと顔を触っている僕を不審そうに見つめる侍女さん達は悪くない。悪くはないのだが。

「なんで僕『レイジス・ユアソーン』になってるのー?!」

鏡に映る僕の姿。
それは『君に幸あれ!-セントアリュウス学園-』というちょっとあれな名前の18禁BLゲーだ。
まぁタイトルも内容も普通のBLゲーだけど、なんでよりにもよって悪役のレイジス・ユアソーンに転生したの?!
というかこのレイジス。
魔力も魔法も国一番の持ち主だったけど、平民上がりの主人公にあっさりと魔力も魔法も抜かれるというテンプレなキャラ。
そのテンプレ通り主人公に嫌がらせをするらしい。このキャラが最終的にどうなるのかは分からない。
なんせ暇で暇でしょうがないときにさくっとできるBLゲーとして愛されているからか、サブキャラは最後までは描かれないらしい。
けれどイラストも綺麗でスチルも修正されてはいるがギリギリまで見せてくれるからそれも人気の一つだろう。

で、なんでそんなことを知っているのかと言うと、僕が腐男子だったからだ。
取りあえず出たものには手を出す僕だったがこのゲームだけは事前情報だけを仕入れてプレイしていない。
それなのになぜこの世界に転生などしてしまったのか…!

ここに呼んだ奴! 許さんからな!

「あの…レイジス、様…?」

派手な金の枠を両手で掴み、ぐぬぬと奥歯を噛みしめていると躊躇うように侍女さんに名前をよばれる。

「あ、ごめん。大丈夫」
「は、はぁ…さよう、ですか…」

ぱっと奥歯を噛みしめるのをやめて何でもないよ、と顔をする。
あれ?
なんかすっごい引いてる。ドン引きされてるんだけどなんで?
というか今いつなの?
時期によっては完全に主人公たちと敵対してるんだけど。

「今日っていつだっけ?」
「はい?」

分からないなら聞いてみよう、と思ったけどなんか侍女さんたちが急に怯え始めた。
だからホントなんなの?
それとも聞こえなかったのかな? ならもう一度聞いてみよう!

「今日…」
「き、今日は花の月の14でございます!」
「花の月の14…」

殆ど叫ぶようにそう言われてビックリ。てか侍女さんの顔色が悪いけど大丈夫かな?
貧血?
というか侍女さんも心配だけど僕もまずい。
これ、いつなんだ?
事前情報しか持ってないからさっぱりわからない。
むむーと腕を組んでまた一人唸るとふと壁にかかっていたカレンダーが目についた。なんだ! カレンダーがあるじゃん!

「ちょっとごめんよ」
「は、はい」

僕の前にいた侍女さんの横をすり抜けてカレンダーに近付き、それをざっと確認する。
ふむふむ。
花、というくらいだから僕たちの世界では4月に相当する…のかな?
数枚破られてる跡があるから確認できないけど。

「このカレンダーはこの前に何枚あったか分かる?」
「え。あ、はい。三枚でございます」
「三枚…ありがと」
「い、いえ」

やっぱりお礼を言うとびくびくとされる。このゲームの中の僕はどんな人物だったんだろう。
事前情報とキャラが違うなんて稀によくあることだからなー。それはおいおい考えよう。
それよりも、赤丸がついてるの今日だよね。何かあるのかな?
じっとカレンダーと睨めっこをしていると、中年層の女性が現れた。それと同時にさっきまでいた侍女さん達が一列に壁に背を向けて並んでいる。
すごいな。
体育の授業のようだ。

「レイジス様。お時間が迫っておりますが」
「時間? なんの?」

こくんと首を傾げれば瞳がすっと細くなった。
おおう…怖い。

「学園のお時間でございます」
「あ、そうなんだ」
「朝食はいかがなさいますか?」
「なんかよく分んないから食べるよ。学校は今日は休む」
「…よろしいのですか?」
「別に一日くらい休んだって構わないでしょ」

事前情報だと僕は今、国一番の魔導士らしいし!
だがちょっと待ってほしい。
ゲームの世界とは言え学園、つまりは学校だ。
というかそもそもこういった学園生活なら寮とかじゃないの?

「かしこまりました。では今日もお休みと言うことでよろしいですね?」

今日も?
ってことは昨日も休みだったの?
何やってんだよー。学生生活は今しか堪能できないんだぞー!

「あ、待って!待って! やっぱ行く! 学校行く!」

学校というものにまだ行ってはいたが、悲しいかなバイトが忙しいという記憶しかない。
…転生する前の僕はどうやって生きていたんだろう。

「…かしこまりました。では二時限目から伺うということでよろしいでしょうか?」
「あ、もう一限目は間に合わないのね。それでいいよ」
「かしこまりました。ではお部屋にお食事のご用意をさせていただきます」
「うん? 分かった」

綺麗に一礼して部屋を後にする妙齢の女性の後を付いてぞろぞろと侍女さん達が部屋を出ていくのを見送ると、さてどうしたものかとぐるりと部屋を見渡す。
寝室にしては広い。広すぎる。
この部屋だけで以前の俺の部屋がまるっと入るぞ…。

「レイジス様」
「うぉ?! ビックリした」

一人だけだと思ってたから本気で驚いた。
あれ? 全員出ていったんじゃないの?
なんで一人だけ残ってるの?

「御着替えを」
「着替え? 自分でできるからいいよ」

この歳で…というか今何歳なんだ?
学園にいるということは13~17歳だとは思うんだけど…。でも声からして13歳ではないわな。16歳くらい? 分からん!
くっ、こんなことなら事前情報をもっとしっかりサーチすればよかった…!
というかこの歳まで人に手伝ってもらうとかないわー。恥ずかしいわ。

だけど僕のこの言葉に侍女さんが瞳をまん丸にして僕を見ている。
いや、そんな目で見られても…。

「い、いえ。ですが…!」
「いいって。だいじょぶ、だいじょぶ」

そう言いながらここでもごてごてとした悪趣味な金の装飾が付いたクローゼットを開ける。そこにはたくさんの服がかけられていたが…何だこのひらひらぶりぶりな服は。
うへぇ…と顔を歪ませながらそれらを見ないようにして、一番奥にあった制服らしきものを手にすると「これだよね?」とオロオロとしている侍女さんに聞いてみる。それにこくこくと頷く侍女さんはなんか可愛い。
腐男子といえど可愛い女の子がいたならガン見するだろ。
すると途端に顔色を無くし「も、申し訳ございません!」と身体を震わせ始めた。
だからなんで。
彼女たちは僕を怖がっているのは分った。ええ。今、現在そうだからね。

もー。今までの僕はどんな風に接してたのよー。
怖がらせちゃダメだろー?

「別に怒ってはないけど…これ本当に着れるの?」

手にした制服をざっと見れば一人で着れそうにもない感じの制服。ゲームあるあるである。
特にギャルゲーとかの制服は一体どこから出ているんだというリボンや線が無数にある。着るのに時間がかかりそうだから制服系は着エロが多いんだろうかと真剣に考えたことさえある。

だがこれがこの学園の制服ならば着なければならないだろう。たとえどうなっていようとも。
溜息を一つ吐いてから僕は難関であろうその制服を着ることにした。


■■■


結局侍女さんに手伝ってもらい、髪を整え朝食をむぐむぐと頬張って食べ終わると最終チェックをされ部屋を出れば、なぜか帯刀している兵士さんがそこにいた。
え? この人たちと一緒に行くの? という視線を妙齢の女性に向ければ「当然です」と頷かれた。
兵士さんたちと一緒に歩くこと3分ちょい。

「はえー…」

校舎を見上げれば口が開く。
なんだこの宮殿みたいな校舎は!さすがゲーム内!なんでもデザインできる! 素晴らしい!
火災とかあったら間違いなく死ぬな、なんて考えながら校内に入ろうとしたら先生と思しき人がいた。
こんな時間に?
いや、僕もそうなんだけど。重役出勤ですよ。なんてバカなことを考えながら歩けば、僕を見つけたその人がぱっと顔を上げた。
あれ? もしかして僕を待っててくれたの?

「ユアソーン様」
「あ、やっぱり」

というか何その『様』って。
侍女さんたちは雇われてるからそうかもしれないけどさー。

「えっと?」
「ああ、申し遅れました。私、ユアソーン様の担任のハロルド・マキシムと申します」
「はぁ…」

そう言って深々と頭を下げる男性。この人もどこか僕を怖がっているようにも見える。
だから何やったのー。

「初めてのご登校ということで私が…」
「初めて?!」

ハロルド先生の言葉を遮って思わずそう叫べば、きょとんとしたのち「あ、え、はい」としどろもどろになりながら答えてくれた。
おいおいおいー! 若人よ。何やってるんだ。
学校から寮まで歩いて3分もかからないんだぞー? それなのに登校してないって…君は損してるぞ。レイジス。
はぁー…とつい大きな溜息を吐けば、ハロルド先生の肩がびくりと跳ねた。
いや…そんな怯えなくてもいいじゃない…。

「ああすみません。それで先生はなぜここに?」
「は、はい。教室までのご案内を」
「あー…そうですか」

そうだよなー。初登校ということは入学式以来、ということになるのだろう。
レイジスはどこで勉強してたんだ? 家庭教師か? 学園にきてまで?
そんなことを悶々と思っていると、ハロルド先生の顔色がどんどんと青くなっていく。先生も貧血?

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです」

どことなくほっとしたようなハロルド先生。でもやっぱりどこかびくびくしてるんだよなー。
別に取って食おうなんて思ってませんよ。ええ。

先生が先導して校舎内に入る。
なんていうか…普通だな。
きょろきょろとお上りさん気分で校舎内を見ていると階段にたどり着く。だが先生は上ろうとしない。
ん? ここ上るんじゃないの?

「魔道エレベーターの方がよろしいですよね?」
「はい?」

魔道エレベーター?
たった二階に上るだけなのに?
ていうかこの世界エレベーターなんてあるんだ。まぁ…現代の日本人が作ってるからなぁ。
何とも言えない微妙な顔をしていたんだろう。ハロルド先生からまたもや顔色が無くなっていく。

「その方がよろしいですよね」
「あ、いや。階段で結構ですよ。運動もしたいし」
「本当に…ここでよろしいのですか?」

なぜそんなに確認をするんだろう。僕の足はちゃんと二本あるし、歩ける。ここまで来て息切れも起こさないから身体に問題はないんだろう。
僕の言葉にまだ躊躇っているハロルド先生をおいてさっさと階段に向かって歩く。そしてすたすたと階段を上れば、ハロルド先生が慌てて駆け上ってきた。

「教室はどこですか?」
「こ、こちらです」

僕に追いついたハロルド先生が右手を伸ばし進行方向を示してくれる。廊下を歩き教室の前まで来ると、ちょうどチャイムが授業の終わりを知らせる。
それからガチャリと扉が開くと先生が出てきた。僕を見た瞬間瞳を見開いたのはなぜなんだ。そして固まってしまった先生にこくりと首を傾げれば教室内がざわざわと騒がしくなった。
そして後ろのドアが開き生徒たちが出てきた。だがその生徒も僕を見た瞬間に固まり動かなくなる。その後ろから「なにしてるんだ」と怒声が聞こえるが僕を凝視したままの生徒はぴくりとも動かない。
するといち早く石化が解けた先生が僕に一礼をするとそそくさと早足で―まるで逃げるように立ち去った。ドアで固まった生徒にしびれを切らせた別の生徒が前のドアから出ようとして固まった。
いや…なにこれ。
別の教室からも生徒が出てきては固まるという不思議な現象に僕はつい眉を寄せれば、ハロルド先生が「か、彼らは驚いているだけですから!」と必死に弁解している。
いや…人の顔見て固まるとか失礼じゃない?
それよりもなんで固まってるのさ。

「何をしているんだい?」

その場に響いた声に固まっていた生徒がはっと我に返り慌てて教室から出ていくと詰まっていたドアから次々と生徒が吐き出される。
そしてなぜかざっと人が割れ道ができ、その間を「失礼」と言いながら通る一人の生徒。
銀の髪に王族しか持ちえないというパンジー色の瞳。その生徒に僕は見覚えがあった。

「フリードリヒ…殿下」

僕の呟きにフリードリヒが「ほう」と感心したように瞳が細められた。

「流石に私の名だけは知っている、か」

ふん、と鼻で笑うフリードリヒに僕は若干イラッとする。だが相手はこの国の王太子殿下。
僕なんかが敵う相手ではない。
だから。
口元を持ち上げ、にっこりと笑う。

「ごきげんよう。フリードリヒ王太子殿下。先程は失礼いたしました」

ドレスはないからにこにこと笑うだけにとどめる。するとざわっとざわめきが広がり、モーゼのように割れた生徒たちの頬が瞬時に朱に染まる。

「これはこれはご丁寧に。傾国の婚約者レイジス・ユアソーン」

フリードリヒのその言葉に、事前情報にそんなものはなかったぞ!と心で毒づきながら僕はただにこにこと見つめていた。


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