ロリっ子Jkは平穏を愛す

赤オニ

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「やぁ、初めまして。杠六花ちゃん。驚いたよ、一般人が僕本人に関わってくるなんて、中々ないからね。まぁ積もる話はあとにしようか、まずは僕のお気に入りの店に案内するよ」
「……初めまして、犬飼真実さん」


 待ち合わせ場所に現れたのは、ネイビーのパーカーにジーパンを履いて爽やかな笑顔を見せる、見た目15、6歳の男の人。
 これでブレザー姿だったら間違いなく高校生に見えるし、学ランを着たら中学生でも通りそう。


 爽やかでとても胡散臭い笑顔を浮かべる相手の言葉に、嫌味のつもりで本名を口にする。しかし、本人は何処吹く風、
 気にする素振りなど一切見せず、歩き出す。内心舌打ちをしながらも、大人しく着いていく。


 案内されたのは、どうやら個人経営のお店のようでこじんまりとしている。
 早速店主に話しかけると、店員に奥の個室へ案内された。
 パッと見個室があるようには見えない造りになっていて、流石自称情報屋が贔屓にしているだけあるなぁとどうでもいい感想を抱く。


 注文を終え、静かに閉まる個室の戸。犬飼さんが、こちらに向き直る。気まずそうな顔をしている。
 笑みを浮かべているけど、引きつっているのがバレバレで、思わず半目で見やる


「いやぁ……まさか、本当に生きていたとはね。連絡もらった時は驚きすぎて、危うく椅子から落ちるところだったよ……。だって君、生きてるなんて一言も言わなかったじゃないか」
「事故にあって彷徨ってる、とだけ言った。死んだなんで一言も言ってないけど?」


 嫌味ったらしく笑って返せば、呆れたのか諦めたのか、肩をすくめる。


 わたしは6年間ベッドの上で眠り続けた。その間ーー半分霊体のような形で外を彷徨っていたとは、とてもじゃないけど他人には言えない。
 信じてもらえないのは前提として、下手したら病院にドナドナも有りうる。


 ……あの母に関しては、話す気も起きないけど。このことは、そーちゃんはもちろんの事、真理夏にも言っていない。
 話したら2人は信じてくれるだろうか。きっと、受け止めてくれる姿勢は見せてくれると思う。
 けど、心から信じることはないだろうなぁ。わたしだって逆の立場なら信じられない。


 事故に遭ったあと、気が付くとわたしはベッドで眠る自分を見ていた。
 死んだかと思ったけど、どうやら生きているらしい自分の体は、規則正しく息をしていた。


 だけど、ピクリとも動かずたくさんの管に繋がれた体を見るのが嫌で、そばで泣き続ける幼いそーちゃんを見ないふりして外をふらふらさ迷い続けた。


 犬飼さんが中学生の時、たまたま出会った。どうやら不思議なモノを映すようで、幽霊や妖怪、怪異と言ったモノからちょっかいをかけられることが多くて困っていたらしい。


 幽体になったわたしにも、不思議な世界がよく見えるようになった。
 確かにこれは生きづらそうな世界だなぁと感じたのだけ、よく覚えている。
 通りかかった時、小さなあやかしに絡まれていた犬飼さんは、まだ体も小さく困り果てた様子で震えていた。


 しばらく観察していたけど、あやかしは増えていく一方で、真っ青な顔で怯える姿に、思わず足が出た。
 ちなみに蹴飛ばしたのはあやかしではなく、犬飼さんの方。
 突然現れたわたしにあやかしたちはぎゃっと悲鳴をあげて逃げていった。


 逃げていく中の一匹を引っ捕まえて、お前達は何なのか、わたしはどういう存在なのか聞き出そうとしたら、ぶるぶる震えてギーギー喚く。


 知らない、怖い、長に聞いてくれとか何とか叫んでいたから、じゃあ案内しろと今にも泣き出しそうなあやかしに着いていくことにした。
 犬飼さんは呆然とこちらを見ていたような気もするけど、あまり覚えてはいない。あの時はどうでもよかったし。


 案内された場所は、山奥だった。と言っても、学校の裏山のようなこじんまりとした所で、ちっこい社が建っているだけの場所。
 あやかしを離してやると、髭をたくわえたおじいちゃんが姿を現す。
 

 わたしを見るやいなや、眠そうに閉じていた目をカッと開いた。しばらく観察され、おじいちゃんがポツリともらす。


「お前さん、半分こちらに来とるの」
「…………どちら?」
「ほほ。人の子が住まう世界ーー現世とは違う、幽世かくりよ。人の子は死ぬと、余程強い思いがない限りこの世に留まることは出来ない。お前さんのようなケースは稀だの。偶然が重なったのか、あるいは気まぐれが起こったのか……まぁその辺は分からんが、簡単に説明すると片足棺桶に突っ込んでおるようなもんだの。肉体が持たなければそのまま棺桶行き」


 愉快そうに肩を揺らすおじいちゃんを見て、足が出そうになったのは初めてだった。
 それから、ちょくちょくおじいちゃんの元を訪れては話を聞いた。
 今のわたしは、半分棺桶ーーじゃなくて、幽世にあるモノなんだとか。


 肉体の意識がないから、心臓が止まったら完全に幽世行き確定。でも、幽霊とかそういう曖昧なモノではないらしく、どちらかと言うと妖怪に近い存在になるんじゃないかと言われた。


 生まれ持った力は強いけど、少ししか見えなかったのは、テレビで言うところのチャンネルが合わなかっただけだそうで。


 つまり、難しい話を簡単にすると。
 半分幽体になったことで、今まで合わなかったチャンネルが合ってしまった。結果として様々なモノが見えるようになり、チャンネルが合ってしまったことで、皮肉にもわたしの体は現世から離れつつある。


 意識のない時間が長ければ長いほど戻りにくくなるし、存在は妖怪のそれに近いものになるというわけだ。
 はっはっは、なんて笑えない話だろう。
 チャンネルが合っていたら、わたしもあやかしに絡まれて震えていたあのニーチャンのようになっていたのかもしれない。


「ね、貴方名前は?」
「わぁ!? びっ、び、ビックリした……」


 よく分からないけど、不思議な力を手に入れたわたしは気配を辿って、先日蹴りを入れたニーチャンに会いに行った。
 やっぱり生きてる人間と関わっていた方が、何というか、自分も生きている感じするし。いや、半分死んでるんだけどね。


 姿を現したわたしに、青ざめるニーチャン。学ランを着ているから辛うじて男だと分かるけど、女顔にも程がある。
 真理夏は美人系だけど、このニーチャンは可愛い系だな。男なんだけどさ。


 幽体になったところで、足がなくなる訳では無いらしく、わたしにはキチンと足がある。
 それでも、ふわふわと宙に浮きたくなるのは幽体ならではの性かな。


 実体がないから壁も床も関係ないし、意識すれば床の上に立てるし壁もすり抜けられないんだけど、ここは滅多にない体験だし、楽しんだ者勝ちかなって。
 人生楽しまなくちゃ損損! 


 友達と笑って過ごせたらそれでいいよ。家族らしい家族がいなくても、そーちゃんがいれば寂しくなんてないし。


「ねーねー、貴方はわたしが見えるのね」
「……見えるよ。小さい頃から、ずっと。君みたいな不気味なモノは、よく見えるんだ」


 さっきまでの怯えた様子とは違う、強ばった顔で唸るように低い声で呟く。
 不気味なモノ、と言われてようやく、夢のようにふわふわしていた感覚が形を持つ。事故に遭って、半分死にかけた状態で、わたしがここまで冷静でいられたのは全部ーー夢だと思っていたから。


 夢であって、ほしかった。事故に遭ったことも泣きじゃくるそーちゃんも全部夢で、いつも通り一人の部屋で起きてそーちゃんと一緒に学校へ行って、いつも通りに過ごすものだと、どこかで思っていた。


 願っていた。祈っていた。だけど、全部現実なんだ。


 ーー嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ! 
 全部夢でしょう? 早く覚めてよ。流れ出ていく血も、冷たくなって動かなくなる体も、遠ざかっていく声も、震えた声でわたしの名前を呟いたそーちゃんの顔も全部ーーーー


 夢で、あってよ。叫びたい、泣き喚きたい、誰か助けてって。そーちゃんに会いたい。わたしが笑いかけると、照れたように少しだけ笑いかけてくれるそーちゃんに会いたい! 


 荒れ狂う感情と共鳴するように、部屋の中の物がふわりと浮いて、床や壁が軋む。驚いているニーチャンの体も浮いて、一緒に浮いている物にぶつかって痛そうにしている。


 何か言ってるけど、上手く聞き取れない。目の前が暗くなっていく。段々自分の体の感覚もなくなっていって、空気に溶けちゃいそう。
 このまま意識がなくなったら、この悪夢が終わるのかな。早く覚めてほしいな、こんな酷い夢。助けてって、声が出なかったはずなのに、聞こえた。


「六花」


 ーーそーちゃんの、声だ。どこ? どこにいるの? ねぇ、そーちゃん! 
 微かに聞こえた声の方へ、わたしは手を伸ばす。その手を、あの温かい手が握り返してくれることを、祈って。
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