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02.断る
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「どうぞ、王女様。お足元にお気を付けください」
「ありがとう……」
妙な3人組だ――そう思いながら、王女は数ヶ月ぶりに牢屋の外へと足を踏み出した。
「魔王を名乗る男は、その角を曲がった広間に縛ってあります。そろそろ意識を取り戻す頃でしょう」
先に向かったノアの後を追うように、3人は冷たいコンクリートの床を歩いて行く。
やがて開けた空間に出て、ロープに縛られたままぐったりと床に倒れている男と、その頭元に膝を着いたノアの姿を見つけた。
「ノアー? 魔王、目ぇ覚ました?」
「死んでいる」
「……は?」
間の抜けた声を漏らし、魔王に駆け寄るルル。
つい30分ほど前『私が王女を攫った魔王だ』と名乗ったこの男は、口から血を吐き、白目を剥いて絶命していた。
「……」
「……」
顔を見合わせるノアとルル。そして揃ってエヴァンを見た。
「まさか幼馴染が殺人犯になる日が来るとは」
「いくら自称魔王とは言え、殺す事なくない? これ、警察案件よね?」
「待って待って待って! 俺、殺してないよ!?」
慌てて魔王に駆け寄ったエヴァンだが、初めて見る人間の死体に思わず目を逸らす。
「もしかしたら……自害したのかもしれませんね」
「自害? あまりにも不細工な王女を攫ったことに耐えかねてか」
「ノア。そのワードは口にしないでって言ったよね?」
「あのワードは言っていない。不細工と言ったんだ」
「言い方を変えたらいいってもんじゃないのよ!」
王女は困ったように笑ってから、自称魔王に視線を落とす。
「聞きたい事が沢山ありましたが……仕方がありません。どの道この男は、私を拐かした罪により死罪となった事でしょう」
レティシアは顔を上げ、ノアたち3人を真っ直ぐに見つめる。
「冒険者の方々とお見受けします。どうかこのまま、私を城まで連れて行ってくださいませんか?」
「断る」
間髪入れず答えたのはノア。
「俺には優先すべきことがある」
「ノア様の優先すべきこと、とは?」
「七彩角オオクワガタ」
「はい……? ごめんなさい、なないろ……何と?」
「七彩角オオクワガタを知らないのか? 見た目だけでは無く、知識まで貧相だな」
「あーっと! あたしたち、超レアな『七彩角オオクワガタ』っていう昆虫を探していまして! それを探しているうちにこのダンジョンに迷い込んじゃって、そしたら自称魔王が襲ってきたから倒して、それで王女様を見つけた……といういきさつでして!」
「なるほど。そのクワガタとやらは、懸賞金か何かが賭けられているのですか?」
「コレクターならば大枚はたいて欲しがる代物だが、俺は金の為に七彩角オオクワガタを探しているわけではない」
「では……?」
「男のロマンだ」
レティシアはキョトンとした顔で立ち尽くす。
「申し訳ございません、王女様。こいつ、言い出したら聞かないもので」
「え、嘘!? 本当に断るつもり!? ノアはともかく、あんたはもうちょっとマトモな人間だと思ってたのに!」
「断るとは言ってないよ。ただ僕たちのリーダーはノアだから、ノアが首を縦に振らない限りは難しいね、って話」
「それは……そうだけど」
頼みの綱とも思えたルルが口を閉ざしてしまい、レティシアは焦る。こんな魔物が出そうなダンジョンに置いて行かれては、たまったものではない。
「私を城へ無事に送り届けてくだされば、お父様はきっと貴方様と私との結婚をお考えになるかと思います!」
「何の罰ゲームだ」
「……け、結婚に興味がおありで無くても、多額の謝礼は支払われると思いますわ」
「過ぎた金は身を滅ぼすと、亡き祖母が今際の際に言い遺していた」
「では、そのナントカオオカブトを国を挙げて探して差し上げると言うのは――」
「ナントカオオカブトではない! 七彩角オオクワガタだ! これを自らの力で探し出すことが、虫捕りの真骨頂! 他人から与えられたものには何の価値も無い!」
ダメだ……と、レティシアは肉付きの良い両膝を床に着けた。この男の意思は固い。
「どうすれば、助けていただけますか……? せめて街まで……この近くの街までで構いません!」
「お前を連れて行くメリットはなんだ?」
「メリット……ですか」
レティシアは唇を固く結び、考える。
ノアは地位や名誉、金銭には興味が無さそうである。となれば、具体的な戦力という意味だろうか。しかし王宮で暮らしていた王女が、強力な戦術など持っている筈がない。
「か……壁になります!」
「……は?」
思わず声を漏らすルル。
「私、恥ずかしながら魔物と対峙したことも、訓練を受けたこともありません! ですので、いざという時はノア様の壁となり、盾となりましょう!」
「ぶっ……! それ、本末転倒……!」
真剣に考えて出したレティシアの提案に、エヴァンは堪らずお腹を抱えて笑い出す。
「あっははは! お、王女様……! 申し訳、ございません……戯れが過ぎました。……くくっ……ちゃんと、城までお連れしますよ」
「俺は知らん。連れて行くなら、お前が勝手に連れて行け」
「この地図見てみ?」
エヴァンは荷物の袋の中から使い古した地図を取り出し、ノアの目の前に広げた。地図には赤いインクで丸印やバツ印が付けられている。
「ノアが調べた、七彩角オオクワガタが過去に目撃された場所。ほら、ここ。バルドレイン城の近くにも印がある。ここに行くついでに、王女様を送り届ければいいんじゃない?」
ノアは腕を組んで考える。眠たそうなその目で笑顔のエヴァンを見て、困った顔のルルを見て、不安そうなレティシアを見た。
「わかった。そうしよう」
「ありがとう……」
妙な3人組だ――そう思いながら、王女は数ヶ月ぶりに牢屋の外へと足を踏み出した。
「魔王を名乗る男は、その角を曲がった広間に縛ってあります。そろそろ意識を取り戻す頃でしょう」
先に向かったノアの後を追うように、3人は冷たいコンクリートの床を歩いて行く。
やがて開けた空間に出て、ロープに縛られたままぐったりと床に倒れている男と、その頭元に膝を着いたノアの姿を見つけた。
「ノアー? 魔王、目ぇ覚ました?」
「死んでいる」
「……は?」
間の抜けた声を漏らし、魔王に駆け寄るルル。
つい30分ほど前『私が王女を攫った魔王だ』と名乗ったこの男は、口から血を吐き、白目を剥いて絶命していた。
「……」
「……」
顔を見合わせるノアとルル。そして揃ってエヴァンを見た。
「まさか幼馴染が殺人犯になる日が来るとは」
「いくら自称魔王とは言え、殺す事なくない? これ、警察案件よね?」
「待って待って待って! 俺、殺してないよ!?」
慌てて魔王に駆け寄ったエヴァンだが、初めて見る人間の死体に思わず目を逸らす。
「もしかしたら……自害したのかもしれませんね」
「自害? あまりにも不細工な王女を攫ったことに耐えかねてか」
「ノア。そのワードは口にしないでって言ったよね?」
「あのワードは言っていない。不細工と言ったんだ」
「言い方を変えたらいいってもんじゃないのよ!」
王女は困ったように笑ってから、自称魔王に視線を落とす。
「聞きたい事が沢山ありましたが……仕方がありません。どの道この男は、私を拐かした罪により死罪となった事でしょう」
レティシアは顔を上げ、ノアたち3人を真っ直ぐに見つめる。
「冒険者の方々とお見受けします。どうかこのまま、私を城まで連れて行ってくださいませんか?」
「断る」
間髪入れず答えたのはノア。
「俺には優先すべきことがある」
「ノア様の優先すべきこと、とは?」
「七彩角オオクワガタ」
「はい……? ごめんなさい、なないろ……何と?」
「七彩角オオクワガタを知らないのか? 見た目だけでは無く、知識まで貧相だな」
「あーっと! あたしたち、超レアな『七彩角オオクワガタ』っていう昆虫を探していまして! それを探しているうちにこのダンジョンに迷い込んじゃって、そしたら自称魔王が襲ってきたから倒して、それで王女様を見つけた……といういきさつでして!」
「なるほど。そのクワガタとやらは、懸賞金か何かが賭けられているのですか?」
「コレクターならば大枚はたいて欲しがる代物だが、俺は金の為に七彩角オオクワガタを探しているわけではない」
「では……?」
「男のロマンだ」
レティシアはキョトンとした顔で立ち尽くす。
「申し訳ございません、王女様。こいつ、言い出したら聞かないもので」
「え、嘘!? 本当に断るつもり!? ノアはともかく、あんたはもうちょっとマトモな人間だと思ってたのに!」
「断るとは言ってないよ。ただ僕たちのリーダーはノアだから、ノアが首を縦に振らない限りは難しいね、って話」
「それは……そうだけど」
頼みの綱とも思えたルルが口を閉ざしてしまい、レティシアは焦る。こんな魔物が出そうなダンジョンに置いて行かれては、たまったものではない。
「私を城へ無事に送り届けてくだされば、お父様はきっと貴方様と私との結婚をお考えになるかと思います!」
「何の罰ゲームだ」
「……け、結婚に興味がおありで無くても、多額の謝礼は支払われると思いますわ」
「過ぎた金は身を滅ぼすと、亡き祖母が今際の際に言い遺していた」
「では、そのナントカオオカブトを国を挙げて探して差し上げると言うのは――」
「ナントカオオカブトではない! 七彩角オオクワガタだ! これを自らの力で探し出すことが、虫捕りの真骨頂! 他人から与えられたものには何の価値も無い!」
ダメだ……と、レティシアは肉付きの良い両膝を床に着けた。この男の意思は固い。
「どうすれば、助けていただけますか……? せめて街まで……この近くの街までで構いません!」
「お前を連れて行くメリットはなんだ?」
「メリット……ですか」
レティシアは唇を固く結び、考える。
ノアは地位や名誉、金銭には興味が無さそうである。となれば、具体的な戦力という意味だろうか。しかし王宮で暮らしていた王女が、強力な戦術など持っている筈がない。
「か……壁になります!」
「……は?」
思わず声を漏らすルル。
「私、恥ずかしながら魔物と対峙したことも、訓練を受けたこともありません! ですので、いざという時はノア様の壁となり、盾となりましょう!」
「ぶっ……! それ、本末転倒……!」
真剣に考えて出したレティシアの提案に、エヴァンは堪らずお腹を抱えて笑い出す。
「あっははは! お、王女様……! 申し訳、ございません……戯れが過ぎました。……くくっ……ちゃんと、城までお連れしますよ」
「俺は知らん。連れて行くなら、お前が勝手に連れて行け」
「この地図見てみ?」
エヴァンは荷物の袋の中から使い古した地図を取り出し、ノアの目の前に広げた。地図には赤いインクで丸印やバツ印が付けられている。
「ノアが調べた、七彩角オオクワガタが過去に目撃された場所。ほら、ここ。バルドレイン城の近くにも印がある。ここに行くついでに、王女様を送り届ければいいんじゃない?」
ノアは腕を組んで考える。眠たそうなその目で笑顔のエヴァンを見て、困った顔のルルを見て、不安そうなレティシアを見た。
「わかった。そうしよう」
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