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03.漆黒の剣
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ダンジョンの通路は狭かった。2人並んで歩けばぎゅうぎゅうになるほどの幅しかない為、レティシアが歩くとひとりでいっぱいいっぱいである。
その狭い通路を、レティシアを先頭に1列になって一行は歩き出した。
「いいのかなぁ……? 普通、王女様は真ん中じゃない?」
「大丈夫です! 壁になるとお約束しましたので」
申し訳なさそうなルルをよそに、レティシアの足取りは軽い。
「そうだ。約束は守らねばならないと、死んだ祖父がよく言っていた」
「ノア様のお祖父様は、とても素晴らしい格言をお持ちだったのですね。私、お祖父様に恥じぬよう、立派な壁となってみせますね!」
「王女様……」
「ティアとお呼びください、ルル様」
「では、ティア様。こういうダンジョンの先頭って、本当に危険なんですよ? 魔物に真っ先に狙われるのも、罠にかかるのも先頭の人間なんですから」
「わかりました。肝に銘じておきます」
温和に笑うレティシアに、ルルの心は少し痛む。
「本当に、この不躾でデリカシーの無い男がすみません……不敬罪で罰されても文句は言えないですよね」
「だ、そうだ。殺人罪に加えて不敬罪とは、罪が重いなエヴァン」
「僕じゃなくて、君の話してるからね?」
エヴァンはこの状況が楽しいのか、歩き始めてからずっとニコニコと笑いながら鼻歌を歌っている。
「助けていただいたのですから、感謝しかありません。あなた方が罪に問われることなんて、何ひとつありませんわ」
「ヤだもう、ティア様めっちゃいい人……!」
そしてやっぱり、ルルもちょっとだけ思ってしまうのだ。せめてもう少しだけでも外見が人並み程度であれば、と。そしてそんな事を考えてしまう自分に嫌悪する。
「ところで、ルル様たちはどのようなご関係ですの?」
「幼馴染の腐れ縁で、アスティリア大学の同期です。学科は違いますけど。本当は冒険者でも無くて、七彩角オオクワガタを捕まえて、夏休みのレポートとして提出したいだけなんですよ」
ルルは回復魔法学科、ノアは魔法剣学科、エヴァンは攻撃魔法学科を専攻しているのだと付け加えた。
「俺は純粋に七彩角オオクワガタを捕まえたい。レポートなんてどうでもいい」
「そうね。あんたはね。あたしは100パーセント、レポートの為だから」
「僕は別に、面白いレポートが書けたら何でもいいけど」
「まぁ。幼馴染で大学の同期だなんて、とっても素敵ですね」
うっとりとした声音のレティシア。
その時、レティシアの前方から槍を構えたコボルトが1匹走ってきた。コボルトは血走った目に肉付きの良い女を捉え、血肉を貪ろうと牙を剥いている。
「皆様、魔物ですわ! お気をつけください!」
「ティア様! ちょっ……邪魔……あ、いえ、通路を塞いでいるので、あの……!」
「えー、いくらなんでもターゲットが見えないのに魔法ぶっ放すわけにも……」
完全に隊列ミスである。よりにもよって、遠距離攻撃が可能なエヴァンが最後尾にいる為、前方の様子がまるで見えないのだ。
「おい。背中を丸めてしゃがめ」
「あ、はい!」
背後のノアに言われて、レティシアは背中を丸めた。それと同時に背中にドンッと衝撃が加わり、ノアがレティシアの前に現れる。
「どこの世界に王女様の背中に土足で乗り上げる馬鹿がいるのよ!?」
「ここにいるが?」
ノアは不思議そうに眉を顰めた後、右手に魔力を集中させた。
ノアの専攻は魔法剣。己の魔力を剣の形で具現化する魔法である。その剣は、術者が本来持つ魔力の性質によって様々な形を成す。
ノアの剣は――
「漆黒の……剣」
レティシアはその剣に見入る。
魔法剣は珍しい魔法では無い。しかしその多くは、火、地、風、水の属性を帯びた剣で、漆黒を纏った剣は非常に珍しい。
ノアは眠たそうな目でコボルトを見据え、そして一閃。闇色の刃が魔物の胴を真横に薙いだ。
握っていた槍が乾いた音を立てて床に落ち、続いてコボルトも床に崩れ落ちた。
「ノア様……! 素晴らしいですわ! たったの一振りで倒してしまうなんて!」
感極まってノアにハグしようとしたレティシアの巨体をサラリと躱し、壁とレティシアの僅かな隙間に体を捩じ込んで元の隊列に戻るノア。
「さすがティア様。普通はノアの漆黒の剣にドン引きするものですが、王女様ともなるとこれくらいでは動じないのですね」
「とても禍々しくて良い剣でした!」
感心するエヴァンに、レティシアは未だ興奮した様子で頷く。
「黒の剣にはどのような性質があるのですか?」
「魔」
「あー、ノアの『魔』は『睡魔』の『魔』です」
短く答えるノアに、補足するルル。そしてレティシアの足元の魔物を指差した。
「それ、死んでないです。寝てるだけ」
「え? ……あ、ホントだ。気持ち良さそうに眠っていますね」
「ちなみに、あの自称魔王もノアの剣で眠らせただけだったんですよね」
「魔物が目を覚ますと面倒なので、進みましょう」
最後尾のエヴァンに促され、一行は床で眠るコボルトを跨いで歩みを再開させた。
「それにしても睡魔の魔力を持っていらっしゃるだなんて、ノア様は凄い才能をお持ちですね」
「褒めても何も出ないし、俺のおやつのクッキーもあげないからな」
「本当に凄いと思ったんです。私自身は無能ですが、色々な魔法使いとお会いする機会は多々ありました。その中でも『魔』の力を持った魔法使いには、ノア様以外にはまだ出会った事がありません」
「でもこの力、厄介なんですよ?」
後ろから聞こえたルルの言葉に首を傾げようとしたその時、唐突にレティシアの体がノアの目の前から消えた。
その狭い通路を、レティシアを先頭に1列になって一行は歩き出した。
「いいのかなぁ……? 普通、王女様は真ん中じゃない?」
「大丈夫です! 壁になるとお約束しましたので」
申し訳なさそうなルルをよそに、レティシアの足取りは軽い。
「そうだ。約束は守らねばならないと、死んだ祖父がよく言っていた」
「ノア様のお祖父様は、とても素晴らしい格言をお持ちだったのですね。私、お祖父様に恥じぬよう、立派な壁となってみせますね!」
「王女様……」
「ティアとお呼びください、ルル様」
「では、ティア様。こういうダンジョンの先頭って、本当に危険なんですよ? 魔物に真っ先に狙われるのも、罠にかかるのも先頭の人間なんですから」
「わかりました。肝に銘じておきます」
温和に笑うレティシアに、ルルの心は少し痛む。
「本当に、この不躾でデリカシーの無い男がすみません……不敬罪で罰されても文句は言えないですよね」
「だ、そうだ。殺人罪に加えて不敬罪とは、罪が重いなエヴァン」
「僕じゃなくて、君の話してるからね?」
エヴァンはこの状況が楽しいのか、歩き始めてからずっとニコニコと笑いながら鼻歌を歌っている。
「助けていただいたのですから、感謝しかありません。あなた方が罪に問われることなんて、何ひとつありませんわ」
「ヤだもう、ティア様めっちゃいい人……!」
そしてやっぱり、ルルもちょっとだけ思ってしまうのだ。せめてもう少しだけでも外見が人並み程度であれば、と。そしてそんな事を考えてしまう自分に嫌悪する。
「ところで、ルル様たちはどのようなご関係ですの?」
「幼馴染の腐れ縁で、アスティリア大学の同期です。学科は違いますけど。本当は冒険者でも無くて、七彩角オオクワガタを捕まえて、夏休みのレポートとして提出したいだけなんですよ」
ルルは回復魔法学科、ノアは魔法剣学科、エヴァンは攻撃魔法学科を専攻しているのだと付け加えた。
「俺は純粋に七彩角オオクワガタを捕まえたい。レポートなんてどうでもいい」
「そうね。あんたはね。あたしは100パーセント、レポートの為だから」
「僕は別に、面白いレポートが書けたら何でもいいけど」
「まぁ。幼馴染で大学の同期だなんて、とっても素敵ですね」
うっとりとした声音のレティシア。
その時、レティシアの前方から槍を構えたコボルトが1匹走ってきた。コボルトは血走った目に肉付きの良い女を捉え、血肉を貪ろうと牙を剥いている。
「皆様、魔物ですわ! お気をつけください!」
「ティア様! ちょっ……邪魔……あ、いえ、通路を塞いでいるので、あの……!」
「えー、いくらなんでもターゲットが見えないのに魔法ぶっ放すわけにも……」
完全に隊列ミスである。よりにもよって、遠距離攻撃が可能なエヴァンが最後尾にいる為、前方の様子がまるで見えないのだ。
「おい。背中を丸めてしゃがめ」
「あ、はい!」
背後のノアに言われて、レティシアは背中を丸めた。それと同時に背中にドンッと衝撃が加わり、ノアがレティシアの前に現れる。
「どこの世界に王女様の背中に土足で乗り上げる馬鹿がいるのよ!?」
「ここにいるが?」
ノアは不思議そうに眉を顰めた後、右手に魔力を集中させた。
ノアの専攻は魔法剣。己の魔力を剣の形で具現化する魔法である。その剣は、術者が本来持つ魔力の性質によって様々な形を成す。
ノアの剣は――
「漆黒の……剣」
レティシアはその剣に見入る。
魔法剣は珍しい魔法では無い。しかしその多くは、火、地、風、水の属性を帯びた剣で、漆黒を纏った剣は非常に珍しい。
ノアは眠たそうな目でコボルトを見据え、そして一閃。闇色の刃が魔物の胴を真横に薙いだ。
握っていた槍が乾いた音を立てて床に落ち、続いてコボルトも床に崩れ落ちた。
「ノア様……! 素晴らしいですわ! たったの一振りで倒してしまうなんて!」
感極まってノアにハグしようとしたレティシアの巨体をサラリと躱し、壁とレティシアの僅かな隙間に体を捩じ込んで元の隊列に戻るノア。
「さすがティア様。普通はノアの漆黒の剣にドン引きするものですが、王女様ともなるとこれくらいでは動じないのですね」
「とても禍々しくて良い剣でした!」
感心するエヴァンに、レティシアは未だ興奮した様子で頷く。
「黒の剣にはどのような性質があるのですか?」
「魔」
「あー、ノアの『魔』は『睡魔』の『魔』です」
短く答えるノアに、補足するルル。そしてレティシアの足元の魔物を指差した。
「それ、死んでないです。寝てるだけ」
「え? ……あ、ホントだ。気持ち良さそうに眠っていますね」
「ちなみに、あの自称魔王もノアの剣で眠らせただけだったんですよね」
「魔物が目を覚ますと面倒なので、進みましょう」
最後尾のエヴァンに促され、一行は床で眠るコボルトを跨いで歩みを再開させた。
「それにしても睡魔の魔力を持っていらっしゃるだなんて、ノア様は凄い才能をお持ちですね」
「褒めても何も出ないし、俺のおやつのクッキーもあげないからな」
「本当に凄いと思ったんです。私自身は無能ですが、色々な魔法使いとお会いする機会は多々ありました。その中でも『魔』の力を持った魔法使いには、ノア様以外にはまだ出会った事がありません」
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後ろから聞こえたルルの言葉に首を傾げようとしたその時、唐突にレティシアの体がノアの目の前から消えた。
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