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第二章
ロックウェル・バレー
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グリーンヒルから馬車で四日ほど内陸に向かって進むと、アトレストという街がある。
温泉が湧き出ることで有名で、湯治を目的に人が集まる街である。
そこから更に数時間進んだところにあるロックウェル・バレーは、自然美豊かな渓谷。
遊歩道、登山道もきちんと整備されており、季節ごとに変わる景色を楽めるとあって、観光客にも人気のスポットである。
だが現在その道は封鎖され、一般人の立ち入りは禁止されている。
魔物が出るーーそんな報告が頻繁に上がってくるようになった為、ウィルたち第三部隊一班が調査に派遣されたのだった。
「なんだか変ね」
「おかしい……」
「なんでだ?」
リズ、ウィル、ラリィはほとんど同時にそう言った。
『……』
三人は顔を見合わせる。
「ラリィからどうぞ」
リズに促され、ラリィはウィルが右手に握っている剣を指差した。
「なんでウィル、守護剣使わねーの?」
「俺かよ。……なんでって言われても……」
ウィルが使っているのは、隊から支給されたごく普通の剣で、ラリィと同じものである。
「別にいいだろ。勝手がよくわかんねぇから、まだ使いたくないんだよ」
「どんな剣なのか見たかったのに。いつ使う? 出したことある? ちょっと今出してみる?」
「うぜぇなぁ」
ラリィを面倒くさそうにあしらうウィルに、リズは苦笑する。
「それじゃあ、ウィルは? 何がおかしいの?」
「この人ですよ」
すかさずウィルはラリィを指差す。
「剣の使い方はメチャクチャだし、危なっかしいし、なんでこんな奴が剣士になれたんですか?」
今し方彼らが駆逐した魔物は、青白い光をまとった〈鬼火〉と呼ばれる手のひらほどの大きさのもの。臆病な性格なので襲いかかってくることは少ないが、近付きすぎると火を噴いて攻撃してくる。
火事の原因になったりもするので駆除することにしたのだが、ラリィは一人で大騒ぎしていた。
動く上に的が小さいから、まず斬れない。反撃してきた火に逃げ回り、結局三匹いた鬼火を倒したのはリズとウィルの二人である。
「だってこの人、まともに剣を握ったのは入隊してからだもの。外部受験だから練習生の訓練も受けていないし」
「そんなのでも試験通っちゃうんですか!?」
「通っちゃったんだよなぁ」
あはは、と軽やかに笑うラリィ。
「聞いた話では、実技試験では現役の剣士にボコボコにされているのにも関わらず、何度も立ち上がっていたらしいわ」
「肋骨が折れて大変だったんだぞ!」
「タフさで受かったってことですか……」
「ちなみにこの馬鹿、字の読み書きも出来ないから、筆記試験は別室で口頭でやったそうよ」
ウィルもこの数日で薄々気付いていた。
「やっぱり正真正銘の馬鹿なんですね」
「そう。馬鹿なの」
「馬鹿なんだよなぁ、にゃはは」
笑いながら自分でも認めるラリィ。
「んで、リズは? 何が『変』なんだ?」
「鬼火はこんな場所に出る魔物じゃないわ。死臭を好み、ウジや腐った人肉を食べるから、荒れた墓地にいることが多いのだけれど」
この美しい渓谷に墓地があるとは思えない。
「それに、弱っていたような気がする。やっぱりこんな場所では食べ物が無いんじゃないかしら」
そう言われてみれば確かに、吐き出す火に勢いが無かったような気がする、と納得するウィルの視界の端に、何か動くものを捉えた。
「……アレも、こんな場所に住んでる魔物じゃないですよね」
ーー魚人。
鋭い牙を持った醜悪なヒラメに、地面を這う足が生えたような魔物である。
それが川の浅瀬に一匹、いる。
リズは片手でこめかみを押さえた。
「魚人の生息地域は海。淡水では生きられないわ」
これは一体どういうことだろうか……リズは考える。
いずれ海に辿り着く川だとしても、とてもじゃないが逆流してきたとは考えにくい。
「ラリィ、始末しておいて」
「あいあいさー」
ラリィが無防備に近付いていっても、魚人は反応しない。
(やっばり、弱ってる……?)
「取り敢えずこの川に沿って調べてみましょうか。それぞれ倒した魔物の種類と数を地図に記入……ラリィは私かウィルに報告してちょうだい」
「了解です」
「ラジャー!」
温泉が湧き出ることで有名で、湯治を目的に人が集まる街である。
そこから更に数時間進んだところにあるロックウェル・バレーは、自然美豊かな渓谷。
遊歩道、登山道もきちんと整備されており、季節ごとに変わる景色を楽めるとあって、観光客にも人気のスポットである。
だが現在その道は封鎖され、一般人の立ち入りは禁止されている。
魔物が出るーーそんな報告が頻繁に上がってくるようになった為、ウィルたち第三部隊一班が調査に派遣されたのだった。
「なんだか変ね」
「おかしい……」
「なんでだ?」
リズ、ウィル、ラリィはほとんど同時にそう言った。
『……』
三人は顔を見合わせる。
「ラリィからどうぞ」
リズに促され、ラリィはウィルが右手に握っている剣を指差した。
「なんでウィル、守護剣使わねーの?」
「俺かよ。……なんでって言われても……」
ウィルが使っているのは、隊から支給されたごく普通の剣で、ラリィと同じものである。
「別にいいだろ。勝手がよくわかんねぇから、まだ使いたくないんだよ」
「どんな剣なのか見たかったのに。いつ使う? 出したことある? ちょっと今出してみる?」
「うぜぇなぁ」
ラリィを面倒くさそうにあしらうウィルに、リズは苦笑する。
「それじゃあ、ウィルは? 何がおかしいの?」
「この人ですよ」
すかさずウィルはラリィを指差す。
「剣の使い方はメチャクチャだし、危なっかしいし、なんでこんな奴が剣士になれたんですか?」
今し方彼らが駆逐した魔物は、青白い光をまとった〈鬼火〉と呼ばれる手のひらほどの大きさのもの。臆病な性格なので襲いかかってくることは少ないが、近付きすぎると火を噴いて攻撃してくる。
火事の原因になったりもするので駆除することにしたのだが、ラリィは一人で大騒ぎしていた。
動く上に的が小さいから、まず斬れない。反撃してきた火に逃げ回り、結局三匹いた鬼火を倒したのはリズとウィルの二人である。
「だってこの人、まともに剣を握ったのは入隊してからだもの。外部受験だから練習生の訓練も受けていないし」
「そんなのでも試験通っちゃうんですか!?」
「通っちゃったんだよなぁ」
あはは、と軽やかに笑うラリィ。
「聞いた話では、実技試験では現役の剣士にボコボコにされているのにも関わらず、何度も立ち上がっていたらしいわ」
「肋骨が折れて大変だったんだぞ!」
「タフさで受かったってことですか……」
「ちなみにこの馬鹿、字の読み書きも出来ないから、筆記試験は別室で口頭でやったそうよ」
ウィルもこの数日で薄々気付いていた。
「やっぱり正真正銘の馬鹿なんですね」
「そう。馬鹿なの」
「馬鹿なんだよなぁ、にゃはは」
笑いながら自分でも認めるラリィ。
「んで、リズは? 何が『変』なんだ?」
「鬼火はこんな場所に出る魔物じゃないわ。死臭を好み、ウジや腐った人肉を食べるから、荒れた墓地にいることが多いのだけれど」
この美しい渓谷に墓地があるとは思えない。
「それに、弱っていたような気がする。やっぱりこんな場所では食べ物が無いんじゃないかしら」
そう言われてみれば確かに、吐き出す火に勢いが無かったような気がする、と納得するウィルの視界の端に、何か動くものを捉えた。
「……アレも、こんな場所に住んでる魔物じゃないですよね」
ーー魚人。
鋭い牙を持った醜悪なヒラメに、地面を這う足が生えたような魔物である。
それが川の浅瀬に一匹、いる。
リズは片手でこめかみを押さえた。
「魚人の生息地域は海。淡水では生きられないわ」
これは一体どういうことだろうか……リズは考える。
いずれ海に辿り着く川だとしても、とてもじゃないが逆流してきたとは考えにくい。
「ラリィ、始末しておいて」
「あいあいさー」
ラリィが無防備に近付いていっても、魚人は反応しない。
(やっばり、弱ってる……?)
「取り敢えずこの川に沿って調べてみましょうか。それぞれ倒した魔物の種類と数を地図に記入……ラリィは私かウィルに報告してちょうだい」
「了解です」
「ラジャー!」
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