I'll

ままはる

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第二章

アトレストにて

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⭐︎

「今日一日でわかったことはーー」

日が暮れる前に渓谷を出てアトレストに戻った三人は、遅めの夕食を囲むテーブルで地図を広げていた。
倒した魔物と数を記した地図。それを見ながらリズは、指先でテーブルをトントンと叩く。

「何かが起きているけれど、何が起きているのかはさっぱりわからない。ということがわかったわ」

「どゆこと?」

「そのままの意味よ。わけがわからない」

鬼火、魚人、砂漠地帯に生息するはずの毒蠍、高山に巣を作る嵐を呼ぶ怪鳥ーーそれにスライムやゴブリンなど、どこにでも見かける魔物もいて、魔物同士が縄張り争いをしていたりもする。

「誰かが運んできた……とかですかね?」

「そう考えるのが一番しっくりくるけど、そんな危険なことをして何かメリットがあるかしら……」

指先で紫の髪の毛先をくるくると弄びながら、もう一度地図に視線を落とす。

「……」

これだけでは情報が少なすぎる。
リズは髪を掻き上げると、椅子から立ち上がった。

「とにかく、明日も調査を続けましょう。私は温泉に入ってもう休むわ」

そう言って食堂から出て行ったリズの後ろ姿を見送ってから、ウィルはラリィに尋ねる。

「リズ先輩って、男いんの?」

「彼氏? 今はいないんじゃねーかな。本人から直接聞いたわけじゃねーけどさ」

「モテそうなのに、勿体ねぇな」

「モテるに決まってんじゃん。剣士なんかスケベな連中の集まりなのに」

「それなのに、いくら守護剣士とはいえ男ばっかの班に女が一人って、やばくない?」

「まーなぁ」

ラリィは残った料理をフォークで突き刺し、口の中に放り込む。

「入隊当初は女剣士だけの班にいたらしいぞ。でも上手くいかなくて、色々試した結果今に落ち着いてるんだってさ。だからリズがこの班にいられなくなるようなこと、するんじゃねーぞ?」

「言われなくてもわかってるって」

とは言ったものの、温泉に入るリズのシチュエーションはたまらない。

「……俺も温泉行こっかな」

「ウィル、覗きは犯罪だからな!」

「覗かねぇよ! ……まぁ、あわよくば何かあればいーなーくらいは思ってるけど」

「断固阻止する!」

ラリィはウィルを席から立たせないよう、手首を掴んだ。

「なんだよ、もしかしてリズ先輩のこと好きなん?」

「もちろん好きだけど、そーゆーのじゃねーし。オレ、彼女いるもん。写真見るか?」

「へぇ?」

興味津々な顔で椅子に座り直すウィルに、ラリィはポケットから一枚の写真を取り出した。

「可愛いだろー♡  オレの天使、チェリちゃん♡」

「可愛い……けど、何歳?」

こちらに向かって笑う少女は、頭に大きな赤いリボンを飾り、これでもかとフリルのついたワンピースを着ている。

「十六歳。あ、絶対に手ぇ出すなよ?」

年齢よりも幼く見えるのは、服装のせいでもあり、小柄な体型のせいでもあり、幼さを際立たせる大きな目のせいでもある。

「そう言えばこの間リズ先輩が、ラリィは異常に小さい子どもが好きだって言ってたけど……そういうこと?」

「ロリコンじゃねーからな。リボンとかフリフリが似合う小柄な子が好きなだけで」

それをロリコンと言うのではないかと喉まで出かかったウィルだが、面倒臭くなって言うのはやめた。

「ウィルは? 彼女いんの?」

「彼女……?」

問われてウィルの脳裏に数人の女性の顔が思い浮かぶ。

「飯食わせてくれる人と、好きな物買ってくれる人と、遊びに連れてってくれる人と、家に泊めてくれる人ならいる」

「噂通りのマセガキだなぁ。本当に十二歳かよ」

「十三になったし」

「え? いつ?」

「一昨日」

ラリィは目を見開いて勢い良く立ち上がった。

「なんだよ、誕生日だったなら言えよ! お祝いしようぜ!」

「そんなもん別にーー」

「ウィル。ここには口うるせー部隊長はいないんだぞ? 知らない街だ。さすがに店には連れて行けねーけど、部屋でケーキ食って酒飲むくらいならできる」

「……酒?」

ウィルは上目遣いにラリィを見た。

家に泊めてくれた女や、ご飯を奢ってくれる女に何度か酒を飲ませてもらった事があるが、あれを飲むとなんだか楽しい気分になれた。
だがやはり年齢の問題があって堂々とは飲めないし、女たちも沢山は飲ませてくれない。

ちなみにイシュタリアでは、十六歳未満の飲酒は禁止されている。

「ラリィ先輩! 俺、酒が飲みたいです!」

「よっしゃ! 買いに行って朝まで飲み明かそうぜ!」
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