I'll

ままはる

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第二章

二日酔い

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⭐︎

「……で?」

冷ややかなリズの声が、ラリィの心臓を静かに鷲掴む。

ーー場所は昨日も来た渓谷。そこでラリィは地面に正座し、冷たいリズの視線を一身に受けていた。
少し離れた所では、ウィルが茂みに向かってゲロを吐いている。

「朝までお酒を飲んで二日酔いで潰れてるこの状況をどうしろと?」

「た、誕生日だったって言うから……お祝いしなきゃなーって……」

「百歩譲って、これが仕事中じゃなければ私だってうるさく言わないわ。遊びに来てるわけじゃないのよ」

「……はい。ごめんなさい……」

素直に謝るラリィ。
リズは大きなため息をついて、ウィルを振り返る。

「ウィル、動けそう?」

「だい……じょーぶ……」

川の中に顔を突っ込むウィル。
水は冷たくて気持ちがいいが、かつて経験したことのないこの不快感は、これくらいでは払拭されない。
頭は痛いし、目の前の世界がぐるぐると回っていて、胃の中がむかついて仕方がない。

「ラリィは動けるわね。ウィルと一緒に行動して。もしも無理そうだったら、街に戻ってもいいわ」

「いや、でも……」

「私はもう少し、調べられるだけ調べてくる」

リズは少しだけ心配そうにウィルを一瞥し、川沿いの遊歩道を離れて山道へと入って行った。



(ーーあの人の思う壺ね)

と、リズは感心にも似た感情で刀の露を振るって払う。
足元には鬼火と、それを追いかけ回していたゴブリンの死骸。

(ゼンもセイルもいない。あの馬鹿がまともに後輩の面倒が見れるわけもない。そもそも、こんなに広い渓谷の調査がたった三人だけだなんて無茶なのよ)

任務を伝えてきた部隊長の様子からして、彼の本意ではないことは明らかで、第一部隊長の嫌がらせなのだろうとすぐにわかった。

ブラッドフォードはリズを目の敵にしている。
女が守護剣士に選ばれたことを快く思わない人間はそれなりにいる。特に女剣士の中では、色香を使ったのではないかと根も葉もない噂が流れ、リズはあからさまに嫌がらせを受けた。

(まぁ、それはどうでもいいんだけど)

嫌がらせに対しては全く傷付いたりはしなかったものの、業務に支障が出るのが困った。

男女混合の班を組んでみたりしたが、遠征先でリズへの夜這いを企む男が後を絶たず、それを目の当たりにした別の女剣士が更に嫉妬と嫌悪をたぎらせて、人間関係がとにかくうまくいかない。

それをどこから聞きつけたのか、ブラッドフォードがリズを個室に呼び出し、提案をしたのである。
部隊長補佐として第一部隊に置いてやる、と。

可哀想な人だ、とリズは思った。
男剣士が自分に向ける下卑た目線と、ブラッドフォードのそれは同じで。つまりこの男は、権力を使ってリズを愛人にしようとしたのである。

なるべく穏便に断ったつもりだったし、このことは他言していないものの、ブラッドフォードのリズに対する風当たりは強くなった。プライドが傷ついたのであろう。

「男って本当に勝手な生き物……」

この任務は、子どもながらに守護剣士になったウィルの腕試しを兼ねた、リズへの嫌がらせなのである。
リズは長い髪を紐で縛り、また歩き出した。

⭐︎

「ウィルー。そろそろ行けそうか? それとも街に戻る?」

何度目かの嘔吐。もう胃の中は空っぽで、何も出てこない。

「……水……」

ラリィが手渡した水筒の水を飲み干し、剣を杖代わりに立ち上がるウィル。

「くっそ気持ち悪ぃ……」

「あと何回かやらかしたら、自分の適量がわかるようになるって」

もう飲むなと言われるかと思っていたのだが、ラリィは諌めるようなことは言ってこない。昨夜の事はあまり覚えていないが、煙草も勧められたような気がする。

(変な奴……)

何度も抱く、ラリィに対する印象。
変な奴だが、面白い。

「リズ先輩はどっちに行った?」

「あっちだけど……」

「じゃあ俺たちは反対に行ってみるか」

「大丈夫か?」

「リズ先輩ひとりにやらせるわけにはいかねぇだろ。……幻滅されたくねぇし」

ラリィや部隊長にならいくら叱られても堪えないが、リズにあの冷たい目を向けられるかと思うと、とても耐えられない。
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