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第12話 空からの襲撃②。
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「なっ!? みんな、上だ! ゴブリンが降ってくる!」
「何!?」
ジョアンの叫びに、冒険者達は一斉に上を見る。
そこには空を覆い尽くす程の、沢山の気球。そこから大勢のゴブリン達が、奇声を発しながら次々と飛び降りて来る。
「ギャーハハハハハッ!」
槍や剣を冒険者達に向け、落下して来るゴブリン達。
「みんな避けろ!」
ジョアンは叫ぶ。
「ぐああッ!」
「ぎゃあッ!」
何人かの冒険者はゴブリンの武器に貫かれ、血飛沫を上げる。
ジョアンは周囲の様子を素早く見回し、どのゴブリンから殺して行くべきかを判断する。
そしてその時、とても嫌なものを見た。
カートだ。カートが悔しそうにこちらを見ていたのだ。まるで作戦が失敗した事を、悔やんでいるように見える。
しかも、ゴブリン達はカートを標的としてみなしていない。それどころか徒党を組んだ仲間のように、ジェスチャーで意識疎通までしている。
カートは弓を引き、矢をつがえた。その標的は、ジョアンだ。
「よくも邪魔してくれたなジョアン! せっかく楽にあの世に送ってやろうと思ったのによ! だが絶対に逃がねぇ! お前らを殺せば、マリーとシェリーが帰ってくるんだ! ゴブリンの王は人間の言葉が話せる! 俺と約束したんだ!」
「バカな! 奥さんも娘さんも、お前の目の前で殺されたんだろう!? 現実を受け入れろ!」
ジョアンは次々と襲ってくるゴブリン達をどうにか蹴散らしながら、声を張り上げる。
やはりジョアンの不安は的中した。そもそも、巣穴を火攻めにするのに冒険者全員で来るのは不自然だった。どう考えても人数が多い。
これは罠だった。おそらくゴブリンの王は、邪魔な冒険者を皆殺しにしてから村を襲うつもりなのだ。
降って来たゴブリンの数は圧倒的だった。おそらく百を超えるだろう。しかも、大型のホブゴブリンまでいる。
こちらは数で劣る上、駆け出しの冒険者もいる。今は魔法使いや神官の支援でどうにか持ち堪えているが、おそらく長くは持たないだろう。
「考え直せカート! 今ならまだ間に合う!」
「やかましい! 死ね!」
カートの弓から矢が放たれる。それは真っ直ぐにジョアンの顔に飛んできた。
全てがゆっくりに見える。死ぬ間際だから、神経が研ぎ澄まされているのだろうか。
だがもう矢は目の前だ。そしてジョアンの周囲にはゴブリンがまとわりついている。とても矢を避ける余裕などない。
(終わった......)
ジョアンは死を覚悟した。脳裏に、リオンの笑顔が浮かぶ。
しかし矢は、ジョアンの目前で弾き飛んだ。美しくしなやかな脚が、目の前を通り過ぎる。
銀色の髪をなびかせ、蹴り上げた足で再び地面を蹴って走る長身の美女。リオンだ。
そしてジョアンはその瞬間に気付く。周囲のゴブリンが、死んでいる。
リオンは一直線にカートへ向かって行く。
「クソッ! なんで来やがった!」
悪態をつくカートが弓に矢をつがえようとするが、リオンは矢を蹴り飛ばして彼の襟首を掴んだ。
「信じてたのに! 見損なったよ、カート!」
リオンはそのままカートのみぞおちに一撃を加え、彼を気絶させた。
ジョアンは改めて周囲を見回す。そこには信じられない光景が広がっていた。全てのゴブリンが、まるで破裂したかのように体を飛散させて死んでいる。
ゴブリンの返り血を浴びたリオンが、ゆっくりとこちらに戻って来る。赤く染まった彼女の姿を見て、ジョアンは見惚れた。この世のどんなものより、美しいと思った。
リオンはジョアンを抱きしめ、潤んだ目で彼を見つめてこう言った。
「今度は間に合ったね」
と。
「何!?」
ジョアンの叫びに、冒険者達は一斉に上を見る。
そこには空を覆い尽くす程の、沢山の気球。そこから大勢のゴブリン達が、奇声を発しながら次々と飛び降りて来る。
「ギャーハハハハハッ!」
槍や剣を冒険者達に向け、落下して来るゴブリン達。
「みんな避けろ!」
ジョアンは叫ぶ。
「ぐああッ!」
「ぎゃあッ!」
何人かの冒険者はゴブリンの武器に貫かれ、血飛沫を上げる。
ジョアンは周囲の様子を素早く見回し、どのゴブリンから殺して行くべきかを判断する。
そしてその時、とても嫌なものを見た。
カートだ。カートが悔しそうにこちらを見ていたのだ。まるで作戦が失敗した事を、悔やんでいるように見える。
しかも、ゴブリン達はカートを標的としてみなしていない。それどころか徒党を組んだ仲間のように、ジェスチャーで意識疎通までしている。
カートは弓を引き、矢をつがえた。その標的は、ジョアンだ。
「よくも邪魔してくれたなジョアン! せっかく楽にあの世に送ってやろうと思ったのによ! だが絶対に逃がねぇ! お前らを殺せば、マリーとシェリーが帰ってくるんだ! ゴブリンの王は人間の言葉が話せる! 俺と約束したんだ!」
「バカな! 奥さんも娘さんも、お前の目の前で殺されたんだろう!? 現実を受け入れろ!」
ジョアンは次々と襲ってくるゴブリン達をどうにか蹴散らしながら、声を張り上げる。
やはりジョアンの不安は的中した。そもそも、巣穴を火攻めにするのに冒険者全員で来るのは不自然だった。どう考えても人数が多い。
これは罠だった。おそらくゴブリンの王は、邪魔な冒険者を皆殺しにしてから村を襲うつもりなのだ。
降って来たゴブリンの数は圧倒的だった。おそらく百を超えるだろう。しかも、大型のホブゴブリンまでいる。
こちらは数で劣る上、駆け出しの冒険者もいる。今は魔法使いや神官の支援でどうにか持ち堪えているが、おそらく長くは持たないだろう。
「考え直せカート! 今ならまだ間に合う!」
「やかましい! 死ね!」
カートの弓から矢が放たれる。それは真っ直ぐにジョアンの顔に飛んできた。
全てがゆっくりに見える。死ぬ間際だから、神経が研ぎ澄まされているのだろうか。
だがもう矢は目の前だ。そしてジョアンの周囲にはゴブリンがまとわりついている。とても矢を避ける余裕などない。
(終わった......)
ジョアンは死を覚悟した。脳裏に、リオンの笑顔が浮かぶ。
しかし矢は、ジョアンの目前で弾き飛んだ。美しくしなやかな脚が、目の前を通り過ぎる。
銀色の髪をなびかせ、蹴り上げた足で再び地面を蹴って走る長身の美女。リオンだ。
そしてジョアンはその瞬間に気付く。周囲のゴブリンが、死んでいる。
リオンは一直線にカートへ向かって行く。
「クソッ! なんで来やがった!」
悪態をつくカートが弓に矢をつがえようとするが、リオンは矢を蹴り飛ばして彼の襟首を掴んだ。
「信じてたのに! 見損なったよ、カート!」
リオンはそのままカートのみぞおちに一撃を加え、彼を気絶させた。
ジョアンは改めて周囲を見回す。そこには信じられない光景が広がっていた。全てのゴブリンが、まるで破裂したかのように体を飛散させて死んでいる。
ゴブリンの返り血を浴びたリオンが、ゆっくりとこちらに戻って来る。赤く染まった彼女の姿を見て、ジョアンは見惚れた。この世のどんなものより、美しいと思った。
リオンはジョアンを抱きしめ、潤んだ目で彼を見つめてこう言った。
「今度は間に合ったね」
と。
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