【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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奴隷から聖女へ。

第17話 結婚式。

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 奴隷商人の名はビザールと言った。彼は奴隷密売組織の末端の商人にすぎず、自分を捕まえた所で、奴隷の売買は無くならないと悪態をついた。ここは牢獄の中。私はビザールを睨みつけ、低い声で脅しをかける。

「後で仲間の所に案内してもらうわ。嫌とは言わせない」

「案内したら、助けてくれるのか? 解放してくれるか?」

「さぁね。それを決めるのは私じゃ無いわ。村の人々と、この村を治める領主様ね」

 顔面蒼白になるビザール。私は一旦面会を打ち切り、地下牢から立ち去る。

 これから村の教会で、ネリスとの結婚式を挙げる事になっていた。彼と正式に夫婦となった後、改めてビザールの案内で密売組織の本拠地を叩くつもりだ。

「なんだか、緊張するね」

 教会の一室。大勢の村人達が結婚式の準備を進める中、ネリスはそう言って微笑んだ。彼の耳は医師によって治療を受け、驚くことにもう再生していた。

「随分と治りが早いのね。魔獣の血が混ざっているから?」

 私はすっかり元どおりになったネリスの耳を愛おしく思いながら撫でる。

「それもあると思うんだけど、きっとお医者様の腕が良かったんだ。僕がもぎ取った耳を消毒して、あっという間に縫い合わせてくれた。なんでも旅の途中らしいよ」

「へぇ、そうなんだ。私も会ってみたいな」

「ああ、彼女達なら、ほら、あそこにいる」

 ネリスは結婚式の準備を進める村人達に混じって作業をしている、二人の女性を指さした。

 一人は長身で、長い黒髪を後ろに束ねた静かなたたずまいの美女。おそらく年齢は二十代前半。もう一人は小柄で、肩くらいまでの黒髪の少女。可愛らしい容姿で、小動物を思わせる。おそらく年齢は私と同じく十代後半だろう。

 二人とも白を基調とした衣服を身につけていて、医者と言われればそう見えなくもない。

「挨拶したいわ。ネリス、呼んでもらってもいい?」

「うん、任せて。すみませーん」

 ネリスは二人に向かって声をかけ、ブンブンと手を振った。そんな彼の仕草が子供みたいで可愛い、と私は思った。

 二人はハッと気がついて、こちらへ駆けてくる。

「やぁ、ネリス。もう包帯をとってしまったんだね。しかし見たところ、どうやら傷の治りが早いようだ。挙式に間に合って何より」

 長身の美女の方が、そう言ってネリスと握手を交わした。

「そしてこちらは、新婦のアリエッタだね。初めまして。私の名前はルーフェン」

 ルーフェンはニコニコと笑って私と握手し、それからガバッと抱擁してきた。

「ああ、本当に! 無事で何より!」

「え?」

 私は面食らった。ルーフェンとは初対面の筈だ。彼女もさっき、「初めまして」と確かに言った。

「す、すまない! 奴隷商人と対峙されたと聞いていたから、怪我がなくて良かったと安心してしまって! 驚かせてしまったね」

 ルーフェンは抱きしめた時と同じようにガバッと離れ、照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。

「もう、ルーフェン様ったら。直情的すぎるのも、時には考え物ですよ」

 ルーフェンの隣に立っていた小柄な少女が、そう言って悪戯っぽく笑う。

「失礼しましたアリエッタ様。私はシーラ。ルーフェン医師の助手をしています。お会いできて光栄です」

 シーラはそう言って優しく微笑んだ。握手を交わすと、彼女の柔らさと温もりが伝わってくる。

 二人とは間違いなく初対面。だが不思議な事に、何故か懐かしい気持ちになる。私が忘れているだけで、過去に何処かであっているのだろうか。

【魔術「鑑定」の呪文】を使用すれば、すぐにでも二人の詳細は見抜けるが、この場において呪文を唱え、魔術を使うのは明らかに無粋。少なくとも今はやめておいた方が良いだろう。

 少なくとも、彼女達は敵ではない。それだけ分かれば充分だ。

「ルーフェン様、シーラ様、初めまして。この度は私の夫、ネリスの傷を治療してくださってありがとうございました。挙式と披露宴にも、是非ご参加下さいね」

 私はそう言って、二人にお辞儀をした。するとルーフェンが目を丸くする。

「なんと......君にそんなおしとやかな部分があったとは......イテッ」

 ビクッと、ルーフェンは苦痛に顔を歪める。どうやらシーラが、ルーフェンの腕をつねったようだ。

「失礼ですよ、ルーフェン様。ネリス様、アリエッタ様、お邪魔致しました。お二人はこれからお着替えや打ち合わせがある筈ですから、お忙しいでしょう? では、結婚式でまた」

 シーラはそう言って笑うと、ルーフェンの腕を引いて村人達の元へと戻っていった。

 それからしばらくして、大勢の村人が見守る中、結婚式が執り行なわれた。私とネリスは女神ルクスの祝福の元、晴れて夫婦となった。

 挙式が終わり披露宴。ネリスの両親は号泣しながら、村人達にお酌をして回っている。そしてたびたび私とネリスの元へやってきて、泣きながらお祝いの言葉や、ネリスの思い出話を語ってくれた。

 挙式から参加しているコラーデン伯爵も、私とネリスを気に入って盛んに話しかけてきた。ちなみに伯爵はこの村の領主だ。

「なるほどなるほど。では奴隷商人共を全員捕らえ、その手柄を持って王都への手土産とすると! はははっ、こりゃ剛気だ! 良かろう! このコラーデン、協力は惜しまぬ! 金はいくらでも出す! 馬車も貸すぞ! 護衛の騎士も必要ならば数人連れて行くがいい!」

 コラーデン伯爵は豪快に笑い、バンバンとネリスの背中を叩く。

「ブハッ! あ、ありがとうございます伯爵様。護衛は必要ありませんが、お金と馬車は正直助かります。ね、アリエッタ」

 咳き込みながら、私に話を振るネリス。

「ええ、そうねネリス。その通りだわ。本当にありがとうございます、伯爵様。王都へは長旅になると思っていましたので、救われました。それと、不躾ながらもう一つお願いがあるのです。護衛の代わりに、同行をお願いしたい人達がいるのですが......あちらにいらっしゃるルーフェン様と、シーラ様です」

 私はそう言って、村人達と歓談している医師と看護師を見つめた。

「おお、あの二人か! なんでも旅の途中とか! よしよし、私から掛け合ってみよう! 任せておけ!」

 コラーデン伯爵は大袈裟な身振りで、自身の胸を拳で叩いて見せる。

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね、伯爵様」

 私は伯爵に笑顔を向け、それからネリスを見る。彼も私の考えに賛同したように、静かに頷いた。
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