【完結】のじゃロリ狐娘に転生した俺。守り神として村人を英雄覚醒させ、邪悪な帝にざまぁします。

アキ・スマイリー

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第32話 酒呑童子の邪心。

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「凄い!これが、酒呑童子の力......!」

 八雲との修行を終えた木蓮。その姿は、禍々しく変容していた。頭には角が生え、髪は長く伸びている。口には鋭い牙、体は服がはち切れそうなほどに、筋肉が盛り上がっている。

「ああ......爆発しそうな程、力が溢れている。これが今の俺の力......!この力さえあれば、白金に勝てる! あなたは俺のものです、銀杏様!」

 目の色を変え、凄まじい形相で笑う木蓮。正直言って、怖かった。その力は、看破で見る必要のないほど、ビシビシと伝わって来た。凄まじい霊力だ。確かに、白金より強い。今のオレでも多分勝てないだろう。「恋愛成就」を発動出来れば、五分五分かなぁ......。

 いや、彼は敵じゃなく、味方だ。戦う事を想定しても意味はない。そう思いたい。

「ありがとうございます、八雲様。お陰で俺は、最強の存在になれました」

 図体はでかくなったが、きちっと頭を下げる木蓮。良かった、中身は変わってない。

「礼など良い。だが、くれぐれも注意するのだぞ。ただ呼吸をしているだけでも、どんどん霊力を食われていくのだからな。高位の術者であっても、あまり長くは持つまい。今の君はかなり消耗しているようだし、一度『憑依変身』を解いた方がいい」

 だが木蓮は首を横に振る。

「いえ、俺は今すぐに白金と戦いたいんです。銀杏様を俺のものにしたいんです。このまま行きます......うぐっ!」

 突然苦しみだす木蓮。頭を抱えて唸っている。

「まずいぞ、死んでしまう! 木蓮殿! 早く変身を解くのだ!」

「い、いやだ!」

 木蓮は頑なに変身解除を拒み続ける。八雲の焦り方は尋常ではない。このままでは本当に命を落としてしまうのだろう。

「木蓮! 一度休んで、また変身すれば良いのじゃ。わしはいつもそばにおる! お主が白金に勝てば、約束通りそなたのものとなろう!」

 身を震わせていた木蓮の動きが、ピタリと止まる。わかってくれたのだろうか。

「すいません、銀杏様。俺がどうかしてました。自分の強さに溺れて、傲慢になっていたようです」

  木蓮は変身を解き、元の姿へと戻った。良かった......。

  だが、木蓮の顔色はやはり悪い。恐らく霊力が残っていないのだろう。オレは八雲にお願いして、少し休ませてもらう事にした。

「急いでいるのだろうが安心しろ。ここは外の世界とは時間の流れが違う。何日でもゆっくりして行くがいい」

  八雲は寛大だった。オレと木蓮はその言葉に甘え、木蓮が回復するまで厄介になる事にした。

  数日経って木蓮が回復した頃、事件が起こった。

「まずい事になった。私が酒呑童子を封じる際に、奴の邪心を湖底にある石像に封じ込めていたのだが、その石像が破壊されたようだ。石像は都の近くの湖底に設置されていて、幾重にも結界を張っていた。何者の仕業かわからないが、一つはっきりしているのは、その邪心は必ずここへやって来る」

  八雲はいつになく、真剣な面持ちだった。

「八雲様、我々はどうすれば良いのでしょうか」

  木蓮は事態の重さを見て、協力を申し出た。オレももちろん同じ気持ちだ。

「私は封印の石像を、急いで作成する。もしも石像が完成する前に奴がやって来た場合、不本意ではあるが、木蓮殿の体に封印させてもらう。酒呑童子の本体と融合する形になる為、木蓮殿の霊力で奴を抑え込む形になるが......方法はそれしかない。頼めるか?」

  オレは正直不安だったが、木蓮はドンと胸を叩いた。

「お任せ下さい! こちらで休ませていただいたお陰で、俺の霊力はバッチリ回復しました! ご恩に報いるためにも、やらせて下さい!」

「木蓮、わしもその時は協力するからの」

「はい! ありがとうございます!」

  木蓮は微笑んで、オレを強く抱きしめた。

  果たして、奴はやって来た。しかも石像が完成する前に。

  その姿は禍々しく、木蓮が変身した姿よりも、何倍もおぞましかった。

  八雲の屋敷が揺れるほどの凄まじい雄叫びと共に現れた酒呑童子の邪心は、周囲にあるあらゆる物を破壊しながら屋敷へと侵入して来た。

「すまん木蓮殿! 消滅するべく戦ってはみるが、もしもの時は依り代になってもらうしかなさそうだ!」

「それで構いません! ですが、俺たちもギリギリまで戦います!」

  木蓮は「憑依変身」で酒呑童子に変身し、オレも「三言呪」を駆使して戦った。八雲の強さも俺たち以上だったが、邪心の破壊力は凄まじかった。

「やはり駄目か! 木蓮殿! こやつを君に封印する! どうにか耐えてくれ!」

「わかりました! やって下さい!」

  八雲は複雑な印を結び始めた。俺たちは彼女をガードし、術の完成を待つ。

「行くぞ! 邪心封印!」

  八雲の掛け声により、酒呑童子の邪心は煙のように変化し、木蓮の体に吸い込まれて行った。

「大丈夫か、木蓮!」

「......はい、どうやら大丈夫みたいです」

「そうか、良かった!」

  オレたちは手を取り合って喜んだ。八雲も安心したように微笑んでいた。

【白金視点】
 第ニの都こと、「新都」の構築は、信じられない程のハイスピードで進んでいた。正直なところ、白金の想像を上回る速さだった。

 理由ははっきりしている。近隣の村々から集まってきた人々が、ほとんど全員覚醒していたからだ。しかも「宮大工」など、都の構築に欠かせない人員や、材料の調達に必要な「木こり」も大勢いた。

 基本的には白金の「ニ言呪・建築」で用意してあった建物を、職人たちが手を加えていく方式がとられた。

 豪華な屋敷が何棟か仕上がれば、後はそのイメージを元に白金が「ニ言呪・改築」で他の建物にも手を加えて行く。

「よぉし! 大体出来たな! みんな、良くやってくれた!これが俺たちの都だ!」

 白金の号令に、おおおーっ!と歓声が上がる。ほとんどの者が、涙を流して抱き合っている。

「この都に帝はいねぇ!一番町から六番町まで、それぞれの村で村長だったものが統括する! そしてこの都には、守り神がいる! その名は......」

「銀杏様!」

 皆が声を揃える。

「そうだ! 今はちょいと留守にしてるが、そろそろ戻ってくる筈だ! そしたら皆、恒例の胴上げで出迎えてやってくれ!」

 どっ!と笑い声が起こる。

「みんな、本当に良くやったな! お疲れさん! さぁ、都の完成祝いだ! パーッと行こうぜ!」

 わぁぁーっ!と再び歓声が上がる。

 都には居酒屋もあるし、屋台もある。人々は思い思いの場所で、祝杯を上げ始めた。店の主人も仕事をしつつ、一緒になって酒を飲んでいる。

「白金様は、飲まないのですか?」

 ずっとそばに寄り添っている累火が、不思議そうな顔で白金を覗きこむ。

「ああ、俺は銀杏が戻ってきたら、一緒に祝いたいんだ。あいつが言い出した事だしな。あー、あいつの喜ぶ顔が、早く見てぇよ」

 白金は満面の笑みだった。銀杏と再会した時の事を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれてしまう。

「もー、白金様ったら。銀杏、銀杏って、口を開けば銀杏様の事ばっかり。私の事も構ってくださいよ」

 累火が不満気に頰を膨らませる。

「しょうがねぇだろ。何度でも言うが、俺は銀杏しか愛せねぇ。累火、お前の事も大事に思ってるが、まぁ、可愛い妹みたいなもんだ」

「妹かぁ......ふふっ、じゃあ今はそれで我慢しておきます。それにしても銀杏様、遅いですね。もう日は暮れてるのに」

 確かに今は酉(とり)の刻。現世の時間単位で言えば、夜の七時くらいだ。銀杏と木蓮が出発してから六時間弱。村人たちが全員移送完了してから、二時間程経過している。

「確かにな。そろそろ帰って来てもいい頃なんだが......」

「あー、もしかして! お兄ちゃんと何かあったのかも♡ですね」

 累火は口に手を当て、ニンマリと笑う。

 馬鹿な。銀杏に限って、それはない。

「あのな累火。俺が銀杏しか愛せねぇように、銀杏だって俺にぞっこんなんだ。絶対に、何もありゃしねぇよ」

「そうですかねぇ......お兄ちゃんの目、なんかギラギラしてましたし。真剣そのものでしたもん。今のお兄ちゃんなら、押し切っちゃうかも」

 白金は銀杏を信じている。だが、木蓮に押されたら情が移る可能性が......なきにしもあらず、だ。

 だが白金はその疑念を即座に断ち切った。馬鹿げている。俺があいつを信じられないで、どうする。

「木蓮にそんな度胸はねぇさ。あれだけ釘刺しといたんだしな」

 胸にモヤモヤを残しつつ、白金は銀杏を待ち続けた。

 彼女が帰ってきたのは、それより一刻後。現世で言うところの二時間程経過した後であった。

 妙にふらふらとした足取りで、銀杏は帰ってきた。その姿は、あの芸術とも言える凹凸を持つ、大人の身体では無くなっていた。基本の姿、つまり幼女の姿に戻っている。

(何故、覚醒が解けてるんだ? どっかで寝ちまったのか?木蓮のやつと一緒に。村人の移送が完了してから、もう四時間は経つし......)

 狐式神に乗ってやってきた銀杏。その後に追随してきた木蓮の姿は、白金の不安をさらに煽る。

 鬼。一言で言うならばそれであった。白金の直感が告げる。あれは化け物である、と。

 恐らく、戦っても勝てない。木蓮は一体、どうなってしまったと言うのだろう。

「お帰り、銀杏。それから木蓮も」

 不安をひたすら押し殺し、白金は両手を広げた。こうすればきっと、銀杏は白金の胸に飛び込んでくる。

 だが、そうはならなかった。ゆっくりと重い足取りで、銀杏は白金の目の前に立った。疲れているのかもしれない。

「ただいま、白金」

 銀杏はそっと、白金の首に両腕を回す。それから白金の頰を愛おしげに両手で包み、彼の唇に、その桜色の可憐な唇を重ねた。

 チッ、と舌打ちする音。木蓮だ。彼がそんな風にあからさまに不快感をあらわすのは、初めての事だ。

 白金はその事を訝(いぶか)しんだが、それよりも銀杏の様子が気がかりだった。

「どうした、銀杏。何かあったのか?覚醒も解けてるし......」

 白金は銀杏の髪を優しく撫でる。彼女は潤んだ瞳で白金をジッと見つめた後、ふるふるとかぶりを振った。

「何でもない。そなたに会えたのが嬉しくてな。覚醒は......最後の村でちと疲れてな。寝てしまったのじゃ。のう、お願いがあるんじゃ。わしを、思いっきり強く抱きしめてくれぬか」

 白金は銀杏のリクエストに答え、彼女をきつく抱きしめた。小さく華奢な彼女の体の温もりが、白金に伝わってくる。

「ああ......白金......。好きじゃ。大好きじゃ」

 見つめ合う二人。自然とまた唇を重ねる。

「あーあ、帰ってきた途端にこれだもん。私たちの立ち入る隙なんてないよね、お兄ちゃん」

「まぁ、そうかもしれないな」

 累火のあきれたような物言いに、木蓮は余裕の態度を示した。

「あれー?何お兄ちゃん、銀杏様の事、諦めたの? 悟り開いちゃったみたいな感じだね。それになんか、角とか牙生えてるし......なんなのそれ」

「鬼と合体したんだ。俺は最強の存在になったんだよ。そうだ累火、俺がどれだけ凄いのか教えてやるよ」

「きゃっ、お兄ちゃん!? お姫様抱っこだなんて、子供の時以来だね。どうしたの?」

「たまには兄妹の絆を深めようと思ってね」

「え?」

 ザンッと地面を蹴る音がした。白金は銀杏から唇を離して、木蓮と累火がいた場所を見る。二人は消えていた。

 ふと空を見ると、宙を舞う木蓮の姿。跳躍か、飛行か、どちらかは分からない。が、彼が既に人間を離れた存在である事は確かだった。


  

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