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第39話 帝の正体。
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都に到着したオレたちは、その全てに圧倒された。
もう日が暮れているというのに、どこもかしこも大勢の人で賑わっている。
「うーむ。千里眼である程度の見通しはしておったが、これほどとはな」
「ああ、確かにすげぇよな。なんでも区画は、百番町まであるらしいぜ」
「ひゃ、百!?」
白金の返答に、オレと塁火は素っ頓狂な声をあげる。オレたちの住む新都は、六番町までしかない。桁違いだ。
「俺たちが通った都の関所は東側。って事は、この辺りは五十番代だな。まっすぐ中央を目指して行けば、帝の住む宮殿がある」
都には東西南北に関所がある。瓦屋根の門を通ると両脇に詰所があり、番士と呼ばれる役人たちに様々な質問をされた。事前に予定していた通り、オレたちは紅蓮の使いで来たことにした。
白金は紅蓮と共に、一度来たことがあるらしい。番士たちは白金を覚えていた。帝に会いたいと伝えると、二人の番士が案内役を買って出た。オレたちは彼らに付き従いながら、ヒソヒソと会話している次第である。
「場所がわかっているなら神速歩で行った方が早いのにのう。しかし、わしらだけで行っても中に入れてはもらえぬじゃろうしなぁ。番士どの、あとどのくらい歩くのじゃ?」
オレは辛抱たまらず、番士の一人に話しかけた。多分まだまだ先なんだろうけどね。
「そうですね。距離としては二里(8km)、時間にして一刻(二時間)と言ったところでしょう」
おいおいまじかぁ! そんなんじゃ日付が変わっちまうぜ!城についても帝が相手にしてくれるかどうか、怪しいぞ。
「白金、番士殿を一人おぶってくれぬか?」
「ん? 別にかまわねぇが、何する気だ?」
「神速歩で行く。このままちんたら歩いていても時間の無駄じゃ」
納得した白金は、番士を一人おぶる。もう一人にも事情を説明して、帰ってもらった。番士に宮殿の方向を確認し、オレはそちらを見定めた。千里眼でも確認済みだから間違いはない。
「初めからこうすれば良かったのう。番士殿、目を瞑っていてくだされ。ゆくぞ、神速歩!」
オレは塁火と白金の手を握り、一気に加速する。
「ぎゃあああああああっ!」
案の定、番士は目を瞑らなかったようだ。全くもう。どうしてみんな、忠告を無視するんだろうか。スリル求めてんの?
おっ、でかい宮殿だ! ここで間違いない!
「到着じゃ。番士殿、大丈夫か?」
「め、目が回って気持ち悪いです......」
やれやれ。オレは深いため息をついた。白金はそれを見て笑いながら、番士を術で癒した。ああ......白金優しい♡そして超かっこいい♡
「銀杏様」
「ん? なんじゃ塁火よ」
「白金様、やっぱり優しくてかっこよくて、最高ですよね♡」
「うむ。同意じゃ。わしらはまだ恋人に過ぎぬが、いずれ白金の良き妻になるべく、精進せねばな」
「ですね♡ 私は葉月さんに色々教えてもらって花嫁修行します!」
その手があったか......! 確かに葉月なら男を誘惑する方法も、家事全般もお手の物。くっ、今更「わしもー!」とは言えないしな......。仕方ない、独学で頑張ろう。
オレと塁火がそんなやりとりをする中、番士はみるみる回復していった。
「かたじけない、白金殿。お陰ですっかり良くなりました。お手を煩わせてしまって申し訳ない。さぁ、行きましょう」
番士の先導で宮殿の入り口に向かう。詰所と同様の瓦屋根の門があり、朱色や金色で彩(いろど)られている。
門番は四人。屈強な男たちだ。番士が一人に事情を話し、中へ通して貰うことが出来た。宮殿の前にはこれまた大勢の兵士が見張り番をしていた。同じように事情を話し、宮殿内に入る。
召使いらしき女性たちが数人やってきて、帝の部屋へと案内してくれた。いくつもの引き戸を開け、ようやく目的の部屋へとたどり着く。
「帝、お客様をお連れ致しました」
「うむ、入れ」
美しくも迫力がある龍虎の絵が描かれた襖戸を開けてもらい、中へと入る。そこには大勢の女性たちに囲まれた帝がふんぞり返っていた。
「良く来た。会いたかったぞ、和也。そして来人よ」
なぜ帝がオレたちの前世の名前を!?
「て、てめぇは......!」
ワナワナと震える白金。帝とは初対面らしいが......。
「てめぇも転生してやがったのか、クソ親父!」
「えっ、親父......!?」
オレは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。帝が白金の......和也の父親だってのか?つまり児童養護施設の施設長! 言われてみれば、確かに面影がある。オレをいつも、いやらしい目で見つめていた、変態オヤジ!少年趣味なのかと疑ってたけど......。今あいつの周りには、色っぽい美女たちが無数に戯れている。まぁ、カモフラージュの可能性もあるけどね。
「ぐっふふふ。いやぁ、それにしても色っぽくなったもんだな来人。今は銀杏と言う名だったか? ぐふ、俺はお前の顔が好きでな。いつかお前を性転換させて、自分の女にしたいと思ってたんだ。その夢が今、叶うわけだ」
やっぱり変態だった!少年趣味ではなかったけど!つーか、軽々しく前世の話すんじゃねーよ!塁火がキョトンとしてるじゃねーか!だが今説明している暇はない。
「ふざけるな! 誰が貴様のものになぞなるか! 紅蓮が書いた盟約書をよこせ! あれはもう無効じゃ!」
オレはドスを効かせて言い放った。つもりだったが、いかんせん声が高すぎて迫力に欠ける。
「無効だと?」
帝は近くの女に命じて、美しい木箱を持って来させた。女は呪文を唱えながら、箱を開ける。封印が施されていたのだろう。そして女は術者なのだ。
「ふむ、なるほどな。紅蓮の署名だけ消え失せている。それならもう一度書かせれば良いだけの事。亜躯鬼(あくき)よ、ここへ来い」
「はっ!」
亜躯鬼と呼ばれた美女が、取り巻きたちの中から進み出る。
「お前は紅蓮を探し出して、ここへ連れて来い」
「御意にございます!」
亜躯鬼は跪き、そのまま姿を消した。
「何!? 姿を消したじゃと!?」
オレはすぐさま千里眼で周囲を見渡し、亜躯鬼の姿を探した。だが、彼女の姿はどこにもなかった。
「空間転移だ。悪躯鬼はな、空間を自在に操る術師なんだよ。紅蓮が強いのは知ってるが、亜躯鬼にとっては強さなど関係ないんだ。きっとすぐにここに連れて来るぜ」
空間転移だと!?反則だろそんなの!
「チッ! うだうだ言ってねぇで、さっさとその盟約書を渡しやがれ! 衝撃!」
白金が、帝に向かって右手を突き出す。対酒呑童子戦で見せた、衝撃波だ。あの酒呑童子を吹き飛ばしたほどの威力、普通の人間には耐えきれない筈だ。
「帝に何をするか。この糞猿が」
先程、盟約書の入った木箱を開けた女。その女が帝と白金の間に割って入り、扇をかざして衝撃を弾いた。
「なっ! まじかよ!」
白金は驚きの声を上げる。この女、出来る。並大抵の術者ではない。妖艶な笑みを浮かべ、高らかに笑ってみせる。
「帝。この糞猿と糞狐、私が始末してもよろしいですか?」
「ああ、いいぞ。だが羅刹よ、銀杏は殺すな。俺の女にする。それから、その巫女風の女もなかなかいい女だ。生かして捕らえろ」
「かしこまりました。そのように」
塁火は話についていけずオロオロしていたが、帝のいやらしい視線を受けて、恐怖と嫌悪の色を顔に覗かせた。
「大丈夫じゃ塁火。そんな事はさせぬ」
白金とオレは、ただちに戦闘態勢に入る。だがこの羅刹と言う女、隙がない。紅蓮に匹敵する強さかも......!本当に人間か!?
「ああ、なんかびびっちまってるみたいだから教えてやるが 、亜躯鬼も羅刹も神だよ。殺神(さつがみ)だ。人神や厄神と違って、人の世を保つ為に存在する訳じゃない。人の世を壊す為に存在するんだそうだ。争いが好きでな。権力者の元に訪れ、戦争を起こさせたり、拷問、処刑なんかの虐殺をさせるらしい。ま、今は俺の役に立ってくれてるよ。気づいてると思うが、強えぞ」
神だと!道理で紅蓮のような圧力を感じる訳だ。だけど、あの盟約書を取り返さなければ、紅蓮は新都への厄災を止める事が出来ない。やるしかない。
「白金!」
「ああ、わかってる。気張っていくぜ!」
「うむ!」
オレと白金は羅刹を睨みつけたまま、お互いの手を繋いだ。
もう日が暮れているというのに、どこもかしこも大勢の人で賑わっている。
「うーむ。千里眼である程度の見通しはしておったが、これほどとはな」
「ああ、確かにすげぇよな。なんでも区画は、百番町まであるらしいぜ」
「ひゃ、百!?」
白金の返答に、オレと塁火は素っ頓狂な声をあげる。オレたちの住む新都は、六番町までしかない。桁違いだ。
「俺たちが通った都の関所は東側。って事は、この辺りは五十番代だな。まっすぐ中央を目指して行けば、帝の住む宮殿がある」
都には東西南北に関所がある。瓦屋根の門を通ると両脇に詰所があり、番士と呼ばれる役人たちに様々な質問をされた。事前に予定していた通り、オレたちは紅蓮の使いで来たことにした。
白金は紅蓮と共に、一度来たことがあるらしい。番士たちは白金を覚えていた。帝に会いたいと伝えると、二人の番士が案内役を買って出た。オレたちは彼らに付き従いながら、ヒソヒソと会話している次第である。
「場所がわかっているなら神速歩で行った方が早いのにのう。しかし、わしらだけで行っても中に入れてはもらえぬじゃろうしなぁ。番士どの、あとどのくらい歩くのじゃ?」
オレは辛抱たまらず、番士の一人に話しかけた。多分まだまだ先なんだろうけどね。
「そうですね。距離としては二里(8km)、時間にして一刻(二時間)と言ったところでしょう」
おいおいまじかぁ! そんなんじゃ日付が変わっちまうぜ!城についても帝が相手にしてくれるかどうか、怪しいぞ。
「白金、番士殿を一人おぶってくれぬか?」
「ん? 別にかまわねぇが、何する気だ?」
「神速歩で行く。このままちんたら歩いていても時間の無駄じゃ」
納得した白金は、番士を一人おぶる。もう一人にも事情を説明して、帰ってもらった。番士に宮殿の方向を確認し、オレはそちらを見定めた。千里眼でも確認済みだから間違いはない。
「初めからこうすれば良かったのう。番士殿、目を瞑っていてくだされ。ゆくぞ、神速歩!」
オレは塁火と白金の手を握り、一気に加速する。
「ぎゃあああああああっ!」
案の定、番士は目を瞑らなかったようだ。全くもう。どうしてみんな、忠告を無視するんだろうか。スリル求めてんの?
おっ、でかい宮殿だ! ここで間違いない!
「到着じゃ。番士殿、大丈夫か?」
「め、目が回って気持ち悪いです......」
やれやれ。オレは深いため息をついた。白金はそれを見て笑いながら、番士を術で癒した。ああ......白金優しい♡そして超かっこいい♡
「銀杏様」
「ん? なんじゃ塁火よ」
「白金様、やっぱり優しくてかっこよくて、最高ですよね♡」
「うむ。同意じゃ。わしらはまだ恋人に過ぎぬが、いずれ白金の良き妻になるべく、精進せねばな」
「ですね♡ 私は葉月さんに色々教えてもらって花嫁修行します!」
その手があったか......! 確かに葉月なら男を誘惑する方法も、家事全般もお手の物。くっ、今更「わしもー!」とは言えないしな......。仕方ない、独学で頑張ろう。
オレと塁火がそんなやりとりをする中、番士はみるみる回復していった。
「かたじけない、白金殿。お陰ですっかり良くなりました。お手を煩わせてしまって申し訳ない。さぁ、行きましょう」
番士の先導で宮殿の入り口に向かう。詰所と同様の瓦屋根の門があり、朱色や金色で彩(いろど)られている。
門番は四人。屈強な男たちだ。番士が一人に事情を話し、中へ通して貰うことが出来た。宮殿の前にはこれまた大勢の兵士が見張り番をしていた。同じように事情を話し、宮殿内に入る。
召使いらしき女性たちが数人やってきて、帝の部屋へと案内してくれた。いくつもの引き戸を開け、ようやく目的の部屋へとたどり着く。
「帝、お客様をお連れ致しました」
「うむ、入れ」
美しくも迫力がある龍虎の絵が描かれた襖戸を開けてもらい、中へと入る。そこには大勢の女性たちに囲まれた帝がふんぞり返っていた。
「良く来た。会いたかったぞ、和也。そして来人よ」
なぜ帝がオレたちの前世の名前を!?
「て、てめぇは......!」
ワナワナと震える白金。帝とは初対面らしいが......。
「てめぇも転生してやがったのか、クソ親父!」
「えっ、親父......!?」
オレは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。帝が白金の......和也の父親だってのか?つまり児童養護施設の施設長! 言われてみれば、確かに面影がある。オレをいつも、いやらしい目で見つめていた、変態オヤジ!少年趣味なのかと疑ってたけど......。今あいつの周りには、色っぽい美女たちが無数に戯れている。まぁ、カモフラージュの可能性もあるけどね。
「ぐっふふふ。いやぁ、それにしても色っぽくなったもんだな来人。今は銀杏と言う名だったか? ぐふ、俺はお前の顔が好きでな。いつかお前を性転換させて、自分の女にしたいと思ってたんだ。その夢が今、叶うわけだ」
やっぱり変態だった!少年趣味ではなかったけど!つーか、軽々しく前世の話すんじゃねーよ!塁火がキョトンとしてるじゃねーか!だが今説明している暇はない。
「ふざけるな! 誰が貴様のものになぞなるか! 紅蓮が書いた盟約書をよこせ! あれはもう無効じゃ!」
オレはドスを効かせて言い放った。つもりだったが、いかんせん声が高すぎて迫力に欠ける。
「無効だと?」
帝は近くの女に命じて、美しい木箱を持って来させた。女は呪文を唱えながら、箱を開ける。封印が施されていたのだろう。そして女は術者なのだ。
「ふむ、なるほどな。紅蓮の署名だけ消え失せている。それならもう一度書かせれば良いだけの事。亜躯鬼(あくき)よ、ここへ来い」
「はっ!」
亜躯鬼と呼ばれた美女が、取り巻きたちの中から進み出る。
「お前は紅蓮を探し出して、ここへ連れて来い」
「御意にございます!」
亜躯鬼は跪き、そのまま姿を消した。
「何!? 姿を消したじゃと!?」
オレはすぐさま千里眼で周囲を見渡し、亜躯鬼の姿を探した。だが、彼女の姿はどこにもなかった。
「空間転移だ。悪躯鬼はな、空間を自在に操る術師なんだよ。紅蓮が強いのは知ってるが、亜躯鬼にとっては強さなど関係ないんだ。きっとすぐにここに連れて来るぜ」
空間転移だと!?反則だろそんなの!
「チッ! うだうだ言ってねぇで、さっさとその盟約書を渡しやがれ! 衝撃!」
白金が、帝に向かって右手を突き出す。対酒呑童子戦で見せた、衝撃波だ。あの酒呑童子を吹き飛ばしたほどの威力、普通の人間には耐えきれない筈だ。
「帝に何をするか。この糞猿が」
先程、盟約書の入った木箱を開けた女。その女が帝と白金の間に割って入り、扇をかざして衝撃を弾いた。
「なっ! まじかよ!」
白金は驚きの声を上げる。この女、出来る。並大抵の術者ではない。妖艶な笑みを浮かべ、高らかに笑ってみせる。
「帝。この糞猿と糞狐、私が始末してもよろしいですか?」
「ああ、いいぞ。だが羅刹よ、銀杏は殺すな。俺の女にする。それから、その巫女風の女もなかなかいい女だ。生かして捕らえろ」
「かしこまりました。そのように」
塁火は話についていけずオロオロしていたが、帝のいやらしい視線を受けて、恐怖と嫌悪の色を顔に覗かせた。
「大丈夫じゃ塁火。そんな事はさせぬ」
白金とオレは、ただちに戦闘態勢に入る。だがこの羅刹と言う女、隙がない。紅蓮に匹敵する強さかも......!本当に人間か!?
「ああ、なんかびびっちまってるみたいだから教えてやるが 、亜躯鬼も羅刹も神だよ。殺神(さつがみ)だ。人神や厄神と違って、人の世を保つ為に存在する訳じゃない。人の世を壊す為に存在するんだそうだ。争いが好きでな。権力者の元に訪れ、戦争を起こさせたり、拷問、処刑なんかの虐殺をさせるらしい。ま、今は俺の役に立ってくれてるよ。気づいてると思うが、強えぞ」
神だと!道理で紅蓮のような圧力を感じる訳だ。だけど、あの盟約書を取り返さなければ、紅蓮は新都への厄災を止める事が出来ない。やるしかない。
「白金!」
「ああ、わかってる。気張っていくぜ!」
「うむ!」
オレと白金は羅刹を睨みつけたまま、お互いの手を繋いだ。
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