二十年間レベル1のおっさん、恋人を寝取られた上にギルドを追放される〜ハズレスキル「ちからをためる」で溜め続けた力、今こそ解放します〜完全版

アキ・スマイリー

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第18話 オリハルコンの小手は風を操る。

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 コンコン、と家のドアがノックされ、「はぁい」とシュミラが開ける。そこに立っていたのは、賢者オースティンだった。

「おお、シュミラ。ティムの事は済まなかったな」

「おじいちゃん! やりすぎだよ! 手加減するって言ってたじゃん!」

「いやはや、本当にすまん。確かに、少しやりすぎだったな」

「少しじゃないよ! いっぱいやりすぎだよ! もう! 嫌い!」

 プイッとソッポを向き、ツカツカと戻ってくるシュミラ。オースティンはバツが悪そうな顔で静かに入り、ドアを閉めた。偉大な賢者も、我が妹の前では形無しである。

 ちなみにダフネとキーラは帰路の途中で別れ、自分の家へと帰って行った。

「シュミラ、その辺にしておけ。爺ちゃんのお陰で、俺は力に目覚めたんだ。感謝してもしたりないくらいさ」

「だって! だってぇ!」

 半泣きになる妹を抱きしめ、髪を撫でてやる。

「ほぅら、シュミラ。おまえの大好きな苺ケーキを買ってきたぞ。これを食べて機嫌を治してくれ」

 オースティンが猫撫で声を出す。

「えっ、苺ケーキ!? 食べる食べる! おじいちゃん大好き!」

 シュミラはガバッと俺の胸から離れ、オースティンに両手を差し出す。彼はにこやかに微笑んで、何もない空間からリボンの付いた白い箱を出現させた。

「やれやれ、現金な奴だ」

 俺は思わず目を閉じ、首を振った。

「だってぇ。大好きなんだもん、苺ケーキ。ありがとうおじいちゃん!」

 シュミラはオースティンから箱を受け取ると、いそいそとキッチンのテーブルに着く。

「ティムの分も入っているから、二人で仲良く食べなさい」

「はぁい」

 箱を開け、目をキラキラさせてケーキを取り出すシュミラ。

「俺のも食べていいぞシュミラ。今、お茶を入れる」

「えっ!? いいの、お兄ちゃん!」

「ああ。もちろんだ。いつも世話になりっぱなしだからな」

「わぁい! ありがとうお兄ちゃん! 大大大好き!」

 満面の笑みでケーキにフォークを突き刺し、次々と頬張るシュミラ。リスみたいで可愛いぜ。

 そんな可愛い妹に、美味い茶を入れてやる。それからオースティンと自分の茶を入れ、テーブルに着いた。

「ケーキを渡す為だけに来た訳じゃないんだろ、爺ちゃん。立ち話もなんだから、お茶でも飲んでけよ」

「ああ。では、少し邪魔するぞ」

 オースティンはケーキをバクバク食べているシュミラを見て笑いつつ、座って茶を啜った。

「用件は二つ。まずは、ティム。お前にプレゼントだ」

 オースティンはそう言って、何もない空間に小手を出現させた。ちなみに小手とは、手や腕を守る防具だ。

「こいつは?」

「うむ。先の訓練で、お前の体はボロボロになった。今はすっかり完治したようで、何よりだがな。あの時のダメージ。クリスタルに受けた打撃もさることながら、自分自身の攻撃の反動で損傷した、拳のダメージもかなりのものだ。この小手は魔術機構の品でな。素材はオリハルコンで出来ている。もし売るとするなら、一千万はくだらんだろう」

「い、一千万!?」

 とんでもない金額だった。家一軒買える額だ。だがオリハルコンってのは、伝説ともいえる稀少な金属と聞いた事がある。手に入れる方法は、おそらく誰も知らない。目の前にいる、この賢者を除いては。

 そう考えれば、一千万という価格も妥当なのかも知れない。

「そんな高価な物、本当にもらって良いのか?」

「ああ、もちろんだ。お前を瀕死の重傷まで追い込んだ詫びの印だ。ほら、装備してみろ」

 オースティンから小手を受け取る。軽い。ゴツゴツした見た目からは想像つかない軽さだった。

 早速嵌めてみると、さらなる軽さを実感する。そして、滑らかな肌触り。まるで絹の手袋を嵌めているようだ。

「すごいな。軽くて肌触りもいい。最高だな、この小手」

「ふふっ、そうだろう。当然だが、頑丈さも折り紙付きだ。しかもそれだけじゃない。その小手には、風を操る魔術を付与してある」

「風を操る?」

 俺は目を丸くした。その顔が面白かったのか、オースティンは「はっはっはっ!」と大声で笑う。

「そうだ。よし、実際にやってみよう。百聞は一見にしかずだ。表へ出ろ」

 言われるままに外に出る。二個のケーキを平らげたシュミラも一緒だ。

 俺の家は王都にあるが、表通りからは外れている。なので、人々や馬車の往来は少ない方だ。今は少し離れた家の玄関口で、二人の子供がボール遊びをしている程度だ。

「ふむ、今なら問題なさそうだな。よしティム、これから私が教える通りにするのだ。良いな」

 オースティンはそう言って、俺に小手の使い方をレクチャーしてくれた。シュミラも横で、興味深そうに様子を見ている。

 本来、魔術を使う為には強い魔力が必要だ。魔術士は訓練によって、周囲に漂う「魔素」を集め、それを魔力に変換出来るようになるという。

 だがこの小手はそれを簡略化出来るらしい。魔術の訓練をした者ではなくとも、「風」の動きを操る魔術に限り、使用可能との事だった。

「よし、ではやってみろ」

「あ、ああ」

 俺は教わった通りに、両手を前に突き出した。そして発動に必要な言葉を発する。

「風よ、集まれ!」

 次の瞬間、目の前に突風が吹き荒れる。俺の家の正面にある家、つまりお向かいさんの玄関口にある樽や木箱が、グルグルと回りながら空中に舞い上がった。

「おおお! すっげぇ!」

「すごーい!」

 目をキラキラさせて感動する俺とシュミラ。完全に童心に帰ってしまっていた。ボール遊びをしていた近所の子供たちも、キャッキャッとはしゃいでいる。

「はっはっはっ! 楽しいだろう? もちろん戦いにも役に立つ。練習すれば、自在に風をコントロール出来るようになるだろう。空を飛ぶ事さえ可能だ」

「空を!? マジかよじいちゃん!」

「ああ、マジだ」

 俺はワクワクが止まらなかった。ニヤニヤしながらシュミラを見る。シュミラも俺を、キラキラした目で見返す。

「空、飛べるんだってよ!」

「うん! すごいね、お兄ちゃん!」

 テンションマックスで大声で話していると、お向かいの奥さんが何事かと出てくる。

「ちょっ、ティムさん! ウチの木箱と樽に何してんだい!」

「あっ、すみません!」

 俺はペコペコと平謝りすると、空中に漂わせていた樽と木箱をゆっくりと下に下ろした。

「すいませんでしたぁ!」

 素早く土下座。お向かいさんは笑って許してくれた。ふぅ、優しい人で良かったぜ!

「たかが樽と木箱を浮かせた程度で、何をいきり立っておるのだろうな。人間とは不可解なものだ。やはり好きになれん」

 オースティンはそう言って肩をすくめる。彼は本来「人嫌い」だ。俺やシュミラには親切だが、基本的にはこんなものである。

「うーん、まぁ、あれが普通の反応だよ。気にすんなって。それにしても爺ちゃん、こんなすごい小手、本当に貰っていいのか?」

「ああ、好きに使え。だが絶対に売り飛ばすなよ。お前だから譲ったが、他の人間では使いこなせん。我欲に溺れて犯罪を犯す可能性もある」

「売るわけないだろ! ありがたく使わせてもらうよ」

 俺はその後も少し「風を操る魔術」を練習し、充分楽しんだ後で「冒険者証」に小手を収納した。

「そう言えば爺ちゃん、用件は二つあるんだよな? もう一つはなんだ?」

 俺が尋ねると、オースティンの顔から笑顔が消えた。

「うむ。お前の失った力の事だ。ここではなんだから、家に入ろう」

「あ、ああ」

 オースティンに促され、シュミラと共に家に入る。テーブルに着くと、偉大な賢者は「ふーっ」と溜息をついた。

「お前の力が奪われた件。どうやら闇ギルドが関係しているようなのだ」

 オースティンは重々しい口調でそう言った。

「闇ギルドって、あの闇ギルドか? 闇の神テネブラエを崇拝してるっていう」

「そうだ。私も薄々そうではないかと思っていたのだが、確信はなかった。だが、【裁定者】がそれを突き止めた」

 裁定者。罪人を捕まえ、処罰する権限を持つ者。

「犯人が捕まるのは時間の問題だろう。何かわかったら、お前にも教えよう」

 そう言って立ち上がるオースティン。

「待ってくれ爺ちゃん。もしもその犯人が捕まったら、裁定者はそいつを殺すのか?」

「ああ、恐らくな」

 マジか。そんなの納得が行かない。力を取り戻す可能性はゼロになってしまうし、力を奪われた理由もわからないままだ。

 裁定者は魔術ギルド所属の筈。それなら。

「爺ちゃん、頼みがある」

 オースティンは魔術ギルドの最高責任者。彼ならきっと、俺の望みを叶えてくれるだろう。
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