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第17話 病院でのラッキースケベ。
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目覚めると、右手に柔らかい感触があった。
「あっ、ティム様! お目覚めになったのですね!」
そう言って顔を覗き込んで来たのは、ダフネだ。透き通るようなスカイブルーの瞳で、俺を見つめている。
俺に何が起こった? 記憶を遡ってみる。ああ、そうか。訓練の後、家に帰ろうとして......そのまま気を失ったんだ。
「ダフネ、君が看病してくれたのか?」
痛みは引いていた。見たところアザも無く、傷もすっかり塞がっているようだ。
「あ、はい、途中からですが。ティム様が倒れた当初は、シュミラ様がつきっきりで看病されていたそうです。今は、そちらで眠っておられます」
ダフネが差す方向、俺の左手側に目を向ける。そこにはシュミラが、俺の腹に顔を埋めるようにして眠っていた。道理で腹が重いと思った。
「ありがとう、シュミラ」
俺はそっと、妹の茶色い髪を撫でた。少し癖のある髪。だがとても、手触りがいい。
「あ、あのティム様」
ダフネが俺に呼びかける。その白い頬は、ほんのりと赤みがさしている。
「そ、その、大変、不躾で恐縮なのですが、その、わ、わ、私の髪も、撫でて欲しいのです。その、私も、頑張って看病したので、あと、神術で、ティム様の治癒力を向上させましたし、その」
ダフネの顔は、みるみる赤く染まっていく。耳まで真っ赤だ。
「ああ、ありがとうダフネ」
俺は彼女の髪を撫でようと、右手を動かした。そう言えば、さっきから何やら柔らかいものが右手に当たっている。
「なんだ、これ」
俺は右手が触れているものを、キュッキュッと握ってみた。
「ひぁんっ! ティム様ぁっ、きょ、今日はなんだか、積極的ですね、んっ!」
眉を困ったように八の字にひそめつつも、なんだか嬉しそうなダフネ。
俺は一体、何を握っているんだ。視線をダフネの美しい顔から、俺の右手へと移動してみる。
「なっ!」
俺は目玉が飛び出しそうになった。俺の右手は、ダフネの豊満すぎる胸の谷間へと差し込まれていたのだ。
とすると、俺が今握っているものは当然......。
「ごめん!」
俺は右手を引っ込めようとした。だが、ダフネがその手をキュッと握り、そのままの状態に維持させる。
「いいんです。その、いっぱい、揉んで下さい。揉みしだいて下さい。そうすればティム様がもっと元気になると、姉上が仰っていました。ティム様の右手を胸に差し入れたのは、他ならぬ私自身なのです」
顔を赤くしたまま、ダフネは切なそうにそう言った。
ひそめた眉、潤んだ瞳、少し開いた口から見える舌。なんとも色っぽいその表情は、俺を劣情へと駆り立てる。
だが! 俺はグッと堪える。シュミラが俺の腹の上で寝ているのだ。ハレンチな事は慎まなければならない。
それにダフネは、男が女の胸を揉む、という事の意味を、いまいち理解していないように思える。
「ダフネ、気持ちは嬉しいんだが、この状態は非常にまずいんだ。誰かに見られると、俺はどすけべ、又は変態と呼ばれる羽目になる」
「そうなのですか?」
「ああ、そうなんだ。それに俺は、もう充分元気になった。だからすまないが、この手は引かせてもらうよ」
「わかりました。では、今度二人きりの時に揉んで下さいね」
そう言って微笑むダフネ。
「えっと、うん、そうだな。機会があれば」
俺は曖昧に返事をしつつ、彼女の胸から手を引こうとした。だがその瞬間、病室のドアがガチャリと開く。
「あーっ! 何やってるのよ、どすけべ! 変態!」
入って来たのはキーラだった。
「ばっ、違う! こ、これはな、ダフネが......いや、元はと言えばお前がダフネに指示したんだろうが!」
あたふたする俺。バッとダフネの胸から手を引く。その拍子に彼女の豊満な膨らみが、ゆさゆさっと豪快に揺れる。
「はぁんっ」
ダフネが体をビクンと震わせ、弓なりに体を反らせる。
「あっ、ごめん!」
悶えるダフネに、すかさず謝る。
「はぁ、はぁ、い、いえ、大丈夫です。ティム様の指が敏感な部分に触れてしまったので、少し驚いただけです」
「敏感な部分......」
ダフネの蠱惑的な姿を見ながら、思わず妄想に耽りそうになる。いやいや! 何も考えるな!
ブンブンと頭を振る俺を、面白そうに見つめるキーラ。
「クスクス。どうやら効果あったみたいね、ダフネの看病。もうすっかり元気じゃない。仕上げに、私がマッサージしてあげるわ。ダフネ、ちょっとどいて。あ、それとその、チンチクリンをソファーに寝かせてあげて」
「はい、姉上」
ダフネは素直に立ち上がり、シュミラを抱き抱えてソファーに寝かせた。
キーラは「ふふん」と鼻で笑い、俺にかけられていた布団を剥ぎ取る。
「うふふ、本当に元気。とっておきのマッサージしてあげるね......ほら、どう? 気持ちいいでしょ?」
「うあ、それやばい! 気持ち良すぎる!」
キーラのマッサージ技術は超一流だった。こんなロリッ娘に、俺がいいようにされるなんて......悔しい。だが、認めざるを得ない。こんなマッサージをされたら、きっと誰もが昇天してしまうだろう。
「クスクス。そろそろトドメを刺してあげるね」
キーラはそう言って俺の上に跨った。そして前屈みになり、俺の頬にキスをする。それから俺の服をまくり上げ、胸にもキスをした。
「キーラ、何をする気だ!? それ以上はまずいぞ!」
俺は言葉とは裏腹に、心臓が高鳴っていた。いやいや、何を期待しているんだ。どう考えても、まずいだろう。場所もまずいし、ダフネも見ている。それにシュミラだって寝ているんだ。
「ティム様の胸板、素敵です」
ベッドの側にだって見ていたダフネが、うっとりと目を細める。
「うふふ、そうね。とっても素敵。それに、食べちゃいたいくらい、可愛いわ」
そう言って、舌舐めずりをするキーラ。
「待てキーラ! 早まるな!」
「もうダメ。我慢出来ないの。さぁ、トドメよ!」
キーラはニヤリと笑うと、俺の両脇の下に素早く手を滑り込ませ、激しくくすぐった。
「こちょこちょこちょこちょ!」
「うぎゃーはっはっはっ!」
俺はもんどり打って暴れたが、キーラはくすぐりの手を止めない。
「うひゃひゃひゃ! 勘弁してくれ!」
「ダメよ! この程度じゃ許さないわ! 私とダフネを、ないがしろにした罰よ!」
そう言った後、キーラのくすぐりは止まった。かと思えば、大粒の涙をボロボロとこぼす。
「あんたに会えなくて、すごく、寂しかった。悲しかった。見えすいた仮病なんて使うんじゃないわよ! かと思えば、今度は大怪我で昏睡! はぁ!? って感じよ!」
彼女の言う事はもっともだった。俺は自分が傷付きたくないからという理由で、彼女を傷つけていたのだ。それに、ダフネも。
俺はキーラとダフネを見つめた。二人とも泣いていた。
「ごめん、キーラ。ダフネ。あの時は俺、元気が出なくて。自分が情けなくて、合わせる顔がなかったんだ。力を奪われ、勲章まで無くしてしまって。お前らに、愛想を尽かされると思ったんだ。それが怖かった。だから、お前らが俺を慕ってくれているのは、幻想だと思う事にしたんだ」
俺はまた自分が情けなくなって、思うように声が出なかった。どうにか絞り出した声は、かすれていた。
「ティム様。私も姉上も、ティム様を心から慕っています。愛しています。ティム様が強いから、英雄だから、好きになった訳ではありません。もちろん、命を救われた事に恩は感じています。ですが、それ以上に、あなた様の心が好きなのです。その優しさと勇気を、愛してやまないのです」
ダフネはベッドの横で跪き、俺の手をそっと握る。
「ダフネの言う通りだわ。そんな事もわからないなんて、男として失格よティム。だけど、心を入れ替えて私達を受け入れるなら、許してあげるわ」
泣きながら笑うキーラ。八重歯が覗く笑顔は、最高にチャーミングだった。
「ああ。もちろんだ。お前らのお陰で、救われたよ。元気になった。いつも俺を思ってくれて、ありがとうキーラ。ありがとうダフネ。俺はお前らが好きだ。同じように、愛してる」
俺は二人を抱きしめた。キーラは俺の顔や首筋に雨のようなキスを降らせ、ダフネは一回だけ、そっと頬に口づけをしてくれた。
「ああー! キーラちゃん! ダフネちゃん! 何してるの! 私のお兄ちゃんを取らないで!」
シュミラの声。キーラとダフネがグイッと押し退けられ、シュミラが胸に飛び込んでくる。
「お兄ちゃん! お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 死ぬかと思った! もう、ご飯食べてもらえないと思った! お話出来ないと思った! もう、もう、髪を撫でてもらえないかと思ったよう!」
シュミラの顔は、涙でびしょ濡れだった。俺は妹の髪を優しく撫で、彼女を抱きしめる。
「ただいまシュミラ。ずっと看病してくれたんだってな。本当にありがとう。お昼ご飯、食べられなくてごめんな」
「ううー。お兄ちゃんの、ばかぁ」
涙で濡れた顔を俺の胸に擦り付け、シュミラは嗚咽を漏らす。そこへドアのノック。医術士が病室へと入ってきた。
「お目覚めですねティムさん。良かった。怪我はもう完治していますので、後は意識が戻るのを待つだけだったんです」
人の良さそうな、中年の男性だった。俺より少し年上だろうか。髪に少し、白いものが混じり始めている。
「先生、俺、どのくらい意識を失ってたんでしょうか」
俺が尋ねると、医術士はニコリと微笑む。
「三日間です。普通なら全治一ヶ月と言ったところでしょうが、そちらのお嬢さんは神術の達人なのですね。手術の後、当院の神術士の治療に加わって、あなたの治癒力を大幅に向上させてくださいました。彼女に感謝です」
医術士はペコリとダフネに頭を下げた。ダフネは恐縮したように手を振る
「いえ、とんでもないです。出来る事をしたまでですから。ですがお役に立てて、光栄です」
そうだったのか。俺は改めてダフネを見た。
「そう言えば、まだ髪を撫でてなかったな。おいで、ダフネ」
「ティム様♡」
もじもじと俺に近寄り。頭を差し出すダフネ。
「本当にありがとう、ダフネ」
「いえ、あの、はい♡」
金色の美しいショートヘアを、さらさらと撫でる。キーラとシュミラが、羨ましそうにその様子を見つめている。だが空気を読んだのか、何も言わなかった。
「えー、その、コホン。と言う訳で、ティムさん。あなたは既に健康体です。即座に退院の手続きをお願いします」
医術士は居心地悪そうに、硬い笑顔を見せた。
「そうですね、わかりました。先生。本当にありがとうございました」
「いえ。賢者様から事情は伺いましたが、あまりご無理はされないよう、お気をつけくださいね。では」
「ええ、気をつけます。お世話になりました」
医術士が病室を出て行った後、三人娘はギャーギャーと騒ぎながら、俺の服を着替えさせてくれた。
着替えながら、俺は「ちからをためる」を使いこなせるようになった事を伝えた。そして、その詳細も。
「お兄ちゃん、すごい! お祝いしなきゃ!」
「さすがはティム様! 勇者ライトメイン様と同じ力をお持ちとは!」
「そっかそっか。じゃあ十分過ぎたら戦えないんだね。私達がしっかり守らなきゃね」
三人は自分の事のように喜んでくれた。俺も彼女達を守れる力を持つ事が出来て、それが自信に繋がった。
オースティンは絶対に誰にも話すなと言ったが、彼女達は別格だ。シュミラはもちろん、ダフネもキーラも、俺の家族のようなものだ。秘密を持つなんて出来ない。
そうだ、ミストにも話しておこう。病院からの帰り道、俺は「連帯の指輪」でミストに連絡を取ってみた。
だが彼からの返事はなかった。まぁいい。次にあった時、伝えるとしよう。
すっかりお祭りムードで騒ぐ三人を微笑ましく思いながら、俺は三日ぶりの我が家へと歩いて行った。
「あっ、ティム様! お目覚めになったのですね!」
そう言って顔を覗き込んで来たのは、ダフネだ。透き通るようなスカイブルーの瞳で、俺を見つめている。
俺に何が起こった? 記憶を遡ってみる。ああ、そうか。訓練の後、家に帰ろうとして......そのまま気を失ったんだ。
「ダフネ、君が看病してくれたのか?」
痛みは引いていた。見たところアザも無く、傷もすっかり塞がっているようだ。
「あ、はい、途中からですが。ティム様が倒れた当初は、シュミラ様がつきっきりで看病されていたそうです。今は、そちらで眠っておられます」
ダフネが差す方向、俺の左手側に目を向ける。そこにはシュミラが、俺の腹に顔を埋めるようにして眠っていた。道理で腹が重いと思った。
「ありがとう、シュミラ」
俺はそっと、妹の茶色い髪を撫でた。少し癖のある髪。だがとても、手触りがいい。
「あ、あのティム様」
ダフネが俺に呼びかける。その白い頬は、ほんのりと赤みがさしている。
「そ、その、大変、不躾で恐縮なのですが、その、わ、わ、私の髪も、撫でて欲しいのです。その、私も、頑張って看病したので、あと、神術で、ティム様の治癒力を向上させましたし、その」
ダフネの顔は、みるみる赤く染まっていく。耳まで真っ赤だ。
「ああ、ありがとうダフネ」
俺は彼女の髪を撫でようと、右手を動かした。そう言えば、さっきから何やら柔らかいものが右手に当たっている。
「なんだ、これ」
俺は右手が触れているものを、キュッキュッと握ってみた。
「ひぁんっ! ティム様ぁっ、きょ、今日はなんだか、積極的ですね、んっ!」
眉を困ったように八の字にひそめつつも、なんだか嬉しそうなダフネ。
俺は一体、何を握っているんだ。視線をダフネの美しい顔から、俺の右手へと移動してみる。
「なっ!」
俺は目玉が飛び出しそうになった。俺の右手は、ダフネの豊満すぎる胸の谷間へと差し込まれていたのだ。
とすると、俺が今握っているものは当然......。
「ごめん!」
俺は右手を引っ込めようとした。だが、ダフネがその手をキュッと握り、そのままの状態に維持させる。
「いいんです。その、いっぱい、揉んで下さい。揉みしだいて下さい。そうすればティム様がもっと元気になると、姉上が仰っていました。ティム様の右手を胸に差し入れたのは、他ならぬ私自身なのです」
顔を赤くしたまま、ダフネは切なそうにそう言った。
ひそめた眉、潤んだ瞳、少し開いた口から見える舌。なんとも色っぽいその表情は、俺を劣情へと駆り立てる。
だが! 俺はグッと堪える。シュミラが俺の腹の上で寝ているのだ。ハレンチな事は慎まなければならない。
それにダフネは、男が女の胸を揉む、という事の意味を、いまいち理解していないように思える。
「ダフネ、気持ちは嬉しいんだが、この状態は非常にまずいんだ。誰かに見られると、俺はどすけべ、又は変態と呼ばれる羽目になる」
「そうなのですか?」
「ああ、そうなんだ。それに俺は、もう充分元気になった。だからすまないが、この手は引かせてもらうよ」
「わかりました。では、今度二人きりの時に揉んで下さいね」
そう言って微笑むダフネ。
「えっと、うん、そうだな。機会があれば」
俺は曖昧に返事をしつつ、彼女の胸から手を引こうとした。だがその瞬間、病室のドアがガチャリと開く。
「あーっ! 何やってるのよ、どすけべ! 変態!」
入って来たのはキーラだった。
「ばっ、違う! こ、これはな、ダフネが......いや、元はと言えばお前がダフネに指示したんだろうが!」
あたふたする俺。バッとダフネの胸から手を引く。その拍子に彼女の豊満な膨らみが、ゆさゆさっと豪快に揺れる。
「はぁんっ」
ダフネが体をビクンと震わせ、弓なりに体を反らせる。
「あっ、ごめん!」
悶えるダフネに、すかさず謝る。
「はぁ、はぁ、い、いえ、大丈夫です。ティム様の指が敏感な部分に触れてしまったので、少し驚いただけです」
「敏感な部分......」
ダフネの蠱惑的な姿を見ながら、思わず妄想に耽りそうになる。いやいや! 何も考えるな!
ブンブンと頭を振る俺を、面白そうに見つめるキーラ。
「クスクス。どうやら効果あったみたいね、ダフネの看病。もうすっかり元気じゃない。仕上げに、私がマッサージしてあげるわ。ダフネ、ちょっとどいて。あ、それとその、チンチクリンをソファーに寝かせてあげて」
「はい、姉上」
ダフネは素直に立ち上がり、シュミラを抱き抱えてソファーに寝かせた。
キーラは「ふふん」と鼻で笑い、俺にかけられていた布団を剥ぎ取る。
「うふふ、本当に元気。とっておきのマッサージしてあげるね......ほら、どう? 気持ちいいでしょ?」
「うあ、それやばい! 気持ち良すぎる!」
キーラのマッサージ技術は超一流だった。こんなロリッ娘に、俺がいいようにされるなんて......悔しい。だが、認めざるを得ない。こんなマッサージをされたら、きっと誰もが昇天してしまうだろう。
「クスクス。そろそろトドメを刺してあげるね」
キーラはそう言って俺の上に跨った。そして前屈みになり、俺の頬にキスをする。それから俺の服をまくり上げ、胸にもキスをした。
「キーラ、何をする気だ!? それ以上はまずいぞ!」
俺は言葉とは裏腹に、心臓が高鳴っていた。いやいや、何を期待しているんだ。どう考えても、まずいだろう。場所もまずいし、ダフネも見ている。それにシュミラだって寝ているんだ。
「ティム様の胸板、素敵です」
ベッドの側にだって見ていたダフネが、うっとりと目を細める。
「うふふ、そうね。とっても素敵。それに、食べちゃいたいくらい、可愛いわ」
そう言って、舌舐めずりをするキーラ。
「待てキーラ! 早まるな!」
「もうダメ。我慢出来ないの。さぁ、トドメよ!」
キーラはニヤリと笑うと、俺の両脇の下に素早く手を滑り込ませ、激しくくすぐった。
「こちょこちょこちょこちょ!」
「うぎゃーはっはっはっ!」
俺はもんどり打って暴れたが、キーラはくすぐりの手を止めない。
「うひゃひゃひゃ! 勘弁してくれ!」
「ダメよ! この程度じゃ許さないわ! 私とダフネを、ないがしろにした罰よ!」
そう言った後、キーラのくすぐりは止まった。かと思えば、大粒の涙をボロボロとこぼす。
「あんたに会えなくて、すごく、寂しかった。悲しかった。見えすいた仮病なんて使うんじゃないわよ! かと思えば、今度は大怪我で昏睡! はぁ!? って感じよ!」
彼女の言う事はもっともだった。俺は自分が傷付きたくないからという理由で、彼女を傷つけていたのだ。それに、ダフネも。
俺はキーラとダフネを見つめた。二人とも泣いていた。
「ごめん、キーラ。ダフネ。あの時は俺、元気が出なくて。自分が情けなくて、合わせる顔がなかったんだ。力を奪われ、勲章まで無くしてしまって。お前らに、愛想を尽かされると思ったんだ。それが怖かった。だから、お前らが俺を慕ってくれているのは、幻想だと思う事にしたんだ」
俺はまた自分が情けなくなって、思うように声が出なかった。どうにか絞り出した声は、かすれていた。
「ティム様。私も姉上も、ティム様を心から慕っています。愛しています。ティム様が強いから、英雄だから、好きになった訳ではありません。もちろん、命を救われた事に恩は感じています。ですが、それ以上に、あなた様の心が好きなのです。その優しさと勇気を、愛してやまないのです」
ダフネはベッドの横で跪き、俺の手をそっと握る。
「ダフネの言う通りだわ。そんな事もわからないなんて、男として失格よティム。だけど、心を入れ替えて私達を受け入れるなら、許してあげるわ」
泣きながら笑うキーラ。八重歯が覗く笑顔は、最高にチャーミングだった。
「ああ。もちろんだ。お前らのお陰で、救われたよ。元気になった。いつも俺を思ってくれて、ありがとうキーラ。ありがとうダフネ。俺はお前らが好きだ。同じように、愛してる」
俺は二人を抱きしめた。キーラは俺の顔や首筋に雨のようなキスを降らせ、ダフネは一回だけ、そっと頬に口づけをしてくれた。
「ああー! キーラちゃん! ダフネちゃん! 何してるの! 私のお兄ちゃんを取らないで!」
シュミラの声。キーラとダフネがグイッと押し退けられ、シュミラが胸に飛び込んでくる。
「お兄ちゃん! お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 死ぬかと思った! もう、ご飯食べてもらえないと思った! お話出来ないと思った! もう、もう、髪を撫でてもらえないかと思ったよう!」
シュミラの顔は、涙でびしょ濡れだった。俺は妹の髪を優しく撫で、彼女を抱きしめる。
「ただいまシュミラ。ずっと看病してくれたんだってな。本当にありがとう。お昼ご飯、食べられなくてごめんな」
「ううー。お兄ちゃんの、ばかぁ」
涙で濡れた顔を俺の胸に擦り付け、シュミラは嗚咽を漏らす。そこへドアのノック。医術士が病室へと入ってきた。
「お目覚めですねティムさん。良かった。怪我はもう完治していますので、後は意識が戻るのを待つだけだったんです」
人の良さそうな、中年の男性だった。俺より少し年上だろうか。髪に少し、白いものが混じり始めている。
「先生、俺、どのくらい意識を失ってたんでしょうか」
俺が尋ねると、医術士はニコリと微笑む。
「三日間です。普通なら全治一ヶ月と言ったところでしょうが、そちらのお嬢さんは神術の達人なのですね。手術の後、当院の神術士の治療に加わって、あなたの治癒力を大幅に向上させてくださいました。彼女に感謝です」
医術士はペコリとダフネに頭を下げた。ダフネは恐縮したように手を振る
「いえ、とんでもないです。出来る事をしたまでですから。ですがお役に立てて、光栄です」
そうだったのか。俺は改めてダフネを見た。
「そう言えば、まだ髪を撫でてなかったな。おいで、ダフネ」
「ティム様♡」
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「いえ、あの、はい♡」
金色の美しいショートヘアを、さらさらと撫でる。キーラとシュミラが、羨ましそうにその様子を見つめている。だが空気を読んだのか、何も言わなかった。
「えー、その、コホン。と言う訳で、ティムさん。あなたは既に健康体です。即座に退院の手続きをお願いします」
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「そうですね、わかりました。先生。本当にありがとうございました」
「いえ。賢者様から事情は伺いましたが、あまりご無理はされないよう、お気をつけくださいね。では」
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着替えながら、俺は「ちからをためる」を使いこなせるようになった事を伝えた。そして、その詳細も。
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オースティンは絶対に誰にも話すなと言ったが、彼女達は別格だ。シュミラはもちろん、ダフネもキーラも、俺の家族のようなものだ。秘密を持つなんて出来ない。
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冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
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