二十年間レベル1のおっさん、恋人を寝取られた上にギルドを追放される〜ハズレスキル「ちからをためる」で溜め続けた力、今こそ解放します〜完全版

アキ・スマイリー

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第16話 リミッター解除。

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 間に合わない。

 十秒なんて溜め時間、確保出来ない。

 クリスタルの怒涛の攻撃に、俺はほとんど何も出来ずに這いつくばっていた。

 全身のあらゆる場所を拳や蹴りで打ちつけられ、骨折し、内出血してアザが出来ていた。

 鼻血が出ていて呼吸がしづらい。まぶたが切れていて、視界も悪い。

 手足が動かない。全身が痛い。激痛で気が狂いそうだった。

 戦いを諦める理由は山ほどあった。もう戦えない、許して欲しい。そう命乞いすれば、オースティンは助けてくれるかも知れない。

 そもそも、これは訓練だ。俺が死んでしまっては意味がない。

 そうだ。このまま倒れていれば、きっとオースティンは助けてくれる。

 俺には無理だ。勇者ライトメインの真似事なんて、最初から無理があったんだ。

 このまま眠ってしまおう。そうすれば、楽になれる。

 ......なんてな。以前の俺ならそう思っていた。だが、今の俺は違う。

(お兄ちゃん! 負けないで!)

 頭の中に、シュミラの悲痛な表情。俺の痛みを、自分の痛みのように一緒に苦しみ、そしていたわってくれる、優しい妹。

 俺は英雄になる。シュミラの為に、本物の英雄になるんだ。

「負けて、たまるか!」

 両腕に力を込め、床から体を持ち上げようとする。だが、激痛で力が入らない。

 くそっ! 痛みがなんだってんだ! 動け! 動け!

 だが体は動かない。きっと本能が、肉体を守ろうとしているのだ。もうこれ以上動いてはいけない。そう言っているのだろう。

 だが、仮に立ち上がる事が出来たとして。俺はクリスタルに、文字通り手も足も出ない。

 俺の唯一の「技」である「衝撃波」。戦いの中で「一箇所に溜める」という技術に慣れていった俺は、溜める時間を短くしてみたりもした。すると十秒以上じゃないと出せなかった衝撃波が、それ以下の時間でも出せるようになっていた。

 だが、三秒以下には出来ない。それ以下だと溜めの効果が無い。

 三秒溜めた「衝撃波」は、クリスタルに直撃した。彼は敢えて避けずに、その身に受けて見せたのだ。だが、その体には傷一つ付いていなかった。

「衝撃波」では勝てない。防御に転じても、彼の動きを目で捉える事は不可能だった。あまりにも動きが早い。

 どうすればいい。どうすれば。

 この体の痛みを消し、なおかつ敵の動きを見切る動体視力を手に入れるには、どうするべきなのか。

 俺は脳をフル回転させた。まさにオースティンが言った通りの現象。人は窮地に陥った時、思考がめぐるましく働く。

 痛みは本能が体の危険を脳に知らせている。本能が体を守ろうとしているから、体が動かない。

 本能。脳。動体視力。

 そうか! わかったぞ!

「脳」だ。

 力を一箇所に溜められるのなら、脳にも溜められる筈。本能を制御し、動体視力を高めるには、それしかない!

 時間は三秒だ。試してみる価値はある!

 脳よ、目覚めろ! 1、2、3!

「ちから、開放!」

 俺は叫んだ。口に出さなくてもスキルは使えるが、今は叫びたかった。

 目の奥で、何かが光った。頭の中で、チリチリと何かが焦げるような音がする。

 思考が加速する。そして全てを理解した。自分の肉体、スキルの使い方を。

 まず体の痛みを麻痺させる。そして筋力を限界値まで引き上げ、瞬時に飛び起きる。

 周囲の時間をゆっくりに感じる。脳が加速しているせいだ。この状態を維持できるのは十分程度。時間内に相手を倒さなければならない。

「ほう。何かを掴んだようだなティム。よしクリスタル、行け」

「かしこまりましたご主人様」

 倒れた俺の様子を見ていたクリスタルだったが、再び俺への攻撃を開始する。

 俺は傷だらけのズタボロで、クリスタルはほとんど勝利を確信している筈だ。だが、彼に一切の油断は無い。素早くダッシュで距離を詰めると、真っ直ぐに俺の眉間を狙って拳を打ち込んで来た。

 見える。クリスタルの動きが。俺は両腕を、円を描くように内から外へと回す。クリスタルの拳の打撃力は、一撃で骨を粉々に砕く。受け止めるのは得策ではない。

 俺は円を描く腕で、クリスタルの拳撃を内から外へと逸らす。そしてその際、拳撃の持つ「力」を吸収。自分の「力」へと変える。ライトメインのやっていた「外の力を自分のものとする」とは、この事だったのだ。

 脳を加速して全てを悟った俺は、卓越した動体視力で、クリスタルの攻撃を捌いていく。

「馬鹿な! 人間にこんな動きが出来る筈がない!」

 クリスタルは同様している。人形とは言っても、心はあるようだ。

 何度目かの蹴りを足で逸らした時、クリスタルに隙が出来た。ほんの少し、よろめいたのだ。

 俺は当然見逃さない。これまで吸収し続けた「クリスタルの攻撃」の力。それを全て右拳に乗せ、彼の左脇腹に「ズドンッ」と打ち込む。

「うぐぇっ!」

 凄まじい破壊音。クリスタルの宝石で出来た体が、脇腹から粉々に砕け散って崩壊していく。

「あぐあああーっ」

 断末魔の叫びを残し、クリスタルは輝く砂粒のようになり、動かなくなった。

 俺は突き出した右拳をジッと見つめたまま、静止していた。

「良くやった、ティム」

 オースティンの声で、俺は我に帰る。彼はいつの間にか、俺の隣にたっていた。

「ああ。ギリギリだったけど、なんとかなった」

 俺は達成感で泣きそうになるのを堪え、オースティンに説明をした。自分の中で、導き出した答えを。

「なるほどな。よくその答えを導き出した。さすがだな、ティム。私はお前なら、きっとやれると信じていた」

「よく言うよ。やれなきゃ死ぬところだったぜ」

 まさに洒落では済まない状況ではあったが、何故か笑いがこみ上げた。

 オースティンも「フッ」と笑い、俺の肩をポンと叩いた。

「殺すわけないだろう。大事な孫を」

「どうだか」

「本当さ。だが、お前の命を狙う者はいるだろうな。一体誰がお前の力を奪ったのか。そしてその目的は何か。それを突き止める必要があるだろう」

「そうだな」

 シュタインの顔が思い浮かぶ。犯人は、やっぱりあいつしか考えられない。

「それとな、お前が『ちからをためる』を使いこなせるようになった事は、秘密にしておけ。絶対に誰にも言ってはならん」

 オースティンは真剣な眼差しで、俺をジッと見つめた。

「仲間になら、いいだろ?」

 俺はダフネ、キーラ、ミストの事を考えた。彼女達なら、信頼出来る。

「ふむ。そうだな......使いこなせる、と言った説明なら構わないが、詳細は絶対に言ってはならない。理由は二つ。まず一つは、戦法の基本が『待ち』、つまりカウンター狙いだと言う事だ。次に二つ目。カウンター狙いが出来ない状況が生じた場合。攻撃を仕掛ける為に肉体のリミッターを解除すれば、その後の反動は尋常ではない。今回のようにな。下手をすれば死ぬぞ。よってカウンター狙いがバレてはまずいのだ」

「まぁ、確かにな。ネタバレしたら、相手は攻撃してこない可能性がある。体を無理やり動かす為に、今回は肉体のリミッターを解除した。つまり痛みを麻痺させ、肉体の限界ギリギリまで力を引き出したんだ。今のところまだ痛みはないけど、体の状態は把握してる。一歩間違えば死ぬところだった」

 俺はクリスタルに渾身の拳撃を放った右拳を見る。皮膚は裂け、骨が見えている。そしてその骨すらも、粉々だ。

「そう言う事だ。今まで通り、慎み深く謙虚に振る舞う事だ。もちろん、バレないように悪人を成敗するのは構わん」

 悪戯っぽく笑うオースティン。俺も釣られてニヤッと笑う。

「ああ、うまくやるさ」

 俺の笑みを見て安心したのか、オースティンは優しい微笑を浮かべて踵(きびす)を返す。

「ではこれにて訓練は終了だ。この扉の取手を、行先を念じて捻ってみろ。好きな部屋に行くことが出来るぞ。私のお勧めは病院だ」

 そう言って、「魔扉」の取手を指し示すオースティン。俺の体は全身ボロボロ。生きているのが不思議な程の重症で、血まみれである。つまり、彼の忠告は最(もっと)もだ。だが、俺は先に行きたい所があった。

「悪いな爺ちゃん。俺が今行きたい場所は、ここさ!」

 俺は勢いよく、扉の取手を掴んで捻る。扉の向こうは、俺の家の玄関口。入ってすぐのダイニングキッチンだ。シュミラが料理を作っている背中が見えた。

 トントントン、と何かを包丁で刻む音。今、何時だろう。どうやら昼食には間に合ったようだ。

 俺は扉の向こうへ足を踏み出した。シュミラが気付き、振り返る。

「あっ、お兄ちゃん! おかえりなさい! って、ええ!? どうしたのその傷! ボロボロじゃない!」

「ただいまシュミラ。こんな傷、大した事ないさ。お前の作る昼ごはんが、食べたくてさ......」

 踏み出した右足の力が抜け、体勢が崩れる。

「お兄ちゃん!」

「ティム!」

 体が、頭が、したたかに床に打ち付けられる。シュミラとオースティンの呼ぶ声が遠くに聞こえる。

 俺の意識は、そこで途絶えた。

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