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第8章
第102話 スネイクリング①
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何度も押し寄せるラットリングの波を、ハンターたちは順調に殲滅した。 ミツキは相変わらずKOのみでトドメを拒否したが、アリスはそれを容認した。 徐々にトドメに慣れさせる予定。 加えて、ラットリングに逃げられるアリスはトドメを刺せないミツキと役割分担が噛み合った。 ミツキがKOし、アリスがトドメ。 そんな図式だ。
次が最後の波だろう。 皆がそう思っていたとき、櫓の上で双眼鏡を手に市役所職員が悲鳴を上げる。
「あれはッ!」
なんだなんだ? どうした? ハンターたちは櫓の上を振り返る。
ハンターの1人が尋ねる。
「何が見えましたー?」
職員は必死の形相
「スネイクリングだっ! スネイクリングだぞっ!」
ハンターの間に緊張が走る。 出たかスネイクリングっ! スネイクリングは蛇の頭部を持つ巨大ヒューマノイド。 ラットリングが大好物だから、ラットリングの "洪水" には時々スネイクリングが出没する。
◇❖◇
職員は櫓から降りてきた。
「君たちで倒せるか?」
「何体ですか?」
職員は櫓の上から双眼鏡ごしに見た情景を思い出す。
「4体だ」
「4体か...」「ラットリング退治と別に報酬は出ますよね?」
「出るよ」
スネイクリングは "指定モンスター" に指定されており、退治の費用は市や国が負担する。
「ふ~む」「13人で4体かー」
ハンターたちは、この場で退治することを検討し始めた。 報酬もさることながら、スネイクリングを退治して箔を付けたい。 大物退治の実績を作ってパートナーに出世したい。 いったん町へ戻ると、自分たちに依頼が回される可能性は低い。 依頼された大手事業所はスネイクリング退治を、下級~中級所員の自分らに任せはしないだろう。 だから自分たちの手で倒すなら、今この場で戦うしか無い。
その思いはアリスも同じ。
「楽勝らくしょー。 みんなで ガンバロー」
検討を続けるハンターたちに、ミカは予め断っておくことにした。
「私とこの子はパスね。 スネイクリングには水が通じないもの」
スネイクリングの喉頭蓋はヘビと同じく強固な骨で出来ており、その喉頭蓋が強力な筋肉により閉じられる。 なので水たまりはスネイクリングの気道に侵入できない。 ミカは幼い頃から、お祖父ちゃんに言い聞かされて育った。 ミカや、決してスネイクリングと戦ってはいかんよ。 あれは水使いにとっての悪夢だ。
◇
ミカとトオマスが不参加を表明し、11人でスネイクリング4匹を相手取ることになった。 それを潮目に、慎重論が続出する。
「しかし、この装備じゃ心もとないな」
きょう集まったハンターの多くは、ラットリング退治とあって軽量な武器を持ってきている。 大きく硬いスネイクリングと戦うには武器の重量とリーチが足りない。
「クロスボウも必要だしな」
猛毒を吐くスネイクリング相手に、遠距離攻撃をできるクロスボウは有り難い武器だ。 生命力が高いスネイクリングにクロスボウで致命傷を負わせるのは難しいが、弱らせることは出来る。
「解毒剤も必要だよ」
町へ戻ろうとの意見が主流となる中、アリスは流れに逆らう。 彼女には借金がある。
「待って。 ホントにそれでいいのかな?」
アリスは澄ました顔で見解を述べる。
「ここで私たちが町へ戻れば、次の波のラットリングが野山に分け入り爆発的に増えちゃうケド?」
スネイクリングと戦わないなら、ラットリングの最終波は放置することになる。 最終波を退治するなら必然的にスネイクリングと対峙するからだ。
「そんなに増えないんじゃないかな。 スネイクリングが一緒だから」 スネイクリングが食べるだろ、たぶん。
反論されてアリスの口調が熱を帯びる
「それにしてもスネイクリングを放置するわけでしょ? あたしは反対」
大人のハンターは困った顔でアリスを宥める。
「放置するわけじゃない。 町に戻ってすぐ退治の依頼が出される」
「でもきっと被害が出る。 やっぱりダメ。 あんな危険な生き物、今すぐ退治しないと」
「君が優秀なのは知っている。 しかし無茶は禁物だ。 強欲なハンターは早死にするよ」
「逃げたい人は逃げればいい。 あたしは戦う!」
他の者が帰りたいなら、いっそ都合がいい。 ミツキと2人で4匹ぜんぶを倒し、『セレスティアル・ドラゴンズ』で報酬を独り占めだ。
意図せずして挑発的なアリスの口ぶりに、アリスを批判する声が相次ぐ。
「ハンター業で最も重要なのは慎重さだ。 誰も教えてくれなかったのか?」「君のその自信はどこから来るんだ? クイ混じりの坊やは刃物を使えないんだろう?」「モンスターを舐めてると、いつか痛い目に遭うぞ」「欲をかいてモンスターにやられた愚か者を、私は山ほど見てきたわ」
面倒になってきたので、アリスは動機を偽ることにした。 ノンノン と首を横に振って反対意見を押さえつけ、高らかに建前を宣言をする。
「おカネが欲しいとかじゃないの。 あたしは愛するコンデコマ市を守りたいだけ!」
アリスの建前宣言を噛み砕くと次の通り:
あたしは自己犠牲の精神に溢れるからコンデコマ市のため今すぐスネイクリングと戦うの。 自己犠牲だから危険は厭わない。 だから、"無茶だ" とか "慎重に" とかって説教しないで。 "欲をかくな" も見当違い。 だってアタシが戦う理由はおカネじゃないもの。
◇
トオマスは、アリスの上辺だけは立派な言葉に感激した。
「タカラズカさん! 僕も一緒に―」
思わず参加を表明しかけるトオマスの耳を、ミカが引っ張る。
「トオマス、ダメよ。 あなたはまだ訓練中」
「イテテ。 ミカさん、耳はやめてください」
◇
大人のハンターは大人なので、トオマスと違って感情に流されない。 アリスの愛市精神にも動じない。
「無茶はよしなさい。 態勢を整えて出直そう」
アリスは眉間にしわを寄せ、唇を噛み苦悩する。
「でも。 態勢を整えてる間に被害が出たら...」
アリスは苦悩を手早く済ませ、打って変わって勇ましい表情に。
「よし。 じゃあ、ここはアタシに任せてみんな逃げて! って、ミツキくん、あんたは違う」 なに帰ろうとしてんの。
アリスはおウチに帰ろうとするミツキの腕を掴んで引き止めると、他の者に言葉を挟む暇を与えず、俊敏に職員に向き直り確認を求める。
「ラットリング退治と別に報酬は出るのよね? いくら?」
「1匹あたり600万モンヌぐらいだと思う」
ギラリ。 双眸が貪欲に光るのを自覚し、アリスは顔を伏せた。 職員に見られたくない。
うつむき気味にアリスは問う。
「協会を通さないけどダイジョーブ?」
「ああ、その辺は事後処理で大丈夫だけど...」
「オッケー、じゃあちょっと行ってくる」
無茶だ、よしたまえ! 無謀よ、タカラズカさん! 強欲は早死にするぞー! 大人たちの制止の声に背中を押されて、アリスはミツキを伴い逃げるように駆け出した。
次が最後の波だろう。 皆がそう思っていたとき、櫓の上で双眼鏡を手に市役所職員が悲鳴を上げる。
「あれはッ!」
なんだなんだ? どうした? ハンターたちは櫓の上を振り返る。
ハンターの1人が尋ねる。
「何が見えましたー?」
職員は必死の形相
「スネイクリングだっ! スネイクリングだぞっ!」
ハンターの間に緊張が走る。 出たかスネイクリングっ! スネイクリングは蛇の頭部を持つ巨大ヒューマノイド。 ラットリングが大好物だから、ラットリングの "洪水" には時々スネイクリングが出没する。
◇❖◇
職員は櫓から降りてきた。
「君たちで倒せるか?」
「何体ですか?」
職員は櫓の上から双眼鏡ごしに見た情景を思い出す。
「4体だ」
「4体か...」「ラットリング退治と別に報酬は出ますよね?」
「出るよ」
スネイクリングは "指定モンスター" に指定されており、退治の費用は市や国が負担する。
「ふ~む」「13人で4体かー」
ハンターたちは、この場で退治することを検討し始めた。 報酬もさることながら、スネイクリングを退治して箔を付けたい。 大物退治の実績を作ってパートナーに出世したい。 いったん町へ戻ると、自分たちに依頼が回される可能性は低い。 依頼された大手事業所はスネイクリング退治を、下級~中級所員の自分らに任せはしないだろう。 だから自分たちの手で倒すなら、今この場で戦うしか無い。
その思いはアリスも同じ。
「楽勝らくしょー。 みんなで ガンバロー」
検討を続けるハンターたちに、ミカは予め断っておくことにした。
「私とこの子はパスね。 スネイクリングには水が通じないもの」
スネイクリングの喉頭蓋はヘビと同じく強固な骨で出来ており、その喉頭蓋が強力な筋肉により閉じられる。 なので水たまりはスネイクリングの気道に侵入できない。 ミカは幼い頃から、お祖父ちゃんに言い聞かされて育った。 ミカや、決してスネイクリングと戦ってはいかんよ。 あれは水使いにとっての悪夢だ。
◇
ミカとトオマスが不参加を表明し、11人でスネイクリング4匹を相手取ることになった。 それを潮目に、慎重論が続出する。
「しかし、この装備じゃ心もとないな」
きょう集まったハンターの多くは、ラットリング退治とあって軽量な武器を持ってきている。 大きく硬いスネイクリングと戦うには武器の重量とリーチが足りない。
「クロスボウも必要だしな」
猛毒を吐くスネイクリング相手に、遠距離攻撃をできるクロスボウは有り難い武器だ。 生命力が高いスネイクリングにクロスボウで致命傷を負わせるのは難しいが、弱らせることは出来る。
「解毒剤も必要だよ」
町へ戻ろうとの意見が主流となる中、アリスは流れに逆らう。 彼女には借金がある。
「待って。 ホントにそれでいいのかな?」
アリスは澄ました顔で見解を述べる。
「ここで私たちが町へ戻れば、次の波のラットリングが野山に分け入り爆発的に増えちゃうケド?」
スネイクリングと戦わないなら、ラットリングの最終波は放置することになる。 最終波を退治するなら必然的にスネイクリングと対峙するからだ。
「そんなに増えないんじゃないかな。 スネイクリングが一緒だから」 スネイクリングが食べるだろ、たぶん。
反論されてアリスの口調が熱を帯びる
「それにしてもスネイクリングを放置するわけでしょ? あたしは反対」
大人のハンターは困った顔でアリスを宥める。
「放置するわけじゃない。 町に戻ってすぐ退治の依頼が出される」
「でもきっと被害が出る。 やっぱりダメ。 あんな危険な生き物、今すぐ退治しないと」
「君が優秀なのは知っている。 しかし無茶は禁物だ。 強欲なハンターは早死にするよ」
「逃げたい人は逃げればいい。 あたしは戦う!」
他の者が帰りたいなら、いっそ都合がいい。 ミツキと2人で4匹ぜんぶを倒し、『セレスティアル・ドラゴンズ』で報酬を独り占めだ。
意図せずして挑発的なアリスの口ぶりに、アリスを批判する声が相次ぐ。
「ハンター業で最も重要なのは慎重さだ。 誰も教えてくれなかったのか?」「君のその自信はどこから来るんだ? クイ混じりの坊やは刃物を使えないんだろう?」「モンスターを舐めてると、いつか痛い目に遭うぞ」「欲をかいてモンスターにやられた愚か者を、私は山ほど見てきたわ」
面倒になってきたので、アリスは動機を偽ることにした。 ノンノン と首を横に振って反対意見を押さえつけ、高らかに建前を宣言をする。
「おカネが欲しいとかじゃないの。 あたしは愛するコンデコマ市を守りたいだけ!」
アリスの建前宣言を噛み砕くと次の通り:
あたしは自己犠牲の精神に溢れるからコンデコマ市のため今すぐスネイクリングと戦うの。 自己犠牲だから危険は厭わない。 だから、"無茶だ" とか "慎重に" とかって説教しないで。 "欲をかくな" も見当違い。 だってアタシが戦う理由はおカネじゃないもの。
◇
トオマスは、アリスの上辺だけは立派な言葉に感激した。
「タカラズカさん! 僕も一緒に―」
思わず参加を表明しかけるトオマスの耳を、ミカが引っ張る。
「トオマス、ダメよ。 あなたはまだ訓練中」
「イテテ。 ミカさん、耳はやめてください」
◇
大人のハンターは大人なので、トオマスと違って感情に流されない。 アリスの愛市精神にも動じない。
「無茶はよしなさい。 態勢を整えて出直そう」
アリスは眉間にしわを寄せ、唇を噛み苦悩する。
「でも。 態勢を整えてる間に被害が出たら...」
アリスは苦悩を手早く済ませ、打って変わって勇ましい表情に。
「よし。 じゃあ、ここはアタシに任せてみんな逃げて! って、ミツキくん、あんたは違う」 なに帰ろうとしてんの。
アリスはおウチに帰ろうとするミツキの腕を掴んで引き止めると、他の者に言葉を挟む暇を与えず、俊敏に職員に向き直り確認を求める。
「ラットリング退治と別に報酬は出るのよね? いくら?」
「1匹あたり600万モンヌぐらいだと思う」
ギラリ。 双眸が貪欲に光るのを自覚し、アリスは顔を伏せた。 職員に見られたくない。
うつむき気味にアリスは問う。
「協会を通さないけどダイジョーブ?」
「ああ、その辺は事後処理で大丈夫だけど...」
「オッケー、じゃあちょっと行ってくる」
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