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第1部
第3話 「刺青」
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審理室から連れ出されたマリカは手縄で手首を縛られ、逃げ出さないように腰ひもをつけられた状態で、職員に指示されるままに通路を歩く。 これからどういう手順を経て自分が流刑地に送られるのかマリカは知らない。
(もう2度とおうちに戻れないの? もう2度とお父様にもお母様にも会えないの? 私はこの格好のままで流刑地に送られるの? 着替えとかは?)
今さらながらに信じられない思いだった。 さっきまで自分の部屋で温かい布団の中にいたのに、今マリカはこうして手首をきつく縛られ、冷たい廊下を歩かされている。
鎮静剤の効果がいよいよ切れてきて、マリカは耐え難い不安と抑鬱に襲われた。 もうダメ。 もう無理。 マリカの歩みが止まった。 気力の喪失により足腰に力が入らないのだ。 へなへなとその場に崩れ落ちたマリカを、後ろを歩く職員が引きずり起こす。
「さあ立て。 歩くんだ」
◇❖◇❖◇❖◇
職員に抱えられるようにしてマリカが連れてこられたのは、木製の寝台が置かれた小部屋だった。 小部屋は医務室のようにも見えるが、医務室よりも雰囲気が暗い。 どことなく不気味ですらある。
「ここは?」
思わずそう尋ねたマリカ。 「無駄口を叩くな」と叱られるかとも思ったが、いささか意外なことに職員から返答があった。
「刺青を入れる部屋だ」
いれずみ...? 少し頭を巡らせてマリカは思い出した。 そういえば流罪人は額に刺青を彫られると聞いたことがある。 そう思い出して、マリカはいっそう悲痛な気持ちになった。 既に最悪の気分だと思っていたが、もっと最悪があった。 刺青で痛い思いをするのも、一生消えない刻印を体に刻み込まれるのも願い下げだ。
「もうイヤっ! どうして私がこんな目に遭わなきゃならないの? 」
とうとうヒステリーを起こしたマリカはすべての理性を放棄して、小部屋から逃げ出そうと職員に体ごとぶつかって行った。
しかしマリカより2回りも大柄な男性職員は難なくマリカの体を受け止め、いとも簡単に取り押さえる。
「大人しくするんだ。 もうすぐ彫り師が来るから」
なだめるような口調だったが、彫り師が来ると言われてマリカが鎮まるはずがない。 半狂乱に陥ったマリカは、職員の腕の中でもがきながら泣き叫ぶ。 もういやっ! おうちに返してっ! お父様を呼んでちょうだい!
「こんなんじゃ墨を入れられないぜ」
「鎮静剤を持ってきてくれ。 そこの棚にあるはずだ」
「用量がわからんよ」
「大体でいい」
職員たちはマリカの腕を押さえつけ、服の袖をまくって鎮静剤を注射した。 投与された鎮静剤の量が多かったらしく、マリカの意識は速やかに混濁し始める。 奈落の底に沈みゆく意識でマリカは思う。 いっそこのまま死んでしまえばいいのに。
◇❖◇❖◇❖◇
痛い! 釘でひっかかれるような痛みを額に感じて、マリカは意識を取り戻した。 頭を誰かに押さえつけられている感覚があり、目を開けると眼前で何者かの手が忙しげに動いている。 そしてその動きに連れて、マリカの額に痛みが走る。 マリカは驚愕した。
(わたし、刺青を彫られてる!)
傍らから男の声が聞こえる。 さっきも聞いた声、暴れるマリカを抱きすくめた職員の声だ。
「もったいねえなあ、せっかく綺麗な顔してるのに」
それを聞いてマリカは喪失感に襲われた。
(いま私は取り返しのつかないことをされてるのね。 一生消えない印を額に刻み込まれているの)
痛みと屈辱と悔しさで涙が出そうなのに、思うように涙が出てこない。 鎮静剤のせいだ。 涙が溢れ出れば少しはマシな気分になるのかな? 私の両目から涙が滂沱と流れ出れば、この人たちも少しは罪悪感を感じるかしら?
刺青を彫り終えた彫り師はマリカに注意事項を伝える。
「いま彫ったところにカサブタができるが剥がしちゃいかんぞ? 今後2週間は湯で顔を洗ってもならん」
(もう2度とおうちに戻れないの? もう2度とお父様にもお母様にも会えないの? 私はこの格好のままで流刑地に送られるの? 着替えとかは?)
今さらながらに信じられない思いだった。 さっきまで自分の部屋で温かい布団の中にいたのに、今マリカはこうして手首をきつく縛られ、冷たい廊下を歩かされている。
鎮静剤の効果がいよいよ切れてきて、マリカは耐え難い不安と抑鬱に襲われた。 もうダメ。 もう無理。 マリカの歩みが止まった。 気力の喪失により足腰に力が入らないのだ。 へなへなとその場に崩れ落ちたマリカを、後ろを歩く職員が引きずり起こす。
「さあ立て。 歩くんだ」
◇❖◇❖◇❖◇
職員に抱えられるようにしてマリカが連れてこられたのは、木製の寝台が置かれた小部屋だった。 小部屋は医務室のようにも見えるが、医務室よりも雰囲気が暗い。 どことなく不気味ですらある。
「ここは?」
思わずそう尋ねたマリカ。 「無駄口を叩くな」と叱られるかとも思ったが、いささか意外なことに職員から返答があった。
「刺青を入れる部屋だ」
いれずみ...? 少し頭を巡らせてマリカは思い出した。 そういえば流罪人は額に刺青を彫られると聞いたことがある。 そう思い出して、マリカはいっそう悲痛な気持ちになった。 既に最悪の気分だと思っていたが、もっと最悪があった。 刺青で痛い思いをするのも、一生消えない刻印を体に刻み込まれるのも願い下げだ。
「もうイヤっ! どうして私がこんな目に遭わなきゃならないの? 」
とうとうヒステリーを起こしたマリカはすべての理性を放棄して、小部屋から逃げ出そうと職員に体ごとぶつかって行った。
しかしマリカより2回りも大柄な男性職員は難なくマリカの体を受け止め、いとも簡単に取り押さえる。
「大人しくするんだ。 もうすぐ彫り師が来るから」
なだめるような口調だったが、彫り師が来ると言われてマリカが鎮まるはずがない。 半狂乱に陥ったマリカは、職員の腕の中でもがきながら泣き叫ぶ。 もういやっ! おうちに返してっ! お父様を呼んでちょうだい!
「こんなんじゃ墨を入れられないぜ」
「鎮静剤を持ってきてくれ。 そこの棚にあるはずだ」
「用量がわからんよ」
「大体でいい」
職員たちはマリカの腕を押さえつけ、服の袖をまくって鎮静剤を注射した。 投与された鎮静剤の量が多かったらしく、マリカの意識は速やかに混濁し始める。 奈落の底に沈みゆく意識でマリカは思う。 いっそこのまま死んでしまえばいいのに。
◇❖◇❖◇❖◇
痛い! 釘でひっかかれるような痛みを額に感じて、マリカは意識を取り戻した。 頭を誰かに押さえつけられている感覚があり、目を開けると眼前で何者かの手が忙しげに動いている。 そしてその動きに連れて、マリカの額に痛みが走る。 マリカは驚愕した。
(わたし、刺青を彫られてる!)
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「もったいねえなあ、せっかく綺麗な顔してるのに」
それを聞いてマリカは喪失感に襲われた。
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痛みと屈辱と悔しさで涙が出そうなのに、思うように涙が出てこない。 鎮静剤のせいだ。 涙が溢れ出れば少しはマシな気分になるのかな? 私の両目から涙が滂沱と流れ出れば、この人たちも少しは罪悪感を感じるかしら?
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