お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

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第1部

第9話 「微笑み」

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傲慢男がマリカに語って聞かせる性的な妄想は続き、彼の妄想の中でマリカは傲慢男により懐妊させられるに至っていた。

「へ、へへ、お、お嬢さまがオレの子種ではらむんだ。 孕ませてやるぞ。 オレの子種をお前にたっぷりと植え付けてやる」

延々と垂れ流される傲慢男の妄想をマリカは最早もはやろくに聞いていない。 いまマリカの頭の中は、どうやって男から逃がれるかで一杯だ。 しかし、良い案が一向に思い浮かばない。 当然である。 マリカは知らぬことだが、マリカはこの後どんな行動を取ろうと男から逃げられない。 存在しない選択肢を思い付けるはずがないのだ。

男が妄想を中断してコップをマリカの目の前に差し出してきた。 長々としゃべり続けて喉が渇いたのだろう。

「おい女、水を出せ」

(もうっ、またなの?)

マリカは内心で嘆息たんそくした。 男は今朝から何度もマリカに水を要求していた。 昨日の夜マリカが男に作った水に味を占めたのだ。 屈辱でもあった。 マリカをいかに凌辱するかを熱心に語って聞かせている男が、まるでマリカの友人であるかのように無償のサービスを要求しているのだ。

(弱い者は強い者の言いなりになるしかないというの?)

男に対する恐怖心で一杯だったマリカの中にと怒りが滲む。

「早くしろ」

男が重ねて命じるので、マリカは生まれかけの怒りをとりあえず無視して、男が差し出すコップ目がけて呪文を唱える。

「ヴィテーム・ウルビテーム・ラ・ウィータ」

《水生成》の呪文が発動し、男のコップに清らかな水がこんこんと湧き出る。 湧き出る水を見つめながらマリカは真心をこめて祈る。 この男がお腹を壊しますように、この男がお腹を壊しますように...

男は縛られた両手にコップを持ち、マリカの真心がこもった水を一気に飲み干した。

「うまい!」

(お腹の具合はいかが?)

「お代わりだ!」

(お腹は痛くならないの?)

「さっさと水を出せ」

そうせっつかれても、マリカはすぐには応じられなかった。 少なからず疲れていたからだ。 魔法は気力を消耗する。 昼食時には番人たちにも水を出した。 さっきので今日何度目の《水生成》だっただろうか?

男がいらった声を上げる。

「早くしねえか!」

マリカは気力をき集めて再び呪文を唱え始めた。

「ヴィテーム・ウルビテーム...」

呪文を唱えながらマリカはふと思う。 コップじゃなく傲慢男の喉に水を生成したらどうなるのかしら? どうなるのかはマリカ自身にも定かではない。 男がむせ返る? それとも喉の外にまで水が生成されて男がびしょ濡れになる? わからない。 でも、何度もしつこく水を求めてくる男の喉に直接水を食らわせるのは、さぞかし爽快だろう。 それに... 密かな期待感もある。 ひょっとして男が溺れるかも。

《水生成》を喉に直接食らわせたりすれば、腹を立てた男は間違いなくマリカを殴る。 しかし、マリカは男の暴力に怯える自分に腹を立て始めていた。 これからの自分の人生を思って半ば以上自棄ヤケになってもいた。

(殴りたいなら殴ればいいのよ。 いっそ私を殴り殺してごらんなさい)

マリカは呪文の焦点を男のコップから喉元へと変更し、呪文を唱え切る。

「...ラ・ウィータ!」

呪文を完成させるとき、マリカはの顔には自然と微笑みが浮かんでいた。

(たくさん水を作ってあげる。 たらふく飲むといいわ)

マリカの微笑みを自分に向けられたものと勘違いした傲慢男の顔に喜色が浮かぶ。 それはそうだろう。 自分が欲する女に微笑みかけられて嬉しくない男はいない。 これまで自分に嫌悪の目しか向けなかったマリカが初めて自分に微笑みかけたのだ。

だが、男の歓喜も一瞬のこと。 《水生成》が発動し男の喉の中に水がき出ると、男の表情が苦悶くもんへと変わった。

「う、が... っ」

マリカの《水生成》が傲慢男の食道だけでなく気道にも水を生み出し、男を窒息させたのである。 声にならない声を上げて傲慢男はもだえ苦しむ。 男は手縄で縛られた両手を喉元にやるが、それで解決することなど何1つない。

マリカは男が苦しむさまに見入る。 男が何らかの形でダメージを受けて弱ってくれればと思っていたが、期待していた以上の成果を得られそうだ。

異変に気付いた番人がおりの外から声を掛けてくる。

「どうした。 何事だ?」

マリカは問いに答えず、傲慢男は問いに答えられない。 50代女性も静かに男の苦悶を眺めるだけ。

皆が見つめる視線の先で傲慢男は息絶え、床に横倒しになった。 倒れた男の口から水が流れ出てくる。 マリカが《水生成》で生み出した水だ。 マリカが人を殺すのは今回が初めてだが、心のどこを探しても罪悪感は見当たらなかった。

番人たちは傲慢男の死がマリカによるものだと薄々うすうす気付いたが、マリカに問いただすことはなかった。 市民権を持たない流罪人が殺されたところで何の犯罪にも当たらないからだ。 ただ傲慢男の流罪が適正に執行されなかったに過ぎない。
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