お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

文字の大きさ
11 / 123
第1部

第10話 「この女はオレがいただく」

しおりを挟む
傲慢男の死体を床に放置したまま囚人護送車は進み続け、やがて流刑地の入り口までやって来た。 門の前には大勢の流罪人が待ち構えている。 子供も何人か混じっていて、母親に手を引かれた小さな子供もいる。

(あんな小さな子供までいるのね)

おりしに子供たちを見ていてマリカは気付いた。 子供の額に流罪人の証である刺青が入っていない。 流刑地で生まれた子供なのだ。

大人は作業着のようなカーキ色の服を着ている者が多い。 アガマサラ市が支給する衣服なのだろう。 子供が着ているのは手製の服らしく、デザインが様々に異なっている。

囚人護送車が停止すると流刑地の住人の一部が駆け寄り、物資を積み込んだ馬車の前へ集まった。 アガマサラ市が支給する物資が彼らの命綱である。

流刑地の住人が物資を馬車から降ろし始めるかたわらで、番人の1人が囚人護送車へやって来て檻の扉を解錠した。

「着いたぞ。 出ろ」

マリカと50代女性が言われるままに檻から出ると、流罪人の群れの間にどよめきが広がる。

「若い女だ!」

「なんて上玉じょうだまだ! ちくしょう、あり得ねえ」

聞こえてくるのは男の声ばかりだ。 品性のかけらもない下卑げひた声。

マリカは緊張に頬を強張こわばらせ、油断なく周囲を見回す。 もはや彼女は無力な少女ではない。 《水生成》という武器がある。 襲い掛かって来る者がいれば容赦なく溺死させるつもりだ。

(でも、複数の男に同時に襲い掛かられたら...)

《水生成》は呪文の詠唱に時間がかかるし、同時に複数を倒せない。 おまけに魔法は気力を消費するから無制限には使えない。 そしてマリカは今日ここまでに《水生成》を何度も使わされ、すでに少なからず疲れている。 《水生成》という戦う手段を得たものの、身の安全を確保できたとは言い難い。

「手縄を切るから手を前に出せ」

マリカが両手を体の前に出すと、番人は短刀で手縄を切り始めた。 切れ味の良い短刀らしくマリカの手縄は速やかに切断され、マリカの両手が自由になった。 手縄が地面にバサリと落ち、強張っていたマリカの頬が少し緩む。 丸1日ものあいだ彼女は手縄に苦しめられていたのだ。

別の番人が囚人護送車の中から傲慢男の死体を引きずり出してきて、流刑地の住人の誰にともなく言う。

「こいつを埋葬まいそうしといてくれ」

「そいつはどうして死んでるんだ?」

尋ねたのは小山のように大きな中年男である。

(トロールの血でも混じってるんじゃないかしら?)

マリカがそう思ったのも無理はない。 その中年男は並外れて体が大きいだけでなく、とても不細工だった。 出っ張った頬と対照的に貧弱な口元はへの字に曲がっているし、猜疑さいぎ心の強そうな眼はサイズも形も左右で大きく違っている。

見れば中年男は、あろうことかライフル銃を手にしている。 銃が高価なのはマリカも知っている。 マリカの父はライフル銃を所有しているが、軍でも末端の兵士にまでは行き渡っていない。 そんな貴重な銃をどうして流罪人が手にしているのか? しかも、番人はライフル銃のことを気にしていない様子。 流罪人が銃を持っているのを危険視しないばかりか疑問にすら思わないようなのだ。

番人たちはライフル銃の男の質問に答える代わりにマリカのほうを見た。 彼らは傲慢男を殺したのがマリカだと確信している。 殺人の手段が《水生成》だったと推察してもいるだろう。

番人の視線に釣られて、銃の男もマリカに目を向ける。 彼はすでにマリカの存在に気づいていて、さっきから好色な視線をしきりに投げかけて来ていたが、今その視線には警戒の成分が含まれている。 番人がマリカを見た理由に気づいたのだ。

銃の男が他の流罪人たちを無造作に押しのけてマリカのすぐ前までやって来る。 目前にそびえる巨躯きょくの上に乗る顔を見るのに、マリカは大きく顔を上げねばならなかった。

「お前がその男を殺したのか?」

問われたマリカは思考を巡らす。

(イエスと答えるべき? それともノー? イエスと答えれば自分の殺人を認めることになるけど、流刑地の住人に私が危険な女だとアピールできる。 殺人を認めたところで、私の立場はこれ以上悪くならないんじゃ?)

逡巡ののちマリカは答えた。

「そうよ」

マリカの声に、番人たちが一斉にマリカのほうを振り向く。 ヒヤリとするマリカだったが、番人たちは「やっぱりか」などと言い合いながら作業に戻るだけだった。 マリカが思ったとおり、流罪人が別の流罪人を殺しても何の問題にもならないのだ。

銃の男がマリカに尋ねる。

「どうやって殺した?」

か弱いマリカが武器も使わず大の男をほうむり去れたのが、彼は不思議でならない。

「《水生成》よ」

マリカはあっさりと自分の能力を明かしてしまった。 流刑地で生き延びるには危険な女をアピールしつつ能力は秘密にしておくのがベストだったが、お嬢さま育ちのマリカはそこまで知恵が回らなかった。

マリカの返答を聞いて、銃の男は嬉しそうに目を輝かせる。

「魔法で殺したのか! 毛色のいい女だと思っていたが、お前は貴族の血筋なんだな?」

マリカがうなづくのを見て、男はとても満足そうな表情を浮かべる。

「お前みたいな上玉が流刑地に送られて来るとはな。 貴族の女か。 お前のような女はオレにこそふさわしい」

「まっ...」

絶句するマリカをよそに、銃の男はその場にいる全員に大声で宣言をする。

「この女はオレがいただく。 文句がある奴はかかって来い。 相手をしてやる」

銃の男は猛々しく笑い、手に持つライフル銃をこれ見よがしに持ち直した。

誰も声を発さず物資を馬車から降ろす音だけが聞こえる中で、マリカだけが異議を唱える。

「あっ、あなたのものになるなんてお断りよ!」

マリカは銃の男が腹を立てるのを半ば予期していたが、意外にも彼はマリカをさとすように話し始めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...