お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

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第1部

第49話 「クマとの遭遇」

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翌日、マリカたちは再び訪れた森にて望み通りクマと遭遇した。 クマとの距離は約30メートル。 クマが風上なので、まだクマには気付かれていない。

クマを倒すのは無論マリカでなくミツキだ。 マリカは隣に立つミツキに言う。

「クマよ! 待望のクマが出たわ。 さあ、やっつけて!」

頼まれたミツキはしかし、クマを瞬殺してくれなかった。

それどころか撤退を提案するではないか。

「えー、あんなゴツイの倒せない。 逃げよう」

非力なミツキでは短刀でクマの急所を狙ったところで、丈夫な毛皮と厚い脂肪に阻まれて急所にまで刃が届かない。 そのことはマリカも何となく感じたので、マリカはミツキにアドバイスをする。

「目よ! クマの目を狙うの!」

クマの両目を潰してから、マリカが雇った5人の男に寄ってたかってクマをなぶり殺しにさせる作戦である。

しかしミツキは首を縦に振らない。

「イヤだよ」

マリカは思うように動いてくれないミツキに苛立ち、叱りつけるように問いただす。 

「どうして!」

昨晩はミツキを心ゆくまで可愛がって心が通じ合ったのに、この子ったらどうして私の言うことを聞かないのかしら!

「目を突き刺すなんてやだよ」

なんとなくグロいからイヤだ。 腹は刺せるが目は刺せない。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?」

そうこうするうちにクマがマリカたちに気付いて猛然と走り寄ってきた。 あの走りっぷりはマリカたちを襲うつもりに違いない。

クマの走る速度は意外に速く、今からマリカたちが逃げ出してもミツキを除いて逃げられない。

「来たわ! もう倒すしかないの。 お願いミツキ!」

「仕方ないなあ」

ミツキは嘆息してクマのほうに駆けだす... のかと思いきや、おもむろにマリカの手を握った。

「マリカ、クマはお前が自分で倒せ」

マリカにはミツキの考えが理解できなかった。 私にクマを倒せですって? ミツキ、あなたは何を言っているの?

マリカがクマを殺すには《水生成》の魔法しかない。 しかし、猛スピードで突っ込んでくるクマの喉に魔法を命中させるなんて出来っこないし、こうしてウダウダやってるうちに呪文を詠唱する時間すら失われつつある。

「無理よ!」

マリカの悲鳴にミツキの冷静な声が重なる。

「無理じゃない」

そう言うや否やミツキの体が爆発的な黄金の光に包まれた。 黄金の光はミツキに握られるマリカの手へと伝わってきて、みるみるうちにマリカの全身に広がってゆく。 マリカの全身を包む終えると光は消滅し、周囲の情景が再び姿を現す。

そうして再び姿を現した世界は...

                 ◇❖◇

全てが停止していた。 クマが停止している。 エライナも、コモノたちも、風に揺れる木々も雑草も全てが止まって見える。 マリカの様子を窺うミツキを除いて。

(これはなんなの...?)

とても低い音がざわめく中で、かたわらからミツキの声がする。

「俺の手を放しちゃダメだよ?」

「なんなのこれ?」

「俺の高速がマリカに伝播でんぱしたのさ」

(こうそく? でんぱ?)

「さあマリカ、《水生成》でクマを倒しなよ。 この状態なら出来るだろ?」

「わかったわ」

夢現ゆめうつつのマリカはミツキにうながされるままに《水生成》呪文を唱え始める。

「ヴィテーム・ウルビテーム...」

唱えながらターゲットのクマに目を向けると、クマは依然いぜんとして停止している。 これなら確実に《水生成》をクマの気管に命中させられる。

「...ラ・ウィータ」

マリカは呪文を最後まで唱えきった。 呪文が発動し水が生成される手ごたえを感じる。 しかしクマの様子に変化がない。

「呪文を唱えたけど?」

「そうだね」

「クマ死なないんだけど?」

次の瞬間、再び周囲が動き出した。 周囲の物音も正常に戻る。 そして元気よく走っていたクマが急に立ち止まって苦しみだした。 マリカの《水生成》がクマを溺れさせたのだ。
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