お嬢様、流刑地に送られ婚約も破棄。でも最強になったら、ザマぁとかどうでも良くなってた

好きな言葉はタナボタ

文字の大きさ
52 / 123
第1部

第51話 「スピード・プリンセス再び①」

しおりを挟む
マリカたちは仕留めたクマを荷車に載せて流刑地へ戻り、いま市場へといたる大通りに入ったところである。 クマ以外の食料をあまり取れなかったので、食べきれないクマ肉を他の食料品と交換するのだ。 コモノの話では、獣の解体を専門とする者も市場で営業している。

マリカが雇った5人のコモノは野外にいるときは陽気で楽しげだったかが、流刑地へ戻ってからは終始ビクビクしている。 強面こわもての住人にクマを奪われないかと心配なのだ。 流刑地では恐喝や強奪が日常茶飯事。 コモノが狩りをしないのも、労役に追われて時間がないのもさることながら、せっかく狩った獲物を強い者に奪われてしまうからである。

大通りに入ってすぐに、マリカたちの荷車に横合よこあいから声が掛かった。

「おい、その荷車。 止まれ。 おめーらだよ、おめーら」

声を掛けてきたのは2人組みの若者。 どちらも相撲すもう取りのような巨漢である。 ジュニアほどではないが。

「おめーら小者だろ? よくまあクマなんか仕留めたもんだな」

5人のコモノは一斉にビクリと身をすくませ、顔を伏せる。 5対2にも関わらず誰一人として巨漢と目を合わせようとしない。

しかしそれも無理からぬこと、2人の巨漢がLLサイズなのに対してコモノ5人はS~Mサイズだ。 加えて、コモノたちの大部分は元々が職業犯罪者ではない。 交通違反・横領・贈収賄ぞうしゅうわいなどの非暴力的な犯罪を理由として流罪に処された者たちである。 ひ弱な一般市民がヤクザ者と混ぜられ放置されているのが流刑地なのだ。

巨漢の1人が、ただ一人自分を真っすぐに見つめるマリカに気付いた。

「おっ? おまえみたいな上玉が、なんで小者なんかと一緒にいる? ちょっとこっち来い」

マリカは巨漢を無視してミツキに言う。

「ミツキ、さっきのやつをお願い」

ミツキにはそれだけで「さっきのやつ」が指すものが分かった。 マリカと昨晩たっぷり仲良くして心が通じ合っているのだ。

「スピード・プリンセスかい?」

存在しなかったことにしたい言葉が舞い戻ってきて、マリカはギクリとした。 しかしミツキの顔を見ると、からかっている風でもない。 真顔である。

マリカとしてはその言葉はもう封印したいのだが、あからさまに使用を禁止すると痛くもなくもない腹をミツキに探られる恐れがある。 でもせめて自分ではその言葉を使わず、くだんの言葉にミツキの念頭から自然消滅してもらいたい。 そんな思いから生まれたのが、次の返答であった。

「そう、それ」

「でも、まだ戦うって決まってないんだろ?」

「この後の展開なんて分かり切ってるもの。 どうせ戦うことになるんだから」

巨漢たちがクマを強奪し、マリカを連れ去ろうとするのは目に見えている。

れた巨漢が怒鳴る。

「女、何をごちゃごちゃ言ってやがる! さっさと来い」

そう言いながら巨漢の片割れがマリカのほうへのっしのっしと歩いて来た。 それを見たミツキがマリカの手を取り、黄金色の激しい光に包まれる。 その光が、つないだ手を通してマリカにも伝わってきて...
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...