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高校生編 5月
光陰祭「武」
しおりを挟む「光陰祭『武』の開会を、ここに宣言します。」
優しげな笑顔を浮かべ開会宣言をしたのはカイお兄ちゃん。
前に立つカイお兄ちゃんの姿は立派で、なんだかとても誇らしかった。
もし、カイお兄ちゃんと私が兄弟だということが公表できていたなら、色んな人に自慢して回っていただろう。
私が出場する競技は三つ。
創作演技と学年リレー、それから四百メートル走。
開会式が終わったら、私達一年生はすぐに学年リレーがある。
ちなみに私はアンカー。
五十メートル走のタイムを計って走順を決めたんだけど、多分他のクラスに負けたらクラスメートは私のせいにする。
・・・勝たなきゃ。
ギュッと拳を握る。
クラスメートに文句を言われる隙をなくさなきゃ。
***
・・・まずいかも。
リレーは終盤。
三組は大差をつけられて最下位。
一番まずかったのは、中盤に走っていた陽月 美桜さん。
バトンを落としたあげく、転んでしまった。
実は彼女も、いわゆる庶民。
これで負けたら、彼女も責められる。
バトンがソウくんに渡った。
次が私だ。
「わあ・・・」
ソウくん、早い・・・
三位にかなり差があったのに、ぐんぐん差を詰めていって、もう殆ど差はない。
ここで、バトンパス。
双子だから、なのかは分かんないけど、息ぴったりのなめらかなバトンパスができた。
このバトンパスのおかげで三位だった一組を抜かす。
普通は一人半周走るんだけど、アンカーだけは一周。
二位だった二組を抜かした。
そして一位の四組は、かなり遠い。
でも、まだ半周ある。
スピードをあげる。
周囲の音が消えた。
四組のアンカーの背中が近い。
あとちょっと、あとちょっと・・・
ほとんど同時に、ゴールに飛び込んだ。
結果は・・・
「ただいまの結果、一位、三組。」
私が、かすかに勝っていた。
私達の大逆転勝利に、観衆がどよめく。
クラスメート達がちょっと悔しげに、でも嬉しそうにしているのが分かった。
ポン、と後ろから肩を叩かれる、
「白川くん。」
四組の学級委員長、白川くんだった。
「おめでとう、桐谷さん。途中まで勝てると思ってたんだけどなあ。最後、すごかったね。」
砂埃に汚れた体操服を着ていてもさわやかな白川くんから褒められて、なんだか少し、嬉しかった。
「ありがとう。」
お礼を言うと、白川くんは悔しげな光を瞬かせた。
「あーでも、悔しかったな。次は負けないから。」
最後に宣戦布告された。
お互いを讃える握手をして、私達は退場した。
嬉しそうだった様子から一変、白川くんと握手したからか攻撃的な目でこちらを見るクラスのお嬢様達のことは見なかったことにする。
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