能力者は正体を隠す

ユーリ

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高校生編 8月

とある兄弟の感情

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「ほら、あの子。あの子が…」
「へえ、あの子が…」
「あれが朱雲の長男…しかし生まれが…」
「後継の座は…」

チラチラと寄せられる、好奇と品定めの視線。
聞こえないようにと潜められた声は、やけに耳について。
声も、視線も…自分も、全部全部、大嫌いだった。
幼いその年齢に反して、精神は早熟で。
勉強も、簡単に呑みこめた。
できないことは、ほとんどと言っていいほどなかった。
なんでもできる自分。
それが全部、この大嫌いな“朱の血”のせいだと思うと気が滅入った。






『常に1番であれ。』






そう告げる、無機質な瞳が。

感情の篭らない、淡々とした声が。



ずっと、何より嫌いだった。








  ❇︎❇︎❇︎







『常に1番であれ』


物心ついた時には、そう呪文のように唱えられていた。
感情のない、冷たい声は不気味で、恐ろしいと、そう思っていた。
けど、そんな彼にも感情の一片をぽろりと落としていく時があって。

『お前の兄にだけは、絶対に負けるな。』

憎しみか、恐怖か、それとも焦燥か。
覗かせたその感情の名前までは分からなかったけど。
けど、考えてみれば、その時はまだ、よかったのかもしれない。


それが起こったのは、僕が5歳になったとき。

『そんなはずはない!』
『旦那様、落ち着いてください!』
『違う、何かの間違いだ!アイツは絶対!』

何かの割れる音。
そして、感情を剥き出しにした叫びに、僕は目を覚ました。
そっと声のする方へ行ってみる。

『違う!死んではいない!あの、あの力は、俺のっ!』

驚いた。
いつも、自分のことを私と呼ぶ彼が、俺と言っていること。
何より、こんなにも感情を素直に表現している彼を見るのは、初めてだったから。

『諦めてください!あの方は、あの子は…!』

暴れる彼をなんとか押さえつけているのは、使用人頭だった。
いつも温厚な彼が、悲しそうに、それでも強く、叫んだ。

『蒼来さまはお亡くなりになりました!力が…あまりにも強すぎた!』

蒼来。
ソラ。

誰?その人。
そんな疑問が湧いた。
でも。
そんなもの、すぐに。
すぐに、吹き飛んだ。

『どうして蒼来なんだ!…アイツだったら、よかったのに!』

死んだのが、“もう片方”だったらよかったのに!

そう叫んだ、僕のトウサン。
もう片方。
もう片方?
それは、一体、ダレノコト?


しばらくして、僕は全てを知った。
“亡くなった”僕のカタワレのこと。
“もう片方”が誰のことなのか。

兄のことも知った。
いや、兄だと思っていた人のことを。
どうしてトウサンが、僕が兄に負けないことにこだわるのか。
あの、叫びの意味も知った。

でも、知っただけだ。
理解なんて、できなかった。
したくもなかった。

ああ、でも。

銀と紫の、鮮やかなコントラストが脳裏に浮かぶ。


『火よ、水よ、土よ、風よ。その力を示せ。』


圧倒的な力を纏い、美しい四つの色に囲まれた彼女の姿に…分かってしまった。
分かるよ、トウサン。
貴方の気持ちが。

眩しくて、苦しくて、辛くて。

憎らしくて。




アニも、アネも。


大っ嫌いなんだ。






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