大天使の娘です。ある日人間界に落ちてしまいました。

生命の危機です

ガタゴトガタゴト・・・

「うう・・・」

生命の危機です。

「大丈夫か？」

目の前の王子様は、この凶悪な乗り物の中にいてもまるで平気そうに膝を組んでいます。
足の長さ自慢ですか・・・
少しイラッとしてしまいました。
今の私の状態が大丈夫なもんですか！
死なない程度に辛いです。
このまま意識を飛ばしてしまいたいほど・・・

「まさか、馬車酔いでそこまで気分が悪くなるとはな。」

愉快そうに笑う王子様。
吹っ飛ばしたいです、心の底から。
笑い事じゃありません。
誘拐されていた時は眠り薬をかがされていたのでずっと寝ていましたし、起きた後もそこまで長いこと馬車に乗っていたわけではありませんでした。
でも、もうこの馬車に乗って一時間はたっています。

「うう・・・」

辛いです。
今すぐ降りたい・・・

「ほら、もうすぐ休憩で馬車から降りれるから、頑張れ。」

休憩！なんて甘美な響きでしょう。
しかし王子様、頑張れなんて言っていますけど、声が微妙に震えているの、バレバレです。
元気になったら殴り飛ばしたいですけど、不敬罪になりそうで怖いので、心の中で殴り飛ばすだけに留めておきましょう。

とりあえず・・・早く休憩したいです。

　　　＊＊＊

「んー・・・」

新鮮な空気を胸一杯に吸い込むと、だんだん気分もよくなってきました。
気分がよくなると、頭もすっきりします。
改めて自分のいる状況について考えてみますけど、色々とまずい気がします。

私・・・一日前までは神殿にいたんですよね。
そこからなぜか攫われました。
しかも、たまたま攫われたわけではなく、私を狙っての計画的な犯行だったことは明らかです。

まず疑問なのは、なぜ私が狙われたのかということ。
私が他の人と違う点は、私が天使だということ。
それから神殿で歌っていたことです。
最も納得できる理由としては、どこからか私が天使であるということが伝わってしまい、私を売ろうとしたってところでしょうか・・・

でも、だとしたら一体どこから・・・？
私は誰にも、自分の正体を明かしてはいません。
誰かが、私の正体に気付いたのだとしたら。
それは、危険です、私にとって。

もしや、この王子様を名乗る男も、私を天使だと知っていて自分のテリトリーに連れ込もうと・・・？

「・・・え？」

考え込んでいると、何か柔らかいものが頬に触れました。