大天使の娘です。ある日人間界に落ちてしまいました。

ユーリ

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絶対に ~シンside~

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目の前を通る馬車。
その窓から笑顔を見せる聖女を見て、僕は目を見開いた。

「シン!ほら見て、聖女様と王子様だよ!」

一緒に見ていた娘のはしゃぎ声が耳をすり抜けていく。

「エリン・・・」

太陽の光を受けてキラキラ輝く銀糸の髪に、神秘的な金の瞳。
最後に見た時よりもはるかに美しくなった、僕の幼なじみだった。

「エリン!」

慌てて前に出ようとするが、熱狂する街の人々は僕を通そうとする余裕はないようだった。
最初にもっと前に出ておかなかったことを悔やむ。
遠くからチラッと見るくらいでちょうどいいと思った過去の自分を殴り飛ばしたい。

探していた人が、目の前にいるのに・・・!

聖女って何だ。
エリンは一体何に巻き込まれてしまったんだ。

「ね、ねえ、シン、どうしたの?」
ただならぬ僕の様子に娘が戸惑いの様子を見せる。
「聖女・・・」
「え?」
「聖女って、何?」

一体何をする人なのだろう。
エリンはどんな役目を負わされてしまったのだろう。

「え、と、聖女っていうのはね・・・」

説明を受けて、僕は愕然とした。
聖女って、それは天使のことじゃないか。

怪我や病を治し、人々の心を和らげる。
天使の神力によるものだ。

神力にできることは限られている。
神力とは、守りの力。
決して誰かを傷つけられない。
それ故に、天使は「神界の守人」と呼ばれている。
特に大天使は、「神界の盾」と呼ばれているのだが。

対して人間には、守りの力がない。
魔力と呼ばれるものを持っているが、それは誰かを攻撃するためのもの。
彼らが守護の魔法と呼んでいるものは、攻撃の魔力に攻撃の魔力をぶつけて跳ね返しているだけで、真に守りの力を有しているわけではない。
だから彼らは、「攻撃者」と呼ばれているのだ。
もっとも、本人たちはその呼び名を知らないが。

つまり、人間の中からその「聖女」が現れるのは不可能なのだ。
その能力は、天使のもの。

つまり、人間界には・・・

「度々天使が現れている?」

だが、行方不明になった天使なんて聞いたことがない。

いや、一人だけなら・・・確か、千年前に、一度。
その天使が人間界に落ち、聖女と呼ばれたのかもしれない。
しかしその後の聖女についてはよく分からないな。

とにかく、今はエリンのことだ。
エリンは天使、聖女の力を持っている。
利用、されるかもしれない。

もちろん僕も同じ力を持っている、が、力は段違いにエリンの方が大きい。

エリンに会わないと。

それとなくエリンの泊まる宿を聞きだし、夜、こっそりと行動を開始した。
案の定そこには護衛が大勢いて、突破するのは不可能。
真正面から向かう以外に道はない。
運が良ければ、会わせてくれるか・・・

一か八か、護衛に声をかけた。
しかし、結果は玉砕。
おまけに王子達が街を出るまで外出禁止を申しつけられ、翌日、去って行く王子達を家から見送るしかなかった。

「でも、居場所は分かった。」

これだけでも大きな収穫だ。
エリンは城にいる。

なら僕も、城に行くだけだ。
どんな手を使ってでも城に行き、エリンに会う。

絶対に。
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