25 / 44
絶対に ~シンside~
しおりを挟む目の前を通る馬車。
その窓から笑顔を見せる聖女を見て、僕は目を見開いた。
「シン!ほら見て、聖女様と王子様だよ!」
一緒に見ていた娘のはしゃぎ声が耳をすり抜けていく。
「エリン・・・」
太陽の光を受けてキラキラ輝く銀糸の髪に、神秘的な金の瞳。
最後に見た時よりもはるかに美しくなった、僕の幼なじみだった。
「エリン!」
慌てて前に出ようとするが、熱狂する街の人々は僕を通そうとする余裕はないようだった。
最初にもっと前に出ておかなかったことを悔やむ。
遠くからチラッと見るくらいでちょうどいいと思った過去の自分を殴り飛ばしたい。
探していた人が、目の前にいるのに・・・!
聖女って何だ。
エリンは一体何に巻き込まれてしまったんだ。
「ね、ねえ、シン、どうしたの?」
ただならぬ僕の様子に娘が戸惑いの様子を見せる。
「聖女・・・」
「え?」
「聖女って、何?」
一体何をする人なのだろう。
エリンはどんな役目を負わされてしまったのだろう。
「え、と、聖女っていうのはね・・・」
説明を受けて、僕は愕然とした。
聖女って、それは天使のことじゃないか。
怪我や病を治し、人々の心を和らげる。
天使の神力によるものだ。
神力にできることは限られている。
神力とは、守りの力。
決して誰かを傷つけられない。
それ故に、天使は「神界の守人」と呼ばれている。
特に大天使は、「神界の盾」と呼ばれているのだが。
対して人間には、守りの力がない。
魔力と呼ばれるものを持っているが、それは誰かを攻撃するためのもの。
彼らが守護の魔法と呼んでいるものは、攻撃の魔力に攻撃の魔力をぶつけて跳ね返しているだけで、真に守りの力を有しているわけではない。
だから彼らは、「攻撃者」と呼ばれているのだ。
もっとも、本人たちはその呼び名を知らないが。
つまり、人間の中からその「聖女」が現れるのは不可能なのだ。
その能力は、天使のもの。
つまり、人間界には・・・
「度々天使が現れている?」
だが、行方不明になった天使なんて聞いたことがない。
いや、一人だけなら・・・確か、千年前に、一度。
その天使が人間界に落ち、聖女と呼ばれたのかもしれない。
しかしその後の聖女についてはよく分からないな。
とにかく、今はエリンのことだ。
エリンは天使、聖女の力を持っている。
利用、されるかもしれない。
もちろん僕も同じ力を持っている、が、力は段違いにエリンの方が大きい。
エリンに会わないと。
それとなくエリンの泊まる宿を聞きだし、夜、こっそりと行動を開始した。
案の定そこには護衛が大勢いて、突破するのは不可能。
真正面から向かう以外に道はない。
運が良ければ、会わせてくれるか・・・
一か八か、護衛に声をかけた。
しかし、結果は玉砕。
おまけに王子達が街を出るまで外出禁止を申しつけられ、翌日、去って行く王子達を家から見送るしかなかった。
「でも、居場所は分かった。」
これだけでも大きな収穫だ。
エリンは城にいる。
なら僕も、城に行くだけだ。
どんな手を使ってでも城に行き、エリンに会う。
絶対に。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる