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3日目
しおりを挟む「姫、外に出てみませんか?」
始まりは、その一言だった。
足に痛みがないようなら、歩いて日の光を浴びた方がいいと言われ、ノアと一緒に庭を散歩することになった。
「・・・!」
「気にいってもらえたようなら何よりです。」
外に出て、庭の風景を目の当たりにした私は思わず立ち止まって目を瞠った。
そんな私の様子に微笑みを浮かべたノア。
「この庭は、我が家の自慢です。美しいでしょう?」
コクコクと頷く。
・・・夢のような光景だった。
もともと海の中に住んでいた私。
地上の植物というだけで感動に値するというのに・・・
見惚れてしまうくらい、綺麗な光景だった。
色とりどりの花と、考え抜かれたであろうその配置。
難しいことはよく分からないけれど、素人目の私にも、とても美しいお庭だということが分かった。
お城にいた時は、足が痛くて、とても花をめでるほどの余裕がなくて。
だから今、私は猛烈に感動していた。
ああ、この気持ちを言葉に出して伝えられないのがもどかしい・・・!
「・・・ん?」
けど、どうにかして伝えたくて、ノアの袖をつんつんと引っ張る。
不思議そうに私を見たノアににこりと笑う。
こみあげる感情を抑えずに、満面の笑みを向ける。
「・・・え、あ・・・」
カアーッと効果音がつく勢いでなぜかノアの顔が赤に染まっていく。
え、大丈夫かな・・・
でも具合が悪そうには見えないので、そっと口を開く。
『あ・り・が・と・う。』
口パクで伝える、五文字の、感謝の言葉。
伝われ、伝われと念じながら、もう一度笑顔を向けた。
「~~~~~!!!!!ああもう、あなたって人は!」
さらに真っ赤になったノアが、突然大声をあげて片手で顔を覆った。
え、あ、どうしたんだろう。
私、なんかやらかした?
急に不安になって、ノアの顔をのぞきこむ。
―――と。
「っ!?」
グイッ!と。
体が引っ張られて、気付けば温かくて、力強い何かに体が覆われていた。
・・・え?
「そういうこと、無自覚にやってしまうんですから。俺が今までどんだけ我慢してきたことかっ!」
え、と。
これ、ひょっとして私、抱きしめられてるっ?
え、うそ。
え、あ、なんでなんでなんで?
うわあああああーーー!!
パニックに陥りながら、顔に熱が上がっていくのを自覚する。
あれ?っていうかノア、また一人称が俺になってる・・・?
「あーやばい。これはやばい。マジでやばい。ってか俺こんなキャラだったっけ・・・」
「?」
頭上でぶつぶつと何かつぶやいているけど、残念ながらうまく聞き取れない。
そして、ふっと熱が離れていった。
あ・・・
抱擁がとけて、ホッとする気持ちと、寂しく思う気持ちが・・・って、え!?
さ、寂しいって私、何考えてっ!?
「姫。」
先ほどまでとは違って、穏やかな声に呼ばれて恐る恐る顔をあげる。
「名前を、教えてくれませんか?いつまでも姫、というのは・・・私も、あなたの名前を呼びたい。」
先ほどのように口パクでいいので、教えてください。
そう言われて初めて、名前を教えていなかったことに気が付いた。
・・・呼んでもらいたい。
ノアには、名前で呼んでもらいたい。
むくむくとそんな気持ちが沸き上がり、私はもう一度口を開いた。
「――――」
「・・・ルーナ、ですか?」
「!」
コクコクコク、と。
今までにないくらい高速で首を縦に振った。
するとノアはその端正な顔立ちをほころばせて、
「ルーナ。」
私の名を、呼んでくれた。
その瞬間、体がフワフワと宙を浮くような、どうしようもない幸福感を感じた理由を、私はまだ、知らない。
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