イールの書〜神々の⻩昏、⼈類の夜明け〜

なぎ

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第3部 4章：最終準備

第98話：設計図の解読

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山田の救出から数日後、彼が命がけで持ち帰った情報の解析が始まった。

政府施設から盗み出したデータには、人類の想像を超える技術情報が含まれていた。そして、それは同時に恐ろしい事実も明らかにした。

会議室の大型スクリーンに、山田が持ち帰ったデータが表示された。そこには、政府が極秘裏に進めていたプロジェクトの全貌が記されていた。

「政府施設で、神々の武器の複製を試みていました」

山田の声には、まだ救出時の緊張が残っていた。彼の腕には、脱出時についた傷の治療痕が見えた。

「プロジェクト・アスガルド」というコードネームで呼ばれる計画。その目的は、イールの書から得られた情報を基に、神々の武器を現代技術で再現することだった。

設計図のコピーが画面に表示される。複雑な図面と、理解不能な数式の羅列。しかし、それを見た香川教授の反応は劇的だった。

「これは...」

香川教授が息を呑む。彼女の目は、科学者特有の興奮と恐怖で輝いていた。

「理論的には可能です。ただし、素材が...」

画面には、グングニル、ミョルニル、そしてその他の神々の武器の詳細な構造図が表示されていた。しかし、それらは単なる設計図ではなかった。現代科学と古代の魔術が融合した、全く新しい技術体系だった。

山田が解析を進めた。

「問題があります」

山田は、暗号化されたデータを示した。

「イールの書の付録には、各武器の詳細な製造方法があったようです。しかし、多重に暗号化されていて、政府の研究者たちも完全には解読できていません」

「ルーン文字と現代科学の融合」

山田が解析を始める。彼の指が高速でキーボードを叩く。画面上で、古代の文字と現代の数式が重なり合い、新たな意味を生み出していく。

最初に解読されたのは、オーディンの槍グングニルの推進システムだった。

「グングニルの推進システム」

解読が進むにつれ、その原理が明らかになっていく。

「重力波を利用した亜光速推進。アインシュタインの相対性理論の応用ですが、これは...」

香川教授が説明を引き継いだ。

「時空を歪めて、目標まで最短距離を作り出す」

香川教授の声は震えていた。

「理論上、この槍は発射された瞬間に標的に到達する。回避は不可能です」

しかし、さらに驚くべきは、槍に組み込まれた標的識別システムだった。

「量子もつれを利用した標的固定」

山田が解説する。

「一度狙いを定めれば、標的がどこに逃げても、別次元に移動しても、必ず追跡して命中する」

次に解読されたのは、トールの槌ミョルニルのエネルギー源だった。

「ミョルニルのエネルギー源」

画面に、複雑なエネルギー回路が表示される。

「小型核融合炉。しかし、これは現代の核融合とは全く違う」

斎藤博士が医学的な観点から懸念を示した。

「このエネルギー密度は...人体が耐えられるレベルではありません」

しかし、さらなる解析で、巧妙な安全装置が発見された。

「制御にはルーンプログラムが必須」

山田が、制御システムの核心部分を示した。

「これは、使用者の精神状態と直結している。正しい心を持つ者だけが、フルパワーを引き出せる仕組みです」

ドヴァリンが重要な警告を発した。

「知識だけでは不十分」

老ドワーフの表情は厳しかった。

「使いこなすには、精神的な準備も必要。武器は使用者の心を映す鏡。邪な心で使えば、自らを滅ぼす」

その警告の正しさは、政府施設の事故記録が証明していた。

「模造品が暴走」

内部告発者の証言が音声で流れる。

「制御できずに、研究者が犠牲に。施設の一区画が完全に破壊されました」

映像記録も残されていた。研究者が模造ミョルニルを起動した瞬間、制御を失った雷撃が施設内を暴れ回る。逃げ惑う人々、崩壊する設備。それは、神々の力を軽視した代償だった。

リンドバーグ教授が言語学的な観点から重要な発見をした。

「ルーン文字は単なる文字ではありません」

リンドバーグ教授は、古代文字の深層構造を解説した。

「それぞれが特定の波動を持ち、現実に干渉する力を持つ。つまり、プログラミング言語であると同時に、呪文でもある」

美咲が医学的な分析を加えた。

「使用者の脳波とルーン文字が共鳴する仕組みです」

美咲は、脳波測定器のデータを示した。

「覚醒者だけが、この共鳴を起こせる。普通の人間が使おうとしても、起動すらしないでしょう」

山田がさらなる発見をした。

「政府は、人工的に覚醒者を作ろうとしていました」

山田は、恐ろしい実験記録を表示した。

「遺伝子操作、薬物投与、脳への直接刺激。しかし、成功例はゼロ。多くの被験者が廃人になったか、死亡しています」

香川教授が物理学的な総括をした。

「これらの武器は、単なる道具ではありません」

香川教授の表情は真剣だった。

「使用者と一体化し、その意志を現実化する装置。だからこそ、使用者の資質が問われる」

エイリークが力強く宣言した。

「我々なら正しく使える」

エイリークの金色の瞳が輝いた。

「神々の末裔として、そして何より、人類を守るという正しい目的のために」

しかし、賢吾は慎重だった。

「力は腐敗する」

賢吾は、政府の失敗を見ながら言った。

「我々も同じ過ちを犯さないよう、常に自戒しなければならない」

ドヴァリンが最後に重要な情報を明かした。

「実は、本物の神々の武器の一部は、まだ地球に存在する」

老ドワーフの目が遠くを見つめた。

「地下深くに封印されている。しかし、それらを解放するには...」

「すべての覚醒者の力を結集する必要がある」

エイリークが理解した。

「そして、正しい心を持って」

設計図の解読は、新たな可能性と同時に、重い責任も明らかにした。神々の力を手にすることは、人類の守護者となることを意味する。しかし、一歩間違えれば、破壊者にもなりうる。

マグナスが決意を新たにした。

「だからこそ、我々は団結しなければならない」

マグナスの巨体から、静かな威厳が放たれた。

「互いに支え合い、正しい道を歩み続ける。それが、イールが我々に託した使命」

山田の命がけの情報収集は、単なる技術情報以上のものをもたらした。それは、力と責任、そして人類の未来についての深い問いかけだった。

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