The bloody rase

奈波実璃

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 セーレはリーベの父親の旧友の娘である。
 二人は年が近かったから、一緒によく遊んだ。木に登ったり、庭を駆け回ったり……幼い二人は、毎日といっていいほど共に過ごした。
 しかしリーベが領主の座に就いた頃から、彼女はリーベに対してどこかよそよそしくなっていった。
 自分と彼の身分差を意識して自分からそうしたのか、大人たちに止められたのか……リーベにはその理由を教えてはくれなかったが、彼はそれがたまらなく悔しかった。

「そういえば、昔こうして庭園を眺めていたら、急に蜂が襲ってきてセーレが泣き出してしまったことがあったね」
 リーベは過去の記憶を手繰り寄せた。セーレも当時のことを思い出したのか、頬を染めて破顔した。
「昔の話ですわ」
「でも、今でも蜂は苦手でしょ?」
「そうですけれど……」
 二人は顔を見合わせて笑いあった。セーレと過ごす何気ない時間が、リーベは堪らなく愛おしかった。リーベのその笑顔は、血を啜るときの彼とはまるで別人のようであった。

「こんなところにいたのか、リーベ?」
 そんな二人の時間を破る声が、遠くから響いた。振り返ると、リーベと年頃が近い人物立っていた。
「アウグスト? どうしてここに?」
 彼はリーベの従兄にあたる人物で、数年前まで遠くの土地で暮らしていたがリーベが領主の座に就く頃、その手助けをするために戻ってきた。この男は、リーベが他の誰よりも信頼している男で、公私共に様々な相談事を話し合っていた。
「どうもこうもないよ。君が広間から抜け出してからというもの、女の子たちが君がいないと来た意味がないといって駄々をこね始めたんだ。このままじゃ場が持たんよ。至急戻ってくれないか?」
 アウグストはここまで走ってきたのか、汗を拭きながら言った。
「それは申し訳ない。だが……」
 リーベはセーレの方にチラリと目をやった。
「私のことはお構いなく。それでは、失礼いたします」
 セーレは軽くお辞儀だけすると、その場離れた。
「彼女、確か君の幼馴染だったよね」
 セーレの背中を見送るリーベに、アウグストが尋ねた。
「えぇ。そうですが」
 リーベは苛立ちまぎれに答えた。
「ふぅん。なかなか可愛い子だね、あの子……」
 アウグストはセーレの後ろ姿に熱い視線を送っていた。リーベはその横顔に、胸騒ぎを覚えた。
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