車輪になった妹

奈波実璃

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それは未知子が退院した日の、太陽が高く昇る頃だった。
私は未知子と手を繋いで、彼女と足を揃えて電車から揚々と降りた。
今でも彼女の手の温もりは、ありありと思い出すことができる。
そこは自宅最寄り駅の小さな駅で、急行は止まらず走り抜けてしまう。
ちょうど私達の乗った電車は、その時間帯で最後の各駅停車だった。
電車から降りると同時に、その電車の別の車両に乗っていた両親の知り合いに、私達は声をかけられた。
そのためほんの一瞬、私達家族は未知子から意識を外すこととなった。
その、ほんの一瞬のことだった。

『あ、風船が飛んでる』

未知子の声だ。
その声に振り返った私は、確かに風船が目の前を横切っているのを見た。
多分、ホームにいた誰かが手を離したものだろう。
未知子はそれに気がつくと、私の手を振り払ってそれを追っていった。
風船は風に流されて、どんどん未知子をホームの反対側へと誘っていく。
そして未知子の体がホームの下に落ち、急行の電車が彼女の落下地点に勢いよく滑り込んできたのだった。
全てがスローモーションのようだった。

くぐもった、鈍い音。
そこに覆い被さる甲高いブレーキ音。
ホーム上まで吹き上がる赤とも茶色ともつかない液体。
ぬるりとした物体が飛び散って、その一部が私の服や髪や頬にべちょっと落ちる様子。

私は反射的にそれらを掻い潜りながら、駆け足でホームの端へ寄って、未知子が落ちた辺りを覗きこんだ。
車両とホームの隙間に、車輪の姿を認めた。
その車輪に、赤い液体とも固体ともつかないものがこびりついているのが見てとれた。
周囲がざわつく中、私はそれを見入り続けた。
したたる滴が、線路の石の上に流れていく。
私の脳にその日最後に保存された記憶は、誰かの叫び声だった。
母のものか、父のものか、駅にいた他の誰かのものか。
それとも私のものなのか。
今となっては確認する術はない。
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