4 / 7
4
しおりを挟む
それからしばらくの記憶は曖昧だった。
確か一時期、両親以外の誰かと暮らしていたかのように思う。
あとで親戚から聞いた話によると、母はその後精神疾患を患い、そんな母のケアと仕事を両立せざるを得なかった父も、体を悪くしたようだ。
そして私は、その親戚に預けられたのだという。
多分、私に僅かに残っていた記憶はその頃のものだろう。
しかしながら私が高校受験を考えるようになった頃には、二人とも大分落ち着いて私達家族は三人で暮らす、普通の生活を取り戻しつつあった。
しかしやはり、一家の電車に対する恐怖と嫌悪は到底拭い去ることはできなかった。
私達は電車を敢えて避けるように生活をしていた。
母に至っては、いつまたあの日の出来事がフラッシュバックするか分からないからと車通りの多い道すらも避けている始末だ。
しかし私は、電車の必要とする生活に身を置くことになってしまった。
大学生活も大詰め、私は何度となく企業に履歴書を書き、面接に行っては恵まれない縁に頭を悩ませた。
そしてようやく内定した会社は、実家から電車通勤が必要な場所だった。
両親に相談した時、父は私のトラウマを心配していたものの、本当に心がダメになってしまいそうならいつでも一人立ちして引っ越すなり、退職するなりを考えなさいと不安げに言っていた。
しかし母は、断固として反対をし続けた。
『あなたまで死んでしまうのではないかと、どうしても思ってしまうの』
そう言って。
私と父は相談して、母に心理療法に通うように説得した。
『これもいつかは、乗り越えなければいけないことなのだから』と。
そうしてようやく、私は数年ぶりに電車に乗ったのだった。
確か一時期、両親以外の誰かと暮らしていたかのように思う。
あとで親戚から聞いた話によると、母はその後精神疾患を患い、そんな母のケアと仕事を両立せざるを得なかった父も、体を悪くしたようだ。
そして私は、その親戚に預けられたのだという。
多分、私に僅かに残っていた記憶はその頃のものだろう。
しかしながら私が高校受験を考えるようになった頃には、二人とも大分落ち着いて私達家族は三人で暮らす、普通の生活を取り戻しつつあった。
しかしやはり、一家の電車に対する恐怖と嫌悪は到底拭い去ることはできなかった。
私達は電車を敢えて避けるように生活をしていた。
母に至っては、いつまたあの日の出来事がフラッシュバックするか分からないからと車通りの多い道すらも避けている始末だ。
しかし私は、電車の必要とする生活に身を置くことになってしまった。
大学生活も大詰め、私は何度となく企業に履歴書を書き、面接に行っては恵まれない縁に頭を悩ませた。
そしてようやく内定した会社は、実家から電車通勤が必要な場所だった。
両親に相談した時、父は私のトラウマを心配していたものの、本当に心がダメになってしまいそうならいつでも一人立ちして引っ越すなり、退職するなりを考えなさいと不安げに言っていた。
しかし母は、断固として反対をし続けた。
『あなたまで死んでしまうのではないかと、どうしても思ってしまうの』
そう言って。
私と父は相談して、母に心理療法に通うように説得した。
『これもいつかは、乗り越えなければいけないことなのだから』と。
そうしてようやく、私は数年ぶりに電車に乗ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる