車輪になった妹

奈波実璃

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それからしばらくの記憶は曖昧だった。
確か一時期、両親以外の誰かと暮らしていたかのように思う。
あとで親戚から聞いた話によると、母はその後精神疾患を患い、そんな母のケアと仕事を両立せざるを得なかった父も、体を悪くしたようだ。
そして私は、その親戚に預けられたのだという。
多分、私に僅かに残っていた記憶はその頃のものだろう。
しかしながら私が高校受験を考えるようになった頃には、二人とも大分落ち着いて私達家族は三人で暮らす、普通の生活を取り戻しつつあった。
しかしやはり、一家の電車に対する恐怖と嫌悪は到底拭い去ることはできなかった。
私達は電車を敢えて避けるように生活をしていた。
母に至っては、いつまたあの日の出来事がフラッシュバックするか分からないからと車通りの多い道すらも避けている始末だ。


しかし私は、電車の必要とする生活に身を置くことになってしまった。
大学生活も大詰め、私は何度となく企業に履歴書を書き、面接に行っては恵まれない縁に頭を悩ませた。
そしてようやく内定した会社は、実家から電車通勤が必要な場所だった。
両親に相談した時、父は私のトラウマを心配していたものの、本当に心がダメになってしまいそうならいつでも一人立ちして引っ越すなり、退職するなりを考えなさいと不安げに言っていた。
しかし母は、断固として反対をし続けた。
『あなたまで死んでしまうのではないかと、どうしても思ってしまうの』
そう言って。
私と父は相談して、母に心理療法に通うように説得した。
『これもいつかは、乗り越えなければいけないことなのだから』と。
そうしてようやく、私は数年ぶりに電車に乗ったのだった。
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