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番外編
素朴すぎるマネージャー
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冬の章の数ヶ月後のふたり。ほのぼの。
ふくちゃん視点。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「『素朴すぎるマネージャー』って噂になってたらしいね」
4月なかば、休日をノイ君の部屋でのんびり過ごしている時だった。マグカップに沈めたティーバッグを震わせながら、ノイ君がにやにやと意味深な視線を投げかけてくる。わたしは肩をすくめて「……そうみたいだね」と苦笑いをこぼした。
発端は開幕戦で選手控え室に入ったことからだ。前シーズンの最終節から引き続き、選手達の隣にちょこんと座っているわたしに『だれこの人!?』『確か前もいたよね!?』みたいな感じで、コメント欄で一騒ぎ起こったらしい。
できる限りカメラから逃げた位置取りをしていたつもりだけれど、試合が始まってしまったらそんなことそっちのけで観戦しちゃってたからな……。しかも、佐伯さん曰く何度もアップになっていたらしく、恥ずかしいったらない。
ノイ君の言ってる『素朴すぎるマネージャー』っていう二つ名(?)は、そのコメント欄で爆誕したものだ。メガネとぱっつん前髪と大きめサイズのチームブルゾンの3点セットが、どうにも田舎っぽさがあったのか『素朴だね』みたいなコメントが入って、そこから『確かに!』『素朴すぎるマネージャー!』という流れになっていた。
控え室の様子なんて、ほんの小さくしか映らないのに、まさかあんなに注目されるなんて……。アーカイブを見ていて、ほんっとうにびっくりした。
「……まあ、これからはいつもの関係者控え室で試合観るから、そのうちほとぼりもさめるんじゃないかな……」
思い出しても顔が熱くなる。プロとして見られることが板についてきたノイ君とは違って、わたしは単なるマネージャーなんだから。本来なら黒子に徹したいし、そうすべきポジションなんだ。
「えー、いてよ」
ノイ君は口を尖らせて文句を言いながら、紅茶のティーバッグを豆皿に移した。そのまま流れでわたしのティーバッグにも同じことをしてくれる。きれいなオレンジ色の紅茶からは、ほのかに桃の香りがした。
甘い香りに誘われるようにマグカップを持ち上げようとしたら、おもむろにノイ君がそれを阻むように手を重ねてくる。なに? と視線だけでたずねると、彼は微笑んで「ちょっと待ってね」と囁いた。
ローテーブルをはさんで向かい合っていた状態から、ノイ君が立ち上がってわたしのそばにやってくる。しゃがみこむなり、その手を伸ばしてわたしのメガネを外した。
「あ、ちょっと……」
途端にピントが合わなくなって、ノイ君の輪郭がぼやけてしまう。
揺れる大きな瞳を見つめると「……でも、確かに倫があんまり見られるのもいやかも」と真面目な声がかかった。
「倫がこんなにかわいいのは、俺だけが知ってた方がいいもんね」
「!!」
こういうこと大真面目に言えるんだもん。ほんっとノイ君って人は……!
「も、もうっ……またそんなこと言って。ノイ君はわたしのこと褒めすぎだよ」
「本心だし、真実で事実だもんねー。あと名前」
「あっ。あ。か、楓くん……」
「それそれ」
ふふっとノイ君が笑う声がして、かすめるような口付けが降ってきた。
ふくちゃん視点。
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「『素朴すぎるマネージャー』って噂になってたらしいね」
4月なかば、休日をノイ君の部屋でのんびり過ごしている時だった。マグカップに沈めたティーバッグを震わせながら、ノイ君がにやにやと意味深な視線を投げかけてくる。わたしは肩をすくめて「……そうみたいだね」と苦笑いをこぼした。
発端は開幕戦で選手控え室に入ったことからだ。前シーズンの最終節から引き続き、選手達の隣にちょこんと座っているわたしに『だれこの人!?』『確か前もいたよね!?』みたいな感じで、コメント欄で一騒ぎ起こったらしい。
できる限りカメラから逃げた位置取りをしていたつもりだけれど、試合が始まってしまったらそんなことそっちのけで観戦しちゃってたからな……。しかも、佐伯さん曰く何度もアップになっていたらしく、恥ずかしいったらない。
ノイ君の言ってる『素朴すぎるマネージャー』っていう二つ名(?)は、そのコメント欄で爆誕したものだ。メガネとぱっつん前髪と大きめサイズのチームブルゾンの3点セットが、どうにも田舎っぽさがあったのか『素朴だね』みたいなコメントが入って、そこから『確かに!』『素朴すぎるマネージャー!』という流れになっていた。
控え室の様子なんて、ほんの小さくしか映らないのに、まさかあんなに注目されるなんて……。アーカイブを見ていて、ほんっとうにびっくりした。
「……まあ、これからはいつもの関係者控え室で試合観るから、そのうちほとぼりもさめるんじゃないかな……」
思い出しても顔が熱くなる。プロとして見られることが板についてきたノイ君とは違って、わたしは単なるマネージャーなんだから。本来なら黒子に徹したいし、そうすべきポジションなんだ。
「えー、いてよ」
ノイ君は口を尖らせて文句を言いながら、紅茶のティーバッグを豆皿に移した。そのまま流れでわたしのティーバッグにも同じことをしてくれる。きれいなオレンジ色の紅茶からは、ほのかに桃の香りがした。
甘い香りに誘われるようにマグカップを持ち上げようとしたら、おもむろにノイ君がそれを阻むように手を重ねてくる。なに? と視線だけでたずねると、彼は微笑んで「ちょっと待ってね」と囁いた。
ローテーブルをはさんで向かい合っていた状態から、ノイ君が立ち上がってわたしのそばにやってくる。しゃがみこむなり、その手を伸ばしてわたしのメガネを外した。
「あ、ちょっと……」
途端にピントが合わなくなって、ノイ君の輪郭がぼやけてしまう。
揺れる大きな瞳を見つめると「……でも、確かに倫があんまり見られるのもいやかも」と真面目な声がかかった。
「倫がこんなにかわいいのは、俺だけが知ってた方がいいもんね」
「!!」
こういうこと大真面目に言えるんだもん。ほんっとノイ君って人は……!
「も、もうっ……またそんなこと言って。ノイ君はわたしのこと褒めすぎだよ」
「本心だし、真実で事実だもんねー。あと名前」
「あっ。あ。か、楓くん……」
「それそれ」
ふふっとノイ君が笑う声がして、かすめるような口付けが降ってきた。
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素敵な表紙イラストともども本当にありがとう!!
あのかわいいふくちゃんとノイ君のおかげで、わたしもすごく書く時にモチベーション上がったよ。
ふくちゃんのことも応援してくれてありがとっ。
終盤なんて「えっ、ここで尻込みしちゃうの!?」という感じでヤキモキさせたよね。
でも最終的にはああいう形で終われて、わたし自身もほんとに良かったなぁと思ってます!
色々、感謝してもしきれないよーーー!!
わあああっ!最後まで読んでくれてありがとうーーーーっ!!!
しかもまさかのおいちゃん!あの魂の叫びがきいたんだねっ。
いやぁほんとに彼がいなかったら、ずっとこじれてバッドエンドになってる可能性あったから…
器の大きさが見えたよね……そりゃ彼女ともラブラブだよね……♪(´ε` )
みんなの頑張りが報われるラストを書けて、わたしもすごくほっとしてるよ。
本当に感想ありがとう!!!
退会済ユーザのコメントです
感想ありがとうございます!
社会人の青春…!言われてみて「確かにそうかも!」と思いました。
みんなものすごく一生懸命でしたもんね、いろいろ。
わたし自身がだれかの頑張っている姿を見るのが好きなので、そのあたりの好み(?)が作品に反映されたのかもしれません。
ラストは希望ある感じで終わらせたかったので、幸せな気持ちになってもらえて嬉しいですっ!
キャラのことも、そう言ってもらえてホッとしました( ^∀^)
(3人がこんがらがったら切ないですから……)
本当に感想ありがとうございますっ!