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番外編
恋と呼べたらよかった
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冬の章「7、答えはもちろん」の裏話。(直後の話?)
コオリ視点です。
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「あっ、今の見た!? ちゅーしたよね、あれは!」
太い幹の影でぐっと拳をにぎるおいさんに、俺は「……はあ」と気のない返事をした。ノイさんと豊福さんのシルエットは、さっきから重なったまま。そこに焦点はあてないようにしている俺の努力は、おいさんの実況中継によって虚しいものになっている。
二人にまかせるって言ってたのはなんだったんだ……。
颯爽と二人の元を去ったはずなのに、おいさんと来たら北海道フェアを目前にして「やっぱり見届けないと!」なんて言い出して。こうして二人からギリギリ離れたところから、覗き見するはめになっている。
そんな野暮なことはしたくないけれど、おいさんの方は違うようで「やっとくっついた……長かった……!!」と声を震わせている。
確かに、ずっとじれったい二人だった。
まわりから見たらお互いに気持ちが向いているのに、いつまでもその距離が曖昧で。色々とあったけれど、おさまるべきところにおさまったのだから、俺も少なからずホッとしている部分もある。
でも──。
「……残念だったな」
自分の奥底で眠らせているものを刺激されて、俺はハッとおいさんに視線を向けた。いつのまにかおいさんは俺を見ていて、その表情には含みがある。
「別に俺は何も思ってませんけど」
「うん、わかってる。ありがとう」
「……なんでお礼なんですか」
「内戦が勃発したら、さすがの俺にも手に負えないからさ」
冗談とも本気とも言えない表情で言うと、おいさんはまたベンチの二人を伺った。──けれど。
「あっ、やばっ! ノイズと目が合っちゃった!」
いつのまにか隠れてもいなかったおいさんが、焦った様子で俺を振り返る。見ると、二人はいつのまにか離れていて、豊福さんもこちらを見ていた。遠目からでもわかる。完全に気づかれている。
俺は深く重いため息をついた。
「……恨みますよ、おいさん」
「いやあ、もうちょっと二人の世界が続くと思ったんだけどな……完全に読みが外れた」
おいさんが力の抜けた笑みを浮かべている間に、二人はこちらへと歩いて来ている。こうなっては逃げられないし、言い逃れもできない。
ノイさんは遠目から見ても意気揚々としていて、今にもスキップしかねない足取りだ。その隣の豊福さんは小走りしているけれど、それを見かねたのかノイさんが途中で彼女の手をとっていた。
ずきり、と心が痛む。
あの夜にぎった彼女の手が手袋に包まれていたことを不意に思い出して、あんな時でもノイさんが彼女を守っていたんだなと何故だか思った。
そうこうしているうちに、ノイさんと豊福さんが俺たちの目の前までやってくる。
「二人とも、いつから見てたわけ? 心配しすぎだから」
ノイさんは明るく言って「ほら」とつないだ手をあげてみせる。豊福さんは「ノイ君! ちょっと!」と顔を真っ赤にして焦った様子だ。
「おめでと。これで俺も肩の荷がおりたよ」
おいさんは覗き見していた罪悪感なんておくびにも出さず、平然としている。なんなんだ、この強心臓。──もしかしたらこの中で一番肝がすわっているのは、おいさんなのかもしれない。今日で色々と認識が改まった。
「あああ、ああ、あの……そ、そういうことになったけど、マネージャー業には影響させないから! しっかりやるから!」
豊福さんは勢いよくノイさんの手を外すと、必死になって言った。
……本当に真面目だ。そんなこと言わなくても俺は豊福さんのことを信じている。多分おいさんも同じだろう。
ノイさんは「もう、ふくちゃんてば!」と不満そうだけれど、豊福さんを見る目は優しくて余裕があった。この間まで生気の抜けた顔をしていたのに、なんて変わり身の速さだろう。少しだけそれにイラっとする。
二人のことは、ずっとやきもきしていたし、応援する気持ちだってあった。それなのに。
──気づかなければ良かった。ノイさんが豊福さんに振られたと聞いた時に浮かんだ仄暗い喜びなんて。
あれさえなければ、心から二人を祝福できたのに。最初から二人がうまくいってくれさえすれば、こんなふうにいらない傷を受けることもなかった。
「……おめでとうございます」
いつのまにか笑う時には、豊福さんを思い出すようになっていた。いつかの変顔じゃない。飾らない素直な笑顔を浮かべれば、自分も似たような表情ができる気がしたから。
目の前に本人がいるのにそうするなんておかしな話だけれど、その試みは成功した。想像よりもずっと優しい表情で豊福さんも微笑んでくれる。
ああ、もうこれで本当に彼女はノイさんのものだ。そう実感して、俺は腹の底にたまる淀んだものに蓋をした。
コオリ視点です。
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「あっ、今の見た!? ちゅーしたよね、あれは!」
太い幹の影でぐっと拳をにぎるおいさんに、俺は「……はあ」と気のない返事をした。ノイさんと豊福さんのシルエットは、さっきから重なったまま。そこに焦点はあてないようにしている俺の努力は、おいさんの実況中継によって虚しいものになっている。
二人にまかせるって言ってたのはなんだったんだ……。
颯爽と二人の元を去ったはずなのに、おいさんと来たら北海道フェアを目前にして「やっぱり見届けないと!」なんて言い出して。こうして二人からギリギリ離れたところから、覗き見するはめになっている。
そんな野暮なことはしたくないけれど、おいさんの方は違うようで「やっとくっついた……長かった……!!」と声を震わせている。
確かに、ずっとじれったい二人だった。
まわりから見たらお互いに気持ちが向いているのに、いつまでもその距離が曖昧で。色々とあったけれど、おさまるべきところにおさまったのだから、俺も少なからずホッとしている部分もある。
でも──。
「……残念だったな」
自分の奥底で眠らせているものを刺激されて、俺はハッとおいさんに視線を向けた。いつのまにかおいさんは俺を見ていて、その表情には含みがある。
「別に俺は何も思ってませんけど」
「うん、わかってる。ありがとう」
「……なんでお礼なんですか」
「内戦が勃発したら、さすがの俺にも手に負えないからさ」
冗談とも本気とも言えない表情で言うと、おいさんはまたベンチの二人を伺った。──けれど。
「あっ、やばっ! ノイズと目が合っちゃった!」
いつのまにか隠れてもいなかったおいさんが、焦った様子で俺を振り返る。見ると、二人はいつのまにか離れていて、豊福さんもこちらを見ていた。遠目からでもわかる。完全に気づかれている。
俺は深く重いため息をついた。
「……恨みますよ、おいさん」
「いやあ、もうちょっと二人の世界が続くと思ったんだけどな……完全に読みが外れた」
おいさんが力の抜けた笑みを浮かべている間に、二人はこちらへと歩いて来ている。こうなっては逃げられないし、言い逃れもできない。
ノイさんは遠目から見ても意気揚々としていて、今にもスキップしかねない足取りだ。その隣の豊福さんは小走りしているけれど、それを見かねたのかノイさんが途中で彼女の手をとっていた。
ずきり、と心が痛む。
あの夜にぎった彼女の手が手袋に包まれていたことを不意に思い出して、あんな時でもノイさんが彼女を守っていたんだなと何故だか思った。
そうこうしているうちに、ノイさんと豊福さんが俺たちの目の前までやってくる。
「二人とも、いつから見てたわけ? 心配しすぎだから」
ノイさんは明るく言って「ほら」とつないだ手をあげてみせる。豊福さんは「ノイ君! ちょっと!」と顔を真っ赤にして焦った様子だ。
「おめでと。これで俺も肩の荷がおりたよ」
おいさんは覗き見していた罪悪感なんておくびにも出さず、平然としている。なんなんだ、この強心臓。──もしかしたらこの中で一番肝がすわっているのは、おいさんなのかもしれない。今日で色々と認識が改まった。
「あああ、ああ、あの……そ、そういうことになったけど、マネージャー業には影響させないから! しっかりやるから!」
豊福さんは勢いよくノイさんの手を外すと、必死になって言った。
……本当に真面目だ。そんなこと言わなくても俺は豊福さんのことを信じている。多分おいさんも同じだろう。
ノイさんは「もう、ふくちゃんてば!」と不満そうだけれど、豊福さんを見る目は優しくて余裕があった。この間まで生気の抜けた顔をしていたのに、なんて変わり身の速さだろう。少しだけそれにイラっとする。
二人のことは、ずっとやきもきしていたし、応援する気持ちだってあった。それなのに。
──気づかなければ良かった。ノイさんが豊福さんに振られたと聞いた時に浮かんだ仄暗い喜びなんて。
あれさえなければ、心から二人を祝福できたのに。最初から二人がうまくいってくれさえすれば、こんなふうにいらない傷を受けることもなかった。
「……おめでとうございます」
いつのまにか笑う時には、豊福さんを思い出すようになっていた。いつかの変顔じゃない。飾らない素直な笑顔を浮かべれば、自分も似たような表情ができる気がしたから。
目の前に本人がいるのにそうするなんておかしな話だけれど、その試みは成功した。想像よりもずっと優しい表情で豊福さんも微笑んでくれる。
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