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第三章
ドアの隙間
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◇◇◇
今日も大地は家にいなかった。俺は週二でマリカちゃんの家に行くし、入れ替わりで大地も週二でチカのところに行く。ここのところ、週三でしか大地と晩ごはんを食べていない。
《明日うち来ない?》
マリカちゃんからLINEが来た。明日は……数少ない、俺も大地も家にいる日だ。……できたら予定を埋めたくない。それだったら、大地がいつもチカの家に行ってる明後日にしてほしいと思い、返事を送った。
《ごめん、明後日じゃダメ?》
しばらくして、マリカちゃんからメッセージが返ってきた。
《大丈夫だよー! じゃ、明後日ね! 楽しみー!》
《俺も。じゃあまた明日大学で》
「はあ……」
ここのところずっとモヤモヤしている。結局、大地にセフレがチカかどうかも聞けていない。怖くて何も聞けなくて、その代わりに大地の体を求めてしまう。
霧の中にいるみたいだ。自分のことも、大地のことも、なんにも分かんねえ。
「気持ちわりい……」
毎日がスッキリしない。どうやったら霧が晴れるのか、見当もつかねえ。
◇◇◇
マリカちゃんの家に遊びに行く日がやってきた。予想通り、大地はチカのところに行っているのか家に帰ってこない。俺はのろのろと準備をして、マリカちゃんの家に向かった。
《ちょっと今立て込んでるから、勝手に入ってきてくれるー? 鍵開いてると思うからー》
《おけー》
LINEの指示通り、俺はインターフォンも押さずに勝手に玄関のドアを開け……茫然と立ち尽くした。
男の靴がある。それも、見覚えのありすぎるスニーカーだ。
(どうして大地がマリカちゃんの家にいるんだよ。今日はチカと会ってる日じゃなかったのか……?)
俺は足音を立てないよう、そろそろと廊下を歩いた。
マリカちゃんの一人住まい先は1Kの小さな間取りだ。細苦しい廊下に申し訳程度のキッチンスペースがあり、奥のドアを開けると一部屋だけがポツンとある。マリカちゃんはその八帖の部屋に、ソファやベッドなど、暮らしに必要な家具を全て詰め込んでいる。
なんで、どうして、ドアの向こうの八帖の部屋から、マリカちゃんの喘ぎ声が聞こえるんだよ。
「あんっ……あっ、あぁぁっ! 大地っ……激しっ……あぁぁっ!」
「こんくらい激しく突かねえと悦ばねえじゃん、お前。好きだろ、こういうの」
「あっ、あぁっ、好きぃっ……! もっとぉっ……!」
「もっと? 子宮潰れても知らねえぞ」
「あぁぁっ!♡」
なに……? 向こうで何が起きているんだ……?
いつもより低い声だけど、男の声は紛れもなく大地の声だ……。
まさか……嘘だろ……。
俺はドアノブに手をかけた。手も膝もガクガク震えている。見るのが怖い。でも……確かめないと……。
「……」
ドアの隙間から見えたのは、全裸のマリカちゃんの上で腰を振っている全裸の大地。
あまりのことに俺は声をかけられず、行為が終わるまでぼうっと立ち尽くしていた。
「もう終わっていいか? 疲れた」
「え、もうちょっと……」
「は? まだやんの? 今日はなげえな……」
そこでマリカちゃんがチラリとこちらを見て、口元を緩めた気がした。
「やっぱり終わっていいよ」
「お、まじ? 助かる」
「うん。それでさ、大地。あっち見て」
「ん?」
マリカちゃんが指さしたのは、俺が立っているドアの方向。こっちを見た大地は俺に気付き、顔を真っ青にした。
「……爽……」
「……」
「……いつから……」
「……十分くらい前から……」
「……まじか……」
「……」
大地はため息を吐きマリカちゃんを睨みつける。
「お前の差し金?」
するとマリカちゃんはニッコリ笑って頷いた。
「うん!」
「はぁー……趣味わりぃ……」
なんでマリカちゃんと大地がヤッてんの?
なんで二人がそんな仲良さそうなの?
っていうかいつから?
マリカちゃんは、なんで俺に現場を見られても平然としてるの?
そもそも勝手に入ってこいって言ったのはマリカちゃんだ。マリカちゃんは、俺が来るって知ってて大地とセックスしてたんだよな。なんで?
聞きたいことや恨み言が、頭の中でぐるぐるとごっちゃになって駆け回る。
大地の顔も、マリカちゃんの顔もまともに見れねえ。当り前だろ、こんなの。
なんだよこれ。
俺が黙りこくっている間に、マリカちゃんと大地はそそくさと服を着た。
冷静を装っているけど内心慌てふためいている様子からして、大地は俺が来ることを知らなかったようだ。
一方マリカちゃんは平常運転。ニコニコと笑顔を浮かべたまま、愛液で濡れたシーツの上に腰かけ、俺に手招きする。
「爽君、こっち来て?」
「……俺帰るわ」
「十分も盗み見しといて今さら帰るの?」
「……」
「とりあえずこっち来てよ、ね?」
こいつ、頭おかしいんじゃないのか。なんでそんな悪びれもせず、他の男とヤッた部屋に彼氏呼び込めるんだよ。ついさっきまで、お前らそこでヤッてたんだぞ。
「私と大地に、聞きたいことがあるんじゃない?」
それは、ある。
山ほどあるわこんなもん。
「全部話すから、とりあえずこっち来て?」
どっちにしろ、マリカちゃんとの関係は今日で終わりだ。
だったら最後にワケを聞かせてもらおうか。
俺はヤケクソ気味に部屋に入り、ソファに足を組んで座った。
今日も大地は家にいなかった。俺は週二でマリカちゃんの家に行くし、入れ替わりで大地も週二でチカのところに行く。ここのところ、週三でしか大地と晩ごはんを食べていない。
《明日うち来ない?》
マリカちゃんからLINEが来た。明日は……数少ない、俺も大地も家にいる日だ。……できたら予定を埋めたくない。それだったら、大地がいつもチカの家に行ってる明後日にしてほしいと思い、返事を送った。
《ごめん、明後日じゃダメ?》
しばらくして、マリカちゃんからメッセージが返ってきた。
《大丈夫だよー! じゃ、明後日ね! 楽しみー!》
《俺も。じゃあまた明日大学で》
「はあ……」
ここのところずっとモヤモヤしている。結局、大地にセフレがチカかどうかも聞けていない。怖くて何も聞けなくて、その代わりに大地の体を求めてしまう。
霧の中にいるみたいだ。自分のことも、大地のことも、なんにも分かんねえ。
「気持ちわりい……」
毎日がスッキリしない。どうやったら霧が晴れるのか、見当もつかねえ。
◇◇◇
マリカちゃんの家に遊びに行く日がやってきた。予想通り、大地はチカのところに行っているのか家に帰ってこない。俺はのろのろと準備をして、マリカちゃんの家に向かった。
《ちょっと今立て込んでるから、勝手に入ってきてくれるー? 鍵開いてると思うからー》
《おけー》
LINEの指示通り、俺はインターフォンも押さずに勝手に玄関のドアを開け……茫然と立ち尽くした。
男の靴がある。それも、見覚えのありすぎるスニーカーだ。
(どうして大地がマリカちゃんの家にいるんだよ。今日はチカと会ってる日じゃなかったのか……?)
俺は足音を立てないよう、そろそろと廊下を歩いた。
マリカちゃんの一人住まい先は1Kの小さな間取りだ。細苦しい廊下に申し訳程度のキッチンスペースがあり、奥のドアを開けると一部屋だけがポツンとある。マリカちゃんはその八帖の部屋に、ソファやベッドなど、暮らしに必要な家具を全て詰め込んでいる。
なんで、どうして、ドアの向こうの八帖の部屋から、マリカちゃんの喘ぎ声が聞こえるんだよ。
「あんっ……あっ、あぁぁっ! 大地っ……激しっ……あぁぁっ!」
「こんくらい激しく突かねえと悦ばねえじゃん、お前。好きだろ、こういうの」
「あっ、あぁっ、好きぃっ……! もっとぉっ……!」
「もっと? 子宮潰れても知らねえぞ」
「あぁぁっ!♡」
なに……? 向こうで何が起きているんだ……?
いつもより低い声だけど、男の声は紛れもなく大地の声だ……。
まさか……嘘だろ……。
俺はドアノブに手をかけた。手も膝もガクガク震えている。見るのが怖い。でも……確かめないと……。
「……」
ドアの隙間から見えたのは、全裸のマリカちゃんの上で腰を振っている全裸の大地。
あまりのことに俺は声をかけられず、行為が終わるまでぼうっと立ち尽くしていた。
「もう終わっていいか? 疲れた」
「え、もうちょっと……」
「は? まだやんの? 今日はなげえな……」
そこでマリカちゃんがチラリとこちらを見て、口元を緩めた気がした。
「やっぱり終わっていいよ」
「お、まじ? 助かる」
「うん。それでさ、大地。あっち見て」
「ん?」
マリカちゃんが指さしたのは、俺が立っているドアの方向。こっちを見た大地は俺に気付き、顔を真っ青にした。
「……爽……」
「……」
「……いつから……」
「……十分くらい前から……」
「……まじか……」
「……」
大地はため息を吐きマリカちゃんを睨みつける。
「お前の差し金?」
するとマリカちゃんはニッコリ笑って頷いた。
「うん!」
「はぁー……趣味わりぃ……」
なんでマリカちゃんと大地がヤッてんの?
なんで二人がそんな仲良さそうなの?
っていうかいつから?
マリカちゃんは、なんで俺に現場を見られても平然としてるの?
そもそも勝手に入ってこいって言ったのはマリカちゃんだ。マリカちゃんは、俺が来るって知ってて大地とセックスしてたんだよな。なんで?
聞きたいことや恨み言が、頭の中でぐるぐるとごっちゃになって駆け回る。
大地の顔も、マリカちゃんの顔もまともに見れねえ。当り前だろ、こんなの。
なんだよこれ。
俺が黙りこくっている間に、マリカちゃんと大地はそそくさと服を着た。
冷静を装っているけど内心慌てふためいている様子からして、大地は俺が来ることを知らなかったようだ。
一方マリカちゃんは平常運転。ニコニコと笑顔を浮かべたまま、愛液で濡れたシーツの上に腰かけ、俺に手招きする。
「爽君、こっち来て?」
「……俺帰るわ」
「十分も盗み見しといて今さら帰るの?」
「……」
「とりあえずこっち来てよ、ね?」
こいつ、頭おかしいんじゃないのか。なんでそんな悪びれもせず、他の男とヤッた部屋に彼氏呼び込めるんだよ。ついさっきまで、お前らそこでヤッてたんだぞ。
「私と大地に、聞きたいことがあるんじゃない?」
それは、ある。
山ほどあるわこんなもん。
「全部話すから、とりあえずこっち来て?」
どっちにしろ、マリカちゃんとの関係は今日で終わりだ。
だったら最後にワケを聞かせてもらおうか。
俺はヤケクソ気味に部屋に入り、ソファに足を組んで座った。
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