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一年:二学期期末考査~二学期最終日
第十一話
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◇◇◇
「理玖、おはよっ」
「……はよ」
十分ほど遅れて凪が教室に入ってきた。俺はいつも以上に小さな声で挨拶を返すだけで精いっぱいだった。
「ん? どうした、理玖」
「別に」
「いやなんか機嫌悪くない? もしかして朝のこと怒って――」
こいつ!! 教室でそんなこと口に出すなバカ!!
俺は勢いよく立ち上がり教室から出て行った。
ダメだ。教室に戻るのいやだ。凪の顔見たくない。凪がトモダチと楽しくオシャベリしているところも見たくない。
俺はそのまま保健室に向かった。授業サボるために仮病を使うなんてはじめてだ。
保健室には養護教諭の高梨先生がいた。高梨先生も凪に負けず劣らず女子生徒に人気だ。凪とは違う大人っぽい雰囲気が良いらしい。
「どうしたの?」
「えーっと、微熱あるっぽくて……」
「そう。熱計って」
「はい……」
残念ながら、体温計は奇跡を起こしてくれなかった。
平熱そのものの数値を示した体温計を見て、高梨先生は苦笑いする。
「熱ないけど……」
「……」
「どうする? 休んでく?」
「えっ。いいんですか……?」
高梨先生はゆったりと微笑んだ。
「君、ここに来たの初めてだよね?」
「は、はい」
「今日はよっぽど教室に行きたくないんでしょ?」
「……はい」
「だったら休んだ方がいい。ベッド用意するから少し待ってて」
「ありがとうございます……」
余計なことを聞かずに受け入れてくれる優しさがこんなに沁みるとは。
なんか、高梨先生が人気あるの分かる気がする。俺が女子ならたぶん今ので惚れていたかもしれん。
ベッドに横になった俺に、高梨先生がそっと布団をかけてくれた。
「ゆっくり休んで」
「はい、ありがとうございます。……本当に」
昨晩あまり眠れなかったからか、俺はすぐに眠りに落ちた。
「理玖いますか!?」
「鳥次くん? いるよ。今寝てるから、静かにね」
その声で目が覚めた。時計を見ると、一時間目の授業がちょうど終わった時間だった。
ぼんやりとカーテンを眺めていると、物音を立てないようにカーテンの隙間から顔を覗かせる凪と目が合った。
「……」
「……」
「理玖、起きてる……?」
「……うん」
「入っていい……?」
「……」
「ダメ……?」
「……いいけど……」
本当は嫌だったけど、でもそれとは別に、凪が様子を見に来てくれたことがちょっと嬉しかった。
凪はそっと中に入り、ベッドのそばでしゃがんだ。
「体調悪い?」
「ううん。仮病だから」
「仮病? 理玖が?」
「うん」
凪がもぞもぞと体を揺らす。
「……俺のせい?」
「……なんで?」
「俺が……乳首なんか舐めたから……」
おいぃぃぃ!? あっちに先生いるんだぞ!? 聞こえていたらどうすんだバカ!! こいつもうほんとバカ!!
「朝からもいっぱいキスしたし……。さ、さすがに調子に乗りすぎた……よな……?」
いやもうやめて。それ以上何も喋らないで。
「もしかして俺が教室でキスするかもとか思った? た、確かにしたいとは思ってるけど、さすがに俺も人前でキスしたりしないし……」
「いや……あの……」
「理玖とキスすること想像しただけでちょっとちんこ反応するくらいにはキスしたいけど、理玖んち行くまでくらいは我慢できるよ……。だから、さ……教室戻ってこいよぉ……」
「な、なあ……そろそろお前黙れねえ……?」
「あっ……ごめん。今日も理玖んち泊まる前提で話したけど、全然明日とかでもいいし……」
「もうやめて……お願いだから黙って……?」
保健室の手前大声で怒鳴るわけもいかず、そもそも今の俺に怒鳴りつける元気があるわけでもなく、俺は死人のうわ言のように「黙れ」を繰り返すだけだった。
誰か助けて……と心の中で祈っていると、勢いよくカーテンが開いた。ニコニコした高梨先生が立っている。
「鳥次くん。体調はどう?」
高梨先生が凪の話を遮ってくれて、心から安堵のため息が漏れた。
「あっ……マシになりました……」
「そう。よかった。じゃあ、二時間目からは授業受けられる?」
「はい」
寝たら気分も少し落ち着いた。
それに、凪にこんな必死な顔で「戻ってこい」と言われたら、戻らないわけにはいかない。
「先生、ありがとうございました」
「いいよ。いつでもおいで」
廊下を歩いているとき、凪に肩をぶつけられた。
「いてっ。なんだよ」
「ほんとに戻って大丈夫?」
「大丈夫。お前が思ってるより全然オオゴトじゃないから」
「それならよかったけど……」
「でも、頼むから外でああいうこと言わないでくれない?」
「ごめん。気を付ける」
「それならいい。……あと」
俺は立ち止まり、おそるおそる凪を窺い見た。
「……俺、お前の友だち?」
「え?」
「それともおもちゃ?」
凪はきょとんとした顔で答える。
「友だちでもおもちゃでもないよ」
「は?」
俺、また自意識過剰かましていたか? 友だちでもおもちゃでもない、ただの陰キャのクラスメイトってこと……?
やば。恥ずかしい。死にたい。
「うーん、家族? みたいな?」
「……え?」
「兄弟いたらこんな感じなのかなー」
「……??」
「そんなかんじ!」
家族……? 兄弟……?
お前、そんなふうに俺のこと思ってたんだ……?
そ、それってさ、もしかして友だち認定されるよりもすごいことなんじゃないの?
それってさ……特別な存在ってことなんじゃないの?
「……」
誰かの特別になれた瞬間って、こんな気持ちになるのか。
やばい。……嬉しい。心臓が暴れている。
……でも待って。こいつ兄弟と思ってるヤツとキスすんの? なんかおかしくない?
「理玖、おはよっ」
「……はよ」
十分ほど遅れて凪が教室に入ってきた。俺はいつも以上に小さな声で挨拶を返すだけで精いっぱいだった。
「ん? どうした、理玖」
「別に」
「いやなんか機嫌悪くない? もしかして朝のこと怒って――」
こいつ!! 教室でそんなこと口に出すなバカ!!
俺は勢いよく立ち上がり教室から出て行った。
ダメだ。教室に戻るのいやだ。凪の顔見たくない。凪がトモダチと楽しくオシャベリしているところも見たくない。
俺はそのまま保健室に向かった。授業サボるために仮病を使うなんてはじめてだ。
保健室には養護教諭の高梨先生がいた。高梨先生も凪に負けず劣らず女子生徒に人気だ。凪とは違う大人っぽい雰囲気が良いらしい。
「どうしたの?」
「えーっと、微熱あるっぽくて……」
「そう。熱計って」
「はい……」
残念ながら、体温計は奇跡を起こしてくれなかった。
平熱そのものの数値を示した体温計を見て、高梨先生は苦笑いする。
「熱ないけど……」
「……」
「どうする? 休んでく?」
「えっ。いいんですか……?」
高梨先生はゆったりと微笑んだ。
「君、ここに来たの初めてだよね?」
「は、はい」
「今日はよっぽど教室に行きたくないんでしょ?」
「……はい」
「だったら休んだ方がいい。ベッド用意するから少し待ってて」
「ありがとうございます……」
余計なことを聞かずに受け入れてくれる優しさがこんなに沁みるとは。
なんか、高梨先生が人気あるの分かる気がする。俺が女子ならたぶん今ので惚れていたかもしれん。
ベッドに横になった俺に、高梨先生がそっと布団をかけてくれた。
「ゆっくり休んで」
「はい、ありがとうございます。……本当に」
昨晩あまり眠れなかったからか、俺はすぐに眠りに落ちた。
「理玖いますか!?」
「鳥次くん? いるよ。今寝てるから、静かにね」
その声で目が覚めた。時計を見ると、一時間目の授業がちょうど終わった時間だった。
ぼんやりとカーテンを眺めていると、物音を立てないようにカーテンの隙間から顔を覗かせる凪と目が合った。
「……」
「……」
「理玖、起きてる……?」
「……うん」
「入っていい……?」
「……」
「ダメ……?」
「……いいけど……」
本当は嫌だったけど、でもそれとは別に、凪が様子を見に来てくれたことがちょっと嬉しかった。
凪はそっと中に入り、ベッドのそばでしゃがんだ。
「体調悪い?」
「ううん。仮病だから」
「仮病? 理玖が?」
「うん」
凪がもぞもぞと体を揺らす。
「……俺のせい?」
「……なんで?」
「俺が……乳首なんか舐めたから……」
おいぃぃぃ!? あっちに先生いるんだぞ!? 聞こえていたらどうすんだバカ!! こいつもうほんとバカ!!
「朝からもいっぱいキスしたし……。さ、さすがに調子に乗りすぎた……よな……?」
いやもうやめて。それ以上何も喋らないで。
「もしかして俺が教室でキスするかもとか思った? た、確かにしたいとは思ってるけど、さすがに俺も人前でキスしたりしないし……」
「いや……あの……」
「理玖とキスすること想像しただけでちょっとちんこ反応するくらいにはキスしたいけど、理玖んち行くまでくらいは我慢できるよ……。だから、さ……教室戻ってこいよぉ……」
「な、なあ……そろそろお前黙れねえ……?」
「あっ……ごめん。今日も理玖んち泊まる前提で話したけど、全然明日とかでもいいし……」
「もうやめて……お願いだから黙って……?」
保健室の手前大声で怒鳴るわけもいかず、そもそも今の俺に怒鳴りつける元気があるわけでもなく、俺は死人のうわ言のように「黙れ」を繰り返すだけだった。
誰か助けて……と心の中で祈っていると、勢いよくカーテンが開いた。ニコニコした高梨先生が立っている。
「鳥次くん。体調はどう?」
高梨先生が凪の話を遮ってくれて、心から安堵のため息が漏れた。
「あっ……マシになりました……」
「そう。よかった。じゃあ、二時間目からは授業受けられる?」
「はい」
寝たら気分も少し落ち着いた。
それに、凪にこんな必死な顔で「戻ってこい」と言われたら、戻らないわけにはいかない。
「先生、ありがとうございました」
「いいよ。いつでもおいで」
廊下を歩いているとき、凪に肩をぶつけられた。
「いてっ。なんだよ」
「ほんとに戻って大丈夫?」
「大丈夫。お前が思ってるより全然オオゴトじゃないから」
「それならよかったけど……」
「でも、頼むから外でああいうこと言わないでくれない?」
「ごめん。気を付ける」
「それならいい。……あと」
俺は立ち止まり、おそるおそる凪を窺い見た。
「……俺、お前の友だち?」
「え?」
「それともおもちゃ?」
凪はきょとんとした顔で答える。
「友だちでもおもちゃでもないよ」
「は?」
俺、また自意識過剰かましていたか? 友だちでもおもちゃでもない、ただの陰キャのクラスメイトってこと……?
やば。恥ずかしい。死にたい。
「うーん、家族? みたいな?」
「……え?」
「兄弟いたらこんな感じなのかなー」
「……??」
「そんなかんじ!」
家族……? 兄弟……?
お前、そんなふうに俺のこと思ってたんだ……?
そ、それってさ、もしかして友だち認定されるよりもすごいことなんじゃないの?
それってさ……特別な存在ってことなんじゃないの?
「……」
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やばい。……嬉しい。心臓が暴れている。
……でも待って。こいつ兄弟と思ってるヤツとキスすんの? なんかおかしくない?
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