1 / 22
第一話
しおりを挟む
今までの人生で、俺は困ったことがない。
困っていたら、誰かが助けてくれる。
寂しさを感じる暇さえないくらい、世界は俺をかまってくれる。
あたたかいこの場所が、俺は好きだ。
「駿、おはよー!」
「わ、今日もうるさっ」
「なんだとー!?」
「はは、冗談だって! はよー!」
教室に入って自分の席に座るまで、俺は何度も挨拶する。今日もみんな元気だなー。まあ俺が一番元気だけど―。とか思いつつ、かったるい授業が始まるのを待つ。
授業は退屈だ。一方的に大人が話しているのを聞いているフリをする時間。将来の役に立ちそうもない話を、延々と。こんなの、休み時間と放課後のために学校に来ているようなものだ。
記憶がすっ飛び昼休み――
クラスメイトの鴨橋(かものはし)にメシに誘われたので、一緒に食堂に行った。
「なあ、篠原。俺、他校の女子に友だちがいてさー」
「へー! なに、塾かなんか?」
「そそ。それで、友だち誘って遊ぼうって話になったんだ。お前も来ねえ?」
「んー、どうしよっかなー」
俺が即答しなかったから、鴨橋は勢いよく両手を合わせた。
「頼むよ! あっちの女子がお前をご指名なんだよ~……!」
「あー! そういうこと! オッケー、じゃあ行くー」
「ありがてぇ~……! 俺、お前と友だちでよかったー……」
〝お前と友だちでよかった〟
よく言われる言葉だ。そう言われるとなんか嬉しい。よかったな、俺の友だちでって思う。
「そういやお前、今、彼女か彼氏いる?」
「ん? いないと思う」
「〝思う〟ってなんだよ~」
「俺は別れたつもり。でも、毎日LINE来るんだよなー」
「え……」
俺はスマホをチェックした。ほら、また来ている。さっき見たばっかりなのに、もう未読が十件以上。しかも直近に別れた子だけじゃなくて、ちょっと前に別れた子からも来ていた。
チャットの内容を覗いてみると、だいたいこんな感じだった。
《今週の土曜日、遊びに行ってもいい?》
《別れたくないよ。駿が好きなんだ……》
《セフレでもいいから……》
困ったなー。俺、別れた人とヨリを戻すタイプじゃないし。セフレは作らない主義だし。
どうやったって、この子たちが喜ぶような返信はできない。
「俺の何がそんな良いんだろうか~……」
俺が一人ごちると、鴨橋がジト目で答えた。
「アルファ」
「他は?」
「顔」
「ひでぇ~」
「ひでぇのはこんな世の中だよっ。顔の良いアルファばっかりモテるんだから!」
「違うぞ鴨橋。俺がモテるのはアルファだからじゃない。上質なアルファだからだ」
「分かってるよそんなことはぁっ!」
かくいう鴨橋はベータだ。この世界でのベータは最も普通、そして最も不憫だ。
アルファはベータにもオメガにも超モテる。オメガは、ベータにはそこそこ、アルファには超モテる。
そしてベータは、悲しいかな、どの性にもモテない。……まあ、モテないだけで、最終的にはだいたいベータ同士でくっつく印象だ。
俺は鴨橋の肩を慰めるように叩いた。
「合コンで良い子が見つかるといいな」
「うるせえわっ。みんなお前目当てだろうさっ」
「そんなことは分かってる。でもな、俺は何股もしないタイプだ。だから俺と付き合えるのは一人だけしかいなんだよ。かわいそうなことに」
「ほんとにお前はムカつくな」
「好きに言っていいぞ。僻みを聞くのは慣れてるからな」
「はい、ムカつく」
ムカつくムカつくと言いながら、鴨橋は俺と一緒にメシを食って、俺にお願い事をする。こいつも結局俺のことが好きなんだ。知ってる知ってる。
困っていたら、誰かが助けてくれる。
寂しさを感じる暇さえないくらい、世界は俺をかまってくれる。
あたたかいこの場所が、俺は好きだ。
「駿、おはよー!」
「わ、今日もうるさっ」
「なんだとー!?」
「はは、冗談だって! はよー!」
教室に入って自分の席に座るまで、俺は何度も挨拶する。今日もみんな元気だなー。まあ俺が一番元気だけど―。とか思いつつ、かったるい授業が始まるのを待つ。
授業は退屈だ。一方的に大人が話しているのを聞いているフリをする時間。将来の役に立ちそうもない話を、延々と。こんなの、休み時間と放課後のために学校に来ているようなものだ。
記憶がすっ飛び昼休み――
クラスメイトの鴨橋(かものはし)にメシに誘われたので、一緒に食堂に行った。
「なあ、篠原。俺、他校の女子に友だちがいてさー」
「へー! なに、塾かなんか?」
「そそ。それで、友だち誘って遊ぼうって話になったんだ。お前も来ねえ?」
「んー、どうしよっかなー」
俺が即答しなかったから、鴨橋は勢いよく両手を合わせた。
「頼むよ! あっちの女子がお前をご指名なんだよ~……!」
「あー! そういうこと! オッケー、じゃあ行くー」
「ありがてぇ~……! 俺、お前と友だちでよかったー……」
〝お前と友だちでよかった〟
よく言われる言葉だ。そう言われるとなんか嬉しい。よかったな、俺の友だちでって思う。
「そういやお前、今、彼女か彼氏いる?」
「ん? いないと思う」
「〝思う〟ってなんだよ~」
「俺は別れたつもり。でも、毎日LINE来るんだよなー」
「え……」
俺はスマホをチェックした。ほら、また来ている。さっき見たばっかりなのに、もう未読が十件以上。しかも直近に別れた子だけじゃなくて、ちょっと前に別れた子からも来ていた。
チャットの内容を覗いてみると、だいたいこんな感じだった。
《今週の土曜日、遊びに行ってもいい?》
《別れたくないよ。駿が好きなんだ……》
《セフレでもいいから……》
困ったなー。俺、別れた人とヨリを戻すタイプじゃないし。セフレは作らない主義だし。
どうやったって、この子たちが喜ぶような返信はできない。
「俺の何がそんな良いんだろうか~……」
俺が一人ごちると、鴨橋がジト目で答えた。
「アルファ」
「他は?」
「顔」
「ひでぇ~」
「ひでぇのはこんな世の中だよっ。顔の良いアルファばっかりモテるんだから!」
「違うぞ鴨橋。俺がモテるのはアルファだからじゃない。上質なアルファだからだ」
「分かってるよそんなことはぁっ!」
かくいう鴨橋はベータだ。この世界でのベータは最も普通、そして最も不憫だ。
アルファはベータにもオメガにも超モテる。オメガは、ベータにはそこそこ、アルファには超モテる。
そしてベータは、悲しいかな、どの性にもモテない。……まあ、モテないだけで、最終的にはだいたいベータ同士でくっつく印象だ。
俺は鴨橋の肩を慰めるように叩いた。
「合コンで良い子が見つかるといいな」
「うるせえわっ。みんなお前目当てだろうさっ」
「そんなことは分かってる。でもな、俺は何股もしないタイプだ。だから俺と付き合えるのは一人だけしかいなんだよ。かわいそうなことに」
「ほんとにお前はムカつくな」
「好きに言っていいぞ。僻みを聞くのは慣れてるからな」
「はい、ムカつく」
ムカつくムカつくと言いながら、鴨橋は俺と一緒にメシを食って、俺にお願い事をする。こいつも結局俺のことが好きなんだ。知ってる知ってる。
47
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕
めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、
その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。
「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。
最初から、選ばされてなどいなかったことを。
αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、
彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。
「愛してるよ」
「君は、僕たちのもの」
※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。
叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。
オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
待っててくれと言われて10年待った恋人に嫁と子供がいた話
ナナメ
BL
アルファ、ベータ、オメガ、という第2性が出現してから数百年。
かつては虐げられてきたオメガも抑制剤のおかげで社会進出が当たり前になってきた。
高校3年だったオメガである瓜生郁(うりゅう いく)は、幼馴染みで恋人でもあるアルファの平井裕也(ひらい ゆうや)と婚約していた。両家共にアルファ家系の中の唯一のオメガである郁と裕也の婚約は互いに会社を経営している両家にとって新たな事業の為に歓迎されるものだった。
郁にとって例え政略的な面があってもそれは幸せな物で、別の会社で修行を積んで戻った裕也との明るい未来を思い描いていた。
それから10年。約束は守られず、裕也はオメガである別の相手と生まれたばかりの子供と共に郁の前に現れた。
信じていた。裏切られた。嫉妬。悲しさ。ぐちゃぐちゃな感情のまま郁は川の真ん中に立ち尽くすーー。
※表紙はAIです
※遅筆です
縁結びオメガと不遇のアルファ
くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。
俺は完璧な君の唯一の欠点
一寸光陰
BL
進藤海斗は完璧だ。端正な顔立ち、優秀な頭脳、抜群の運動神経。皆から好かれ、敬わられている彼は性格も真っ直ぐだ。
そんな彼にも、唯一の欠点がある。
それは、平凡な俺に依存している事。
平凡な受けがスパダリ攻めに囲われて逃げられなくなっちゃうお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる