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第三話
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告られても告られても断っているのに。
当の本人から一切の音沙汰がない。
「おかしい!!」
俺が机に拳を叩きつけると、鴨橋がちょっとびっくりしていた。
「急にどうしたんだよっ」
「なあ、古賀が奥手すぎて困るんだが!」
沈黙ののち、鴨橋が哀れみを込めた目で俺を見た。
「お前はどこまでアホなの?」
「アホなのは古賀だろ!? 俺が待ってやってるっていうのに、まだ来ない!!」
「自己肯定感がバグりすぎたら人ってこうなるんだな……」
それにしても、と、鴨橋は俺の顔を覗き込む。
「なんでそんなに古賀を気にしてんの?」
「どういうことだ?」
「だって、いつものお前だったら待ったりしねえじゃん」
確かに。
「ぶつかっただけだぞ。会話すらしてないのに」
「分かってねえなあ。オメガとアルファに会話なんて必要ないんだよ。フェロモンで分かり合えるんだからな」
「俺には分かんねえ世界だなー」
「当たり前だ。ベータなんだから」
俺は古賀のオメガの匂いを嗅いで、「次の恋人はこいつだ」って分かったんだ。
古賀だってそれを分かっているはずだろ。
「あ、そういうことか」
「どした?」
「俺分かったわ」
俺は勢いよく立ち上がる。
「たぶん古賀、もう俺と付き合ってる気になってるんだわ」
「ねえ、お前怖すぎるよ」
「さすがに言葉足らずすぎるわ、それは。ちょっと会いに行ってくる」
「やめてあげて。古賀がかわいそう」
俺は鴨橋を無視して放送室に向かった。今は昼休み。ちょうど校内放送が始まるくらいの時間だ。だからきっと、古賀は放送室にいるはず。
案の定、間もないうちに校内スピーカーから古賀の声が聞こえた。
放送が終わる直前、俺はそっと放送室のドアを開ける。
古賀は、マイクに顔を近づけて、一人椅子に座っていた。
「古賀」
放送が終わったタイミングで呼びかけると、古賀がこちらに顔を向けた。
「よっ」
軽く挨拶をしても、古賀は返さない。
ただぽかんとした顔で、首を傾げる。
「誰?」
「えっ」
「あ、生徒会の人ですか?」
「いや、違うけど……」
「? じゃあ、誰?」
えーーーー!? なにすっとぼけた顔してんのーーーー!?
しかもその顔、まじで分かっていないヤツの反応!
俺はズカズカと古賀に近づき、顔を寄せる。
「この匂い、覚えてない?」
「匂い……?」
古賀はスンスンと鼻を動かし、やっと思い出したような素振りをした。
「どこかですれ違ったような。駅のホームでしたっけ」
「廊下だよっ!! すれ違ったんじゃなくて、ぶつかったし!」
「ああ、そういえば、誰かと廊下でぶつかった記憶があります。あれ、あなたですか」
「そうだよ!? えっ、そんなおぼろげなの!?」
古賀の警戒心が強まる。
「それで……? 怒りに来たんですか?」
「ちがうっ。返事を言いに来たんだよ。答えはイエス、よかったな!」
「はい?」
「だから、お前と付き合うって言ってんの」
「……なぜ?」
なぜ? なにがなぜなんだ?
「だって、お前、俺のこと好きだろ……?」
「……」
黙るなよ、ここで。
「なんでそうなるんです? ぶつかっただけですよ」
「え? だって、お前はオメガだし、俺はアルファだし……」
そこで、古賀が盛大なため息を吐いた。
そして俺に冷たい目を向ける。
「そうですか。あなたはアルファなんですね。……で、それが?」
「へっ?」
「それがどうしたんです?」
「それがって……なにが? お前、オメガだろ……?」
「はい。でも、それがどうしたんです?」
「……?」
それがどうしたって? は? え? どういう意味?
「俺の匂い、分かんないの……?」
「分かりますよ」
「じゃあ、なんで……」
「あなたは、香水の匂いが強い人となら誰とでも付き合うんです?」
「え、いや、ちょ、え……?」
「ごめんなさい。ちょっと匂いがキツいんで、僕は失礼します」
いや待って。そんな、体臭が強い人みたいに言わないでくれよ。いや、まあ、オメガからしたらそうなのか? え? ダメだ、頭が整理できない。状況が全く理解できん。
「あっ」
突然、古賀がマイクに目をやり、気まずそうに音量のスライダーを下ろした。
その様子を見て、俺は冷や汗をダラダラと流す。
「お、おい、古賀……? 今、何した……?」
すると古賀も冷や汗をボタボタ垂らしつつ、消え入りそうな声で答えた。
「……ごめん。マイク切るの忘れてた……」
「そ、それって、つまり……」
「……」
「今の会話、校内放送されてた……ってこと……?」
「……」
古賀は小刻みに震えながら、こくりと頷いた。
「こっ、古賀ぁぁぁぁ!?」
「だ、だってあんたが急に入ってくるから……!!」
「おまっ、おまぁぁぁっ……!」
「ごめっ、ごめぇっ……!」
今日は人生ではじめて俺がフラれた日。
そしてその黒歴史は、全校生徒にリアルタイムで公開されていたのだった。
当の本人から一切の音沙汰がない。
「おかしい!!」
俺が机に拳を叩きつけると、鴨橋がちょっとびっくりしていた。
「急にどうしたんだよっ」
「なあ、古賀が奥手すぎて困るんだが!」
沈黙ののち、鴨橋が哀れみを込めた目で俺を見た。
「お前はどこまでアホなの?」
「アホなのは古賀だろ!? 俺が待ってやってるっていうのに、まだ来ない!!」
「自己肯定感がバグりすぎたら人ってこうなるんだな……」
それにしても、と、鴨橋は俺の顔を覗き込む。
「なんでそんなに古賀を気にしてんの?」
「どういうことだ?」
「だって、いつものお前だったら待ったりしねえじゃん」
確かに。
「ぶつかっただけだぞ。会話すらしてないのに」
「分かってねえなあ。オメガとアルファに会話なんて必要ないんだよ。フェロモンで分かり合えるんだからな」
「俺には分かんねえ世界だなー」
「当たり前だ。ベータなんだから」
俺は古賀のオメガの匂いを嗅いで、「次の恋人はこいつだ」って分かったんだ。
古賀だってそれを分かっているはずだろ。
「あ、そういうことか」
「どした?」
「俺分かったわ」
俺は勢いよく立ち上がる。
「たぶん古賀、もう俺と付き合ってる気になってるんだわ」
「ねえ、お前怖すぎるよ」
「さすがに言葉足らずすぎるわ、それは。ちょっと会いに行ってくる」
「やめてあげて。古賀がかわいそう」
俺は鴨橋を無視して放送室に向かった。今は昼休み。ちょうど校内放送が始まるくらいの時間だ。だからきっと、古賀は放送室にいるはず。
案の定、間もないうちに校内スピーカーから古賀の声が聞こえた。
放送が終わる直前、俺はそっと放送室のドアを開ける。
古賀は、マイクに顔を近づけて、一人椅子に座っていた。
「古賀」
放送が終わったタイミングで呼びかけると、古賀がこちらに顔を向けた。
「よっ」
軽く挨拶をしても、古賀は返さない。
ただぽかんとした顔で、首を傾げる。
「誰?」
「えっ」
「あ、生徒会の人ですか?」
「いや、違うけど……」
「? じゃあ、誰?」
えーーーー!? なにすっとぼけた顔してんのーーーー!?
しかもその顔、まじで分かっていないヤツの反応!
俺はズカズカと古賀に近づき、顔を寄せる。
「この匂い、覚えてない?」
「匂い……?」
古賀はスンスンと鼻を動かし、やっと思い出したような素振りをした。
「どこかですれ違ったような。駅のホームでしたっけ」
「廊下だよっ!! すれ違ったんじゃなくて、ぶつかったし!」
「ああ、そういえば、誰かと廊下でぶつかった記憶があります。あれ、あなたですか」
「そうだよ!? えっ、そんなおぼろげなの!?」
古賀の警戒心が強まる。
「それで……? 怒りに来たんですか?」
「ちがうっ。返事を言いに来たんだよ。答えはイエス、よかったな!」
「はい?」
「だから、お前と付き合うって言ってんの」
「……なぜ?」
なぜ? なにがなぜなんだ?
「だって、お前、俺のこと好きだろ……?」
「……」
黙るなよ、ここで。
「なんでそうなるんです? ぶつかっただけですよ」
「え? だって、お前はオメガだし、俺はアルファだし……」
そこで、古賀が盛大なため息を吐いた。
そして俺に冷たい目を向ける。
「そうですか。あなたはアルファなんですね。……で、それが?」
「へっ?」
「それがどうしたんです?」
「それがって……なにが? お前、オメガだろ……?」
「はい。でも、それがどうしたんです?」
「……?」
それがどうしたって? は? え? どういう意味?
「俺の匂い、分かんないの……?」
「分かりますよ」
「じゃあ、なんで……」
「あなたは、香水の匂いが強い人となら誰とでも付き合うんです?」
「え、いや、ちょ、え……?」
「ごめんなさい。ちょっと匂いがキツいんで、僕は失礼します」
いや待って。そんな、体臭が強い人みたいに言わないでくれよ。いや、まあ、オメガからしたらそうなのか? え? ダメだ、頭が整理できない。状況が全く理解できん。
「あっ」
突然、古賀がマイクに目をやり、気まずそうに音量のスライダーを下ろした。
その様子を見て、俺は冷や汗をダラダラと流す。
「お、おい、古賀……? 今、何した……?」
すると古賀も冷や汗をボタボタ垂らしつつ、消え入りそうな声で答えた。
「……ごめん。マイク切るの忘れてた……」
「そ、それって、つまり……」
「……」
「今の会話、校内放送されてた……ってこと……?」
「……」
古賀は小刻みに震えながら、こくりと頷いた。
「こっ、古賀ぁぁぁぁ!?」
「だ、だってあんたが急に入ってくるから……!!」
「おまっ、おまぁぁぁっ……!」
「ごめっ、ごめぇっ……!」
今日は人生ではじめて俺がフラれた日。
そしてその黒歴史は、全校生徒にリアルタイムで公開されていたのだった。
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