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第一章
第三話
告られても告られても断っているのに。
当の本人から一切の音沙汰がない。
「おかしい!!」
俺が机に拳を叩きつけると、鴨橋がちょっとびっくりしていた。
「急にどうしたんだよっ」
「なあ、古賀が奥手すぎて困るんだが!」
沈黙ののち、鴨橋が哀れみを込めた目で俺を見た。
「お前はどこまでアホなの?」
「アホなのは古賀だろ!? 俺が待ってやってるっていうのに、まだ来ない!!」
「自己肯定感がバグりすぎたら人ってこうなるんだな……」
それにしても、と、鴨橋は俺の顔を覗き込む。
「なんでそんなに古賀を気にしてんの?」
「どういうことだ?」
「だって、いつものお前だったら待ったりしねえじゃん」
確かに。
「ぶつかっただけだぞ。会話すらしてないのに」
「分かってねえなあ。オメガとアルファに会話なんて必要ないんだよ。フェロモンで分かり合えるんだからな」
「俺には分かんねえ世界だなー」
「当たり前だ。ベータなんだから」
俺は古賀のオメガの匂いを嗅いで、「次の恋人はこいつだ」って分かったんだ。
古賀だってそれを分かっているはずだろ。
「あ、そういうことか」
「どした?」
「俺分かったわ」
俺は勢いよく立ち上がる。
「たぶん古賀、もう俺と付き合ってる気になってるんだわ」
「ねえ、お前怖すぎるよ」
「さすがに言葉足らずすぎるわ、それは。ちょっと会いに行ってくる」
「やめてあげて。古賀がかわいそう」
俺は鴨橋を無視して放送室に向かった。今は昼休み。ちょうど校内放送が始まるくらいの時間だ。だからきっと、古賀は放送室にいるはず。
案の定、間もないうちに校内スピーカーから古賀の声が聞こえた。
放送が終わる直前、俺はそっと放送室のドアを開ける。
古賀は、マイクに顔を近づけて、一人椅子に座っていた。
「古賀」
放送が終わったタイミングで呼びかけると、古賀がこちらに顔を向けた。
「よっ」
軽く挨拶をしても、古賀は返さない。
ただぽかんとした顔で、首を傾げる。
「誰?」
「えっ」
「あ、生徒会の人ですか?」
「いや、違うけど……」
「? じゃあ、誰?」
えーーーー!? なにすっとぼけた顔してんのーーーー!?
しかもその顔、まじで分かっていないヤツの反応!
俺はズカズカと古賀に近づき、顔を寄せる。
「この匂い、覚えてない?」
「匂い……?」
古賀はスンスンと鼻を動かし、やっと思い出したような素振りをした。
「どこかですれ違ったような。駅のホームでしたっけ」
「廊下だよっ!! すれ違ったんじゃなくて、ぶつかったし!」
「ああ、そういえば、誰かと廊下でぶつかった記憶があります。あれ、あなたですか」
「そうだよ!? えっ、そんなおぼろげなの!?」
古賀の警戒心が強まる。
「それで……? 怒りに来たんですか?」
「ちがうっ。返事を言いに来たんだよ。答えはイエス、よかったな!」
「はい?」
「だから、お前と付き合うって言ってんの」
「……なぜ?」
なぜ? なにがなぜなんだ?
「だって、お前、俺のこと好きだろ……?」
「……」
黙るなよ、ここで。
「なんでそうなるんです? ぶつかっただけですよ」
「え? だって、お前はオメガだし、俺はアルファだし……」
そこで、古賀が盛大なため息を吐いた。
そして俺に冷たい目を向ける。
「そうですか。あなたはアルファなんですね。……で、それが?」
「へっ?」
「それがどうしたんです?」
「それがって……なにが? お前、オメガだろ……?」
「はい。でも、それがどうしたんです?」
「……?」
それがどうしたって? は? え? どういう意味?
「俺の匂い、分かんないの……?」
「分かりますよ」
「じゃあ、なんで……」
「あなたは、香水の匂いが強い人となら誰とでも付き合うんです?」
「え、いや、ちょ、え……?」
「ごめんなさい。ちょっと匂いがキツいんで、僕は失礼します」
いや待って。そんな、体臭が強い人みたいに言わないでくれよ。いや、まあ、オメガからしたらそうなのか? え? ダメだ、頭が整理できない。状況が全く理解できん。
「あっ」
突然、古賀がマイクに目をやり、気まずそうに音量のスライダーを下ろした。
その様子を見て、俺は冷や汗をダラダラと流す。
「お、おい、古賀……? 今、何した……?」
すると古賀も冷や汗をボタボタ垂らしつつ、消え入りそうな声で答えた。
「……ごめん。マイク切るの忘れてた……」
「そ、それって、つまり……」
「……」
「今の会話、校内放送されてた……ってこと……?」
「……」
古賀は小刻みに震えながら、こくりと頷いた。
「こっ、古賀ぁぁぁぁ!?」
「だ、だってあんたが急に入ってくるから……!!」
「おまっ、おまぁぁぁっ……!」
「ごめっ、ごめぇっ……!」
今日は人生ではじめて俺がフラれた日。
そしてその黒歴史は、全校生徒にリアルタイムで公開されていたのだった。
当の本人から一切の音沙汰がない。
「おかしい!!」
俺が机に拳を叩きつけると、鴨橋がちょっとびっくりしていた。
「急にどうしたんだよっ」
「なあ、古賀が奥手すぎて困るんだが!」
沈黙ののち、鴨橋が哀れみを込めた目で俺を見た。
「お前はどこまでアホなの?」
「アホなのは古賀だろ!? 俺が待ってやってるっていうのに、まだ来ない!!」
「自己肯定感がバグりすぎたら人ってこうなるんだな……」
それにしても、と、鴨橋は俺の顔を覗き込む。
「なんでそんなに古賀を気にしてんの?」
「どういうことだ?」
「だって、いつものお前だったら待ったりしねえじゃん」
確かに。
「ぶつかっただけだぞ。会話すらしてないのに」
「分かってねえなあ。オメガとアルファに会話なんて必要ないんだよ。フェロモンで分かり合えるんだからな」
「俺には分かんねえ世界だなー」
「当たり前だ。ベータなんだから」
俺は古賀のオメガの匂いを嗅いで、「次の恋人はこいつだ」って分かったんだ。
古賀だってそれを分かっているはずだろ。
「あ、そういうことか」
「どした?」
「俺分かったわ」
俺は勢いよく立ち上がる。
「たぶん古賀、もう俺と付き合ってる気になってるんだわ」
「ねえ、お前怖すぎるよ」
「さすがに言葉足らずすぎるわ、それは。ちょっと会いに行ってくる」
「やめてあげて。古賀がかわいそう」
俺は鴨橋を無視して放送室に向かった。今は昼休み。ちょうど校内放送が始まるくらいの時間だ。だからきっと、古賀は放送室にいるはず。
案の定、間もないうちに校内スピーカーから古賀の声が聞こえた。
放送が終わる直前、俺はそっと放送室のドアを開ける。
古賀は、マイクに顔を近づけて、一人椅子に座っていた。
「古賀」
放送が終わったタイミングで呼びかけると、古賀がこちらに顔を向けた。
「よっ」
軽く挨拶をしても、古賀は返さない。
ただぽかんとした顔で、首を傾げる。
「誰?」
「えっ」
「あ、生徒会の人ですか?」
「いや、違うけど……」
「? じゃあ、誰?」
えーーーー!? なにすっとぼけた顔してんのーーーー!?
しかもその顔、まじで分かっていないヤツの反応!
俺はズカズカと古賀に近づき、顔を寄せる。
「この匂い、覚えてない?」
「匂い……?」
古賀はスンスンと鼻を動かし、やっと思い出したような素振りをした。
「どこかですれ違ったような。駅のホームでしたっけ」
「廊下だよっ!! すれ違ったんじゃなくて、ぶつかったし!」
「ああ、そういえば、誰かと廊下でぶつかった記憶があります。あれ、あなたですか」
「そうだよ!? えっ、そんなおぼろげなの!?」
古賀の警戒心が強まる。
「それで……? 怒りに来たんですか?」
「ちがうっ。返事を言いに来たんだよ。答えはイエス、よかったな!」
「はい?」
「だから、お前と付き合うって言ってんの」
「……なぜ?」
なぜ? なにがなぜなんだ?
「だって、お前、俺のこと好きだろ……?」
「……」
黙るなよ、ここで。
「なんでそうなるんです? ぶつかっただけですよ」
「え? だって、お前はオメガだし、俺はアルファだし……」
そこで、古賀が盛大なため息を吐いた。
そして俺に冷たい目を向ける。
「そうですか。あなたはアルファなんですね。……で、それが?」
「へっ?」
「それがどうしたんです?」
「それがって……なにが? お前、オメガだろ……?」
「はい。でも、それがどうしたんです?」
「……?」
それがどうしたって? は? え? どういう意味?
「俺の匂い、分かんないの……?」
「分かりますよ」
「じゃあ、なんで……」
「あなたは、香水の匂いが強い人となら誰とでも付き合うんです?」
「え、いや、ちょ、え……?」
「ごめんなさい。ちょっと匂いがキツいんで、僕は失礼します」
いや待って。そんな、体臭が強い人みたいに言わないでくれよ。いや、まあ、オメガからしたらそうなのか? え? ダメだ、頭が整理できない。状況が全く理解できん。
「あっ」
突然、古賀がマイクに目をやり、気まずそうに音量のスライダーを下ろした。
その様子を見て、俺は冷や汗をダラダラと流す。
「お、おい、古賀……? 今、何した……?」
すると古賀も冷や汗をボタボタ垂らしつつ、消え入りそうな声で答えた。
「……ごめん。マイク切るの忘れてた……」
「そ、それって、つまり……」
「……」
「今の会話、校内放送されてた……ってこと……?」
「……」
古賀は小刻みに震えながら、こくりと頷いた。
「こっ、古賀ぁぁぁぁ!?」
「だ、だってあんたが急に入ってくるから……!!」
「おまっ、おまぁぁぁっ……!」
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