【BL】気付いてないのは篠原だけだよ。【オメガバース】

ちゃっぷす

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第十二話

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 土曜日の夜十時、スマホから通知音が鳴った。

 《test_123さんが配信を始めました!》

 俺はすぐさまアプリを開き、ナオの配信を聞きに行った。
 ナオはコメントを読んでいた。

 《ハルさん、こんばんは。いつもありがとうございます。ナナさん、こんばんは。初見さんですね。よかったらゆっくりしていってください》

 視聴している人は数十人くらいで、コメントをしているのはそのうちの数人だ。
 俺は浅い息遣いでコメントを送った。


 シュン: はじめまして


 俺のコメントが流れたとき、一瞬だけナオが固まった。
 それから、ものすごく億劫そうな声でこう言った。

 《……はじめまして、……シュンさん》

「んぅっ……!」

 はじめて「駿」って呼ばれた……! 苗字じゃなくて、名前で……!
 配信最高だな。

 《じゃあ、昨日の続き、読んでいきます。――……》

 落ち着いていて柔らかいけど、活舌の良い朗読だ。朗読なんて聞いたことがなかったけど、ナオの朗読は上手な気がした。

 だが、コメントが鬱陶しくてナオの朗読に集中できない。


 ナナ: めっちゃ良い声ですね。イヤホンで聞くとやばいです
 ハル: テスくんの声落ち着く。もうこの声ないと眠れない
 アカリ: この時間が生きがいです。今日いやなことあったんですが、ふきとびました
 カツナリ: テスの声聞いてたら興奮する。なんで朗読してるだけでそんなエロいの?


 ……おいっ! ナオの声に依存しているヤツばっかじゃねえか!!
 特にカツナリ!! お前一回オモテ出ろや!! 興奮すんな!! してもコメントに書くな、バカか!!

 不愉快極まりなかったので、コメント欄を非表示にした。
 ナオには見えているんだよな? あいつ、あんなコメントばっかりでイヤじゃねえの?

 《――今日はここまでです。ありがとうございました。……え? 雑談? ……いいよ、ちょっとする?》

 するな!! 誰かも知らんヤツらと雑談するくらいなら俺と電話をしろ!!


 ナナ: 毎日配信してるんですか?

 《だいたい毎日してますよ》

 ハル: テスくん聞いて。今日、資格試験行ってきたよ。褒めて~。

 《おつかれさまです、ハルさん。資格試験ってなんの試験ですか?》

 話を広げるなっ! 俺と会話するときそんな積極的じゃねえだろ!


 ハル: 秘書検定~!

 《秘書検定。そういうのがあるんですね。知らなかったです。すごいですね》

 ハル: よしよしして~!


 このコメントは無視されていた。よくやった、ナオ。
 あとはずっとカツナリのコメントも無視されていた。当然だ。「テスの声、無自覚なのズルい」「夜に配信するの反則でしょ。もしかしてわざと?(笑)」「テスは配信終わってからなにするの? 俺は……聞きたい?(笑)」などと、ゾッとするほど痛いコメントばかりしていたからな。

 《……じゃあ、そろそろ終わります。みなさんおやすみなさい》

 あ。もう終わるのか。
 俺はなぜか緊張しつつ、コメントを送った。


 シュン: おやすみ、テス


 ブチッという不快な電子音が鳴った。それから――

 《おやすみ、シュン》

 とだけ言って、配信が終わった。


「……。……。……~~っ!!」

 さっきの電子音、たぶんだけど、ミュートにしていたマイクを慌ててオンにしたときの音だ。
 わざわざマイクに戻って、俺に「おやすみ」って言ったんだ。
 しかも、「シュン」って……。他人行儀じゃない声で、いつもの声で、俺の名前を呼んだ……!


 俺は脳死でナオにチャットを送った。

 《声聞きたい》

 すぐにナオから返事がくる。

 《さっき聞いたでしょ》
 《電話したい》
 《疲れてるから無理。おやすみ》
 《俺の名前呼んで》
 《おやすみ、篠原》

 こいつはいったいなんなんだ!!
 しかたがないからさっきのアーカイブを寝るまでリピートした。

 ……で、ごめん、ナオ。
 俺もあんたの声でシコッちまった。
 カツナリと一緒かよ、俺。
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