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夏休み中旬:朱鷺
59話 8月16日:怜の待つマンションへ
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◇◇◇
「朱鷺。君に会わせる前に、少し怜くんと話がしたい」
「えっ」
高浜社長との約束の日。指定されたマンションに向かっているタクシーの中で鶯巣が言った。
それを聞いていたミサが会話に加わる。
「私も入れて」
「かまわないよ」
「いや、ちょ、じゃあ俺も込みにしろよ」
鶯巣は、ミサのことは快諾したのに、俺には首を横に振った。
「なんでだよっ!」
「君がいると話せないこともあるかもしれないじゃないか。お父さんだって君がいると話しづらいことがあるし」
「何を聞くんだ!? お前は怜に何をする気だ!」
「そんな騒がないで。ただの面接みたいなものだよ」
「面接ぅ!?」
「最終面接に子どもを連れてくる社長がいるかい?」
「何言ってんの!? これ、面接じゃねえんだわ!!」
「あら。面接よ」
ミサが割り込んできた。
「あのね。あなたはうちの会社の次期社長なのよ」
「私の会社のだ」
鶯巣が間髪入れずに言ったが、ミサに無視された。
「お遊びの相手だったら別に誰でもいいけれど。あなた、レイくんのことを一生の相手だと思っているんでしょう?」
「そうだ」
「だったら、あなたにふさわしいオメガか――」
「怜のことオメガって呼ぶな」
「――あなたに見合う人かどうか、ちゃんと確かめないといけないでしょ」
「……」
鶯巣とミサが言っていることは、まあ確かにそうか。
「だってさ」
鶯巣がソワソワした口調で言った。
「朱鷺、その子のことを番にしたいんだろう?」
「おう」
「だったら、その子と結婚もしたいってことだ。違うかい?」
結婚。
……結婚!
「……したい!」
「だろ。だろ? そうだと思った」
「番と結婚……いいわねえ……」
「夢だよね……」
ああ……。こいつらは番と結婚できなかったんだもんな。親の手前、離婚もできないし。かわいそう。
「つまりその子は将来、私とミサの家族になるんだよ……!」
「これは株式会社〇〇の最終面接よりも厳しい面接よ。私の大事な朱鷺を任せられるに値するたった一人のオメガーー」
「怜のことオメガって呼ぶな」
「――人なのかどうか、しっかり見極めさせてもらわないと。だからあなた抜きで話がしたいの。だってあなたがいたらうるさいでしょうし。レイくんも落ち着かないでしょうし」
「……」
「分かったならあなたは私たちが呼ぶまで大人しくドアの前で突っ立っていなさい」
「ぐぬぬ……」
歯ぎしりをしている俺に、ミサが耳元で囁いた。
「やっぱりあなた、スーツが似合うわね。とても高校生には見えないわよ」
「私に似て背が高いし、体つきもしっかりしているからね。髪もきちんとセットしているから、まるで別人だ」
鶯巣が俺の正装姿を見てうっとり吐息を漏らしている。
口癖みたいに俺が父親と似ていると言うのが気に食わねえ。確かに俺は鶯巣に顔立ちも匂いも似ているが、ミサの面影も継いでいるし、匂いなんて鶯巣とミサの良いとこどりして最強になっているんだからな。テメェなんぞと一緒にするな。俺はお前の上位互換だ分かったかこの野郎。
タクシーが停車した。運転手がドアを開け、鶯巣とミサが下車する。俺は深呼吸をしてからサングラスをかけ、車を降りた。
「……でっけえマンションだな」
「大阪で一番立派なマンションだね。……がんばったんだね、怜くん」
「……」
高浜社長がこんなマンションを買えるのも、怜が体を売っているおかげだ、と鶯巣は言いたかったのだろう。
エントランスで高浜社長が俺たちを出迎えた。当たり前だが、色男ではあるが怜と全く似ていない。
高浜社長は緊張しつつも笑顔で挨拶をする。鶯巣とミサばかり見て、SPだと思っている俺のことは視界すら入っていないようだった。
中に通され、鶯巣たちはしばらくテーブルに座って世間話をした。それがいつしか商談に変わり、鶯巣とミサは契約内容を見もせずに捺印した。
その瞬間に高浜社長がニコォと破願したのが、おぞましく感じた。
しかし契約書の控書類を鶯巣とミサに渡すときには、悔し気に唇を噛んでいた。
ツルちゃんいわく、高浜社長はキスと生挿入・中出しを禁止しているらしい。お客様控書類と共にコンドーム三枚が渡され、事後はルールを守ったか確認するために使用済みコンドームと未開封のコンドーム、そして怜のケツの中をくまなくチェックするそうだ。
しかし、高浜社長は鶯巣にコンドームを渡さなかった。
昨日ツルちゃんが、そこのとこも上手くやっといたから好きなことをしていいよ、と言ってきたが、そのせいだろう。
高浜社長は、怜が待つ部屋まで鶯巣たちを案内して、ドアを開ける。
そのとき、鶯巣が高浜社長に尋ねた。
「ドアの前にこのSPを置いといてもいいかな」
「はい。もちろんです」
「ありがとう」
「私もここでお待ちしておりますので、何かございましたらお声がけください」
「ああ」
鶯巣とミサは、俺にウィンクをしたあと部屋に入っていった。
「朱鷺。君に会わせる前に、少し怜くんと話がしたい」
「えっ」
高浜社長との約束の日。指定されたマンションに向かっているタクシーの中で鶯巣が言った。
それを聞いていたミサが会話に加わる。
「私も入れて」
「かまわないよ」
「いや、ちょ、じゃあ俺も込みにしろよ」
鶯巣は、ミサのことは快諾したのに、俺には首を横に振った。
「なんでだよっ!」
「君がいると話せないこともあるかもしれないじゃないか。お父さんだって君がいると話しづらいことがあるし」
「何を聞くんだ!? お前は怜に何をする気だ!」
「そんな騒がないで。ただの面接みたいなものだよ」
「面接ぅ!?」
「最終面接に子どもを連れてくる社長がいるかい?」
「何言ってんの!? これ、面接じゃねえんだわ!!」
「あら。面接よ」
ミサが割り込んできた。
「あのね。あなたはうちの会社の次期社長なのよ」
「私の会社のだ」
鶯巣が間髪入れずに言ったが、ミサに無視された。
「お遊びの相手だったら別に誰でもいいけれど。あなた、レイくんのことを一生の相手だと思っているんでしょう?」
「そうだ」
「だったら、あなたにふさわしいオメガか――」
「怜のことオメガって呼ぶな」
「――あなたに見合う人かどうか、ちゃんと確かめないといけないでしょ」
「……」
鶯巣とミサが言っていることは、まあ確かにそうか。
「だってさ」
鶯巣がソワソワした口調で言った。
「朱鷺、その子のことを番にしたいんだろう?」
「おう」
「だったら、その子と結婚もしたいってことだ。違うかい?」
結婚。
……結婚!
「……したい!」
「だろ。だろ? そうだと思った」
「番と結婚……いいわねえ……」
「夢だよね……」
ああ……。こいつらは番と結婚できなかったんだもんな。親の手前、離婚もできないし。かわいそう。
「つまりその子は将来、私とミサの家族になるんだよ……!」
「これは株式会社〇〇の最終面接よりも厳しい面接よ。私の大事な朱鷺を任せられるに値するたった一人のオメガーー」
「怜のことオメガって呼ぶな」
「――人なのかどうか、しっかり見極めさせてもらわないと。だからあなた抜きで話がしたいの。だってあなたがいたらうるさいでしょうし。レイくんも落ち着かないでしょうし」
「……」
「分かったならあなたは私たちが呼ぶまで大人しくドアの前で突っ立っていなさい」
「ぐぬぬ……」
歯ぎしりをしている俺に、ミサが耳元で囁いた。
「やっぱりあなた、スーツが似合うわね。とても高校生には見えないわよ」
「私に似て背が高いし、体つきもしっかりしているからね。髪もきちんとセットしているから、まるで別人だ」
鶯巣が俺の正装姿を見てうっとり吐息を漏らしている。
口癖みたいに俺が父親と似ていると言うのが気に食わねえ。確かに俺は鶯巣に顔立ちも匂いも似ているが、ミサの面影も継いでいるし、匂いなんて鶯巣とミサの良いとこどりして最強になっているんだからな。テメェなんぞと一緒にするな。俺はお前の上位互換だ分かったかこの野郎。
タクシーが停車した。運転手がドアを開け、鶯巣とミサが下車する。俺は深呼吸をしてからサングラスをかけ、車を降りた。
「……でっけえマンションだな」
「大阪で一番立派なマンションだね。……がんばったんだね、怜くん」
「……」
高浜社長がこんなマンションを買えるのも、怜が体を売っているおかげだ、と鶯巣は言いたかったのだろう。
エントランスで高浜社長が俺たちを出迎えた。当たり前だが、色男ではあるが怜と全く似ていない。
高浜社長は緊張しつつも笑顔で挨拶をする。鶯巣とミサばかり見て、SPだと思っている俺のことは視界すら入っていないようだった。
中に通され、鶯巣たちはしばらくテーブルに座って世間話をした。それがいつしか商談に変わり、鶯巣とミサは契約内容を見もせずに捺印した。
その瞬間に高浜社長がニコォと破願したのが、おぞましく感じた。
しかし契約書の控書類を鶯巣とミサに渡すときには、悔し気に唇を噛んでいた。
ツルちゃんいわく、高浜社長はキスと生挿入・中出しを禁止しているらしい。お客様控書類と共にコンドーム三枚が渡され、事後はルールを守ったか確認するために使用済みコンドームと未開封のコンドーム、そして怜のケツの中をくまなくチェックするそうだ。
しかし、高浜社長は鶯巣にコンドームを渡さなかった。
昨日ツルちゃんが、そこのとこも上手くやっといたから好きなことをしていいよ、と言ってきたが、そのせいだろう。
高浜社長は、怜が待つ部屋まで鶯巣たちを案内して、ドアを開ける。
そのとき、鶯巣が高浜社長に尋ねた。
「ドアの前にこのSPを置いといてもいいかな」
「はい。もちろんです」
「ありがとう」
「私もここでお待ちしておりますので、何かございましたらお声がけください」
「ああ」
鶯巣とミサは、俺にウィンクをしたあと部屋に入っていった。
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