63 / 74
夏休み中旬:朱鷺
62話 8月16日:悪夢のオワリ
しおりを挟む
怜の言葉に身を震わせたのは、高浜社長だけではなかった。
鶯巣とミサが青ざめた顔でボソッと呟いたのが聞こえた。
「……自分の番に言われたところを想像して……心臓が縮こまってしまった」
「私も……これからはもっとちゃんと大事にしないと……」
そんな二人を見て俺はヒヒッと笑う。
「俺は平気だぞ」
「ああ、そうかい……」
「だって怜はアルファ性でも金でもなく、俺自身が好きだからな! な、そうだよな、怜!」
怜はニコッと笑い、頷いた。
「うんっ」
かわいい。やっと聞けた怜の「うんっ」。
はぁぁ~。好きだ……好きだ、怜……!!
俺が怜の顔中にちゅっちゅちゅっちゅキスをしているとき、鶯巣が高浜社長の肩を叩いた。
「ああ、高浜社長。ひとつ言い忘れたことが」
「……」
「今回のこと、鶴川君は知らないから」
「えっ……」
「今後怜くんを抱けないと知ったら怒り狂うだろうけど、あとは任せたよ」
高浜社長の顔がザッと青ざめる。
「そんな……! 私では鶴川社長の怒りを鎮めることなんてできません……!!」
「そうだろうね。私でもなかなか骨が折れると思う」
「鶴川社長を敵に回せば、私のような小さな会社なんて――」
「そうかそうか。まあ、それが今まで君がしてきたことに対する返しだって思ってくれたら」
「……」
怜、妻、そして会社も――
高浜社長はもうすぐすべてを失う。
「……る」
「ん?」
「う……訴えてやる……! 怜を奪い、妻を奪った上に、こんな……こんなことをして許されるとでも……!!」
怜とものすごく激しいキスを交わしたあと、俺は口をはさんだ。
「法廷で戦いたいのか? お前がそのつもりなら、俺は警察に行くぞ。俺の恋人が義理の父親にレイプされていますって」
「ヒッ……」
「何歳からされてるんだっけ? 十歳? 六歳? まあどっちでも、ヤベェよなあ~」
「そ、それだけは……」
「だよな? だったら余計なことするんじゃねえよ。それと、今後二度と怜と怜の母親の前に姿をあらわすんじゃねえぞ。そっこーで警察呼ぶからな」
効果てきめん。さすが鶯巣とミサだ。
作戦会議をしているときに、俺はこいつをブタ小屋にぶち込もうと提案した。その方が怜にとっても安心できると思ったのだが、鶯巣とミサに反対された。
「軽率よ、朱鷺。その罪じゃ、すぐに刑務所から出てきちゃうでしょ。そして刑務所から出た犯罪者っていうのは、逆恨みすることが多いの。きっと義父も、刑務所から出てきて真っ先に向かう場所はレイくんのところ」
「それよりも、それで脅して二度と来るなと言う方が良いと思うよ」
……と、いうわけだ。
全ての道を閉ざされた高浜社長は、今度は俺に泣きついた。
「じゃ、じゃあ、せめて怜を渡す見返りを……」
「……」
「一億でどうです……? あなたたちにとってははした金でしょう? それとも朱鷺さんにとって怜は、一億の価値もないオメガなのでしょうか?」
「うるせえ」
「ぐわっ!」
みっともなく足にしがみつく高浜社長を俺は蹴り飛ばした。
「あのなあ。お前バカなの?」
「ひっ、ひぃ……」
俺は腕の中にいる怜をさらに強く抱きしめ、言った。
「こいつを金でなんて買わねえよ」
当然だろ。怜は俺の大切な人だ。金で買えない価値があるに決まってるだろ、バカ。
「怜が俺と一緒にいたいという気持ちで充分だ。っつーかそもそもなんでお前に金払わなきゃならねんだよ。払うなら怜に払うわ」
なぜか怜は大泣きしていた。意味が分からない。
会った時よりひとまわりもふたまわりも小さくなった高浜社長は、床にうずくまりむせび泣いていた。
そんな社長を一瞥し、俺たちはマンションをあとにした。
タクシーの中、俺は怜をぎゅぅぅと抱きしめる。
「帰るぞ、怜」
「……うんっ」
鶯巣とミサが青ざめた顔でボソッと呟いたのが聞こえた。
「……自分の番に言われたところを想像して……心臓が縮こまってしまった」
「私も……これからはもっとちゃんと大事にしないと……」
そんな二人を見て俺はヒヒッと笑う。
「俺は平気だぞ」
「ああ、そうかい……」
「だって怜はアルファ性でも金でもなく、俺自身が好きだからな! な、そうだよな、怜!」
怜はニコッと笑い、頷いた。
「うんっ」
かわいい。やっと聞けた怜の「うんっ」。
はぁぁ~。好きだ……好きだ、怜……!!
俺が怜の顔中にちゅっちゅちゅっちゅキスをしているとき、鶯巣が高浜社長の肩を叩いた。
「ああ、高浜社長。ひとつ言い忘れたことが」
「……」
「今回のこと、鶴川君は知らないから」
「えっ……」
「今後怜くんを抱けないと知ったら怒り狂うだろうけど、あとは任せたよ」
高浜社長の顔がザッと青ざめる。
「そんな……! 私では鶴川社長の怒りを鎮めることなんてできません……!!」
「そうだろうね。私でもなかなか骨が折れると思う」
「鶴川社長を敵に回せば、私のような小さな会社なんて――」
「そうかそうか。まあ、それが今まで君がしてきたことに対する返しだって思ってくれたら」
「……」
怜、妻、そして会社も――
高浜社長はもうすぐすべてを失う。
「……る」
「ん?」
「う……訴えてやる……! 怜を奪い、妻を奪った上に、こんな……こんなことをして許されるとでも……!!」
怜とものすごく激しいキスを交わしたあと、俺は口をはさんだ。
「法廷で戦いたいのか? お前がそのつもりなら、俺は警察に行くぞ。俺の恋人が義理の父親にレイプされていますって」
「ヒッ……」
「何歳からされてるんだっけ? 十歳? 六歳? まあどっちでも、ヤベェよなあ~」
「そ、それだけは……」
「だよな? だったら余計なことするんじゃねえよ。それと、今後二度と怜と怜の母親の前に姿をあらわすんじゃねえぞ。そっこーで警察呼ぶからな」
効果てきめん。さすが鶯巣とミサだ。
作戦会議をしているときに、俺はこいつをブタ小屋にぶち込もうと提案した。その方が怜にとっても安心できると思ったのだが、鶯巣とミサに反対された。
「軽率よ、朱鷺。その罪じゃ、すぐに刑務所から出てきちゃうでしょ。そして刑務所から出た犯罪者っていうのは、逆恨みすることが多いの。きっと義父も、刑務所から出てきて真っ先に向かう場所はレイくんのところ」
「それよりも、それで脅して二度と来るなと言う方が良いと思うよ」
……と、いうわけだ。
全ての道を閉ざされた高浜社長は、今度は俺に泣きついた。
「じゃ、じゃあ、せめて怜を渡す見返りを……」
「……」
「一億でどうです……? あなたたちにとってははした金でしょう? それとも朱鷺さんにとって怜は、一億の価値もないオメガなのでしょうか?」
「うるせえ」
「ぐわっ!」
みっともなく足にしがみつく高浜社長を俺は蹴り飛ばした。
「あのなあ。お前バカなの?」
「ひっ、ひぃ……」
俺は腕の中にいる怜をさらに強く抱きしめ、言った。
「こいつを金でなんて買わねえよ」
当然だろ。怜は俺の大切な人だ。金で買えない価値があるに決まってるだろ、バカ。
「怜が俺と一緒にいたいという気持ちで充分だ。っつーかそもそもなんでお前に金払わなきゃならねんだよ。払うなら怜に払うわ」
なぜか怜は大泣きしていた。意味が分からない。
会った時よりひとまわりもふたまわりも小さくなった高浜社長は、床にうずくまりむせび泣いていた。
そんな社長を一瞥し、俺たちはマンションをあとにした。
タクシーの中、俺は怜をぎゅぅぅと抱きしめる。
「帰るぞ、怜」
「……うんっ」
36
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。
亜沙美多郎
BL
高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。
密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。
そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。
アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。
しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。
駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。
叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。
あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。
⭐︎オメガバースの独自設定があります。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる