【完結】【R18BL】夏休みに落ちた恋【オメガバース】

ちゃっぷす

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夏休み中旬:朱鷺

62話 8月16日:悪夢のオワリ

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 怜の言葉に身を震わせたのは、高浜社長だけではなかった。
 鶯巣とミサが青ざめた顔でボソッと呟いたのが聞こえた。

「……自分の番に言われたところを想像して……心臓が縮こまってしまった」
「私も……これからはもっとちゃんと大事にしないと……」

 そんな二人を見て俺はヒヒッと笑う。

「俺は平気だぞ」
「ああ、そうかい……」
「だって怜はアルファ性でも金でもなく、俺自身が好きだからな! な、そうだよな、怜!」

 怜はニコッと笑い、頷いた。

「うんっ」

 かわいい。やっと聞けた怜の「うんっ」。
 はぁぁ~。好きだ……好きだ、怜……!!

 俺が怜の顔中にちゅっちゅちゅっちゅキスをしているとき、鶯巣が高浜社長の肩を叩いた。

「ああ、高浜社長。ひとつ言い忘れたことが」
「……」
「今回のこと、鶴川君は知らないから」
「えっ……」
「今後怜くんを抱けないと知ったら怒り狂うだろうけど、あとは任せたよ」

 高浜社長の顔がザッと青ざめる。

「そんな……! 私では鶴川社長の怒りを鎮めることなんてできません……!!」
「そうだろうね。私でもなかなか骨が折れると思う」
「鶴川社長を敵に回せば、私のような小さな会社なんて――」
「そうかそうか。まあ、それが今まで君がしてきたことに対する返しだって思ってくれたら」
「……」

 怜、妻、そして会社も――
 高浜社長はもうすぐすべてを失う。

「……る」
「ん?」
「う……訴えてやる……! 怜を奪い、妻を奪った上に、こんな……こんなことをして許されるとでも……!!」

 怜とものすごく激しいキスを交わしたあと、俺は口をはさんだ。

「法廷で戦いたいのか? お前がそのつもりなら、俺は警察に行くぞ。俺の恋人が義理の父親にレイプされていますって」
「ヒッ……」
「何歳からされてるんだっけ? 十歳? 六歳? まあどっちでも、ヤベェよなあ~」
「そ、それだけは……」
「だよな? だったら余計なことするんじゃねえよ。それと、今後二度と怜と怜の母親の前に姿をあらわすんじゃねえぞ。そっこーで警察呼ぶからな」

 効果てきめん。さすが鶯巣とミサだ。
 作戦会議をしているときに、俺はこいつをブタ小屋にぶち込もうと提案した。その方が怜にとっても安心できると思ったのだが、鶯巣とミサに反対された。

「軽率よ、朱鷺。その罪じゃ、すぐに刑務所から出てきちゃうでしょ。そして刑務所から出た犯罪者っていうのは、逆恨みすることが多いの。きっと義父も、刑務所から出てきて真っ先に向かう場所はレイくんのところ」
「それよりも、それで脅して二度と来るなと言う方が良いと思うよ」

 ……と、いうわけだ。

 全ての道を閉ざされた高浜社長は、今度は俺に泣きついた。

「じゃ、じゃあ、せめて怜を渡す見返りを……」
「……」
「一億でどうです……? あなたたちにとってははした金でしょう? それとも朱鷺さんにとって怜は、一億の価値もないオメガなのでしょうか?」
「うるせえ」
「ぐわっ!」

 みっともなく足にしがみつく高浜社長を俺は蹴り飛ばした。

「あのなあ。お前バカなの?」
「ひっ、ひぃ……」

 俺は腕の中にいる怜をさらに強く抱きしめ、言った。

「こいつを金でなんて買わねえよ」

 当然だろ。怜は俺の大切な人だ。金で買えない価値があるに決まってるだろ、バカ。

「怜が俺と一緒にいたいという気持ちで充分だ。っつーかそもそもなんでお前に金払わなきゃならねんだよ。払うなら怜に払うわ」

 なぜか怜は大泣きしていた。意味が分からない。

 会った時よりひとまわりもふたまわりも小さくなった高浜社長は、床にうずくまりむせび泣いていた。
 そんな社長を一瞥し、俺たちはマンションをあとにした。

 タクシーの中、俺は怜をぎゅぅぅと抱きしめる。

「帰るぞ、怜」
「……うんっ」
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