一番のクズは…

蛭魔だるま

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私7

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次の日、家のチャイムが鳴った。 

「はい」 

インターホンを見ると彼の姿がある。いつもは昼間に来ることが多いのに、今日は夕方近くだった。 

「いれて」 

「何しに来たの」 

「まぁまぁまぁ、とりあえず入れてよ」 

どうして私はこの人に甘いんだろう。

小さいころから、ある種の調教のようなものだったのだろうか。 

…殴られるなんてことはないよね。暴力で手に入れるほど私に拘ってはないよね。

 鍵を開けてから一抹の不安がよぎったがもう遅い。すぐに扉は開けられ、彼は自分の家かのように堂々と入ってくる。 

彼はソファにどかっと座った。私は彼の横のソファに座った。 

だが彼は距離を詰め、私の隣に座った。 

「なぁ」 

彼は右手で私の肩を逃げないようにしっかり掴み、左手を伸ばしてきた。とっさに殴られるのではと目を背けた。

しかし衝撃はないためおそるおそる視線を彼に向けた。 彼は微笑みながら私を見ていた。

そして彼の伸ばされた手の中にはスマホが握られていた。 

「これ見て」

 彼がスマホを操作し、動画が流れ出した。 

彼の顔がドアップで映し出される。イタズラ前の少年のように良い笑顔だった。 

『ちゃんと見とけよ』

 彼は小声で、そう言うと、スマホから離れ部屋のソファに座った。 

奥からコーヒーを持って女が現れた。一昨日会った女だった。 

『はい、どうぞ』 

この前の嫉妬に歪んだ顔と違い、幸せそうな顔をしている。女がソファに座った瞬間、彼は口を開いた。 

『お前さぁ、こいつ知ってる?』 

彼はもう1台のスマホを彼女に見せた。なになに、と画面を見た女の顔が強張った。 

『んー、誰かなぁ。知らないやぁ』 

女は無理に笑顔を作った。彼はにこにこしながら女の首を掴んだ。 

『知らねぇわけねぇだろ。お前のせいでさぁ、こいつにもう会わないとか言われたらどう責任とんの?』 

首にかける手に力が入る。女は苦しそうな表情をしている。彼の顔からは、もう笑顔は消えていた。 

『あ、あが、あっ』 

『あぁ?』

 彼は首にかけていた手を離した。女は息を整える。 

『なんで、た、だの…従妹なんでしょ。じゃあ良いじゃない、別に』 

彼は女を押し、地面に倒れ込んだ彼女の背中を踏みつけた。 

『何が良いだ。あいつは俺の物だ。彼女でもねぇお前が何勝手にいちゃもんつけてんだよ』 

女は目を見開かせ、彼を見上げた。私でも初めて見た。彼が怒っている姿を、怒っている顔を。 

『私たち、付き合ってたのよね、だって、だって』 

『一回寝たくらいで彼女面してんじゃねぇよ。お前みてぇなマナー悪い女と誰が付き合うか。つーか、こんな台詞漫画くらいでしか言わねぇと思ってたわ。俺超恥ずかしいじゃん。…あ?てか待て、俺が悪いみてぇじゃん』 

彼女の髪を掴み、目を合わせる。 

『悪いのはお前だよな?』 

なんの疑いもない、少年のようなまっすぐな目で彼女に問うた。 

女は恐怖でただ無言で頷いた。

それを見た彼は笑顔に戻り、彼女の髪から手を離した。 

『だよな。勝手に勘違いしたお前が悪いもんな。…じゃあ、謝ろうか』 

『え?』 

『悪いことしたら謝るのは当然だろう?ほら、早く』 

『なんて謝ればいいですか?』 

『自分で考えろよ。わかってると思うけど、俺じゃなくてあいつにな』

 女のプライドはズタズタだろう。なんの関係もないといった女のために、愛した男が見たこともないくらい豹変して怒っている。そしてこの場にいない女に謝れと言っているのだから。 

『あの、私が…彼女気取りで…文句言ってすみませんでした』 

『本当、お前頭悪いな。そんなんで俺の彼女名乗られちゃ俺まで馬鹿だと思われるじゃねぇか』 

従兄は女に耳打ちした。 

『私みたいな醜くて頭の悪い勘違い女が、叩いて、突き飛ばしてすみませんでした。二度と近づきません。本当にすみませんでした』 

『土下座』

 女は言われた通り土下座した。 これ、私が黒幕みたいな感じに思われてないだろうかと少し心配になった。 

『はい、おっけー』 

彼はパチパチと拍手して、女は安心したのかほっと息をついていた。 

また急に彼は女の髪を掴み耳打ちした。女の表情がまた強張る。 

「お前、あいつに逆恨みとかしてまた手出したら次はねぇぞ。あいつの前に二度と現れんな」 

急に私の隣で彼が耳打ちしてきた。 

「なに」 

「なんて耳打ちしたか気になるだろうなぁって思って。ほら、続き見て」
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