君との恋の物語-Red Pierce-

日月香葉

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峰岸さん

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俺には、心から尊敬できる人がいる。
その人は、水栓金具や配管部材等のありとあらゆる水回りの商品を扱う卸問屋の社長で…結の、父親だ。
俺が峰岸さんに出会ったのは、高校2年生の時だ。
結の家で初めて会った訳だけど、それは、遊びに行っていてたまたま会ったとかではない。俺から結に、「父親に会わせてほしい」と頼んだのだ。
これだけだと、俺が結の父親に彼氏として挨拶に行ったのかと思うだろうが、それも違う。
俺は、この頃には既に大学を出たらいずれは起業したいと思っていた。
それなら、実際に起業して成功した人に話を聞くのが1番勉強になると思ったのだ。
結も快く引き受けてくれたし、峰岸さんも、沢山話をしてくれた。
峰岸さんの話は、どれも勉強になるものばかりで、俺はいつも聞き入っていた。
その中でも最も印象に残っていた言葉が「1番以外は皆同じ」という言葉だ。
この言葉に当時の俺は感銘を受けた。
この言葉は、今でも俺に影響を与え続けている。

峰岸さんとは何度も会って話をさせてもらったし、会社を見せてもらったりもしたが、数ヶ月たったころ、どうしようもない壁にぶつかった。
ビジネスそのものにはもちろん興味はあるし、峰岸さんという人物もとても好きなのだが、俺はどうしても水回りの商品には興味が持てなかった。かと言って自分がどうしても売りたい物もない。。。いや、むしろ商売がしたいのかと言われるとそれも違う気がする。。
つまり、俺には専門分野と言える物がなにもなかったんだ。

このことはもちろん峰岸さんにも相談した。
ある日のことだ。

「何を言ってるんだ。そんなの当たり前だろう?詩乃君はまだ若いんだ。これからの人生の中で、自分が1番になれる分野を探せばいい。俺だって独立して起業したのは30を過ぎてからだ。焦ることはない。」
そう言って笑ってくれた。
「詩乃君は、大学には行くんだろう?そこではなにを専攻するつもりなんだ?詩乃君のことだから心配はしてないが、専攻は慎重に選んだ方がいい。それこそ、大学での専攻が君の専門分野になるぞ。」
確かにそうだ。ん?だとしたら
『はい、僕は昔から歴史が好きで勉強してます。特に日本史が好きで、大学では日本史を専攻しようと思ってます。すでに論文も書いてますので。』
言いながら思った。あるじゃん、専門分野w
「なんだ、そこまでやっているならもう専門分野はあるじゃないか。歴史では私のような商売はできないが、何も物を売ることだけが商売じゃないんだ。これからよく考えて、君の専門分野で如何に商売をするか考えるといい。」
そうだ。俺は商売とは物を売ることという考えに捉われていた。だから、日本史という専門分野がありながら、それで商売をしようと思えなかった。だったら逆に、日本史でどんな商売ができるかを考えればいいんだ。難しいことではあるが、目標が見えた。
『ありがとうございます。商売の仕方については簡単には思いつきそうにありませんが、勉強しながらじっくり考えてみたいと思います。』
俺は深く頭を下げた。
「ところで、もしよかったら詩乃君が書いた論文を読ませてくれないか?すでに書いてる物でも、これから書く物でもいい」
なんと。峰岸さんに読んでいただけるのか!それなら、題材はアレにしよう!
『ありがとうございます!ぜひお読みいただきたいです!これから書くものをお渡ししたいので、少しお時間をいただけますか?』


峰岸さんは、笑顔で承諾してくださった。
せっかくお読みいただくなら、題材は、今最も興味がある物がいいと思ったのだ。
書き上げるには、あまり時間をかけすぎない方がいい。
まずは一週間程で書き終えて、修正に一週間。これを目標とした。

当時は大きな予定もなく、定期テストの時期でもなかったので、スムーズに書くことができた。終わった段階で早速結に連絡した。
峰岸さんも、すぐに会ってくれた。

じっくり読みたいというありがたいお言葉をいただき、暇な二週間を過ごした。
俺は、いつ連絡が来てもいいように週末の予定は全てオフにし、待機していた。
結から連絡が来たのは、論文を渡してから10日後のことだった。
【お父さんから。論文を読み終えました。今週土曜日に家に来られますか?だそうです。どう?】
俺はすぐに返事をした。
【もちろんです。何時でもお伺いできます。】
その後のやり取りで、待ち合わせは午前10時となった。

「読ませてもらったよ。ありがとう、とても興味深い内容だった。」
『ありがとうござます。高校に入った頃からずっと書きたいと思っていた題材です。峰岸さんにお読みいただけてよかったです。』
「その歳でここまでの文章が書けるなら大したものだよ。君は大物になるかもしれないな。知り合いに出版社の人間がいるから紹介しよう。あって損はない繋がりだろう?」
!!
そんなことまでしていただけるのか!
『は、はい!ありがとうございます!』
「では、この論文も彼に読んでもらってもいいかな?」
。。。少々勇気がいることが、逆に言えばこんなチャンスは滅多にない!
『はい、よろしくお願い致します。』

こうして俺が書いた論文は出版社の加藤さんの手に渡った。
ちなみに俺が書いた論文は、明治維新後の武士のことだ。
廃刀令が敷かれ、職を失った武士たちが、剣道という形で後世に何を残したかったのかという話だ。
人を斬るための道具。日本刀。その日本刀を使った技は当然斬る為の技だ。
だが時代は変わり、刀を捨てなければならなくなった。
そこで出て来るのが、殺人刀と活人剣の概念だと、俺は思っている。
わかりやすい例で言えば、警官と、暴漢だろうか。
暴漢の見境ない暴力に対し、警官は、最小限のダメージを与え、相手の暴力だけを殺す。
つまり、悪人に対しても命を奪わずに活かすということだ。
剣道とは、こうして生まれたものだろうと俺は思っている。
その証拠に、警察官は全員剣道か柔道の指導を受けるし、逮捕術の試合は、片方がなんでもありなのに対し、片方は警棒のみを使って決められた技のみで戦うものだ。
まぁ、簡単書くとこんな内容だ。

結果、俺の論文は加藤さんにも評価され、アルバイトとして文章の校正を頼まれるようになった。
その付き合いは、俺が結と別れて峰岸さんと連絡を取らなくなってからも続いている。
そして、大学生活も要約落ち着いてきた今、俺は久しぶりに加藤さんから仕事をいただこうとしている。

待ち合わせは、出版社の一階にある応接室だ。
「お待たせ!悪いね、わざわざきてもらって!」
『とんでもないです!こちらこそ長いことお休みしてしまってすみません!』
「いやいや、合格おめでとう!戻ってきてくれて助かるよ!詩乃君はもううちの大事な戦力だから!」
ありがたい話だ。俺はこうして、学生のうちからこんなに大切な仕事をさせていただいている。
「そんなわけで、早速だけど今回の仕事ね!」
うわっ中々の量だ。。一週間はかかりそうだ…。
『ありがとうございます!』
「これ、悪いんだけど、来週の月曜までに頼むよ。」
マジかよwあと3日しかないw
けどまぁ、これも経験かw
『わ、わかりました』
長いこと休みをもらっていたんだし、文句言わずにやるか!
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