君との恋の物語-Red Pierce-

日月香葉

文字の大きさ
20 / 24

それからのこと

しおりを挟む
新居を決めてからの日々は飛ぶように過ぎていった。

引越しの準備をしつつ、出版社からの「契約社員」についての説明を受け、学校では基本的に図書館にいて資料を集める。

仕事はそのまま図書館でするか、自宅に戻って行う。

合間に授業に出る。

就職課への挨拶も終えて、引っ越しは今回は荷物が多いので業者を手配した。

費用は自分でもつつもりだったが、親父が出すと言って聞かなかった。

俺としては助かるので、そこは素直にお願いした。

後日母親に聞いた話だが、親父は、俺が在学中に就職を決めて独り立ちしたことをすごく喜んでいたんだそうだ。

そりゃもう、自分の職場で毎日自慢するくらいだったらしい。

が、同時に寂しいとも思っていたようだ。

だから、「できることはしてやりたい」と言って引越しの費用を出してくれたらしい。

だったらそう言えばいいじゃないかと母に言うと、

「お互い様でしょ」と言い返された。

まぁ、確かに。お互いにあんまり直接言わないからな。

今度、飲みにでも誘ってみるか…



引越しを終えて、本格的に新体制が定着する頃には、もう夏になっていた。

相変わらず仕事が忙しいので、大学が夏休みに入ると俺の生活も少しは楽になった。

なにせ、試験勉強が大変だった。

どうしても首席で卒業したい俺は、勉強にも余念がない。

大変だが、ここで首席卒業できなければこの大学を選んだ意味がない。

試験前はさぎりとの時間や、寝る時間を削って、しっかりと試験に備えた。


ふと、俺も変わったなと思う。

以前の俺は、こんなに必死に努力しなくても結果を残していた。

いや、残してるつもりだった。

そこはやっぱり、仕事だからだろうか?

結果を評価するのは、俺ではなくて上司達なのだ。

自分の持っているものだけで勝負し続けられるほど甘くないのだ。

なにかきっかけがあったわけではないが、このことに自然と気づいて努力するようになっただけ、俺は成長したんだと思う。

かと言ってこんなにフルパワーを続けるにも限界がある。

もっと効率よく、要領よくできるように、日々考えていかないとだ。



夏が過ぎ、秋を越えてもさぎりとはうまくいっていた。

会えない期間が少々あっても、前みたいに拗ねたり怒ったりしない。

もちろん泣くこともない。

さぎりもちゃんと成長しているんだな。

本当、よかった。

できれば在学中にさぎりに立ち直るきっかけをくれた友達に話を聞いてみたいと思う。

正直、あの頃のさぎりの相手は大変だったと思う。

それをここまで立ち直らせてくれたんだから、お礼をしたいと思っている。

まとまった時間を取るなら、長期休暇期間がいいだろうが、皆就職活動もあるだろうしなぁ…

今度さぎりに相談してみるか。


後日、さぎりが部屋に来たタイミングで聞いてみた。

「え?私の友達にお礼?」

『うん』

「って、なんの?」

なんて言ったらいいんだろうか?

『まぁ、俺たちがやり直せたのは、見守ってくれた友達のおかげ、みたいなところもあるだろ?』

俺は、一言一言気をつけながら言った。

さぎりに、不要な責任感を感じさせないために。

「まぁ、そう、なのかな?」

それはそうだろうと言いたいところだが、曖昧に頷くにとどめた。

『だからさ、お礼に食事でもと思って。』

「うーん、皆喜ぶとは思うけど、逆に気を遣わせてしまうかも」

まぁ、確かに。

『そこをなんとか、上手い事言って誘えないかな?』

無茶は承知だが。

「わかった。そこまで言うなら誘ってみるよ。けど、みんな皆就活があるから、冬休みに入ってからでもいい?」

『もちろん。よろしく頼むよ』

この食事会が結構できるのは、少し先の話になる。


季節はすっかり冬になっている。

今年は珍しく結構寒い。

俺はコートを着て大学に向かっている。

今日も図書館で資料を集めるつもりだ。

午後からは授業もある。

こうして残り少ない大学生活はあっという間に過ぎていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然《完結》

アーエル
恋愛
「滅ぼしていい?」 「滅ぼしちゃった方がいい」 そんな言葉で消える国。 自業自得ですよ。 ✰ 一万文字(ちょっと)作品 ‪☆他社でも公開

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...