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第一章.死後の世界へ
§1.死後から始まるデスディニー9
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慌ただしかった会場は嘘のように静まり、耳触りの良いチャイコフスキーが薄っすらとロビーを包む。いつの間にか入り口付近には机が置かれ、卓上に広げられた芳名帳が間も無くの開場を教えている。
「あ、あの、もうそろそろ……」
真由美は控えめなトーンで、隣に座る太一に声を掛けた。隣と言っても人ひとり分は空いていおり、その微妙な距離感が二人の間に浮遊する気まずさを促進させている。
この空気をなんとかしたいとは思うものの、口下手な真由美に打開策は無く、定期的に取り留めない話題を振ることしか出来ずにいた。
当の太一はというと、三度に渡る精神攻撃を受けて完全にノックアウト。まるで死んだ魚の様な目をして地面にへたり込んでいた。
太一からの返答は一向に無く、あいにく真由美もまだ次の言葉を思い付いていない。本来、聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームに調整されている会場BGMが無駄な存在感を放ち、より一層虚しさを駆り立てる。
そんな状態が何分か続いた時、真由美は会場BGMに人の声が混じっていることに気付いた。慌てて時間を確認すると、開場まであと三分。会話のネタを考えるのに集中し過ぎたのか、結構な時間が過ぎていたようだ。
相変わらず虚ろな目をした太一を放置し、真由美は立ち上がり窓の外に目をやる。日が沈み夜を迎えた外の風景には、照明器具が点灯し、無駄に広い駐車場を照らしている。そして、駐車場に佇む複数の人影。真由美が聞いた声の正体は彼等で間違いない。
いよいよ参列者が姿を現したのだ。
「椎名さん! 外にお友達とか来てますよ!」
やっと訪れた話題に感謝しつつ、真由美は太一にそのことを伝える。だが、太一の目に光は無く、依然として動こうとはしてくれない。
そうこうしている間に入り口のドアは開かれ、黒い服に身を包んだ人々が次々と進入してくる。
「ほ、ほら、開場しちゃいましたよ! 私達も早く移動しましょうよ!」
太一の好奇心を煽るよう工夫はしてみるものの、状況に変化は見られない。そんな二人を余所に、受付を済ませた黒服の人々はホールへと歩を進めていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
焦る真由美は無意識に参列者へ声を掛けるが、霊体の声が届くはずもなく、黒服の人々はホールへと吸い込まれて行く。
そして、ついに――
『只今より、故椎名太一殿の通夜を執り行います』
ホールから漏れ出す男性の声は開式の辞で間違いないだろう。
瞬間、真由美の体からは力が抜け、その場にひれ伏すようにして膝をついた。
「は、始まっちゃいましたね……」
無論、太一からの返事はない。
式自体は約一時間の予定になっているので、途中からでも見ることは出来る。だが、今の太一にとっては難しいことだろう。開式のタイミングで全くの成果なしなのだから、今後どうやって彼を復活に導けばいいのか真由美には思い付きもしなかった。
任務失敗の四文字が真由美の頭を過る。そうなった場合、他の誘導員が派遣され、この案件はもっとスムーズに進むのかもしれない。
しかし、失敗した真由美には汚名が残ってしまう。それだけならまだしも、彼女の在籍する局にも影響が出てしまい、結果的に組合からの信頼が落ち、仕事を振ってもらえなくなるかもしれない。自分のせいで、事務所の仲間たちにも迷惑を掛けてしまう。
一度思い浮かんだ思考は真由美の心を黒く染め、深い泥沼の底へと落としていく。
「あんなことされて……私だって被害者なのに……」
浄土誘導員としての自分と、一人の女性としての自分。胸中に混在する二つの気持ちがぶつかり合い、真由美の心を板挟みにする。
仕事をしに来た筈なのに、対象者の男の子に心を掻き乱されてしまう。真由美はそんな自分に不甲斐なさを感じ、いつしか両目には大粒の涙が溜まっていた。
このまま泣いてしまえば、もっと惨めな気持ちになるだろう。それだけは避けようと真由美が顔を持ち上げると、入り口にごった返していた黒服の人々は減って、暇そうにしている受付係の姿が目に入る。
しかし、外から聞こえる喧騒が束の間の余暇をいとも簡単に塗りつぶす。それどころか、真由美の聞いた最初のざわつきを大きく上回るものさえ感じさせる。
喧騒の正体はすぐに訪れた。
自動ドアが開き、ロビーへと入場してくる初老の男。真由美は男の姿に見覚えがあった。昨日、太一と共に訪れた彼の通う高校。そこで行われた緊急集会にて、太一の死亡を告げた男。教頭で間違いない。
教頭は受付になにか言葉を告げると、すぐに芳名帳へペンを走らせる。そして一旦外に戻り、太一と同じ制服を着た生徒たちを引き連れ、ロビーに再度入場する。
真由美は急いで向き直り太一の姿を探すが、その場にへたり込んでいた筈の姿は既に無かった。もしやと思った真由美はすぐに受付にへと目線を戻すと、そこにはその場に固まる生徒たちと向かい合うようにして佇む太一の姿があった。
待ちに待ったこの瞬間。青春時代を共に謳歌した仲間達の姿を見て、太一に正気が戻ったのだ。
被害者とはいえ、決して少なくない罪の意識を感じていた真由美はほっと胸を撫で下ろす。そして、真由美は意を決し太一に声を掛ける。
「椎名さんっ! ホールに行きましょう!」
太一からの返答は無い。
不安に思った真由美は太一への距離を詰め、肩に手を掛けようとした。しかし、突如真由美の心臓は跳ね上がった。
「あっ……」
胸に打ち付ける鼓動は次第に大きくなり、真由美の動きを阻害する。頭の中に浮かぶは不安。
本当に触れてしまっていいのだろうか。嫌われてしまわないだろうか。
そんな言葉が浮かび上がり、あと一歩のところまで迫った右腕を無意識に引っ込めてしまう。
立て続けに起こったトラブルは、真由美から仕事という概念を薄め、太一が異性だという事実だけを植え付けた。一度得た認識はそう簡単に消えるはずもなく、残酷なまでに真由美の胸を締め付ける。もとより、異性との接触が皆無に等しい真由美には、ただ名前の知らない感情に悶えることしか出来ないでいた。
「倉田さん……」
俯く真由美の耳に飛び込む太一のか細い声。
真由美が声につられて思わず顔をあげると、太一の震えた背中と、その少し奥に佇む黒髪の少女の姿が目に入った。
綺麗に切り揃えられたストレートの黒髪と眩しいほどの白い肌は、見事なコントラストで少女をより一層引き立てている。当然、少女の魅力は色合いだけではなく、すらっとしたシルエットとは裏腹にしっかりとついた凹凸は彼女の女性らしい印象を強めている。
そんな完璧な身体を持つ人間ならばさぞかし顔も美しいのだろう。人知れず惨めな気持ちになった真由美は、確認するために少女を凝視する。
「あれ? な、泣いてる?」
単刀直入にいえば美人だといい切れるほどの素質だろう。しかし、少女の表情は真由美が想像していたものと違っていた。
彼女の持つ品の良い目鼻立ちは本来ならば見る者に至福を与えるほどに美しいのだが、綺麗なアーモンド型の瞳は赤く充血し、涙を抑えきれなくなった瞼は腫れている。
「あーあ、あれじゃせっかくの美人が台無しだな」
「え?」
突如降って聞こえた声に、真由美の意識が戻る。
真由美の正面には、いつの間にか太一が体ごと方向転換して立っていた。呆気にとられる真由美を置き去りにして、太一は寂しそうな笑顔を浮かべると、ゆっくりと口を開いた。
「悪いんだけどさ、やっぱ浄土に行くのやめるわ」
「あ……えっと……えっ? えぇぇぇ!?」
太一からいわれた爆弾発言に、真由美の脳内は一瞬で色を失う。トラブルは多かったが、書面上の案件進行状況としては決して悪くなかった。さっき修羅場を迎えていたのは事実だが、それも友達との再開でなんとか脱却したはずではなかったか。
この一瞬でなにか状況に変化があったとすれば――
「も、もしかしてあの人……」
「そっ、倉田理恵さん」
太一の返答に真由美は頭を抱える。
よもや事態は最悪の展開を迎えてしまった。
今朝あったトラブルの弁解時、太一の想い人についてはある程度聞かされていた真由美だが、まさかすぐそこに居る涙の少女がその人だったとは思いもしなかったろう。初見の真由美でさえ彼女の美貌に魅了されてしまったのに、異性、それも数年前から想いを寄せている太一にとって彼女の涙は核兵器にも匹敵する武器と化してもおかしくはない。
ましてや、涙の理由が自分の死だとすれば太一の心が一瞬で傾いたのにも合点がいく。
「ま、まさか、ずっとあの人のそばにいるとかいわないですよね……?」
「ん? そのつもりだけど……なんで分かったの?」
「ちょっ!? だめだめだめだめ! そんなの絶対ダメですよ!!」
激しく取り乱す真由美を、冷静に見つめる太一。反対されるのは想定の範囲内だった。
真由美を説得するための具体的な策があるわけではないが、太一にも引けない理由が存在する。ここで妥協してしまえば、浄土で後悔の日々を送ることになるだろう。太一にとってそれは万死に値する。ならば、例え知人に認識されなくとも、自分を貫くまでだ。
「気持ちは分かるよ。仕事だもんね」
「なら、そんなこといわないでくださいよ!」
「でもさ……泣いてる女の子をほっとくなんて男の子のやることじゃない」
自信満々の顔で言い放った太一は固まる真由美を置いて、生徒達と共にホールへと消えて行った。
♦︎♦︎♦︎
爽快感と高揚感。二つの感情はぶつかることなく綺麗に混ざり、太一のテンションを押し上げていく。
この気持ちを誰かに話せればもっと楽しくなれるのだろうが、そんな贅沢をいってはならない。ずっと想い続けてきた少女が、自分のために涙を流してくれた。今はその事実だけで、充分過ぎるほど太一の心は幸福に満たされていた。
とはいえ、見守ることがどれだけ辛いことなのかを考えないわけではない。
もし理恵に恋人でも出来てしまったなら。考えるだけでも悪寒がするのに、その場を目の当たりにしたら自分は耐えられるのか。
太一の心に不安が侵食していく。だが、いつか必ずその時はやってくる。
「死体に重なったら生き返ったりしないの?」
「し、しないですよっ!!」
ここで生き返ることが出来れば全てが万事解決なのだが、世の中そんなに甘くはなかったようだ。無念の気持ちを感じながらも、太一は祭壇へと歩き、中心に置かれた棺の正面に立つ。
棺には見覚えのある男が青白い顔をして寝そべっている。
よく見知った身近な男の顔。それが自分だと気付くのにはしばらくの時間を要した。
鏡越しや写真の中では何度も見た顔だろう。しかし、こうして面と向かう機会などあるはずはなかった。
きっとその感覚こそが、今の自分と目の前の男が切り離されたというなによりの証拠。椎名太一という人間は、もうこの世には居ない。
「いい顔ですね。この寝顔なら遺族の皆様も安心できると思いますよ」
いつの間にか隣に立っていた真由美の優しい言葉。
どれだけ割り切ったつもりでも、死の本質を理解している人間など存在しないだろう。無論、太一も例外ではない。
だが、真由美の言葉は太一の心に染み渡り、胸につっかえたわだかまりを優しくほどいていく。
「もういいんですか?」
思いの外あっさりと祭壇に背を向けた太一を不思議に思ったのか、真由美は声を掛ける。あれだけ来たがっていたのだから結構な長丁場を覚悟していたのだが、遺体と向かい合ったのは五分程度だろう。
結果的には時短になってはいるものの、真由美はなんとなく味気ない感じがしてならなかった。
「もういいから、早く外に出よ」
「は、はい」
太一は言葉と共に歩き出した。
反応が遅れてしまった真由美は駆け足で太一を追い、二人はホールを後にした。
太一は歩きながら考える。
自分の遺体と対面して、本当の死というものを痛感した。また、最後の別れを告げるために多くの人がこの場に集まり、皆思い思いの気持ちを持って焼香を上げてくれた。
儀式の一環として当たり前のことなのかもしれないが、太一の旅立を願って開かれた式だという事実に変わりはない。迷わずに、新しい生活を全力で楽しむことこそが、皆に対するせめてもの恩返しなのかもしれない。
だが、太一としてはやはり理恵のそばに付き、なんとかして彼女を守ってやりたいというのが本心だ。
霊体なんて非現実的なものが存在するのだから、守護霊や背後霊なんて言葉もあながち迷信ではないのかもしれない。ならば、守護霊として理恵を守り続けるという太一のプランにも信憑性が出てくる。
強い思いは形となり、太一に手紙を書くまでの力を与えた。もしかすると、彼女を守るだけの力が自分にはあるのかもしれない。
二つの感情に挟まれ、太一は自分の進むべき道を見失ってしまった。
「あ、あの……さっきの話なんですが……」
太一の思考を切り裂く真由美の声。
悩んでいる表情に気付いたのかもしれない。だが、太一の悩みは全く解決しておらず、生憎はっきりとした返答は出来そうになかった。
ホールからは焼香を終えた生徒達が次々と吐き出される。そして、彼らは一目散にロビーの出口へと向かい、葬儀場から去って行く。
太一もその流れに乗り、その場を逃げる様にして外へと歩を進めていった。
(どうしよ……これ以上は先延ばしに出来ないよな……)
外の空気を吸えば気持ちもリフレッシュして、改善策も浮かぶかと考えていたのだが、全くそんなことはなかった。
太一の中に渦巻く二つの感情は激しくぶつかり合い、ただただ心を掻き乱す。ついには自力での解決を諦め、周囲にヒントが落ちていないか、きょろきょろと探し出す始末。当然、そんな都合の良いヒントがあるはずもなく、辺りには見慣れた制服の団体が散りばめられているだけだ。
(い、いかん。集中集中)
周囲の助けを諦めた太一は再度答えの模索に挑戦するが、一度区切ってしまった集中は中々戻らない。どうしても、周りから発せられる雑音に耳がいってしまうのだ。
更にたちが悪いのは、雑音の原因の大半は見知った同級生達。知り合いの声が聞こえるだけでも気が散るというのに、皆の話題は太一のことで持ちきりだ。太一の通夜で集まったのだから当然と言えば当然なのだが、今だけはやめて欲しいと切に願う。
「だぁぁっ、うるせぇ!」
勢いで叫んでは見るものの、霊体の声が届くはずもない。
逆に彼らの会話はヒートアップし、ボリュームは会話の内容が筒抜けになるほどまで大きくなっていく。
『あたしは自殺だと思うんだよねー。ほら、あいつ受験失敗したらしいじゃん?』
『あり得るあり得る!!』
筒抜けた会話は仕切りに太一の耳を突き刺し続ける。太一の存在など知らずに、ひたすらに繰り広げられる。
『全くよ、なんつータイミングで死んでくれたんだよ。俺、明日合格発表だぞ? お前のことなんか気にしてらんねぇつーの!!』
『まぁまぁ、試験の前とかじゃなくてよかったじゃん』
不思議なことに、こういう場面では悪い物ばかりが優先的に聞こえて来てしまう。気付けば太一の精神ライフはレッドゾーンに悠々と突入し、予備エネルギーまでもえぐり取られていくではないか。きっと、彼の残された霊泉もすごい勢いで減少しているに違いない。
そのことに気付いた真由美はなんとか生徒の声を掻き消そうと、自ら大声を上げる決意する。
「あのっ椎名さ――」
大きく息を吸い込み、気合い充分で声を絞り出すも、肩に手を掛けられて中断。手の持ち主はもいろん太一だ。
真由美は残った息を吐き出しながら太一へと目をやる。
「いいんだよ。君が気にすることなんてなにもない。これは俺の問題だから」
「へっ?」
和かな笑顔を浮かべる太一。口は緩い弧を描き、目尻はゆるりと垂れている。まさに模範的な笑顔といえよう。
だが、真由美には笑顔の裏になにかどす黒いオーラが宿っている気がしてならなかった。
そして、太一はくるっとターンを決め、またも真由美を置き去りにして走り出してしまった。
「てめぇーらぁ! 絶対に呪い殺してやんぞっ!!」
太一の叫び声を聞いて、真由美の身体中に鳥肌が立つ。
いくら生者の肉体に触れられないといっても、彼らを傷付ける方法はいくらでもある。太一は一晩で手紙を書き上げる程の才の持ち主。その才能に今の怒りが合わされば、凶器を振り回すくらいは決して難しいことではない。真由美の脳裏をよぎる最悪の展開。それだけはマズいと思った真由美は、すぐに太一の追跡を開始する。
「ちょっ、ちょっと待ってくださ!! うっ、うぁっ!!」
しかし、走り出した瞬間に真由美の視界はブラックアウト。同時に訪れる衝撃。小さな真由美は力に逆らえず、押し戻されるように尻餅をついてしまう。
「痛たたぁ……」
鼻を突き刺す痛みはゆっくりと涙管を伝い、真由美の瞳を濡らす。水分を得た瞳はその活動を再開し、真由美の視界にはボヤけた世界が映し出される。
「あ、あれ? 椎名さん?」
涙で滲む瞳が最初に捉えたのは太一の背中だった。てっきり怒りに我を忘れ、無慈悲な惨劇を繰り広げるものだと思っていたが、そうはならなかったらしい。
完全に停止した太一の背中からは怒りや復讐心といった雰囲気は一切感じらない。逆に、どこか寂し気な雰囲気さえ感じさせる。
とりあえず、最悪の展開は回避できたということだろうか。
真由美に安堵の念が広がり、それを合図にしたのか次第にボヤけた視界も元の形を取り戻していく。
夜の闇に包まれただだっ広い駐車場と、控えめに通路を照らす街灯。街灯は影を作り、影は人型を作る。長く伸びたそれは太一を横切り、真由美のすぐ側まで迫っている。
真由美は無意識のうちに目でそれを追っていた。そして、影の持ち主を知った真由美は全てを察する。
影の導く先に居るのは二人の女子生徒。彼女達は横に並び、なにやら会話をしている。
『大丈夫?』
『う、うん……』
ショートヘアの活発そうな少女が心配そうな声で尋ね、それに震えた声で答える黒髪の少女。街灯に照らされた二人の女子生徒は、受付で見た顔だった。
そして、その一方の女子生徒――黒髪の少女は真由美の記憶に深く残り、今も圧倒的な存在感を持って真由美の胸を締め付ける。
倉田理恵。つまり、太一の想い人。
一歩後ろに立っているせいで顔は見えないが、きっと太一はその様子を真剣な眼差しで見つめているのだろう。微動だにしない背中が、事の正確性を教えている。
『太一くん……この前まであんなに元気だったのに……』
理恵は震える声でぼそりとつぶやくと、涙で濡れた顔を隠すかの様に俯いた。
そんな彼女の姿を見て、真由美は生前二人が如何に親密だったかを知る。
(下の名前で呼んでるんだ……)
今、気にするべきことではないと頭では分かっているのだが、胸中にひしめく靄は真由美の心を黒く染め上げていく。
太一と理恵の関係が気になって仕方ない。だが、この場に妙な居心地の悪さを感じてもいるのも事実。この気持ちは一体なんなのか。
得体の知れない感情に、真由美はただ戸惑うことしか出来ないでいた。
『でも、まさか泣いちゃうとはねぇ~』
『だって……』
俯く理恵の姿を見て、太一は下唇を噛みしめる。あんなに瞼が腫れるまで涙を流した理恵に、自分は礼の言葉を掛けることさえ出来ない。出来ることといえば、こうして彼女を見守ることだけだろう。
それがなによりも悔しくて、もどかしくて、自分の無力さを痛感する。
なにか出来るかもと思い上がっていた。素直に真由美の指示通り浄土へ向かっていれば、こんな思いをせずに済んだはずだ。自分はなにを求めていたのか。見たくもない現実を見て、なにか得られるものがあっただろうか。
逆流する空気は太一の喉を熱し、喉から湧き上がる蒸気は瞳を濡らす。
太一の頬を一筋の雫が伝う。
――もう忘れよう。
胸から湧き上がる言葉。しかし、喉はそれをせき止め、声にすることを許さなかった。
押し戻された言葉はその形を失い、儚く砕け去る。その瞬間、太一は気付く。
「そっか……俺、我慢できなかったのか……」
「え? って、し、椎名さんっ!? な、泣いてるじゃないですか!! だ、大丈夫ですか!?」
真由美にいわれて自分が泣いていることに気付き、太一は慌ててブレザーの袖で涙を拭う。
まだ胸の痛みや、苦しみは取れたわではない。だが、太一の心の霧はすっきりと晴れていた。軟弱な思考が涙となって流れ出たのかもしれない。
「恥ずかしいとこ見られちゃったな……」
「い、いえ……そんな……」
「でも、俺決めたんだ」
「え?」
太一は体ごと真由美に向け、しっかりと彼女を見据える。
そして、大きく息を吸い言葉を紡ぐ。
「俺、浄土へは行かない」
太一の決意。
それはただのわがままだろう。自分が無力なのは分かっているし、その上なにをしても理恵に決して認知されないという事実は苦痛以外のなんでもない。
しかし、最後に見た理恵の姿があんなに辛そうな泣き顔だったなど太一には耐えられなかった。
彼女には笑顔でいて欲しい。太一の願いはただそれだけだ。
もし理恵が笑顔になるのならば――例えその役割が自分でない他の誰かでも、理恵が幸せになれるのならいくらでも我慢できる。わがままでも、自己中心的でも、それが理恵に恋した太一のプライドだ。
「そうですか……」
真由美は口を閉じる。
任務のことを考えれば説得すべきなのは分かっている。だが、真由美はそうしなかった。太一から送られる真剣な眼差しは、今までの漠然とした言動とは違う確かな覚悟が感じられたからだ。
伊達や酔狂でいっているのではない。本気で考え、本気で悩み、誰に流されるわけでもなく自ら切り拓いた結論なのだろう。
それを仕事という一言で突き返してしまうほど真由美は無粋ではない。一人の人間として、太一の背中を押してやりたいと思うことはおかしいことだろうか。
自分も決意しなければならないのだが――
「お、おい、なんで泣くんだよ!?」
「えっ?」
真由美の瞳から溢れる多量の涙。気付けば泣いていた。どれだけ拭っても涙は止まらない。任務に失敗した事がそんなに悔しいのだろうか。
――違う。
真由美はやっと自分の気持ちに気付く。
自分は目の前の少年に心を奪われていたのだ。出会って二日、色々なトラブルがあり、一種の吊り橋効果のような一過性のものなのかもしれない。
だが、一時的とはいえ心が支配されていたのは事実。真由美は太一に対象者として以上のものを求めてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい……わ、私……」
真由美の思いは届かない。太一の心は既に理恵が存在し、真由美の入る余地はないだろう。
そんなことは分かっている。分かっているのだが、涙は一向に止まらない。爆発した感情は嗚咽となり、真由美の口から溢れ出す。
真由美は声を上げて泣いた。
『まぁ、元彼が死んだら辛いよね。あたしも同じ立場なら泣いちゃうかもなぁ~』
泣き出した二人を知らずに生者の会話は続く。不可解な単語を含み続く。
「も……とか…れ……?」
聞き慣れない単語というものは無意識に聞き取れてしまう。太一も不思議な響きのそれに魅了され、意識は後方へと移っていく。
『も、元彼!?』
泣くのも忘れて驚愕する理恵。
無論、太一も同じ心境だ。そうなりたいと願いはしたが、成就した記憶など全くもって存在しない。
しかし、驚愕する二人を無視して活発系女子の言葉は続く。
『そぉそぉ。だって去年、超仲良かったじゃん? 二人でカフェとか行ったりしてさ……ってあれ? もしかして隠してた 』
未だに泣き続ける真由美を置き去りにして、太一の思考はみるみる引き込まれていく。この場の雰囲気にそぐわない方向へと。
(な、なるほど……周りからはそんな風に見えてたのか)
さっきまでの覚悟は何処へ行ったのか、太一の表情は急速に緩んでいく。太一にとってこれほど嬉しいことはない。恋人同士にこそ慣れなかったが、周囲のからは認定されていたといたのだ。
つまり、お似合いのカップル。なんとも穴だらけの理論だが、太一の脳内でそう変換されていた。
とはいえ、周りがいくら騒ごうと、太一がニヤニヤしやようとも、誤解は誤解だ。当然、誤解を晴らそうとする人間は存在する。
『違う違う! そんなんじゃないって』
『えぇ~うそぉ?』
『嘘じゃないって。確かに太一くんとは仲良かったけど、そういう関係じゃないよ』
理恵はしっかりとした声で真相を説明する。そこにさっきまでの震えはなかった。太一と恋人同士に見られたのがそんなに不名誉なことだったのだろうか。
『お友達が亡くなって泣くのは別におかしいことじゃないでしょ?』
『そりゃそうだけど……でもさ~』
『だって相手はあの太一くんだよ?』
『あ、あぁ……』
活発系女子はなにに納得したのか、疑うことをやめてしまう。
一方の太一はというと、まるで見えない槍を胸に刺されたかのような衝撃を受けていた。心なしか口の中には血の味が広がり、息を吸うのも困難だ。
だが、悲劇はまだ終わらない。友人の納得を得られた理恵は再び口を開く。
『一緒に居てすごく楽しいけど、恋人はちょっとね……』
『あ~分かる分かる! 話は合うんだけど男としての魅力に欠けるっていうか、自分に無い物を持ってないっていうか……要するに良いお友達なんだよね!』
こと丁寧に補足を加える活発系女子。
太一の胸に刺さる大槍は二本、三本とその数を増やしていく。そして、フルチャージされた相手の必殺技ゲージは容赦無く太一にトドメを刺す。
『あははっ、それそれっ! やっぱみんな思ってることは一緒なんだね』
理恵は満面の笑みを浮かべる。
その瞬間、太一の目標は達成した。当初の予定通り、自分がどれだけ傷付こうとも必ず理恵の笑顔を取り戻すという計画は完遂されたのだ。想像以上に精神エネルギーを持っていかれたが。
「おい、早く連れて行け」
「へ……?」
未だに気持ちの整理が出来ていなかった真由美は、太一がなにをいっているのか理解できなかった。
しかし、今の太一に相手を思いやる気持ちなど微塵も残っていない。理性を保つのが精一杯なのだ。
「早く浄土へ連れて行けっていってんだろぉぉぉがっ!!」
「は、はいぃぃぃっ!?」
「いいから、黙って車を回して来いっ!!」
太一のおぞましい叫びに圧倒され、真由美は車の元へと走り出す。
きっと、彼女が全ての成り行きを知る日は未来永劫訪れはしないだろう。
なにはともあれ、真由美は初任務を成功させ、太一は無事とは言い難いが――成仏する決意を固めたのだった。
「あ、あの、もうそろそろ……」
真由美は控えめなトーンで、隣に座る太一に声を掛けた。隣と言っても人ひとり分は空いていおり、その微妙な距離感が二人の間に浮遊する気まずさを促進させている。
この空気をなんとかしたいとは思うものの、口下手な真由美に打開策は無く、定期的に取り留めない話題を振ることしか出来ずにいた。
当の太一はというと、三度に渡る精神攻撃を受けて完全にノックアウト。まるで死んだ魚の様な目をして地面にへたり込んでいた。
太一からの返答は一向に無く、あいにく真由美もまだ次の言葉を思い付いていない。本来、聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームに調整されている会場BGMが無駄な存在感を放ち、より一層虚しさを駆り立てる。
そんな状態が何分か続いた時、真由美は会場BGMに人の声が混じっていることに気付いた。慌てて時間を確認すると、開場まであと三分。会話のネタを考えるのに集中し過ぎたのか、結構な時間が過ぎていたようだ。
相変わらず虚ろな目をした太一を放置し、真由美は立ち上がり窓の外に目をやる。日が沈み夜を迎えた外の風景には、照明器具が点灯し、無駄に広い駐車場を照らしている。そして、駐車場に佇む複数の人影。真由美が聞いた声の正体は彼等で間違いない。
いよいよ参列者が姿を現したのだ。
「椎名さん! 外にお友達とか来てますよ!」
やっと訪れた話題に感謝しつつ、真由美は太一にそのことを伝える。だが、太一の目に光は無く、依然として動こうとはしてくれない。
そうこうしている間に入り口のドアは開かれ、黒い服に身を包んだ人々が次々と進入してくる。
「ほ、ほら、開場しちゃいましたよ! 私達も早く移動しましょうよ!」
太一の好奇心を煽るよう工夫はしてみるものの、状況に変化は見られない。そんな二人を余所に、受付を済ませた黒服の人々はホールへと歩を進めていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
焦る真由美は無意識に参列者へ声を掛けるが、霊体の声が届くはずもなく、黒服の人々はホールへと吸い込まれて行く。
そして、ついに――
『只今より、故椎名太一殿の通夜を執り行います』
ホールから漏れ出す男性の声は開式の辞で間違いないだろう。
瞬間、真由美の体からは力が抜け、その場にひれ伏すようにして膝をついた。
「は、始まっちゃいましたね……」
無論、太一からの返事はない。
式自体は約一時間の予定になっているので、途中からでも見ることは出来る。だが、今の太一にとっては難しいことだろう。開式のタイミングで全くの成果なしなのだから、今後どうやって彼を復活に導けばいいのか真由美には思い付きもしなかった。
任務失敗の四文字が真由美の頭を過る。そうなった場合、他の誘導員が派遣され、この案件はもっとスムーズに進むのかもしれない。
しかし、失敗した真由美には汚名が残ってしまう。それだけならまだしも、彼女の在籍する局にも影響が出てしまい、結果的に組合からの信頼が落ち、仕事を振ってもらえなくなるかもしれない。自分のせいで、事務所の仲間たちにも迷惑を掛けてしまう。
一度思い浮かんだ思考は真由美の心を黒く染め、深い泥沼の底へと落としていく。
「あんなことされて……私だって被害者なのに……」
浄土誘導員としての自分と、一人の女性としての自分。胸中に混在する二つの気持ちがぶつかり合い、真由美の心を板挟みにする。
仕事をしに来た筈なのに、対象者の男の子に心を掻き乱されてしまう。真由美はそんな自分に不甲斐なさを感じ、いつしか両目には大粒の涙が溜まっていた。
このまま泣いてしまえば、もっと惨めな気持ちになるだろう。それだけは避けようと真由美が顔を持ち上げると、入り口にごった返していた黒服の人々は減って、暇そうにしている受付係の姿が目に入る。
しかし、外から聞こえる喧騒が束の間の余暇をいとも簡単に塗りつぶす。それどころか、真由美の聞いた最初のざわつきを大きく上回るものさえ感じさせる。
喧騒の正体はすぐに訪れた。
自動ドアが開き、ロビーへと入場してくる初老の男。真由美は男の姿に見覚えがあった。昨日、太一と共に訪れた彼の通う高校。そこで行われた緊急集会にて、太一の死亡を告げた男。教頭で間違いない。
教頭は受付になにか言葉を告げると、すぐに芳名帳へペンを走らせる。そして一旦外に戻り、太一と同じ制服を着た生徒たちを引き連れ、ロビーに再度入場する。
真由美は急いで向き直り太一の姿を探すが、その場にへたり込んでいた筈の姿は既に無かった。もしやと思った真由美はすぐに受付にへと目線を戻すと、そこにはその場に固まる生徒たちと向かい合うようにして佇む太一の姿があった。
待ちに待ったこの瞬間。青春時代を共に謳歌した仲間達の姿を見て、太一に正気が戻ったのだ。
被害者とはいえ、決して少なくない罪の意識を感じていた真由美はほっと胸を撫で下ろす。そして、真由美は意を決し太一に声を掛ける。
「椎名さんっ! ホールに行きましょう!」
太一からの返答は無い。
不安に思った真由美は太一への距離を詰め、肩に手を掛けようとした。しかし、突如真由美の心臓は跳ね上がった。
「あっ……」
胸に打ち付ける鼓動は次第に大きくなり、真由美の動きを阻害する。頭の中に浮かぶは不安。
本当に触れてしまっていいのだろうか。嫌われてしまわないだろうか。
そんな言葉が浮かび上がり、あと一歩のところまで迫った右腕を無意識に引っ込めてしまう。
立て続けに起こったトラブルは、真由美から仕事という概念を薄め、太一が異性だという事実だけを植え付けた。一度得た認識はそう簡単に消えるはずもなく、残酷なまでに真由美の胸を締め付ける。もとより、異性との接触が皆無に等しい真由美には、ただ名前の知らない感情に悶えることしか出来ないでいた。
「倉田さん……」
俯く真由美の耳に飛び込む太一のか細い声。
真由美が声につられて思わず顔をあげると、太一の震えた背中と、その少し奥に佇む黒髪の少女の姿が目に入った。
綺麗に切り揃えられたストレートの黒髪と眩しいほどの白い肌は、見事なコントラストで少女をより一層引き立てている。当然、少女の魅力は色合いだけではなく、すらっとしたシルエットとは裏腹にしっかりとついた凹凸は彼女の女性らしい印象を強めている。
そんな完璧な身体を持つ人間ならばさぞかし顔も美しいのだろう。人知れず惨めな気持ちになった真由美は、確認するために少女を凝視する。
「あれ? な、泣いてる?」
単刀直入にいえば美人だといい切れるほどの素質だろう。しかし、少女の表情は真由美が想像していたものと違っていた。
彼女の持つ品の良い目鼻立ちは本来ならば見る者に至福を与えるほどに美しいのだが、綺麗なアーモンド型の瞳は赤く充血し、涙を抑えきれなくなった瞼は腫れている。
「あーあ、あれじゃせっかくの美人が台無しだな」
「え?」
突如降って聞こえた声に、真由美の意識が戻る。
真由美の正面には、いつの間にか太一が体ごと方向転換して立っていた。呆気にとられる真由美を置き去りにして、太一は寂しそうな笑顔を浮かべると、ゆっくりと口を開いた。
「悪いんだけどさ、やっぱ浄土に行くのやめるわ」
「あ……えっと……えっ? えぇぇぇ!?」
太一からいわれた爆弾発言に、真由美の脳内は一瞬で色を失う。トラブルは多かったが、書面上の案件進行状況としては決して悪くなかった。さっき修羅場を迎えていたのは事実だが、それも友達との再開でなんとか脱却したはずではなかったか。
この一瞬でなにか状況に変化があったとすれば――
「も、もしかしてあの人……」
「そっ、倉田理恵さん」
太一の返答に真由美は頭を抱える。
よもや事態は最悪の展開を迎えてしまった。
今朝あったトラブルの弁解時、太一の想い人についてはある程度聞かされていた真由美だが、まさかすぐそこに居る涙の少女がその人だったとは思いもしなかったろう。初見の真由美でさえ彼女の美貌に魅了されてしまったのに、異性、それも数年前から想いを寄せている太一にとって彼女の涙は核兵器にも匹敵する武器と化してもおかしくはない。
ましてや、涙の理由が自分の死だとすれば太一の心が一瞬で傾いたのにも合点がいく。
「ま、まさか、ずっとあの人のそばにいるとかいわないですよね……?」
「ん? そのつもりだけど……なんで分かったの?」
「ちょっ!? だめだめだめだめ! そんなの絶対ダメですよ!!」
激しく取り乱す真由美を、冷静に見つめる太一。反対されるのは想定の範囲内だった。
真由美を説得するための具体的な策があるわけではないが、太一にも引けない理由が存在する。ここで妥協してしまえば、浄土で後悔の日々を送ることになるだろう。太一にとってそれは万死に値する。ならば、例え知人に認識されなくとも、自分を貫くまでだ。
「気持ちは分かるよ。仕事だもんね」
「なら、そんなこといわないでくださいよ!」
「でもさ……泣いてる女の子をほっとくなんて男の子のやることじゃない」
自信満々の顔で言い放った太一は固まる真由美を置いて、生徒達と共にホールへと消えて行った。
♦︎♦︎♦︎
爽快感と高揚感。二つの感情はぶつかることなく綺麗に混ざり、太一のテンションを押し上げていく。
この気持ちを誰かに話せればもっと楽しくなれるのだろうが、そんな贅沢をいってはならない。ずっと想い続けてきた少女が、自分のために涙を流してくれた。今はその事実だけで、充分過ぎるほど太一の心は幸福に満たされていた。
とはいえ、見守ることがどれだけ辛いことなのかを考えないわけではない。
もし理恵に恋人でも出来てしまったなら。考えるだけでも悪寒がするのに、その場を目の当たりにしたら自分は耐えられるのか。
太一の心に不安が侵食していく。だが、いつか必ずその時はやってくる。
「死体に重なったら生き返ったりしないの?」
「し、しないですよっ!!」
ここで生き返ることが出来れば全てが万事解決なのだが、世の中そんなに甘くはなかったようだ。無念の気持ちを感じながらも、太一は祭壇へと歩き、中心に置かれた棺の正面に立つ。
棺には見覚えのある男が青白い顔をして寝そべっている。
よく見知った身近な男の顔。それが自分だと気付くのにはしばらくの時間を要した。
鏡越しや写真の中では何度も見た顔だろう。しかし、こうして面と向かう機会などあるはずはなかった。
きっとその感覚こそが、今の自分と目の前の男が切り離されたというなによりの証拠。椎名太一という人間は、もうこの世には居ない。
「いい顔ですね。この寝顔なら遺族の皆様も安心できると思いますよ」
いつの間にか隣に立っていた真由美の優しい言葉。
どれだけ割り切ったつもりでも、死の本質を理解している人間など存在しないだろう。無論、太一も例外ではない。
だが、真由美の言葉は太一の心に染み渡り、胸につっかえたわだかまりを優しくほどいていく。
「もういいんですか?」
思いの外あっさりと祭壇に背を向けた太一を不思議に思ったのか、真由美は声を掛ける。あれだけ来たがっていたのだから結構な長丁場を覚悟していたのだが、遺体と向かい合ったのは五分程度だろう。
結果的には時短になってはいるものの、真由美はなんとなく味気ない感じがしてならなかった。
「もういいから、早く外に出よ」
「は、はい」
太一は言葉と共に歩き出した。
反応が遅れてしまった真由美は駆け足で太一を追い、二人はホールを後にした。
太一は歩きながら考える。
自分の遺体と対面して、本当の死というものを痛感した。また、最後の別れを告げるために多くの人がこの場に集まり、皆思い思いの気持ちを持って焼香を上げてくれた。
儀式の一環として当たり前のことなのかもしれないが、太一の旅立を願って開かれた式だという事実に変わりはない。迷わずに、新しい生活を全力で楽しむことこそが、皆に対するせめてもの恩返しなのかもしれない。
だが、太一としてはやはり理恵のそばに付き、なんとかして彼女を守ってやりたいというのが本心だ。
霊体なんて非現実的なものが存在するのだから、守護霊や背後霊なんて言葉もあながち迷信ではないのかもしれない。ならば、守護霊として理恵を守り続けるという太一のプランにも信憑性が出てくる。
強い思いは形となり、太一に手紙を書くまでの力を与えた。もしかすると、彼女を守るだけの力が自分にはあるのかもしれない。
二つの感情に挟まれ、太一は自分の進むべき道を見失ってしまった。
「あ、あの……さっきの話なんですが……」
太一の思考を切り裂く真由美の声。
悩んでいる表情に気付いたのかもしれない。だが、太一の悩みは全く解決しておらず、生憎はっきりとした返答は出来そうになかった。
ホールからは焼香を終えた生徒達が次々と吐き出される。そして、彼らは一目散にロビーの出口へと向かい、葬儀場から去って行く。
太一もその流れに乗り、その場を逃げる様にして外へと歩を進めていった。
(どうしよ……これ以上は先延ばしに出来ないよな……)
外の空気を吸えば気持ちもリフレッシュして、改善策も浮かぶかと考えていたのだが、全くそんなことはなかった。
太一の中に渦巻く二つの感情は激しくぶつかり合い、ただただ心を掻き乱す。ついには自力での解決を諦め、周囲にヒントが落ちていないか、きょろきょろと探し出す始末。当然、そんな都合の良いヒントがあるはずもなく、辺りには見慣れた制服の団体が散りばめられているだけだ。
(い、いかん。集中集中)
周囲の助けを諦めた太一は再度答えの模索に挑戦するが、一度区切ってしまった集中は中々戻らない。どうしても、周りから発せられる雑音に耳がいってしまうのだ。
更にたちが悪いのは、雑音の原因の大半は見知った同級生達。知り合いの声が聞こえるだけでも気が散るというのに、皆の話題は太一のことで持ちきりだ。太一の通夜で集まったのだから当然と言えば当然なのだが、今だけはやめて欲しいと切に願う。
「だぁぁっ、うるせぇ!」
勢いで叫んでは見るものの、霊体の声が届くはずもない。
逆に彼らの会話はヒートアップし、ボリュームは会話の内容が筒抜けになるほどまで大きくなっていく。
『あたしは自殺だと思うんだよねー。ほら、あいつ受験失敗したらしいじゃん?』
『あり得るあり得る!!』
筒抜けた会話は仕切りに太一の耳を突き刺し続ける。太一の存在など知らずに、ひたすらに繰り広げられる。
『全くよ、なんつータイミングで死んでくれたんだよ。俺、明日合格発表だぞ? お前のことなんか気にしてらんねぇつーの!!』
『まぁまぁ、試験の前とかじゃなくてよかったじゃん』
不思議なことに、こういう場面では悪い物ばかりが優先的に聞こえて来てしまう。気付けば太一の精神ライフはレッドゾーンに悠々と突入し、予備エネルギーまでもえぐり取られていくではないか。きっと、彼の残された霊泉もすごい勢いで減少しているに違いない。
そのことに気付いた真由美はなんとか生徒の声を掻き消そうと、自ら大声を上げる決意する。
「あのっ椎名さ――」
大きく息を吸い込み、気合い充分で声を絞り出すも、肩に手を掛けられて中断。手の持ち主はもいろん太一だ。
真由美は残った息を吐き出しながら太一へと目をやる。
「いいんだよ。君が気にすることなんてなにもない。これは俺の問題だから」
「へっ?」
和かな笑顔を浮かべる太一。口は緩い弧を描き、目尻はゆるりと垂れている。まさに模範的な笑顔といえよう。
だが、真由美には笑顔の裏になにかどす黒いオーラが宿っている気がしてならなかった。
そして、太一はくるっとターンを決め、またも真由美を置き去りにして走り出してしまった。
「てめぇーらぁ! 絶対に呪い殺してやんぞっ!!」
太一の叫び声を聞いて、真由美の身体中に鳥肌が立つ。
いくら生者の肉体に触れられないといっても、彼らを傷付ける方法はいくらでもある。太一は一晩で手紙を書き上げる程の才の持ち主。その才能に今の怒りが合わされば、凶器を振り回すくらいは決して難しいことではない。真由美の脳裏をよぎる最悪の展開。それだけはマズいと思った真由美は、すぐに太一の追跡を開始する。
「ちょっ、ちょっと待ってくださ!! うっ、うぁっ!!」
しかし、走り出した瞬間に真由美の視界はブラックアウト。同時に訪れる衝撃。小さな真由美は力に逆らえず、押し戻されるように尻餅をついてしまう。
「痛たたぁ……」
鼻を突き刺す痛みはゆっくりと涙管を伝い、真由美の瞳を濡らす。水分を得た瞳はその活動を再開し、真由美の視界にはボヤけた世界が映し出される。
「あ、あれ? 椎名さん?」
涙で滲む瞳が最初に捉えたのは太一の背中だった。てっきり怒りに我を忘れ、無慈悲な惨劇を繰り広げるものだと思っていたが、そうはならなかったらしい。
完全に停止した太一の背中からは怒りや復讐心といった雰囲気は一切感じらない。逆に、どこか寂し気な雰囲気さえ感じさせる。
とりあえず、最悪の展開は回避できたということだろうか。
真由美に安堵の念が広がり、それを合図にしたのか次第にボヤけた視界も元の形を取り戻していく。
夜の闇に包まれただだっ広い駐車場と、控えめに通路を照らす街灯。街灯は影を作り、影は人型を作る。長く伸びたそれは太一を横切り、真由美のすぐ側まで迫っている。
真由美は無意識のうちに目でそれを追っていた。そして、影の持ち主を知った真由美は全てを察する。
影の導く先に居るのは二人の女子生徒。彼女達は横に並び、なにやら会話をしている。
『大丈夫?』
『う、うん……』
ショートヘアの活発そうな少女が心配そうな声で尋ね、それに震えた声で答える黒髪の少女。街灯に照らされた二人の女子生徒は、受付で見た顔だった。
そして、その一方の女子生徒――黒髪の少女は真由美の記憶に深く残り、今も圧倒的な存在感を持って真由美の胸を締め付ける。
倉田理恵。つまり、太一の想い人。
一歩後ろに立っているせいで顔は見えないが、きっと太一はその様子を真剣な眼差しで見つめているのだろう。微動だにしない背中が、事の正確性を教えている。
『太一くん……この前まであんなに元気だったのに……』
理恵は震える声でぼそりとつぶやくと、涙で濡れた顔を隠すかの様に俯いた。
そんな彼女の姿を見て、真由美は生前二人が如何に親密だったかを知る。
(下の名前で呼んでるんだ……)
今、気にするべきことではないと頭では分かっているのだが、胸中にひしめく靄は真由美の心を黒く染め上げていく。
太一と理恵の関係が気になって仕方ない。だが、この場に妙な居心地の悪さを感じてもいるのも事実。この気持ちは一体なんなのか。
得体の知れない感情に、真由美はただ戸惑うことしか出来ないでいた。
『でも、まさか泣いちゃうとはねぇ~』
『だって……』
俯く理恵の姿を見て、太一は下唇を噛みしめる。あんなに瞼が腫れるまで涙を流した理恵に、自分は礼の言葉を掛けることさえ出来ない。出来ることといえば、こうして彼女を見守ることだけだろう。
それがなによりも悔しくて、もどかしくて、自分の無力さを痛感する。
なにか出来るかもと思い上がっていた。素直に真由美の指示通り浄土へ向かっていれば、こんな思いをせずに済んだはずだ。自分はなにを求めていたのか。見たくもない現実を見て、なにか得られるものがあっただろうか。
逆流する空気は太一の喉を熱し、喉から湧き上がる蒸気は瞳を濡らす。
太一の頬を一筋の雫が伝う。
――もう忘れよう。
胸から湧き上がる言葉。しかし、喉はそれをせき止め、声にすることを許さなかった。
押し戻された言葉はその形を失い、儚く砕け去る。その瞬間、太一は気付く。
「そっか……俺、我慢できなかったのか……」
「え? って、し、椎名さんっ!? な、泣いてるじゃないですか!! だ、大丈夫ですか!?」
真由美にいわれて自分が泣いていることに気付き、太一は慌ててブレザーの袖で涙を拭う。
まだ胸の痛みや、苦しみは取れたわではない。だが、太一の心の霧はすっきりと晴れていた。軟弱な思考が涙となって流れ出たのかもしれない。
「恥ずかしいとこ見られちゃったな……」
「い、いえ……そんな……」
「でも、俺決めたんだ」
「え?」
太一は体ごと真由美に向け、しっかりと彼女を見据える。
そして、大きく息を吸い言葉を紡ぐ。
「俺、浄土へは行かない」
太一の決意。
それはただのわがままだろう。自分が無力なのは分かっているし、その上なにをしても理恵に決して認知されないという事実は苦痛以外のなんでもない。
しかし、最後に見た理恵の姿があんなに辛そうな泣き顔だったなど太一には耐えられなかった。
彼女には笑顔でいて欲しい。太一の願いはただそれだけだ。
もし理恵が笑顔になるのならば――例えその役割が自分でない他の誰かでも、理恵が幸せになれるのならいくらでも我慢できる。わがままでも、自己中心的でも、それが理恵に恋した太一のプライドだ。
「そうですか……」
真由美は口を閉じる。
任務のことを考えれば説得すべきなのは分かっている。だが、真由美はそうしなかった。太一から送られる真剣な眼差しは、今までの漠然とした言動とは違う確かな覚悟が感じられたからだ。
伊達や酔狂でいっているのではない。本気で考え、本気で悩み、誰に流されるわけでもなく自ら切り拓いた結論なのだろう。
それを仕事という一言で突き返してしまうほど真由美は無粋ではない。一人の人間として、太一の背中を押してやりたいと思うことはおかしいことだろうか。
自分も決意しなければならないのだが――
「お、おい、なんで泣くんだよ!?」
「えっ?」
真由美の瞳から溢れる多量の涙。気付けば泣いていた。どれだけ拭っても涙は止まらない。任務に失敗した事がそんなに悔しいのだろうか。
――違う。
真由美はやっと自分の気持ちに気付く。
自分は目の前の少年に心を奪われていたのだ。出会って二日、色々なトラブルがあり、一種の吊り橋効果のような一過性のものなのかもしれない。
だが、一時的とはいえ心が支配されていたのは事実。真由美は太一に対象者として以上のものを求めてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい……わ、私……」
真由美の思いは届かない。太一の心は既に理恵が存在し、真由美の入る余地はないだろう。
そんなことは分かっている。分かっているのだが、涙は一向に止まらない。爆発した感情は嗚咽となり、真由美の口から溢れ出す。
真由美は声を上げて泣いた。
『まぁ、元彼が死んだら辛いよね。あたしも同じ立場なら泣いちゃうかもなぁ~』
泣き出した二人を知らずに生者の会話は続く。不可解な単語を含み続く。
「も……とか…れ……?」
聞き慣れない単語というものは無意識に聞き取れてしまう。太一も不思議な響きのそれに魅了され、意識は後方へと移っていく。
『も、元彼!?』
泣くのも忘れて驚愕する理恵。
無論、太一も同じ心境だ。そうなりたいと願いはしたが、成就した記憶など全くもって存在しない。
しかし、驚愕する二人を無視して活発系女子の言葉は続く。
『そぉそぉ。だって去年、超仲良かったじゃん? 二人でカフェとか行ったりしてさ……ってあれ? もしかして隠してた 』
未だに泣き続ける真由美を置き去りにして、太一の思考はみるみる引き込まれていく。この場の雰囲気にそぐわない方向へと。
(な、なるほど……周りからはそんな風に見えてたのか)
さっきまでの覚悟は何処へ行ったのか、太一の表情は急速に緩んでいく。太一にとってこれほど嬉しいことはない。恋人同士にこそ慣れなかったが、周囲のからは認定されていたといたのだ。
つまり、お似合いのカップル。なんとも穴だらけの理論だが、太一の脳内でそう変換されていた。
とはいえ、周りがいくら騒ごうと、太一がニヤニヤしやようとも、誤解は誤解だ。当然、誤解を晴らそうとする人間は存在する。
『違う違う! そんなんじゃないって』
『えぇ~うそぉ?』
『嘘じゃないって。確かに太一くんとは仲良かったけど、そういう関係じゃないよ』
理恵はしっかりとした声で真相を説明する。そこにさっきまでの震えはなかった。太一と恋人同士に見られたのがそんなに不名誉なことだったのだろうか。
『お友達が亡くなって泣くのは別におかしいことじゃないでしょ?』
『そりゃそうだけど……でもさ~』
『だって相手はあの太一くんだよ?』
『あ、あぁ……』
活発系女子はなにに納得したのか、疑うことをやめてしまう。
一方の太一はというと、まるで見えない槍を胸に刺されたかのような衝撃を受けていた。心なしか口の中には血の味が広がり、息を吸うのも困難だ。
だが、悲劇はまだ終わらない。友人の納得を得られた理恵は再び口を開く。
『一緒に居てすごく楽しいけど、恋人はちょっとね……』
『あ~分かる分かる! 話は合うんだけど男としての魅力に欠けるっていうか、自分に無い物を持ってないっていうか……要するに良いお友達なんだよね!』
こと丁寧に補足を加える活発系女子。
太一の胸に刺さる大槍は二本、三本とその数を増やしていく。そして、フルチャージされた相手の必殺技ゲージは容赦無く太一にトドメを刺す。
『あははっ、それそれっ! やっぱみんな思ってることは一緒なんだね』
理恵は満面の笑みを浮かべる。
その瞬間、太一の目標は達成した。当初の予定通り、自分がどれだけ傷付こうとも必ず理恵の笑顔を取り戻すという計画は完遂されたのだ。想像以上に精神エネルギーを持っていかれたが。
「おい、早く連れて行け」
「へ……?」
未だに気持ちの整理が出来ていなかった真由美は、太一がなにをいっているのか理解できなかった。
しかし、今の太一に相手を思いやる気持ちなど微塵も残っていない。理性を保つのが精一杯なのだ。
「早く浄土へ連れて行けっていってんだろぉぉぉがっ!!」
「は、はいぃぃぃっ!?」
「いいから、黙って車を回して来いっ!!」
太一のおぞましい叫びに圧倒され、真由美は車の元へと走り出す。
きっと、彼女が全ての成り行きを知る日は未来永劫訪れはしないだろう。
なにはともあれ、真由美は初任務を成功させ、太一は無事とは言い難いが――成仏する決意を固めたのだった。
0
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